愛知県豊田市に本社を置く自動車の設備メーカー・大豊精機。同社は2005年から、「グローバルに適用する設備と自動車部品の総合メーカー」という夢に向けた革新に取り組んでいる。設備・プレス金型・試作に加えて、量産部品の自社生産も開始。試作・設備・金型・部品生産の工程を一貫して任せられる総合メーカーへの飛躍を期しているのだ。金型と試作を担当する事業部でも、変革を行った。製作で不可欠な「溶接」のプロセスを全体工程へより密接に組み込むために、従来の「試作・型事業本部」を「試作・型・溶接事業本部」へと改組。仕事の流れや技術を革新することで、納期短縮や客先ニーズへの組織的な対応を強化した。
CATIAの属性データを高精度に変換できた3D Tascal X溶接指示の図面レス化を助けて、工程変革に拍車
大豊精機株式会社
ベンチャー企業の製品なので、最初はあまり期待していませんでした。ところが、CATIA、CFIOからParasolidへの変換率がどのトランスレータよりも良い。さらに、こちらの要望点を1~2週間で修正してくれました。さすがベンチャー企業です。
大豊精機株式会社(以降、大豊精機)は、自動車部品の試作工程での溶接指示を図面レス化、自動車メーカーから提供される CATIAデータを変換して3D Tascal Xで溶接情報を正確に表示し、加工寸法も計測できるようにした。トヨタグループの図面レス化の大きな流れに参画し、さらなる変革に取り組む土台を築くとともに、現場作業者における溶接部位確認時間の2~3割短縮、および溶接ティーチミスの低減のという成果もあがっている。
設備と自動車部品の総合メーカーに向けて変革を重ねる新生・大豊精機
試作の溶接指示を紙図面利用から3次元表示へと変革
この溶接工程強化で、重要な役割を果たしたのが3次元表示である。もともと、試作の溶接指示書は、自動車メーカーの部品設計者が、紙で作ってCADデータに添えて提供してくれていた。しかし、トヨタ自動車は2002年に、自社開発の「統合CAD」からCATIAへの移行をグローバル規模で発表。溶接情報もCATIAのデータとして提供されるようになった。
「紙の溶接指示書がなくなったのですから、3次元CADに書き込まれている属性データを読み取らなければなりません。しかし、溶接の現場 にいる作業者はCADをさわったことがない人がたくさんいるため、CATIAの環境を整備しても、操作することは困難です。CATIAは値段も高い。そこで必須になったのがビューワでした」と、試作・型・溶接事業本部 試作・型技術部の主担当員である坂井隆司氏は語る。
CATIAの属性データを取り落とすことなく高精度変換できた3D Tascal X
試作・型技術部では、2005年夏ごろから、ビューワの各社製品を比較検討した。
最大の要件は、CATIAデータの属性情報を取り落とすことなく確実にトランスレートできること、そして、測ったり調べたり比べたり、必要な情報だけ抽出するといった操作が簡単にできることである。
要件に見合うビューワはなかなかみつからなかった。さまざまな問題に悩まされた末に、出会ったのが3D Tascal Xである。
「最初は、シーセットが最近できたベンチャー企業なので、あまり期待していませんでした。ところが、トランスレートしてみると、溶接記号もカラー情報もきちんと読み込めて、しかも副座標設定ができるので、『これはすごいかもしれない』と本腰を入れて検討を始めました。DEMO版が提供されておりオペレーションも簡単なことから、同社側で実データを利用したベンチマークでテストできたのです。また、2次元化機能もあるので、どうしても紙が必要な場合には図面出力してあげることができることも魅力的な機能でした。しかも、多くの3次元CAD同様、3D Tascal XはParasolidカーネルを使用しているのでデータが軽いだけでなく、他のCADフォーマット等でデータ授受するトランスレータとしての能力も評価の一つとなりました。ビューワ本体の価格もリーズナブルですが、パソコンの環境を大幅に強化する必要がなかったため、低コストで導入が可能でした」と坂井氏。
さらに、同事業本部 同技術部の新美早百合氏は、「毎日使う立場としては、見やすくきれいな画像が表示されるところを評価しました。ポリゴンデータしか持っていないビューワだと、画像が荒くて見づらいのです。また、3D Tascal Xは、コマンドのアイコンも美しくシンプルなカラー表示で、センスを感じます」と付け加える。
それでも、要望点はいくつもあった。「シーセットのシステムサポートを呼んで相談したところ、対応できるものは、どんどん対応してくれました。
