量産用金型製作のリードタイムを10分の1に劇的短縮。変革を助けた原動力は3次元設計と3D Tascal X

オムロン株式会社

制御機械メーカー大手のオムロン株式会社(以降、オムロン)において、電子部品の量産用金型を設計製作しているのが、精密加工技術センタ・金型グループである。同グループは、2006年に3次元CADと3D Tascal Xを導入。3次元設計データを全ての後工程で一貫して利用することで、約20週間かかっていた設計製作リードタイムを「10分の1」へと劇的に短縮することに成功した。

「リードタイム10分の1」への一大変革が始動

リレー、スイッチ、コネクタ、センサなど、電子部品の金型を設計・製作しているのが、滋賀県草津市にあるオムロンの精密加工技術センタ・金型グループである。同グループが製造する金型は、オムロングループ各社へ納品され、制御機器などを作るときに用いられる。

同グル-プが作っているのは、量産用の総焼き入れ金型であり、研削、手作業を伴う研磨、放電加工などを複雑に組み合わせて製作する。

「従来はリレーやスイッチの金型が中心でしたが、2004年ごろから、より精密な狭ピッチFPCコネクタの仕事が増えてきました。従来に比べて、5~10倍の精度が求められるようになったため、リードタイムも増大。リレー金型のリードタイムは8~10週間でしたが、狭ピッチFPCコネクタでは16~25週間かかっていました」と、精密加工技術センタのセンタ長である岡本恭一氏は説明する。

リードタイムの肥大は、精密加工技術センタにとっても、その金型を使うオムロングループにとっても大問題だ。そこで2005年、金型のリードタイムを大幅に短縮するためのプロジェクトが発足した。

「どうせ変革するなら、業界最先端の『2週間』を達成しよう、20週間のリードタイムを10分の1に短縮しようというのがプロジェクトの目標でした」と岡本氏は言う。

岡本 恭一様

オムロン株式会社
エレクトロニクスコンポーネンツ
ビジネスカンパニー
エンジニアリングセンタ
精密加工技術センタ
センタ長 参与
岡本 恭一様

「設計3日」を達成するには図面レスが不可欠

「リードタイム2週間」の内訳は、設計3日、加工1週間、検査・仕上げ3~4日である。特に、設計のリードタイムを10分の1にするには、数十枚にのぼる部品図をいちいち設計者が作り、紙出力する工程を省略しなければならない。設計の3次元化に加えて、データの2次元化を一切行わない「図面レス」を実現する必要があった。

「10年ほど前にも、設計の3次元化に取り組みましたが、CADのスペックがまだ不十分だったため断念しました。しかし、リードタイムを10分の1にするには、3次元化は避けては通れません。それも、設計だけの3次元化ではダメであり、工程全体を3次元データで一貫させることが至上命題でした」と、精密加工技術センタ主事の山口孝氏は語る。

山口 孝様

オムロン株式会社
エレクトロニクスコンポーネンツ
ビジネスカンパニー
エンジニアリングセンタ
精密加工技術センタ 主事
山口 孝様

そこで不可欠になったのが3次元ビューワだ。3次元ビューワと3次元CADは、リードタイム短縮を進めるためのエンジンの両翼を担っていた。

0.1ミクロン精度の加工寸法計測ができるのは3D Tascal X だけ

ビューワの選定は、現場の加工作業者も加わり、慎重に行った。その結果、選択したのが3D Tascal Xである。
評価ポイントは、次の3点だ。

第1に、0.1ミクロン単位の精度が求められる狭ピッチFPCコネクタを、完全な3次元モデルとして扱い、高精度計測ができるのは、3D Tascal Xだけだった。

第2に、分かりやすく操作しやすいため、現場作業者がストレスなく使いこなせる。

「3D Tascal Xは、見る人が新しい副座標を作って点と点の間の距離を測るといったことが、シンプルな操作でできます。カタログ上では同じ機能をカバーしているビューワもありましたが、分かりやすい最短操作で、現場の人が加工に必要な寸法を計測できるのが3D Tascal Xだったのです」と山口氏は言う。

第3に、機能が充実していて、しかも、リーズナブルな価格だ。現場や協力会社など、必要なところへ一気に配布できる優れたコストパフォーマンスを備えていた。

加工者も穴実寸などの情報を追加記入して後工程で生かす

2006年、金型グループは、3D Tascal X導入を決定した。現在では、ネットワークライセンスで16ライセンスを利用しており、全ての3DTascal Xデータをサーバで一元管理している。

