14インチモバイルワークステーション「Lenovo P14s Gen 3 AMD」旧モデルとIntelモデルを比べて分かったこと

CPU内蔵GPUで大規模アセンブリを操る時代!?

これから3次元CADをはじめたい人、今日も3次元CADと格闘している人、既に3次元CADを快適に使いこなしている人、そして、それを支える人。いずれの場合も最適なPC選びは最重要事項であり、常にハードウェア選びの旅をしている人も多い。

また、何年かに一度のペースで定期的に訪れるハードウェア選定のたびに、ユーザーである設計者から寄せられるさまざまな真偽不明の情報に頭を悩ませている担当者も多いのではないだろうか。

CADもPCも日進月歩で、毎年大きな技術が組み込まれて驚かされる一方、常識や最適解もすぐに移り変わってしまうので、一昔前の誤った常識を堂々と語るおじさんにならないよう注意が必要だ。多くの企業で設計部門の3次元設計立ち上げと、そのためのワークステーション選定を行ってきた筆者も、忙しさを言い訳にしばらくウオッチを怠っているといつの間にか認識が古くなっていて焦ることがある。

太田 明

デジプロ研 CAD / CAEコーディネーター

時代はモバイルワークステーション、次の時代は?

今回のベンチマークの主役は、14インチのモバイルワークステーションLenovo ThinkPad P14s Gen 3 AMDである。まずこの時点で「モバイルワークステーション!?」と驚かれる人や「あぁ、特殊な用途のでっかいやつね」と誤解されることもしばしばである。

そう、今の常識は、ワークステーションはモバイルが基本、さらにそのサイズは15インチから14インチに移行してきているのである。私自身も1年ほど前からは14インチのモバイルワークステーションで専門領域である大規模アセンブリや点群、シミュレーションを実行している。

Lenovoは早くから豊富なラインアップで「14インチ」の「モバイルワークステーション」をけん引してきた。そしてThinkPad P14s Gen 3の「Gen 3」は第3世代を表しており、既に第4世代も登場している。

では、この世代間でどのくらい違いがあるのか、また、Intel CPU+NVIDIA GPUの機種と、CPU内蔵GPUのAMDの機種はどう違うのか。次の時代のモバイルワークステーションは、「14インチ」「CPU内蔵GPU」になるのか!? ベンチマークで見ていこう。

ベンチマークは製造系3次元CADのオールラウンダー Autodesk Inventor

さて、今の製造系3次元CADの構図を正しく理解するには、次のどちらかという視点が第一にくるのが常識である。

  1. 部品点数が少ないが部品形状が複雑な「製品設計」向けのCAD
  2. 部品点数は多いが部品形状がシンプルな「装置設計」向けのCAD

一方、今回ベンチマークに使用したInventor Professional 2024は、1、2のどちらもカバーできるめずらしい3次元CADで、社内や協力会社に両設計分野が混在しているときにも有効なまさにオールラウンダーと言えるCADである。そのため、これでベンチマークをすれば、おおむねCAD用PCとしての性能が分かるという便利さもある。

さらに最近は、Inventorが3次元の次の次元(4次元?)を実現するCADとして各業界から注目されている。非設計者によるフルオートの自動設計や3DのWebカタログの実現に興味のある方は「Design Automation」について検索してみてほしい。InventorをWebサイト上で自動実行するエンジンとして使うことで、人もオフィスも存在しない無人の設計部門が実現する。筆者も最近はこのような自動設計のお手伝いをすることが多くなっていて、時代の変化をひしひしと感じている。この分野ではデスクトップのInventorはコンピューターが自動設計するためのマスターモデルを作るツールとして機能する。

生産設備や装置設計に強いInventorの特徴にあったベンチマークモデル

対象機種

ベンチマークの対象機種は、P14sのGen 1、Gen 2、Gen 3を用意し、さらにGen 3ではIntel CPU / AMD CPUの2機種を用意した。なお、AMD CPUは内蔵GPUとなる。Gen 1を基準値の1としたときに、以降のA・B・C機種の各性能が何倍になるかを確認する。

機種世代CPU、GPU
基準(ThinkPad P14s Gen 1)P14sの第1世代Intel CPU、NVIDIA GPU付き
A(ThinkPad P14s Gen 2 AMD)P14sの第2世代AMD CPU、内蔵GPU
B(ThinkPad P14s Gen 3 AMD)P14sの第3世代AMD CPU、内蔵GPU
C(ThinkPad P14s Gen 3)P14sの第3世代Intel CPU、NVIDIA GPU付き

詳細は次のスペック一覧を参照いただきたい。

スペック一覧(注目すべきポイントを赤字で示す)

