ジェネレーティブデザインを切削加工で生かす「Inventor 2017」、STLの再編集も

オートデスクは、製造業向け3次元CADツール「Inventor」の最新バージョン「Inventor 2017」を発表した。「Inventor 2016 R2」で追加した最適構造を導き出すジェネレーティブデザインの充実に加え、3Dプリンタの普及によってインターネット上での流通が広がっているSTLファイルの再編集機能などさまざまな強化を図った。

  • * 本記事は、製造業技術者向けポータルサイト「MONOist」から転載しています。

Inventor 2017を発表。3Dプリンタの普及受けSTL再編集機能など強化

オートデスクは2016年4月6日、東京都内で会見を開き、製造業向け3次元CADツール「Inventor」の最新バージョン「Inventor 2017」を発表した。従来バージョンの「Inventor 2016 R2」で追加した最適構造を導き出すジェネレーティブデザインの充実に加え、3Dプリンタの普及によってインターネット上での流通が広がっているSTLファイルの再編集機能などさまざまな強化を図った。

また販売形態については、「Inventor 2016」まで行っていた永久ライセンス契約から、年間サブスクリプション契約に移行する(同社は2016年2月以降、単品製品の永久ライセンスの新規販売を行っていない)。これに併せて、基本機能だけの「Standard」の販売を取りやめ、解析や配管/配線、ツーリングの機能を付加した「Professional」に一本化する。1ユーザーが1年間使用するサブスクリプション契約での税別価格は28万9000円で「従来のStandardと同等」(同社)になるという。

「モノづくりやその設計/生産方法は大きく変わりつつある」

オートデスク インダストリ ストラテジー&マーケティング 製造業 ビジネス開発マネージャーの宮岡鉄哉氏は「パーソナライズの需要、コラボレイティブな設計、3Dプリンタに代表される柔軟な生産、IoT(モノのインターネット)やインダストリー4.0の登場による顧客体験の変化やコネクテッドサービスによって、モノづくりやその設計/生産方法は大きく変わりつつある。オートデスクは『ものづくりの未来~The Future of Making Things』をコンセプトに、ジェネレーティブデザイン、3Dプリンタ、IoT対応、クラウド化を進めている」と語る。

これらのうちIoT対応については、2015年9月に買収したSeeControlの企業向けIoTクラウドサービスプラットフォームを用いた故障予見の製品の投入を予定しているという。また2015年12月に発表した開発者向けのプラットフォーム「Forge(フォージュ)」については、2016年6月に米国でカンファレンスを開催するという。

SeeControlのプラットフォームによる故障予見のイメージ 出典:オートデスク

SeeControlのプラットフォームによる故障予見のイメージ 出典:オートデスク

「Inventor 2017」の新機能

Inventor 2017の新機能については、オートデスク 技術営業本部 製造アカウント エンジニアマネージャーの加藤久喜氏が説明した。加藤氏は、「Inventor 2017の新機能開発はユーザーの意見を反映して進めている。中でも、ユーザーからのリクエスト受付窓口である『Idea Station』からは2万件の意見を得た。自動翻訳による日本語対応も完了しているので、日本のInventorユーザーの皆さまにもぜひ使っていただきたい」と強調する。

今回の新機能は「設計機能の向上」「相互運用性の向上」「コミュニケーション機能」の3つに分けられる。

設計機能の向上では、「Inventor 2015」から導入したフリーフォーム機能の強化や、パラメトリックな3Dデータにおけるフィーチャの関係性の確認/管理機能の追加、アセンブリ内パーツの透過などがあるが、やはり最も注目されるのはジェネレーティブデザインの充実だろう。Inventor 2016 R2で追加したシェイプジェネレーターに、「拘束条件の表示」「インタラクティブコントロール」「サイズ条件設定」「重量と縮小率の質量ターゲット」「対称面の設定」といった機能を追加し、より実用的なものとした。「シェイプジェネレーターによるトポロジー最適化結果は、いびつな形になりがちだった。今回の機能追加で、設計者が求める結果が得られやすくなった」(加藤氏)という。

またシェイプジェネレーターによって最適化した設計は、3Dプリンタのような積層造形であれば出力できるが、従来の切削加工では難しいことが多い。そこで、シェイプジェネレーターで最適化する前のソリッドモデルに、最適化後のポリゴンメッシュモデルを組み込んで表示できるようにした。これによって、最適化の結果を参考にしつつ、切削加工も可能な肉抜きの設計を容易に行えるとしている。

STLファイルを「Inventor」上で再編集

相互運用性の向上では、Inventor以外のCADデータを変換することなく扱えるようにする「AnyCAD」の機能を拡充した。今回の拡充では、InventorのユーザーがInventor以外で最も多く扱うであろう「AutoCAD」のDWGファイルとの連携を深め、世界で最も広く利用されているISOベースの中間フォーマットであるSTEPファイルに対応した。

DWGファイルとの連携では、AutoCADで行った図面の変更が、Inventorの3次元CADデータにもすぐに反映されるようになった。また、STEPファイルの対応により、「CATIA」「SOLIDWORKS」「NX」「Creo」といった大手ベンダー以外の3次元CADツールとのデータ連携がようになるとしている。

さらに興味深い機能となるのがポリゴンメッシュデータであるSTLファイルを、Inventor上で再編集する機能である。例えば、円形に見える形状のSTLファイルがあっても、実際はポリゴンメッシュから構成されているため、CADツール上では多角形として扱われるという問題があった。Inventor 2017では、ポリゴンメッシュのエッジを参照してソリッドデータに変換できるので、STLファイルの再編集が容易になったとする。

STLファイルの再編集が可能になった 出典:オートデスク

STLファイルの再編集が可能になった 出典:オートデスク

コミュニケーション機能については、クラウドサービス「A360」を用いた設計共有や、タイムラインベースで動きを定義できる設計プレゼンテーション機能、ユーザーからの要望が最も多かった3D PDF出力への対応などが挙げられる。

加藤氏は「シェイプジェネレーターの拡充、STLファイルの再編集といった新機能は、ポリゴンメッシュデータを扱うCGツールも手掛けているオートデスクだからこそ実現できた機能といえるだろう」と述べている。

「Inventor 2017」の新機能のうち、オレンジで示した箇所は、ポリゴンメッシュデータの取り扱いが重要な役割を果たしている 出典:オートデスク

「Inventor 2017」の新機能のうち、オレンジで示した箇所は、ポリゴンメッシュデータの取り扱いが重要な役割を果たしている 出典:オートデスク

  • * 本記事は、製造業技術者向けポータルサイト「MONOist」から転載しています。