金型設計に用いる3次元CADは、SolidWorksとNeosolid.Moldである。大まかな手順としては、この設計データを3D Tascal Xで一括変換し、社内デザインレビューをして、加工上の注意点などをコメント記入する。デザインレビュー参加者は、設計、購買、加工、組立、品質管理など、プロジェクトにかかわる全員だ。

加工者は、3D Tascal Xデータを手元のディスプレイで表示させ、必要なところを拡大したり、角度を変えたり、寸法を測ったりしながら、加工を進める。また、加工段階で発生した情報も追加記入し、組立など、次の工程の作業者がこれを確認しながら効率よく作業を進めるようにしている。

属性情報や注釈を作業工程ごとにレイヤ分割して表示

オムロンの3D Tascal Xの使い方にはさまざまな特徴がある。その一つが、レイヤ機能の活用である。

3D Tascal Xは、CADで入力した属性情報や注釈を、「穴あけ」「仕 上げ」などの作業工程ごとにレイヤに分けて見ることができる。従って溶接担当者なら、溶接個所に関する情報だけを表示させて、シンプルな画面表示を見ながらミスのない作業ができる。また、紙図面を使わずに公差を伝達するためには、カラー表示の使い方を工夫した。設計ルールを見直して公差もルール化・標準化し、設計者がパーツごとに色を塗るだけで、公差を加工者へ正確に伝えられるようにしたのである。

協力会社まで一気に図面レス体制をとったのも重要なポイントだ。現在、協力会社6社で3D Tascal Xを合計7ライセンス使っている。

また、組織改革も行った。一つのプロジェクトについて、設計から、加工・組立・仕上げまで、全ての工程を一貫して見通すプロジェクト責任者を任命し、組織の壁を超えたマネジメントができる権限を持たせたのである。

リードタイム10分の1を達成、次は20分の1だ

2006年に3次元CADと3次元ビューイングをそろえてから約1年半。金型チームは、「リードタイム10分の1」を達成した。

設計者の工数は大幅に削減された。設計の標準化、図面レス、また、商品開発部が同じ3次元CADを使っているので仕上がり部品の設計データを使って金型設計ができるようになったことなどの相乗効果で、7~8日かかっていた設計を「3日」に大幅短縮することができた。

「加工現場でも、作業のポイントがひと目で正確に把握できるため、作業がスピードアップし、ミスもなくなりました。3次元CADからNCデータ を生成することで、機械加工も生産性が上がっています」と精密加工技術センタ 主査の平早水幸治氏は語る。

平早水 幸治様

オムロン株式会社
エレクトロニクスコンポーネンツ
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エンジニアリングセンタ
精密加工技術センタ 主査
平早水 幸治様

変革に向けて協力会社を含めた全員の力を結集

リードタイムを10分の1にするには図面レスしかない。我々が生き残るには3次元の一貫活用しかないということを協力会社を含めた全てのメンバーが納得したからこそ、組織全体が変革に向かって力を結集できました。

一大変革が成功した最大の理由は、変革に向けてのモチベーションが非常に高かったことである。

「設計を3日でやるには図面レスしかない、我々が生き残るには3次元活用しかないということを、協力会社を含めた全員が納得したからこそ、組織全体が一つの目的に向かって力を結集できました。いままでの個別最適ではなく、設計・加工・組立、協力会社まで全てが一体になって、『やろう!』という気持ちが盛り上がったのです」と岡本氏は言う。

精密加工技術センタの金型チームが大きな成果をあげたことから、オムロングループの他の金型製作チームにも、3次元設計と3次元ビューイング3D Tascal Xを使った図面レスの取り組みが、広がりつつある。

オムロン株式会社

所在地<本社>京都市下京区塩小路通堀川東入
<包装技術研究所>東京都港区虎ノ門3丁目4番10号
<精密加工技術センタ>滋賀県草津市西草津2丁目2番1号
設立1948年(昭和23年)5月19日
創業1933年(昭和8年)5月10日
資本金641億円(2008年3月31日)
売上高単独3,322億920万円、連結7,630億円(2007年度)
従業員数単独5,593人、連結35,811人(2008年4月20日現在)
事業概要制御機器、FAシステム、電子部品、車載電装部品などの大手メーカー。オンライン現金自動支払機(ATM)をはじめ、「世界初」の製品開発を数多く手がけてきたチャレンジ企業でもある。
サイトhttp://www.omron.co.jp/