第1回 3Dプリンタブームが導く3D時代の到来

ラティス・テクノロジー株式会社 鳥谷浩志社長直筆コラム
3Dプリンタ大ブームはどのようにして起きたのか?

3Dプリンタが大ブームです。メディアでも3Dプリンタを使ったものづくりは頻繁に取り上げられています。2013年10月には経済産業省も新ものづくり研究会を立ち上げ、この動向が製造業にどういう影響を与えるかを議論し始めています。米国の3D Systems社が3Dプリンタを発売したのが1987年です。この技術的な原理は今でもほとんど同じです。では、なぜ今このようなブームになったのでしょうか?

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3Dプリンタブームの三要因

3Dプリンタがブームになった背景には次の三要因があるといわれています。

1.3Dプリンタの低価格化

従来の数1,000万円から1億までしたハイエンド装置に加えて、10数万から数100万円のローエンド3Dプリンタが発売され、個人でも手の届く範囲となりました。

2.MAKERSブーム

クリス・アンダーソン氏の書籍が起こしたMAKERSブームです。これまでの製造業は工場の設備に多額の投資を必要としていました。しかし無償CADや安価な3Dプリンタの出現で、個人や零細企業でもメーカーになれるようになったという考え方です。インターネットで製造業者と販売先の両方が見つけられるようになった今、だれもが世界を相手にするメーカーになれる可能性があると説いています。

3.オバマ大統領による国家プロジェクト宣言

最後はオバマ大統領が国家プロジェクトとして3Dプリンタに大きな開発投資をし、米国の製造業を変革するのだと宣言したことです。3Dプリンタにはいくつかの方式がありますが、この投資はハイエンドの造形装置に対する投資で、試作品でなく実物をそのまま造形してしまおうというものです。

図1:3Dプリンタブームが引き起こす3Dデータの活用性

図1:3Dプリンタブームが引き起こす3Dデータの活用性

専門家による3Dプリンタの見解

実は3Dプリンタ専門家はこのブームを冷めた目で見ている人が多いのも事実です。3Dプリンタを支えるAM(Additive Manufacturing:付加加工)技術の原理は本質的には昔のままで、樹脂や粉末を積層していくものです。ハイエンドAM技術では多様な材料を高い精度で造形できます。

一方、ローエンド3Dプリンタでは材料や精度に大きな制限があります。しかし、マスメディアが安価な3Dプリンタであたかも何でも造形できるかのように伝えてしまっているところにブームの危うさがあります。三要因もよく見てみると、一つめと二つめはローエンド3Dプリンタの動きですが、米国が投資しようというのは最先端のAM技術の方なのです。

ハイエンド3Dプリンタの定義

実部品を造形する高精度な光造形や粉末焼結装置をハイエンド3Dプリンタとよんでいます。

  • 内部構造が複雑で製造が困難であった製品を造りあげたり、骨のようにその人の独特の形状を造形したりといった新しい価値を生み出してきた。
  • 適用分野が限定され、材料や精度には制限があり、特別な加工や設計ノウハウが必要。
  • 価格が1億円以上するものもある。

ものづくりが3Dプリンタより大きく変化

私が入社した会社で30年近く前に、1億円のコンピュータを購入したことを思い出せます。当時は利用できるのも専門家に限られていました。いまやだれでも所持する数万円のタブレットやパソコンがかつての1億円コンピュータ以上の性能を持っています。10年、20年後にはものづくりが3Dプリンタという技術によって大きく変化している可能性もあるのです。

3DCADの普及が見逃せない

絶対に見逃してはならないポイントは3DCADの普及です。3Dプリンタは3Dデータがなければただの箱です。多くの企業に当たり前のように3DCADを導入したことで、3Dプリンタが使えるようになったわけです。こういった動きは3D設計の裾野を大きく広げてくれるでしょう。

  • 3Dプリンタ成功事例に出てくるユーザは、3DCADやそのデータを利用したデジタルエンジニアリングに長けた企業ばかり。
  • 個人向けにもフリーの3DCADが提供される時代に。
  • 教育機関での3D設計教育も盛んに。

3Dプリンタブームはあらためて3D設計の重要性を気づかせてくれました。間違いなく3D設計をさらに加速させてくれています。こうして、多くの製品が3D設計されるという時代が来たのです。

図1のように3Dデータが蓄積されれば、当然これをもっとほかに活用できないのかという考え方が生まれます。既に先進的な企業では製造業での3Dデータの活用範囲は設計や試作だけでなく、企業全体にあることに気づいてさまざまな取り組みを始めています。

次回は、企業を取り巻く環境の面から3Dを利用したデジタルエンジニアリングがどう進展してきたのかを見てみましょう。