手のひらサイズのワークステーションが実務で稼働するのか!?

株式会社飯沼ゲージ製作所 3DCAD推進室長が徹底検証する「ThinkStation P330 Tiny」

ダッソーシステムの「SOLIDWORKS 2018」は、日本の製造現場で広く利用されている3D CAD / CAEソフトウェア。設計から製造に至る一連のプロセスの効率化を目指して、製造情報(PMI)を外部ファイルから取り込むための「SOLIDWORKS MBD」や、SOLIDWORKSに統合化された「SOLIDWORKS CAM」、検査プロジェクトの「SOLIDWORKS Inspection」といった製品もポートフォリオに追加されている。

今回の検証では、SOLIDWORKSのユーザーであり、液晶ディスプレイ(LCD)製造装置など大型専用機の企画設計から製作、アフターメンテナンスまで一貫したサービスを提供する株式会社飯沼ゲージ製作所の3DCAD推進室室長、土橋 美博氏が、レノボの二つのワークステーションに対して、SOLIDWORKS 2018を使ったパフォーマンス検証を実施した。

評価対象となった二つのワークステーションは、手のひらサイズの世界最小ワークステーションの「ThinkStation P330 Tiny」と、薄型・軽量のモバイルワークステーション「ThinkPad P1」。これらのワークステーションで、SOLIDWORKS 2018の3D CAD / CAEの環境がどこまで快適に動くかをチェックした。

以下では、ThinkStation P330 Tinyの検証結果を報告する。

検証方法と結果

検証方法

「SOLIDWORKS 2018(SP4.0)」の標準ベンチマークテストを使い、ThinkStation P330 Tinyのパフォーマンスをチェックする。パフォーマンスのレベルを確認するために、検証を行った飯沼ゲージの土橋氏がCAEの実務で使用しているデスクトップワークステーションとのパフォーマンス比較も実施した。

P330 Tinyの検証結果

  1. 大型のデストップワークステーションと同等、もしくはそれ以上の性能を発揮
  2. レンダリングや構造解析のパフォーマンスも実用レベル
  3. SOLIDWORKSの各機能が問題なく動作
  4. 圧倒的なコンパクト性と性能との両立を確認

検証の目的と手法

今回、土橋氏が評価した「ThinkStation P330 Tiny」は、インテル Core プロセッサー・ファミリーを採用したレノボの世界最小ワークステーションである。

そのパフォーマンスがどういったレベルにあるかを確認するために、土橋氏は、SOLIDWORKSの「SOLIDWORKS 2018(SP4.0)」にバンドルされているベンチマークテストを使った性能計測などを行っている。また、同じパフォーマンス検証を、自身が業務(主にCAE業務)で活用している他社製デストップワークステーション(以下、「現有デスクトップ機」と呼ぶ)に対してもかけ、ThinkStation P330 Tinyとの比較も行っている。

表1は、評価に使用したThinkStation P330 Tinyと現有デストップ機の仕様を比較した表である。

株式会社飯沼ゲージ製作所
管理企画本部 経営企画室
3DCAD推進室 室長
土橋美博氏

表1:ThinkStation P330 Tinyと現有デストップ機の仕様比較
本体寸法(幅×奥行き×厚さ)34.5mm×182mm×179mm203mm×524mm×444mm
重量約1.3kg(最大構成)約22.8kg(最大構成)
プロセッサーインテル Core i7インテル Xeon E5-2620v3(2CPU構成)
コア数6コア6コア×2
メモリー16GB32GB
グラフィックスカード(GPU)NVIDIA Quadro P620
(メモリー2GB/512コア)
NVIDIA Quadro K4200
(メモリー4GB/1344コア)
OSWindows 10Windows 7

土橋氏によれば、現有デストップ機は2015年に導入したもので、その環境は必ずしも理想的ではないという。グラフィックカードにしても世代は古い。

とはいえ、現有デスクトップ機は、ThinkStation P330 Tinyと比べて、CPUのコア数が2倍でメモリー容量も2倍。容積に至っては、ThinkStation P330 Tinyのおよそ42倍に当たる。それらを加味しつつ、以下に示すパフォーマンス検証の結果をご覧いただきたい。

ベンチマークテストによる検証結果

まずは、SOLIDWORKS 2018にバンドルされているベンチマークテストの結果を紹介したい。このベンチマークテストはSOLIDWORKSのツール「SOLIDWORKS Rx」から実行することができる(図1)。