いずれも14インチのモバイルワークステーションであるが、ここで確認したいのは、AMD CPUと内蔵GPUの是非である。従って最注目は、ベンチマークの結果が良ければ次世代のスタンダードになり得るBのAMD CPU・内蔵GPUの機種である。同時にP14sの世代による性能向上率や内蔵GPUが3次元CADの性能のどの項目に影響するのか、またはしないのかを明らかにしたい。

ちなみに、Gen 3からは横幅がさらに9mm小さくなっていることに気付いた。逆にディスプレイサイズは縦方向に大きくなり、Gen 3から1,920×1,200となっているが、この方向に本体寸法が大きくなることはなく、奥行き方向は同じサイズに収めている。昨今の発熱の大きなCPUに対応し、性能と画面サイズを上げながらもさらに本体サイズを小さくするという努力には頭が下がるばかりだ。

下からGen 2、Gen 3、Gen 3と重ねると横幅が9mm小さくなっていることが分かる

ベンチマークツール

ベンチマークはInvMarkを使用する。このツールは、大規模アセンブリの図面化や大きなデータ変換など、3次元設計の現場で課題になりがちな現実的なモデルを実際にInventorで動かして各項目のスコアとして表示してくれる。また、総合スコアだけではなく、シングルスレッドが効く項目のスコアとマルチスレッドが効く項目のスコアを分けて表示してくれることで、より正確にCADを使用するためのPC性能を把握することができる。

言い換えると、実際には使わない機能ばかりで総合スコアがつり上がってしまうことを防ぎ、「総合スコア至上主義」ではない、使用用途に応じたより客観的で冷静な判断をサポートしてくれる良いツールである。

今回は「総合スコア」「シングルスレッドスコア」「マルチスレッドスコア」と、実際の設計現場で重要な「モデリング」「図面化」「グラフィックス」「レイトレーシング」「CADデータ変換」の各項目を見ていく。

5万点の大規模アセンブリでベンチマーク

ベンチマーク結果

はじめに、皆さんが現在お使いのPCと比較できる参考としてBの機種(Gen 2、AMD CPU、内蔵GPU)のベンチマーク結果を添付する。今お使いのPCと比べてどうだろうか。機会があれば、ぜひInvMarkで確認してみてほしい。ちなみに、私が1年ほど使用している他社製14インチモバイルワークステーション(Intel CPU・NVIDA GPU)はこれに全敗であった。

InvMarkの計測結果画面(B:ThinkPad P14s Gen 3 AMD)

各機種のベンチマーク結果は次の画像を参照。

ベンチマーク結果

総合スコア、シングルスレッドスコア、マルチスレッドスコア

まずは「総合スコア」の推移を見てみよう。この総合スコアは、普段ほとんど使用しない機構解析や不具合が含まれる項目のスコアも含まれるため、設計現場においてはあまり重要ではなくあくまで参考とするのが良い。ただし、全体感をつかむには重宝するので、ここでは、基準(P14s第1世代)とA(P14s第2世代)、B(14s第3世代)の比較として見てみよう。

すると驚くことに、P14sの第1世代と第2世代の間には1.5倍もの性能向上があった。Gen 3では、さらに1.2倍の性能向上をした結果、Gen 3はGen1比で1.9倍も性能向上していることが分かった。

では、この性能向上がどこからきているかと言えば、後述するように、マルチスレッド性能がこれを引き上げているようだ。Gen 1とGen 2 AMDのマルチスレッドスコアを見ると、この時点で既に2倍の性能向上となっている。そこからさらにGen 3 AMDでは1.3倍の性能向上があり、結果的にGen 3 AMDはGen 1比2.5倍もの性能向上となっている。

ベンチマーク結果一覧(注目すべきポイントを赤字で示す)

では今度は、Gen 3同士でIntel CPUとAMD CPUの差について見てみよう。マルチスレッドスコアは、C(Intel CPU)よりもB(AMD CPU)が1.1倍高性能となっており、AMD CPUの8コア16スレッドが効いていることが分かる。

一方、総合スコアとシングルスレッドスコアについては、B(AMD CPU)とC(Intel CPU)で1.0倍と同等だった。

モデリング、グラフィックス

次に各項目別に着目していく「モデリング」と「グラフィックス」で、C(Intel CPU)に対してB(AMD CPU)が1.1倍と上回った。

モデリングは、プラスチック製品や鋳物部品などの複雑な形状を編集するときのレスポンスを示す値である。製品設計や工作機械の設計では重要な値なので、その分野の設計者は参考にしていただきたい。

