解体工事会社がBIMを有効活用し、計画資料の作成時間を大幅に短縮。解体工法の3D検証で安全性をアピール
株式会社シンワ
- 業種
- 解体工事業
- 事業内容
- 構造物解体撤去工事、改修工事に伴う解体撤去工事、ブロック解体工事、ダイヤモンド工事
- 従業員数
- 65名(2023年2月現在)
- サイト
- https://www.sinwa-kaitai.com/
導入事例の概要
解体工事会社の株式会社シンワは同業他社に先駆けてBIM活用にいち早く着手し、従来の2D設計の課題を解消。見積書を含めた解体計画資料の修正時間を大幅に短縮した。安全性を担保した解体工法をビジュアル化することで、より説得力がある営業活動に結びつけるなど、さまざまな導入効果を得ている。
導入の狙い
- 解体計画や見積書を効率よく作成したい。
- 安全性を担保する資料を作成して営業力を高めたい。
導入したメリット
- 解体計画資料の修正時間を5割短縮。
- 重機・解体工事現場を3Dモデルでビジュアル化したことで、解体工法の安全性に関する説得力がアップ。
導入システム
近隣への配慮や安全性を重視する、解体工事のスペシャリスト
東京都中央区に本社を構える株式会社シンワ(以下、シンワ)は、関東を中心に安全性を重視した解体工事事業を展開している企業だ。同社の事業の大きな特長は、自社で現地調査から施工までを一気通貫で対応していることだ。解体工などの人材は直接雇用しており、仮設資材や多種多様な重機を保有だけでなく、メンテナンスまで自社対応することで、内製化を確立し高い生産効率を実現している。工事現場によって重機のサイズや種類を使い分けることで、あらゆるニーズに即応できる体制を整えていることが、特に大きな強みになっている。
同社は解体工事業の品質・技術はひとえに安全性を担保することだと考え、近隣への配慮や災害ゼロを最優先事項として元請け会社と妥協のない現場運営を心掛けている。工事現場をパネルで囲い、がれきの落下事故などを未然に防止する配慮を徹底し、騒音や粉じん、水漏れなどが生じないように常に細心の注意を払う意識の高さも同社ならではだ。
近年は建物の老朽化や再開発に伴う解体工事の案件が増加傾向にあるが、シンワはこれらのサービス品質を武器に東京・八重洲の再開発プロジェクトにも参画しているという。
解体工事の安全性や業務効率のさらなる向上を図るため、シンワは同業他社に先駆けてBIM活用にいち早く着手した。代表取締役の稲垣和人氏は、その理由を次のように説明する。
代表取締役 稲垣和人氏
「解体工事は建築物のように形に残らないので、お客様に安心して発注いただけるよう、いかに計画段階で解体工事の安全性をアピールできるかが重要なポイントになります。解体計画の提案では、2Dの図面よりも3Dモデルにした方が断然分かりやすくなり、詳細な検討がしやすくなります」
BIM活用にいち早く着手し、従来の2D設計の課題を解消
従来は、2D CADで解体現場の図面を作成し、解体計画の検討や見積書の作成を行っていた。ところが、2Dの図面では検証の精度が不安定で、実作業では予期できなかったアクシデントが起こることも少なくなかったという。
「2D CADを使用していた頃は、重機を配置可能な位置から作業場所までの距離が図面でイメージしていたよりも遠く、重機のアームが届かないケースなどがありました。そうなると、実作業で重機のサイズを急きょ変更しなければなりません。当社は松戸に機材センターがありますが、そこから別の重機を搬送しなければならないので時間と手間がかかり、工程が遅れてしまうだけでなく、実質的にコストアップにつながってしまうケースが多々ありました」と語るのは、企画部 企画管理課 計画グループ 係長の布田亜弥氏だ。
解体工事では、計画段階で撤去するコンクリートの総量、使用する重機の台数などを算出し、見積金額を記載した計画資料を事前に作成する。その計画資料の作成に多くの時間がかかるのも課題の一つだった。
企画部 企画管理課 計画グループ 係長 布田亜弥氏
「以前は見積金額を電卓で手計算し、必要なデータはExcelで集計していました。しかし、クライアントから作業の途中で『解体する範囲を変更したい』『一部の壁を残してほしい』といった変更依頼が寄せられることはよくあるので、その都度見積金額を再度算出し、データを修正しなければならない手間がありました」
そうした課題を解決するため、稲垣氏が着目したのが、BIMソリューションツールの導入だった。
「2年ほど前からBIMに対応した3D CADの活用を検討するようになりました。きっかけは、当社の2Dの図面をお客様がBIMモデルに変換して利用し始めたことです。そのときに、自分たちでBIMモデルを作成できる環境を整えようと決断しました」(稲垣氏)