図1:「SOLIDWORKS Rx」によるベンチマークテストの実行画面例

キャッシュが残っている状態であると正しい計測値が得られない可能性があるため、SOLIDWORKSのパフォーマンステストは再起動後の実施を推奨する。

このベンチマークテストの内容については、別枠『SOLIDWORKSベンチマークテストの概略』を参照されたいが、結果としては、以下のようなスコアが得られている(表2)。

表2:ThinkStation P330 Tinyと現有デストップ機のベンチマークテストの結果
 ThinkStation P330 Tiny現有デストップ機
全体65.2秒133.1秒
グラフィックス11.3秒7.2秒
プロセッサー24.9秒41.3秒
I / O28.9秒84.6秒
レンダリング6.6秒22.1秒
RealViewパフォーマンス8.7秒9.8秒
Simulation59.2秒121秒

この表からも分かるとおり、「グラフィックス」を除く全ての項目において、ThinkStation P330 Tinyの方のパフォーマンスが高いという結果が出ている。

この結果に対して、土橋氏はこう述べる。

「ベンチマークテストは、サンプルデータによるチェックであるため、実運用でどれほどの性能が出るかは正確には分かりません。とはいえ、今回のベンチマークテストの結果を見る限り、ThinkStation P330 Tinyが、SOLIDWORKS 2018を使った3D CAD / CAEの実務に十分耐え得る性能を備えていることは間違いなさそうです」

また、現有デストップ機に比べて、ThinkStation P330 Tinyの方が総じて好成績を出している理由として、CPUコア単体の性能が高いことが考えられるという。

「SOLIDWORKSの場合、通常のモデリングでは、デュアルのCPUを使うことはほとんどなく、使うとすれば、かなりの計算が発生する流体解析などのシミュレーションに限られるようです。

つまり、通常のモデリングではCPUコア単体の性能の高さがパフォーマンスの違いとなって現れ、今回のパフォーマンステストの結果も、そのことの影響が多分にあるのではないかと考えています」(土橋氏)。

さらに、現有デストップ機に比べたThinkStation P330 Tinyのレンダリングスコアの良さも目立つが、これについては、現有デストップ機のGPUよりも、ThinkStation P330 TinyのGPUの方が、世代が新しく高性能であることに要因があると土橋氏は見ている。加えて、CPUやメインメモリーの性能、GFXドライバー、OSの違いなどの複合要因によって総合的にThinkStation P330 Tinyの良さが発揮されたといえよう。

「SOLIDWORKS Simulation 2018」の処理パフォーマンス

ThinkStation P330 Tinyの実際の使用感を確認するために、土橋氏は、「SOLIDWORKS Simulation 2018」と「SOLIDWORKS Visualize 2018」を使ったThinkStation P330 Tinyのパフォーマンス検証も行っている。

このうちSOLIDWORKS Simulation 2018を使った検証では、図1に示すような、簡単な構造解析(「要素数(メッシュ数)142270」の構造解析)をThinkStation P330 Tiny上で行った(図2)。

「この解析計算中、一時的にThinkStation P330 Tinyのファンが動作し始めるという現象が見られましたが、それ以外は特に問題なく解析作業を行うことが確認できました」と、土橋氏は言う。

図2:SOLIDWORKS Simulation 2018による構造解析(要素数142270)の画面例

またあわせて、「固有値解析(自由度771876)」のパフォーマンス検証も実施している(図3)

図3:SOLIDWORKS 2018による「固有値解析(自由度771876)」の画面例

この解析では四つの結果が表示されるまでに数秒の時間を要したという。「ただし、それも実務に影響を与えるようなものではなく、大きな問題ではないと言えます」と、土橋氏は説明する。

「SOLIDWORKS Visualize 2018」の処理パフォーマンス

一方、SOLIDWORKS Visualize 2018を使った検証では、ThinkStation P330 Tinyと現有デスクトップ機の双方で、レンダリングの編集作業((注1))を行い、両者のパフォーマンスを比較している(図4/図5)。

図4:SOLIDWORKS Visualize 2018によるレンダリングの編集画面

図5:レンダリング実行後の画面イメージ

双方の検証とも、再起動後に作業を実施。
レンダリングの設定として「GPUによるレンダリング」(注2)を選択し、オフラインレンダリング(注3)は行っていないという。

  • (注1)既に作成済みのプロジェクトファイルの再編集作業
  • (注2)SOLIDWORKSのレンダリングでは、「GPUによるレンダリング」と「CPUコアによるレンダリング」、GPUとCPUを併用する「ハイブリッドでのレンダリング」が選べる
  • (注3)オフラインレンダリングの方がパフォーマンスは優位となる