グラフィックスは、大規模アセンブリを扱う際の表示速度を示す値である。「表示」速度と言っても形状編集や部品の移動のほか、作業のために一時的に外側の部品を非表示にするときなど、ほとんどの操作のたびに表示は更新されるため、CADのあらゆる操作のレスポンスに影響する重要な指標である。

この「あらゆる操作のレスポンスが遅い」という課題を持つ3D CADユーザーは多いので、そのような課題をお持ちであればぜひ着目していただきたい。ただし、Inventorのグラフィックレスポンスはもともと非常に高く、5万点くらいまでは問題なく動くので、Inventorユーザーに関しては、ここに困っている方はほぼいないだろう。

もし大規模アセンブリのグラフィックスに課題がある方は、ハードウェア選びと同時に、前述のとおり「そもそも大規模アセンブリに対応したCAD」を使っているのかという視点も重要であることを付け加えておきたい。

図面化

次は「図面化」の項目に着目してみよう。この項目は明確にC(Intel CPU)に軍配が上がった項目でB(AMD CPU)に対して1.2倍の性能となった。図面化は装置設計分野で大規模アセンブリの組み立て図や、装置全体の外観図作りでの待ち時間に直結する値である。

一般的にはシングルスレッド性能が効く項目であるが、Inventorはこの処理をビュー単位の別スレッドで計算するため、同時に幾つのビューを作成するかによって、有利なハードウェア構成が変わってくる。

ベンチマークでは同時に4ビューを作成する設定だが、装置の全体図などでより多くのビューを配置したデータであれば、マルチスレッドスコアの高いB(AMD CPU)が有利になることも予想される。すなわち、設計対象や使い方によってどちらがより適しているかは変わってくる可能性がある。

図面の描画はマルチスレッド計算であり、計算が終わったビューから緑の枠が外れる

レイトレーシング

「レイトレーシング」は、製品設計分野で使用されることが多く、こちらは意外な結果であり、今後のPC選び・CPU選びの決め手になり得るだろう。レイトレーシングは、C(Intel CPU)に対してB(AMD CPU)が1.8倍と大きく上回った。

なお、Gen 1からGen 3での性能向上が最も大きかった項目もこのレイトレーシングであり、B(AMD CPU)でその値はなんと4.4倍だった。レイトレーシングの高速化を目指すなら、新世代のAMD CPUが答えになるだろう。

レイトレーシングのベンチマークモデル

CADデータ変換

「CADデータ変換」は、B(AMD CPU)に比べてC(Intel CPU)の方が1.1倍速く終わるようだ。装置設計分野では、他社や顧客から届く大規模な他CADデータに悩まされている方も多いので、こちらも参考になる数値の一つである。

結論

ベンチマーク結果から分かったことをまとめよう。今回のベンチマークで分かったことは大きく二つ。

  1. Gen 1からGen 3への進化でベンチマークの全項目が確実に性能向上しており、その最大値はAMDモデルの「レイトレーシング」の項目で4.4倍の性能向上であった。この性能向上をしながらも本体サイズをさらに小さくしているから驚きだ。
  2. Gen 3同士で比較したAMD CPU / Intel CPUは、どちらが優れているという単純な構図ではなく、得意分野が異なっていた。

AMD CPUはマルチスレッド性能が高いことで、モデリング、グラフィックスの項目で有利だった。特にレイトレーシングにおいては、圧倒的に高速で完了させることができることが分かった。

一方、Intel CPUは4ビューでの図面化とCADデータ変換をより速く完了できることが分かった。

総合すると、これまでは大規模アセンブリ扱う方には不安視されることもあった「14インチ」「モバイルワークステーション」の「内蔵GPU」モデルであるAMD CPUの機種は、問題がないどころか、NVIDIA GPUを搭載したIntel CPUの機種を上回る性能であることが分かった。すなわち、時代はもはや「CPU内蔵GPUで大規模アセンブリを操る」段階に明らかに突入していると言える。

ThinkPad P14sの両モデルは、設計分野や目的に応じて選ぶ双頭のラインアップであることが分かった以上、次はこの特性を私たちが理解して、どちらの機種が自分たちの目的に合っているかを考える番だ。そして、いつ、どのThinkPad P14sシリーズに乗りかえるべきか、今後のさらなる進化を楽しみに注視していこう。

太田 明

3次元設計/CAE導入立ち上げコンサルタント、元半導体製造装置エンジニア

Inventor & Fusion 360勉強会、SBD利用技術研究会(SOLIDWORKS系CAEユーザー会)幹事のほか、SOLIDWORKSユーザー会、AUG-JP(Autodesk系ユーザー会)、CUG(土木系BIM / CIMユーザー会)などにも積極的に参加。ユーザー同士の学び合いを通して本当に使える3次元設計のノウハウを日々探求している。