そこで同社は、以前からコピー機や2D CADの導入で取引があった大塚商会に相談し、BIMソリューションツールの選定に着手した。
建設会社とデータ共有がしやすいBIMツール「Archicad」を選定
大塚商会から提案をもらって数社の製品を比較検討し、最終的に同社はBIMソリューションツールArchicadと、仮設資機材の配置ツールなどを搭載したArchicad専用のアドオンソフトウェアsmartCON Plannerを選定した。
決め手となったのはArchicadが取引先の大手建設会社で数多く使用されているため、データ共有がスムーズに行えることだった。また、重機の配置検討が効率よく行えるsmartCON Plannerを活用できるのも大きな利点だった。
「2Dの図面では、基本的に重機を図面上に表現することはできないのですが、smartCON Plannerには普段よく使用するタワークレーンなどの重機の3Dデータが多数入っているので、すぐに3Dモデル上で重機の動作検証が行えます。例えば、『重機と建築物がぶつからないか』『クレーンがきちんと建物に届くか』などの検討がマウス操作だけで簡単に、視覚的にも分かりやすく行えるので、非常に魅力的でした」(布田氏)
活用に手応えを感じた同社はArchicadを2ライセンス導入。社内で活用する準備段階として、布田氏は取引先の大手建設会社の誘いを受けてArchicadの勉強会にも参加した。そこで基本的な操作方法を習得し、分からないことは、大塚商会のWebサイトにあるArchicadの質問コーナーなどで調べてスキルを高めていった。
「操作面で最初は戸惑うこともありましたが、以前から利用していたAutoCADと大きく操作が異なるわけではないので、2Dから3D設計へ移行しやすいと実感しました。少なくともCADに携わったことがある人なら、すぐに使えるようになると思います。その意味では、導入ハードルが低く、使い勝手の良いBIMソリューションツールだと思います」(布田氏)
計画資料の修正作業が一日がかりから半日で完了へ
ArchicadとsmartCON Plannerは、2022年11月ごろから実案件で本格的に活用を開始。その導入効果は非常に顕著だった。
「一番実感している導入効果は、これまで大きな課題だった解体計画資料の修正作業の時間が大幅に短縮されたことです。以前は解体工事で大きな変更が生じると、コンクリートの総量などを再度算出する作業に約一日費やしていましたが、現在は3Dモデル上で変更を加えれば、コンクリートの総量などが自動的に算出されるので、半日あれば全ての修正作業が完了します。これまで4~5時間かかっていた修正では、2時間程度で済むようになりました。空いた時間はほかの作業に回せるので、業務効率が格段に向上しています」(布田氏)
また、手計算による算出ミスがなくなったことで、見積金額の精度も向上。結果的に修正回数の削減にもつながっている。
「解体工事のパターンに応じて作成する複数の見積書も1時間程度でスピーディーに作成できるようになりました。精度の高いコスト比較が事前に行えるのでお客様にとても喜ばれており、社内でも高く評価されています」(布田氏)
解体工法のビジュアル化で安全性の説得力がアップ
解体する建物の3Dモデルによって、安全性を担保するための解体工法の手順がビジュアル化され説得力が増し、営業力の強化にも大きく貢献しているという。
「例えば、建物が崩壊しないよう、ひな壇のように一部の壁を残して順番に解体していく工法があります。この手順は2Dでは表現しづらいのですが、3Dにすれば分かりやすく解体の工程を共有できます。実際、お客様からも大変好評です」(布田氏)
3Dモデルによるビジュアル化は、シンワの新人教育にも効果を発揮している。解体する建物の図面だけ見ても理解しづらいが、3Dモデルを作成することで、解体作業の流れをイメージしやすくなるからだ。
「現時点でArchicadの評価は100点満点です。ただし、時代の流れに乗って、やみくもにBIMの導入を進めても意味はありません。導入目的を明確にして、従来の2D設計とうまく使い分けをしながら、解体工事の業務上の課題を着実に解決していくことが重要だと考えています」(稲垣氏)
今後は、Archicadのライセンス数を増やしながら、徐々に活用範囲を広げていく考えだ。その際、一つの図面を複数の社員で共有しながら効率的に作業が行える環境を整備することも検討している。同時に、ノートPCやタブレットを活用して、施工現場で解体工事の進め方などを話し合える環境も整えたいという。解体工事業におけるBIM活用というシンワの先進的な取り組みは、今後も続いていく予定だ。