3DEXPERIENCE CATIAで自ら開発へ挑戦 防波堤のテンプレートモデルで自動設計の実現を目指す
パシフィックコンサルタンツ株式会社
- 事業内容
- 総合建設コンサルタント
- 従業員数
- 2,371人(2024年10月現在)
- サイト
- https://www.pacific.co.jp/
導入事例の概要
パシフィックコンサルタンツ株式会社(以下、パシフィックコンサルタンツ)は、設立から70年余にわたり多様な社会インフラの企画、調査計画、設計、施工管理や維持管理まで幅広い領域で高度な技術サービスを提供。戦後日本の成長基盤となった多くの社会インフラを手掛け、業界をリードしてきた。
そして近年、国土交通省が主導するBIM/CIMの普及が進む中、同社でも設計部門を中心にBIM/CIMの活用と3次元設計の取り組みが本格化しつつある。その一つが港湾部で進む「3DEXPERIENCE CATIAによるテンプレートモデルの開発」と「設計自動化」への挑戦だ。ここでは、この展開を主導する田中美帆氏と、同氏の活動を支援する砂防部の菊池将人氏にお話を伺った。
導入システム
従来式のBIM/CIM対応への疑問
「私はもともと港湾部門の設計者で、入社以来ずっと港湾関係施設の設計をしてきました。ところが、5年ほど前からBIM/CIM関連の仕事が徐々に増えてきたのです」そう語るのは、パシフィックコンサルタンツ 国土基盤事業本部の港湾部で課長補佐を務める田中美帆氏である。
国交省が推進するBIM/CIM普及の流れの中で、田中氏が勤務する港湾部でもBIMの導入・活用が進んでいた。特に国交省発注案件は、設計に加えBIM/CIMのデータがセットで発注されることも増えていた。だが──と田中氏は語る。
「設計自体は従来の設計手法のままで、まず2D図面を作りそれを元にBIM/CIMを最後に作っています。しかし、3Dを作るならそれを設計検討などに活用して効率化するなど、設計業務の改善につなげたいと考えました」
建設コンサルタントの業務でBIM/CIMを効果的に使うのなら、むしろ先に3Dモデルを作り、設計検討に活用していく方がはるかに効果的だ。前記の従来の業務フローではBIM/CIMは十分な力を発揮し難いのである。
「だから3Dを使って自分たちの作業パートを効率化し、少しでも設計工程を改善したいと考えていました」
田中氏が構想したのは、港湾施設の構造物の3Dモデルをテンプレート化し、設計者が各種数値を入れるだけで、地形等諸条件に適合した構造物を自動設計できるようにする、というアイデアだった。
実現には、BIM/CIMツールで構造物の3Dモデルを作り、これを元に港湾部設計者の設計手法に合うようテンプレート化したモデルを開発しなければならない。田中氏は先行して同様の取り組みを進めていた砂防部の菊池将人氏に相談を持ちかけた。そして、この菊池氏が砂防部のテンプレートモデルの開発に使っていたのが、3DEXPERIENCE CATIA(以下CATIA)だったのである。
テンプレートモデルで自動設計を
「当社が3D設計への取り組みを始めたのは2018年のことです。このときは砂防のほか、橋梁や道路部門と共に研究に着手。ソフトもさまざまなBIM/CIM製品を検証し、最終的に選んだのがCATIAでした。そして、2019年からこのCATIAを核とした3次元設計の取り組みが始まり、私はこのときから担当となりました」
菊池氏は他分野に先駆け、CATIAのパラメトリックモデルを用いた砂防堰堤のテンプレートを作成。自動設計を現実化しつつある。田中氏がそんな菊池氏に声をかけ、支援を要請したのである。
国土基盤事業本部 港湾部(兼)先端技術センター 課長補佐 田中美帆氏
「最初港湾部の業務で使用していたBIM/CIM対応3D CADを使うつもりでしたが、テンプレート化を考えた際に、地形や構造物など作成するものによって利用する製品が異なり、複数製品を連携して使う必要がありました。でも私は地形と構造を一緒に処理できるものにしたかった。CATIAならそれが可能でした」
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この続きは・・・・・・
- 田中氏が3DEXPERIENCE CATIAという強力なツールを手に、前例のない港湾設計の自動化に挑む。
- 初心者からのスタート。困難を極めるプロジェクトの中で、どのようにして技術の壁を乗り越え目標を達成していくのか?