例えば、CATIAデータの変換率を高めるために3D Tascal Xのエンジンの中身を修正してくれたのですが、これが1~2週間で完了したのには驚きました。バージョンアップも頻繁にやってくれます。さすがベンチャー企業です」と坂井氏はいう。
すぐに対応できない要望については、今ある機能を組み合わせて運用することにした。
例えば、CATIAのワイヤー、点要素はグループ化されないのでビード溶接情報の取込が不可能であったものを、その属性情報を3D Tascal Xのレイヤー部にグループ分け表示できるように改善してもらうことで、部品ごとの溶接部位確認が非常に容易となった。
溶接作業の順番を見やすく示す視点を作成
大豊精機は2006年6月、3D Tascal Xを導入し、現在、7ライセンスを利用している。
溶接指示は、試作・型技術部でCATIAデータを変換し、属性情報を整理して3D Tascal Xのレイヤーで表示させるだけで作れるようになった。加えて、3D Tascal Xの視点機能を活用して、作業者の担当および工程ごとに視点を作成することで、まるでプレゼンテーションのような作業指示を行っている。
「紙の図面と違って、重なっている部分も正確に指示できるのが、視点機能の良いところ。おごった言い方をすれば、大豊精機流3次元図面としての方策です」と新美氏は言う。
溶接作業者は、2~3時間操作説明をしただけで、計測などをどんどんこなすようになった。溶接ロボットへのティーチングも、作業工程の視点情報を見ながらスムーズに行っている。当初はかなり心配しただけに、「操作が分からない」というクレームが1件も来なかったのは、うれしい誤算だった。
正確で分かりやすい指示により溶接部位確認時間を低減
溶接指示における3D Tascal Xの導入効果は二つ挙げられる。
一つは、図面レスというトヨタグループの大きな変革の流れを、試作溶接工程に取り込めたことである。しかも、数百万円かけてCATIAを何台も導入することなしに、図面レスによる溶接指示の方策を推進することができた。
もう一つは、現場作業者の3次元データの活用で溶接部位の確認作業が速くなったことである。
見づらい2次元図面を読み解く時間が省略できて、正確に情報が伝わる。作業者が不明点を技術員、または客先に問い合わせて返事が来るまで作業ができないという「手待ち」の工数も発生しなくなった。溶接部位確認時間は、2~3割程度短縮されたのである。同時に溶接ティーチミスの低減も図ることができた。
金型設計のMicro Caelum 3D用データ・トランスレータとしても活用
3D Tascal Xの利用範囲はどんどん広がっている。その一つが、試作の検査指示だ。
試作・型技術部では、検査工程に対しても、測定箇所を正確に示す検査指示を紙で作っていたが、これも3D Tascal Xで3次元表示化した。副座標を設定して一気に計測し、そのデータをExcelに貼りつけて、素早く間違いのない検査指示を作っている。
もう一つ、プレス金型の設計部門でも、3D Tascal Xをデータ・トランスレータとして使っている。
「プレス金型の設計にはCADCEUSとMicro Caelum 3Dを使っていますが、ここでもCADCEUSのデータ(CFIO)からMicro Caelum3D(Parasolid)への変換率が一番良いのが、3D Tascal Xでした。そのおかげで双方CADでの欠点を補う方策を行うことができ、結果として型の3次元ソリッド設計効率を高めることもできました」と坂井氏は語る。
今後、大豊精機が試作・設備・金型・部品生産の工程を一貫して行う総合メーカーとしての役割を強化していくなかで、3D Tascal Xの出番はさらに増えるに違いない。
大豊精機株式会社
所在地 | <本社>愛知県豊田市上原町折橋1-15 |
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設立 | 1973年(昭和48年)5月9日 |
資本金 | 8億7,880万円 |
売上高 | 268億円(2007年3月期実績) |
従業員数 | 404人 |
事業概要 | トヨタグループの自動車設備メーカー。主力製品は、サスペンションをはじめとする車の足回り部品を作るためのプレス用搬送機器や鍛造用搬送機器。すべり軸受製品会社大手・大豊工業の子会社だが、事業内容は親会社とはまったく異なる。 |
サイト | http://www.tsk.taihonet.co.jp/ |