【レポート】ここまできた! DX時代のIoT・ARの最新技術による3Dデータ活用事例

大塚商会が開催した実践ソリューションフェア 2020にて、PTCジャパン株式会社 製品技術事業部より西啓氏に講演いただいた内容をレポートします。

DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している企業は利益や生産性が向上し、効率的かつ柔軟性のある運用や新製品・新サービスで事業拡大の恩恵を受けはじめています。最先端テクノロジーを有するPTCのIoT・ARに3Dデータも絡めたソリューションと活用事例をご紹介します。

なぜ製造現場でITがうまくまわらないのか?

製造業の重要課題は労働者人口の減少が進行している点だ。特に現場では設備投資や新技術へ取り込みが難しいことも相まって、職人芸に頼って成長してきた。エキスパートが退職されると技が継承されず、ゼロスタートとなってしまう。

これを解消するのがITだと言っても「ITに投資はしてきたが現場で役に立たなかった」と思われる方もいるだろう。

ITを導入する際、担当部署だけでなく、設計から製造・販売・サポートなど全体最適化を考える必要がある。部署ごとに導入していては、3次元CADで作られた設計情報があるのに、製造現場では作業指示書を別のツールで書き直していると連携がなされず、手間が増えてしまう場合もある。

3次元CADで作った設計データを製造現場に連携させ、現場の人間とつながって初めてデジタルデータを活用できているといえる。

現場にARという武器を取り入れよう

現場で設計データを活用するための武器となるのが「AR」だ。

ARは設計レビューや営業・マーケティングで利用されていたが、PTC社が調査したユースケースによると、製造と保守サービスの分野での利用が増えてきている。製造や保守サービスの現場では、紙や電子媒体によるマニュアルまたはOJTに代表されるようにヒューマンリソースに頼る割合が大きく、誰でも理解しやすいマニュアルを初心者でも作業できるようになれば、利便性が上がるはずだ。

初心者がARを利用して作業をすれば、指示書の理解でまごつくこともなくなりダウンタイムが削減される。トレーニングエキスパートにおいては、基本部分はARで学習してもらえば、本当に教えたい部分だけにリソースを割くことができ、自分の仕事に専念できる。

保守サービスにおいては、経験の浅いスタッフが初回訪問時にはクライアントの要件を聞くだけしかできなかったことが、ARを利用すれば作業可能な範囲が広がるだろう。

ARの活用を実践している企業

製造工程のトレーニングとして

電気バスを製造しているある企業では、バッテリー製造工程のトレーニングにARを取り入れている。HoloLensで体験させることでバッテリーの組み立て時間が半分になったという報告がある。

ARの利点はゲーム感覚で体感でき、しかもデジタルなので繰り返しトレーニングができる点だ。何度も継続してトレーニングすると体が覚えていき、ミスの軽減そして作業時間の短縮につながったのである。

小売店スタッフのマニュアルとして

自転車メーカーの例では、小売店にARによる電子マニュアルを渡し、セットアップ作業が効率化されたそうだ。

自転車の部品はパーツがよく似ており、しかも組み付け方も製品によって若干の違いしかない。小売店スタッフが間違えないように伝えるためにARによる電子マニュアルを渡したというわけだ。

機械メンテナンスとして

農業機器メーカーでは、穀物貯蔵庫の環境を管理する機械のメンテナンスや操作のトレーニングにARを活用した。トレーニングには通常5日必要だったが2日でマスターできたそうだ。

ARの取り組み方

「ARはどのように取り組めばよいのだろうか?」というご相談をいただくことがあるが、ARは着手が容易であるから、小さな結果を早くデリバリーする姿勢が重要だ。ARを利用すべき作業として以下の二つをご紹介する。

1.頻度が多く、しかもトレーニング対象人数が多い作業

トレーニング対象が多いということはさまざまな背景を持っている人が多く、1回の説明で理解されない可能性が高い。コンテンツがあれば繰り返して学習できるのでコスト圧縮の効果が高い。

2.頻度が少なくエキスパートが少ないが、必要とされる作業

このような場合は、技術伝承として作業手順をARに落とし込む使い方をお勧めする。日本の人口は増えることはないため、有益な情報を後世に残す手段としてARを使おう。

ROIは大まかに計算するだけでも

ARの有効性をROIを指標として算出することが難しいと思う方もいるかもしれない。まずは細かく計算せずに、工場にあるマシン何台に年間何回メンテナンスしているか、メンテナンスにどのくらい時間がかかっているのか大まかで構わないので計算してみよう。

アメリカの調査会社によると、1時間マシンが止まると300~500万は損失するそうだ。人間の心理として支払うお金(ARの導入)は目に付きやすいため渋るが、メンテナンス費用の方が意外とコストがかかっているかもしれない。

製造業を支援してきたPTCだからこそご提供できるAR

ARを始めてみようと思っても課題が多々出てくるだろう。そこで製造業のお客様にぜひ利用いただきたいのがPTC社がご提供しているAR技術だ。

PTCは3次元CADになじみはあるが、ARに関しては2015年にQualcommのARプラットフォームのVuforia事業を買収した。Qualcommはスマートフォンの心臓部であるプロセッサーの大手企業で、2010年よりAndroid向けに、2011年よりiOS向けに提供されているARアプリのプラットフォームをご提供してきた。

ARは従来エンジニアがコーディングしていたが、製造業向けにもう少し簡単にコンテンツを作れないかというコンセプトで始まったのが「Vuforia Studio」だ。

Vuforia Studioとは

Vuforia StudioはWindowsもしくはMac上で動くソフトウェアで、基本的にマウスオペレーションでARコンテンツを作成できる。CADの3Dモデルや画像、ビデオだけでなくIoTデータも紐付けられるので、詳細なARコンテンツ作成も可能だ。

Vuforia Studio でトレーニングと作業指示を刷新

Vuforia Studioで作成したコンテンツは「Vuforia View」で閲覧することができる。Vuforia ViewはApple製品、Android端末、MicrosoftのWindows Surface・HoloLensなどのグラスウェアに対応しており、各ストアから無料でダウンロードできる。

ARコンテンツ作成の流れ

Vuforia StudioにCADデータや動画、PDFファイルをつけていき、PTCが用意しているクラウド配信サービスにパブリッシュするとARマークができあがる。マウス操作の手軽さが特長だ。ビューアーでARコンテンツをサーバーから引っ張ってくるのだが、自社のWindows / Linuxサーバーへの接続も可能なため、完全に社内ネットワークのクローズでの利用も可能だ。

ARとIoTを組み合わせた例

ARの体験だけでも有意義だが、IoTデータを紐付けて双方向に通じることもできる。例えば、「準備ができた」という音声やジェスチャーを送ると、IoTの集中管理画面が作業者Aは作業開始、作業者Bは待機せよと指示を与えるフローも作れる。実際に電力会社グループ会社では、複数人で作業進める際にこの仕組みを取り入れている。