- 1年後の展望
田中氏は、CATIAについてさらに「私たち設計者の設計思想を組み込むことができるソフト」と呼んだ。設計作業中にCATIAは「設計者がやりたいこと」を数式なりプログラムなりでツリーに収録できる。つまり、今まで熟練技術者が頭の中でやっていたことを個々に整理して格納し誰でも使えるのである。それに気づいた田中氏はすぐCATIAへの路線変更を決めたが、だからといって砂防部のモデルをそのまま港湾へ応用するつもりはなかった。
「同じ土木設計でも、山に作る砂防と海に作る港湾では設計基準はもちろん、使用条件も何もかも違います。やり方の方針などは大いに参考にさせてもらいましたが、モデルは一から作る必要がありました」
田中氏によれば、港湾では対象となる構造物も防波堤から岸壁、護岸など多くの種別があり、例えば、比較的シンプルな構造物である防波堤でも海底地形や波の条件、材料、構造タイプなど設計条件は多岐に渡る。
「港湾設計ではいわゆる『分岐』が非常に多く、これを模す自動設計のプロセスも極めて複雑になりますが、CATIAはこれらの多くに対応できるのです」
とはいえ、当時CATIA初心者だった田中氏が、業務の傍らモデル開発するなど現実的ではない。技術支援先に大塚商会が選ばれ、2023年8月、田中氏により、港湾部初のテンプレートモデル「防波堤モデル」の開発が始まった。
防波堤モデルのプロトタイプが完成
「何も分からない状態から、しかもたった一人のスタートでしたが、とにかく開発支援する大塚商会に『防波堤モデル』の設計思想を伝える必要があります。そこでまずこのモデルで何がしたいか?『やりたいことのフローチャート』を描きました」
前述の通り田中氏の最終目標は、港湾技術者にこのモデルを使ってもらうことだから、現行の港湾施設の設計基準を満足させることが大前提となる。田中氏は設計基準のルールに準拠しながら「やるべき項目」を網羅し、フローチャート化していった。
「要は、私たちが普段行っている設計をそのまま落とし込み、『CATIAにできないこと』『ぜひCATIAにさせたいこと』を区別しながらフローチャートを整理したわけです」
そうやってまとめたフローチャートに「やりたいもの」のパラメーターをリスト化したものを用意。そこに自作した防波堤3Dモデルのサンプルを添えて、田中氏は大塚商会との打ち合わせに臨んだ。専門用語の通訳として菊池氏も出席し、田中氏をサポートした。
国土基盤事業本部 砂防部 総合防災室(兼)先端技術センター 技術主任 菊池将人氏
「フローチャートがとても効果的でした。私もあれを一種の共通言語として、不慣れな防波堤の設計の打ち合わせに参加できました」
もちろんこうした打ち合わせはその後も幾度となく繰り返され、試行錯誤を重ねながら、防波堤のテンプレートモデルは徐々に形になっていった。
「とにかく大塚商会が私の意図を非常によく理解してくれた実感があります。むしろ並行して進めた私のCATIA操作習得の方が遅れ気味で、当初社内の検証環境が不十分だったりしましたが、着手して1年余経ったいま、なんとか防波堤モデルのプロトタイプは完成しています」
こうして田中氏が当初計画した項目はほぼ全てモデル内に加えられ、モデルの組み方についても大塚商会からの多様な提案もあって洗練されたものになっていった。
「基本的なところは全て想定通りで、プロトタイプの基本形は出来上がった実感があります」と田中氏は語る。
会議にもCATIAを用いる
現在は、このプロトタイプモデルを用いて限定的なケースで再現計算などを行い、チェックを重ねている。実案件では施設ごとに水深や水位などの条件が違うので、標準的な形の防波堤ならどのような条件にも対応できるテンプレートモデルに仕上げることが次の目標なのだと言う。
「これからプロトタイプを現場に試用してもらい、意見を聞いていきます」
業務での実装に向けて必要となる細かな分岐に関する意見をもらいながら、開発に反映させて行く計画だ。
「複雑な部分の調整はまだ時間がかかりますが、1年後には実装したい。大塚商会にはテンプレートモデルの構築を含め、パートナーとして継続して支援してもらいたいと考えています」