AutoCAD図面のPDF出力方法はどれが正解?
「AutoCADで作成した図面をPDFで出力する」といっても、PDFの出力方法が印刷・バッチ印刷・PDF書き出しと一つでなく、さらにPDF出力に使用するプリンターも複数あります。先輩社員に出力方法を聞いてもそれぞれ独自の設定で出力しており、社内ルールも策定されていません。
これを機にサンプル図面を用意し、どの方法によるPDF出力が業務に適しているのか比較・調査してみます。
プリンターの特徴を理解する
AutoCADからPDF出力するプリンターは大きく二つに分かれます。どちらからも出力できますが、まずはそれぞれの特徴を把握しましょう。
- Autodeskが提供するPDF出力専用プリンター「DWG to PDF」
- OSで設定したシステムプリンター「Adobe PDF(注1)」、「Microsoft Print to PDF」など
DWG to PDFによる印刷の特徴
ドライバー | pdfplot15.hdi(Ver2020)を使用 |
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メリット | AutoCADで設定したレイヤー情報が渡るため、レイヤーを切り替えての印刷業務に適している。図面の再現性が高い |
デメリット | セキュリティの設定がないため、データ漏えいの不安が残る。後からAdobe Acrobat DCでパスワードを設定すればフォローできそう |
Adobe PDFによる印刷の特徴
ドライバー | gdiplot15.hdi(Ver2020)を使用(注2) |
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メリット | 印刷時にパスワードや編集制限などのセキュリティが設定できるので、万一のデータ漏えいへの対処が可能。ファイルサイズが小さく保存に適している |
デメリット | 透過の出力を有効にすると図面全体がラスターデータとして出力される。拡大するとエッジがぼやけるため、プリンター出力時の鮮明さにも影響がありそう |
- (注1)Adobe PDFはアドビのアプリケーションで作成されたPDFファイルです。
- (注2)gdiplot15.hdiは図形の処理に用いられ、最終的に使用されるプリンタードライバーやPDFドライバーにデータを転送する。
PDFの出力コマンド、一体どれを使えばいいの?
AutoCADからPDFを作成するコマンドには、印刷・バッチ印刷・書き出しがあります。それぞれの違いを押さえましょう。
印刷 | プリンターへの印刷で使い慣れたコマンドそのままの操作のため予備知識なくPDF出力が行える。一つの図面のモデル空間または一つのレイアウトをPDFファイルに書き出す。大量のPDF作成には不向きなようだ |
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バッチ印刷 | 複数の図面のモデル空間または図面の全てのレイアウトから選択した図面をPDFファイルに書き出す。マルチシートPDFファイルが作成できるのはよい。事前のページ設定は手間かもしれない |
PDF書き出し | 一つの図面のモデル空間または図面の全てのレイアウトをPDFファイルに書き出す。ダイアログボックスは異なるが設定は印刷とほぼ同じなので、設定方法を悩まずに出力できる |
AutoCAD図面のPDF出力結果を比べてみよう
検証ソフトにAutoCAD 2020およびAcrobat DCを用いて、プリンターによる出力結果の違いを項目ごとにまとめました。
線種
DWG to PDF | 100%再現できる |
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Adobe PDF | 100%再現できる |
比較項目
Continuous、Center、DASHED、DIVIDE、DOT、HIDDEN、BATTING、GAS_LINE
オブジェクト
DWG to PDF | 100%再現できる |
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Adobe PDF | 100%再現できる |
比較項目
線分(単線)、線分(複数線)、円、四角形、円弧、楕円、ポリライン(単線)、ポリライン(複数線)、ポリライン(単線幅)、ポリライン(複数線幅)、スプライン、表、ワイプアウト、イメージ
ハッチング
DWG to PDF | 半透明出力とデータ構造印刷設定の「透過を有効」にチェックを入れても半透明を保持しつつベクターデータとして出力される |
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Adobe PDF | チェックを入れると図面全体が細切れのラスターデータの集合体として出力される。ラスターデータのため文字検索に対応せず。プリンター出力時には大きなサイズへの印刷でにじみが目立つなどの難あり(注3) |
比較項目
ANSI31、ANGLE、GRAVEL、SOLID、グラデーション、透過(SOLID_25)、透過(SOLID_50)、透過(SOLID_75)
- * 3 システムプリンター経由して出力を行うPDF出力では、本事象は共通して起こると想定される。
SHXフォント
DWG to PDF | 100%再現できる AutoCAD SHX Textオブジェクトとして出力され、文字に対する注釈の返信が行える。この時「extfont2の改訂版」にある記号などの文字は欠落した。ただし文字オブジェクトではないため、文字検索には反応しない |
