少数精鋭の建築事務所がBIMを活用し、スピーディーな図面設計を実現。顧客との詳細なイメージ共有も可能に

株式会社KADO 一級建築士事務所

業種
建設業
事業内容
都市、建築、インテリア、ランドスケープに関する調査、研究、企画、設計、監理およびブランディングなど
従業員数
3名(2022年12月現在)
サイト
https://www.pinkado.jp/

導入事例の概要

株式会社KADO 一級建築士事務所は、設計業務の効率と顧客への提案の質を高めるため、BIMツールとビジュアライゼーションツールを併せて導入。3年にわたるBIM活用の取り組みは、設計作業や図面の検証時間の短縮を実現し、よりスピーディーかつリアルな提案品質によって成約件数の増加へとつながっている。

導入の狙い

  • 2次元設計による手間を削減し、提案資料の作成時間を短縮したい。
  • 提案力を向上させて、より多くの案件を獲得したい。
  • よりリアルなビジュアライゼーションの技術を習得し、同業他社との差別化を図りたい。

導入したメリット

  • 3~4時間かかっていた設計図の検証スピード1時間に。
  • 新規案件の提案回数が月3~4回に増加。

導入システム

ピン角を重視した住宅を設計し、新たな資産価値の創造を目指す

2012年に創立した株式会社KADO 一級建築士事務所(以下、KADO)は、現在東京都世田谷区で一戸建て住宅を中心とした設計を行っている。スタッフは3名所属しており、1棟の営業から完成までを同じ担当者が専任するスタイルで日々業務に取り組んでいる。

同社が設計するデザインの特長は、柱や梁(はり)などをシャープな角に仕上げることを表す建築用語「ピン角(ぴんかど)」を重視していることだ。

代表取締役 一級建築士/インテリアプランナー 笠松豊氏

「人は年齢を重ねると丸くなりますが、作るものはいつまでも尖ったまま、美しくしたいという思いで30年以上『角はピン角』の理念を徹底させてきました。ピン角のシンプルなフォルムで、人生を通して長く付き合える美しさ、機能性、余白のバランスがとれた家作りを追求しています」

近年では、一戸建て住宅以外にも商業施設の設計やホームステージングサービスに力を入れている。ホームステージングとは、売却予定の中古物件を修繕してクリーニングするだけでなく、そこに家具やインテリアコーディネートを加えて買い手候補に対する魅力を高める演出手法だ。このような日本でまだ浸透していないサービスにも積極的に取り組んでいるKADOだが、さまざまな案件で顧客に提案をする中で、時代による新たな課題を感じ始めていたという。

「現在はWebやSNSでたくさんの情報を得られるため、お客様の住まいに対する要望のレベルが以前よりも高くなってきました。そのような期待に全て応えていくのは容易ではありませんが、逆にこの状況は同業他社との差別化を図るチャンスとも捉えられます。そこで弊社は、現在の設計方法や提案準備の手法を見直すことにしました」(笠松氏)

時間がかかる提案準備を改善し、売り上げ・提案力の向上に着手

顧客から相談を受けると、予算や要望をヒアリングし、現地調査などを行った後、建築デザインなどの提案準備に取りかかる。以前は顧客と完成イメージを共有するため、手書きのパースや模型作りにかなりの時間を要していた。

「一つの住宅の提案準備に、おおよそ2~3週間かかっていました。そのため、1年間で行える提案の数は、20~40件程度に限られてしまいます。もちろん、全ての提案が成約につながるわけではありません。経営者の立場で考えると、売り上げを増やすためには、準備にかける時間を可能な限り短縮する必要がありました」(笠松氏)

KADOはこれまでCADソフトを使って2次元設計をしていたが、提案用の3Dモデルを作成できるスタッフが1人のみだったため、そのスタッフに業務が集中してしまう事態を避けられなかったという。3Dモデルを作成するスタッフの業務負担を分散し、効率よく業務を行うには、専門的なスキルがなくても3Dモデルを作成できるソフトウェアの導入が急務だった。

デザイナー 大橋晃一氏

「スタッフ全員が同じソフトウェアで作業できれば、提案準備にかかる時間を短縮できるだけでなく、図面の整合性を確かめる作業速度も向上できると考えました。また、施工現場の関係者ともデータを共有できれば、施工段階においてもさまざまな効果が期待できます。建築業界でBIMツールの活用が主流になってきていることにも後押しされ、弊社でもBIMツールの導入に踏み切りました」

そこで同社は、以前からPCやコピー機などの導入で長年取引していた大塚商会に相談し、3種類のBIMツールを比較。最終的には、Archicadの導入を決定した。その際、ビジュアライゼーションツールTwinmotionも併せて導入し、Archicadで作成した3Dモデルに高精度なビジュアルを付加することで、質の高い提案力を実現した。

コストや設計の速さに注目し、導入ツールを決定

今回、導入するBIMツールとしてArchicad選定の決め手となったのは、他社製品に比べて導入・運用コストが最もリーズナブルだった点と、図面修正のスピードだった。