その結果として表示されたレンダリングの所要時間は以下のとおりである。

現有デスクトップ機:38秒
ThinkStation P330 Tiny:44秒

この結果について、土橋氏は、「ThinkStation P330 Tinyの方が処理に時間がかかっていますが、実運用上の問題になるような差ではありません。逆に、ThinkStation P330 TinyのCPUコア数やメモリー容量が少なく、しかも手のひらサイズであることを加味すれば、この程度の差しか出ないということ自体が驚きです」と話す。

総合評価

今回の検証を通じて、土橋氏は、ThinkStation P330 Tinyにさまざまな可能性を感じたと評価している。

「ThinkStation P330 Tinyを初めて見たときは、その小ささに本当に驚きましたが、今回の検証によって性能の高さにも驚かされました。このようなワークステーションであれば、オフィスでの配置に思い悩む必要はないでしょうし、携帯型の液晶と一緒に持ち運んで、支所やお客様先でシミュレーションを行うなど、さまざまな用途に使えそうです。まさに、デストップワークステーションのこれまでの限界や概念を打ち壊す製品と言えるのではないでしょうか」

また、3D CAD / CAEのデストップワークステーションでは大容量のストレージが必要とされ、その要件を、超小型のThinkStation P330 Tinyが満たせるのかという点も気掛かりとなるが、土橋氏は、ThinkStation P330 Tinyのストレージ容量で十分、実務に対応できると話す。

「PDMの観点から言えば、そもそもワークステーションのローカルストレージにはデータを保管しないというのが原則です。そうすることで複数のバージョンのデータができてしまい、データの管理が煩雑化するからです。

ただし、実作業を行うエンジニアは、作業中のデータの消失を恐れて、個人的なバックアップとしてローカルにデータを置いておくことがよくあります。

そのような用途でワークステーションのストレージを使うことを想定すれば、ThinkStation P330 Tinyに20テラバイト(TB)のストレージを搭載すれば十分です。その点でも、ThinkStation P330 Tinyは実用性に優れたワークステーションと言えるかもしれません」

SOLIDWORKS 2018ベンチマークテストの概略

このベンチマークテストの処理内容は、「図面を開く」「3Dモデルの再構築」「(3モデルの)回転と拡大表示」「レンダリング」「拡大表示とパニング」「シミュレーション(Simulation)」で構成され、一連のテストが終了すると、パフォーマンステスト結果が表示される。表示される計測値(スコア)の項目は、「グラフィックス」「プロセッサー」「I / O」「レンダリング」「RealViewパフォーマンス」「Simulation」など。これらのスコアは、5回行われる処理の平均値(秒数)を表している。

このベンチマークで得られた結果は、ソリッドワークス社のWebサイト上で公開することができ、計測値を公開されているほかのマシンの計測値と比較することも可能であるという(図A)

図A:計測したThinkStation P330 Tinyのスコアをほかのスコアと比較した画面

また、各スコア項目の意味は表Aに示すとおりとなる。

表A:「SOLIDWORKS Rx」ベンチマークテストの各スコア項目の意味
グラフィックスモデルの回転、ズーム、およびパニングがどの程度滑らかに行われるかを表す数値。時間が短いほど、複雑で大規模なモデルのズーム、パニング、および回転がスムーズに実行できる。CPUとGPUに一部依存している。
プロセッサーこのスコアは、コンピューターがSOLIDWORKSソフトウェア内でフィーチャーの再構築や図面ビューなどのCPUベースのアクティビティを完了するために必要な時間。このテストを半分の時間で完了するコンピューターは、部品の再構築を半分の時間で終了すると想定できる。
I / Oこのスコアはファイルのオープン/保存にかかる時間を表している。時間が短ければ短いほど、コンピューターのドライブに対する読み取り/書き込み速度が速い。なお、この計測値は、ネットワーク環境でのファイルのオープン/保存時間を表すものではない。
レンダリングPhoto View 360において、モデルの写実的レンダリングを完了するために必要な時間を表す。
RealView パフォーマンスこのスコアは、コンピューターにRealViewグラフィックスをサポートするGPUがある場合のみ計測できる。測定時間が短いほど、複雑で大規模なモデルのズーム、パニング、および回転を速く実行できる。
Simulationこのスコアは、コンピューターにSOLIDWORKS Simulationがインストールされている場合のみ静解析スタディの実行時間を測定する。
SOLIDWORKS Simulationは、複数のプロセッサーが存在する場合は複数のプロセッサーを使用し、CPUの数が多く、高速であれば、スタディを実行する時間が短縮する。SOLIDWORKS Simulationは、頻繁にディスクに書き込む必要があることからこの影響もある。
  • * 上表の内容はSOLIDWORKS 2018のヘルプを参考にしながら、土橋氏が作成

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