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Adobe PDF | 100%再現できる 線分の集合体として出力され注釈情報は作成されない。文字検索にも反応しない |
比較項目
txt、romans、simplex、bigfont、extfont、extfont2
SHXフォント字体
DWG to PDF | 100%再現できる SHXフォントと同様に幅係数や斜体、縦書きもAutoCAD SHX Textとして認識し、注釈の返信が行えた |
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Adobe PDF | 100%再現できる SHXフォントと同様に線分の集合体として出力され注釈情報は作成されなかった |
比較項目
標準(txt)、幅係数_0.75、斜体_30、縦書き、回転、ミラー反転
TTフォント
DWG to PDF | 100%再現できる AutoCADでの読み込み時に一部フォントが再現されず、MS明朝・MSゴシック・MSP明朝・MSPゴシック・游ゴシックがArialフォントに変換された |
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Adobe PDF | 100%再現できる 検証に用いたフォント全てが正確に再現された(注4) |
比較項目
MS 明朝、MS ゴシック、MS P明朝、MS Pゴシック、Arial、HG丸ゴシック M-PRO、HGSゴシックM、メイリオ、游ゴシック
- * 4 システムプリンターを使用してPDF出力する場合、TrueType文字の設定を「グラフィックスとして」から「文字として」に変更しなければ文字がラスター出力される。
TTフォント字体
DWG to PDF | 100%再現できる 幅係数、斜体、ミラー反転は文字でなく図形で出力され、文字検索に反応しない |
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Adobe PDF | 100%再現できる 幅係数、斜体、ミラー反転は文字でなく図形で出力され、文字検索に反応しない |
文字オブジェクトは選択と検索が可能。Ctrl+Aで文字として認識されているオブジェクトを一括して確認できる。選択されていない文字(SHXフォント)は、文字として読み込まれていない。
比較項目
標準(MSゴシック)、幅係数_0.75、斜体_30、縦書き(@フォント)、回転、ミラー反転
マルチテキスト
DWG to PDF | 100%再現できる |
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Adobe PDF | 100%再現できる |
比較項目
標準(MSゴシック)、改行、太字、斜体、下線、取り消し線、文字内サイズ変更、文字内色変更
マルチテキスト
DWG to PDF | 100%再現できる |
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Adobe PDF | 100%再現できる |
比較項目
標準(MSゴシック)、改行、太字、斜体、下線、取り消し線、文字内サイズ変更、文字内色変更
寸法
DWG to PDF | 100%再現できる 寸法値は文字として書かれている。円弧記号は図形で出力されている |
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Adobe PDF | 100%再現できる 寸法値は文字として書かれている。円弧記号は図形で出力されている |
比較項目
長さ寸法、半径寸法、直径寸法、角度寸法、弧長寸法、引出線
寸法・矢印
DWG to PDF | 100%再現できる |
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Adobe PDF | 100%再現できる |
比較項目
開矢印、黒丸矢印、30度開矢印、コンマ3桁区切り、寸法値 直接入力、許容差
その他の比較
DWG to PDF | AutoCADのレイヤー情報が連携。Acrobat Reader DCからもレイヤーを切り替えた印刷が行える(設定:画像情報を含める) |
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Adobe PDF | レイヤー情報は失われる |
DWG to PDF | Adobe PDFと比べファイル容量が大きい |
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Adobe PDF | DWG to PDFと比べ容量が小さい。図面によっては5分の1程度まで落ちた。Adobeの信頼性を含め保存に適している。半透明の有無やレイヤーの要否によっては利用価値がある |
AutoCADバージョン
両プリンター共にPDF出力に用いるドライバーはAutoCADのバージョンごとに異なるため、2021では結果が変わる可能性がある。
番外編 ~Adobe IllustraorでDWGを開く~
検証用DWGをAdobe Illustratorで開くとSHXフォントの警告が表示された。気にせず「OK」をクリックしたが、SHXフォントが文字化けしてしまった。IllustratorではSHXフォントを再現できないのだろうか。今後も検証していきたい。
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