「図面の修正が入った場合、本来なら平面図や断面図などにそれぞれ修正を書き加えなければいけません。その点、常にレンダリングが行われるArchicadは、平面図に修正を加えるとほかの図面にも自動かつリアルタイムに修正が反映されるため、作業時間の大幅な短縮につながります」(大橋氏)

その一方で、大橋氏はTwinmotionの利便性も高く評価している。例えば、建築デザインの提案中に顧客の要望をヒアリングし、その場で壁や床のマテリアルを瞬時に変更することもTwinmotionなら可能だ。柔軟な操作性は顧客とのより確かなイメージ共有や、打ち合わせ時間の短縮にもつなげることができる。

Archicadの操作画面。平面図に変更を加えると、3Dモデルにもリアルタイムに反映され、実際のイメージに近い3Dのビジュアルで変更箇所を確認できる

Twinmotionは選択できるマテリアルの種類が豊富で、質感も瞬時に変更可能

大塚商会のサポートを活用しつつ操作を習得

ArchicadとTwinmotionの導入後、KADOのスタッフ全員が大塚商会のセミナーを受講し、また外部コミュニティーの勉強会にも参加。基本的な操作方法を学んだ後は、各自で動画サイトなどを見ながら応用を身につけていった。

「まずは私がArchicadとTwinmotionの操作方法を学び、少しずつスタッフに実践的な操作方法をレクチャーしていきました。同じArchicadを使う建築家の方の話を参考にしつつ、社内でディスカッションを重ね、KADO独自の仕様を盛り込んだ標準のテンプレートを作成しました。線の太さなどを事前に定義することで、スタッフの誰が作成しても会社として統一感ある図面を出すことが目的です」(大橋氏)

操作方法の習得には、大塚商会の「たよれーる CADテレホンサポートサービス」も有効活用している。

「導入当初は、操作方法が分からずに戸惑うこともありました。しかし、大塚商会のサポートセンターに電話で質問をすると、こちらの画面をリモートで操作しながら丁寧に教えてくれるので、とても助かりました。おかげさまで、3カ月ほどで一連の操作を行えるようになりました」(大橋氏)

設計や検証スピードが向上。提案力で他社との差別化を図る

同社は、2019年から新たなツールで3次元設計を開始。現在はほぼ全ての図面設計をArchicadで完結させている。大橋氏は、今回の導入によって設計業務にかかる時間を大幅に短縮できたと実感している。

「設計の段階で図面の整合性を確認できるため、設計図の検証スピードと精度が向上しました。例えば、建物の出入り口や階段などで頭がぶつからないかを検証する際、以前は3~4時間かかっていましたが、現在は断面図の高さを変更すれば、全ての図面に対して即座に反映されて3Dモデル上でも確認できるため、検証作業は1時間程度で完了しています。また、アプリケーション『BIMx』をダウンロードすればArchicadで作成したBIMデータをスマートフォンやタブレット端末でも操作できます。施工現場における図面確認に役立てられるので、大変便利です。Archicadを使えば、自由なアングルで部屋の構造を確認できるため、高さを変えた断面図も書き出し可能で、関係者とより具体的な完成イメージを共有できるようになりました」(大橋氏)

今回の導入活用によって、同社の設計速度は大幅に向上し、これまで2~3週間ほど作成日数が必要だった提案資料は、わずか1週間で提出できるようになったという。

「以前は月に1~2回だった新規の提案は、今では3~4回実施できるようになりました。その分、成約件数の増加を見込めるため、業績アップに確実に貢献しています」(大橋氏)

Archicadのデータをスマートフォンで開き、気になる位置で断面図を表示できる

日照シミュレーションも瞬時に可能

Twinmotionを活用することで、提案の質も大いに飛躍したと大橋氏は語る。

「季節ごとの時間軸に応じた日光の入り方を比較するための動画を、わずか1~2分で作成できるようになりました。最終提案で必ず作成しているリアルな動画は、お客様の決断材料の一つになっていると思います」(大橋氏)

日照度などの条件を入力し、日光の入り具合を検証。臨場感あふれる動画を瞬時に作成

施工後の図面保管でも導入効果を実感

今回の導入によって、設計図の保管・管理面も改善された。以前は一つの案件で50枚ほどの設計書類が発生し、全て紙で保管していたため、管理が煩雑になりがちで保管場所も手狭になっていた。その点、Archicadは全ての設計図を一つのデータとしてアーカイブできるため、物理的な保存場所の確保が必要なくなり、検索性も向上したという。今後は、ホームステージング分野においてもBIMの活用を検討している。

「家具の配置や壁紙の変更、また季節による日照シミュレーションなどが瞬時に可能になったことで、既存の物件をベースに生活スタイルを創造するホームステージング事業の提案シーンにおいても、BIMを活用したビジュアライゼーションは大いに役立つと思います。今後も同業他社との差別化を図りつつ、より良い設計方法を模索していきたいです」と、笠松氏は話を締めくくった。