Lenovoコンパクトモバイルワークステーションが劇的に進化したという噂は本当かSOLIDWORKSで検証してみた

「3次元CADには本当にそこまでハイエンドなワークステーションが必要なの?」
3次元設計をやっていない上司やIT部門からこのようなことを言われたことはないだろうか。

ここで自信をもって「はい、必要です!」と言い切れる人は少ないだろう。なぜなら、これは設計「効率」に関わるもので、YesかNoで答えられる質問ではないからだ。

ではワークステーションの性能を何%落とすと設計効率が何%低下するのかと言えば、そんなことは測定しようがない。ワークステーションの性能は多岐にわたるため、一概に何%とは言えないし、設計効率の低下を数値化するなどさらに測定しようがないことは設計者ならだれにでも明らかだ。

では、2021年現在、やはり最もハイエンドなワークステーションを常に追い求めなければ3次元設計は効率を落としてしまうのだろうか。10年前は確かにそうだった。しかし、この1年ほどの状況を見ると、どうも様子が変わってきているようだ。そこにちょうどThinkPad P14sがGen2に生まれ変わって、かなり性能が上がったとの噂が舞い込んできた。

この記事では、数多くの企業で設計部門の3次元設計立ち上げとそのためのワークステーションの選定を行ってきた筆者が、LenovoのコンパクトモバイルワークステーションThinkPad P14s Gen2とGen1をSOLIDWORKSを使って比較した結果を報告する。

太田 明

デジプロ研 CAD / CAEコーディネーター

Intel Inside 飛躍的な生産性を第11世代インテル Core i プロセッサー

第11世代インテル Core プロセッサー・ファミリーは、かつてないほど調和のとれたパフォーマンス、新しいコアとグラフィックス・アーキテクチャ、AI搭載のインテリジェントなパフォーマンス、クラス最高のワイヤレス接続と有線接続で、ノートブックPCとデスクトップPCのパフォーマンスをさらなる高みへ押し上げます。

コンパクトモバイルワークステーションの位置付け

毎年コンピューターは性能向上するものだが、ここ数年の変化は特に大きい。そして、性能向上には二つの方向性がある。一つは大型のハイエンド機を「これまで以上の性能」で動かすものである。流体解析などのシミュレーション分野では計算能力が高ければ高いほど精度を上げられ、また、さまざまな分野に適用できるようになる。

もう一つは、必要な性能を維持しながら「小型化」するという方向性だ。コンピューターの性能がどんどん上がることで演算能力がもう十分な分野が着実に増えている。3次元CADの分野も実は既にこの領域に入ってきている。例えば、基礎的なトレーニングに使用する比較的シンプルで数も少ないモデルであれば、特別なスペックでなくともモデリングは可能なため、私はSOLIDWORKSが起動さえできれば学生には手持ちのPCをそのまま使ってもらっている。

特にIntel第11世代CPUは、これまで以上の性能を低消費電力・低発熱で実現するさまざまな技術が盛り込まれ、ハードウェアはグンと小さくなった。または、小さな機種がグンと性能が上がった。まさに当たり年とも言えるだろう。これは、ここ最近テレワークと打ち合わせと現場を行き来することになった設計者にとっては、見逃せない流れではないだろうか。

少し前の「モバイルワークステーション」の印象をお持ちの方は、展示会などの特殊な環境のための本体も電源も大型の、かろうじて持ち運べるような機種を汗をかきながら運んだという方もいるかもしれないが、もはやその印象は間違っていると言っていいだろう。「コンパクトモバイルワークステーション」は涼しいカフェでコーヒー片手に開いても全く違和感のない存在だ。

コンパクトモバイルワークステーションになると使い方も広がる。ThinkPad P14s Gen2のディスプレイはその名の通り14インチと小型であるが、3次元モデルを扱ううえで意外にも不自由はない。一方、長時間使う設計室や自宅では14インチに加えて、例えば32インチのディスプレイを設置してもいいだろう。この機種はキーボードもしっかりしているので外付けのキーボードは特に必要ないが、こだわりたい人はキーボードを接続して本体を閉じてしまってもいいだろう。打ち合わせ先や現場の片隅で作業するならモバイルディスプレイも重宝する。本体自体が小さいため、フットワークも軽くなるし、作業スペースはモバイルディスプレイを置くスペースも確保しやすい。使ってみれば、ワークステーションが性能を維持しながら小さくなることが、これほど仕事をしやすくするとは思わなかったと感じるだろう。

32インチディスプレイと併用

15.6インチモバイルディスプレイと併用

設計部門のモバイルワークステーションへの移行

では、製造業の設計部門は実際にモバイルワークステーションに移行しているのか?

答えは「移行している」だ。複数人で3次元CADを使うにはチーム内でさまざまな共通設定を使う必要がある。例えば図面テンプレートやねじの設定、材料やよく使う部品や形状のライブラリなどだ。これまではこういった設定が共有のサーバーに置いてあり、テンプレートを使うたびにそのサーバーにアクセスするというスタイルが多かった。

しかし、これは設計時には常時サーバーに接続している必要があり、デスクトップ型前提の環境であった。一方、打ち合わせや現場にも頻繁にワークステーションを持って移動する設計者はその移動先でもCADを使って設計案を形にしたいのだが、前述の設定では、形を見ることはできても設計は進められない。なお、これはPDMやライセンスの取得の場面で弊害になるケースもある。

このような常時接続型の設定から断続接続型の設定に移行する例が今増えている。これはテンプレートやねじの設定を各PCがローカルに持っておくことで、ネットワーク外でも問題なく設計が進められる、モバイルワークステーション向けの環境である。もちろん、ネットワークに戻ったタイミングで、中央の共通設定と同期をとったり、設計データをアップロードすることができる。こういったモバイルワークステーションのメリットを生かす環境への移行が進んでいる。

