2013年に忽然と起こった3Dプリンタブームは3D設計の重要性を気づかせてくれました。また、前回製造業に導入されてきたコンカレントエンジニアリングの考え方は3D設計があって初めて機能するものであると説明しました。今回はこれらの関係を考察してみましょう。
第3回 3D設計の恩恵を全社で享受する
ラティス・テクノロジー株式会社 鳥谷浩志社長直筆コラム
これまでの3Dプリンタとコンカレントエンジニアリングの関係を考察しよう
紙図面レスに成功したアルパインプレシジョン社
まず、次の図1をご覧ください。福島県いわき市にあるアルパインプレシジョン社の金型工場の写真です。同社は3.11の大震災で工場が損壊し原発事故で混乱する中、総力を結集しわずか2週間で生産の全面再開を成し遂げたといいます。日本の製造業現場の持つ限りないパワーには頭の下がる思いです。
製品をタイムリーに投入するための仕組みづくり
この工場で行っている次の三点にご注目ください。
- 3D設計の結果を軽量3Dモデル・XVLデータに変換。
- そのデータを工場のあらゆる場面で利用。
- 完全な図面レス工場を立ち上げている。
3Dモデルと寸法をXVLで確認することで、部品の加工を行うことができます。XVLの持つ部品の構成情報を参照することで、部品の組付けを行ったり、タブレットPC上に表示された3Dモデル上の注記や寸法を確認しながら、部品磨きや調整といった金型の仕上げ作業をするようになっています。
この工場では図面レスになったことで工場の大きさが半分になり、リードタイムも半減したといいます。
3Dモデルの全社活用があってこそ実現
ではなぜ、そんなことができたのでしょうか?
- 3D設計した後、図面や帳票を書かなくてよくなったので、その分の作業時間が確実に短くなった。
- CADモデルで入力した3D情報と属性情報をそのまま現場に伝えるので、情報伝達ミスがなくなり手戻りが減少。
- 3Dは分かりやすいので、現場での段取りがスムーズになり迅速かつ的確に作業できた。
今、市場が必要とする製品をタイムリーに投入するための仕組みを3Dモデルの全社活用が支えているといえるでしょう。
3Dプリンタとコンカレントエンジニアリングの関係
この事例を参考に製造業全体のプロセスから3Dプリンタとコンカレントエンジニアリングの関係を考えてみましょう。
3Dプリンタを用いた実機による開発
まず、CAD設計が終わればそれを3Dプリンタで造形します。実機は形を評価したり実験に使用できるため、外形デザインや重要な部品を造形するのが現実的でしょう。最近ではそのまま営業に利用するといった、業務での利用も提案されています。
デジタル3Dモデルを用いた実機レスによる開発
「従来CADで設計しCAEで解析する、またはそのままCAMで加工する」といったものづくりが行われてきました。コンカレントエンジニアリングにより、実機ができていない段階で工程設計や金型設計、販売準備までも同期して進められます。
これは、実機をデジタル3Dモデルで置き換えることができるようになったからです。
では、実機レスのものづくりとは具体的にどういうことでしょうか?
デジタル3Dモデルがあれば、メカモデルの干渉をチェックできます。大容量3Dデータをそのまま利用できる軽量3D形式のXVLは自動車、電車、船といった大型の構造物全体でも干渉計算が可能です。これらはCADでは扱うのが事実上不可能なデータ量になります。
またXVLを利用したソリューションには、メカモデルとエレキモデルを統合してどこで電気がショートするのかを検証したり、制御ソフトで3Dモデルを動かすことで実機がなくてもソフトウェア開発を可能にするといったものもあります。組立工程の設計も3Dモデルを利用して行うことで設計完了前から着手し、製造視点での評価が可能になります。
さらに、工場へ3D情報を伝達することで大きな効果を上げられることはアルパインプレシジョン社の例で説明したとおりです。3Dモデルを全社で徹底的に活用することで、上流では設計品質を造りこみ、下流にはMade in Japan品質を保証するための情報を流せます。
このように3Dプリンタと全社3D活用の両輪で、高品質かつ低コストな製品を市場が求めるタイミングで出荷できるようになります。
今後の製造業を生きぬくためには?
最後にソリューションの市場規模という観点から考察してみましょう。3Dプリンタの世界市場の規模は2012年で約2200億円、一方3DCADやデータを管理するPDMを中心としたPLM市場の規模は約1兆円といわれています。まだ、3Dプリンタの市場規模はPLM市場の1/5ほどしかありませんが、近年では大きなペースで伸びています。この両輪をいかに効果的に活用できるかが、今後の製造業の生死を大きく左右することになるでしょう。
次回は3Dデータ活用を具現化した軽量3D技術XVLの本質的な嬉しさがどこにあるかに迫ってみましょう。