Gen1からGen2へ

2020年発売のThinkPad P14sは2021年Intel 第11世代CPUや新世代GPU、その他いくつかの進化を盛り込んでGen2に生まれ変わった。では、Gen1とGen2の性能はどの程度違うのだろうか。SOLIDWORKS Rxで検証してみた。

なお、第11世代CPUは性能向上著しい反面、熱設計などPCメーカーの技術力によって性能が大きく振れるという特徴も併せ持っているため、各パーツのスペックのみではなく、実際に使用するハードウェアとアプリケーションの組み合わせで性能を確認する必要がより大きくなっている点は押さえておいてほしい。

使用機器

Lenovoモバイルワークステーション

  • P14s Gen1(CPU Intel Core i7-10510U , GPU Quadro P520)
  • P14s Gen2(CPU Intel Core i7-1165G7 , GPU Quadro T500)

ベンチマークツール

  • SOLIDWORKS Rx 2019
  • SOLIDWORKS Rx 2021(参考)

Gen1とGen2のスペックはCPUとGPUの違いが圧倒的に大きく、それ以外はほぼ変わらないと言っていいが、CPUの世代が進んだことでタスクの処理の仕方が変わったりメモリー転送速度が向上したりするなど、スペック表だけでは分からない派生する変化もある。大きな違いを赤字で示す。

Gen1とGen2のスペックの違い

SOLIDWORKSのベンチマークツールで比較

SOLIDWORKSの魅力は「必要な機能がそろっている」ことである。これはもちろんベンチマークのときにも実感できる。SOLIDWORKSにはSOLIDWORKS Rxというベンチマークツールが付属しており、これ一つで客観的かつ多面的な数値が自動で得られる。そしてそのスコアの単位は感覚的に分かりやすい「秒」である点もよい。

今回は現実的に今最もユーザーが多いであろう2019バージョンを使用して、Gen1を基準(1倍)として、Gen2がそれに比べて何倍性能向上しているかという視点でまとめた。

後半には参考としてGen2の2021バージョンの数値も掲載してあるため、自社のハードウェア環境と2021バージョンで比較することも可能だ。なお、昨今のハードウェアの性能向上とSOLIDWORKSの性能向上の相乗効果で、2019-2021間のベンチマーク周りは大荒れの状況であるため、比較する環境やバージョンには注意が必要だ。詳しく知りたい方は以下の記事を参照してほしい。

SOLIDWORKS 2019-2021をLenovoのハイエンドモバイルワークステーションで比べてみたら大変なことになった件

ベンチマーク結果

ベンチマークの結果は以下である。

 P14s Gen1性能比P14s Gen2性能比
グラフィックス10.2s(1倍)10.2s1.0倍
プロセッサー28.2s(1倍)21.1s1.3倍
I / O22.8s(1倍)17.2s1.3倍
レンダリング6.5s(1倍)4.5s1.4倍
Simulation72.3s(1倍)41.2s1.8倍

プロセッサー、I / O、レンダリング、Simulationといずれも1.3倍~1.8倍性能向上している。
ハードウェアのみで、また、たった1世代でほとんどの数値が顕著に向上し、Simulationに至っては1.8倍も向上しているのは本当に驚きだ。設計者にとって解析時間は短ければ短いほどよい。その分何回も計算できるからだ。これなら同じ時間で倍近くの案を検証できる。

さらに、SOLIDWORKSのバージョンを上げれば、グラフィックスやSimulationはそこからさらに倍近く性能が向上することが分かっている(参考記事参照)。もし今、調子の悪くなりはじめた数年前のデスクトップ機を使っている方がいるとすれば、迷わずコンパクトモバイルワークステーションへの移行をお勧めする。

グラフィックスについてはこのケースでは大きな変化がないようだが、GPUのCUDAコア数だけ比較しても384コアから896コアに増強されており、本来は差が出るはずである。このあたりはドライバーや設定の最適化でさらに向上する余地も大きいため、この数値に効く設定や実際に値を上げられた方がいたらぜひお知らせいただきたい。

そして最後に体感速度についてだが、体感でも各所で明らかに高いパフォーマンスが感じられた。特にレンダリングと解析は数値にも現れているが、SOLIDWORKS上で計算の過程が見えるため、その表示がグングン進むのがよく分かって気持ちがよい。

最後にThinkPad P14s Gen2のSOLIDWORKS 2021でのベンチマークの結果を示す。
この結果をぜひ皆さんのお持ちのハードウェア環境と比較してみてほしい。

  • * この結果はSOLIDWORKS 2020までのバージョンとベンチマークのルールが異なるため、2021バージョン以外とは全く比較できないことに注意。

以上、Lenovoコンパクトモバイルワークステーションが劇的に進化したという噂は本当かSOLIDWORKSで検証してみたら、本当にすごい進化だったことが分かったという報告でした。これらの内容が今後の皆さんの活躍のヒントになれば幸いです。

太田 明

3次元設計/CAE導入立ち上げコンサルタント、元半導体製造装置エンジニア

Inventor & Fusion 360勉強会、SBD利用技術研究会(SOLIDWORKS系CAEユーザー会)幹事のほか、SOLIDWORKSユーザー会、AUG-JP(Autodesk系ユーザー会)、CUG(土木系BIM / CIMユーザー会)などにも積極的に参加。ユーザー同士の学び合いを通して本当に使える3次元設計のノウハウを日々探求している。