BIMで設計向上を目指したその先に見えたものは、いかに作業を単純化し「誰でもできる化」するかです

スパイラルデザイン株式会社

業種
建築設計デザイン
事業内容
商業施設の企画・設計
従業員数
7名(2019年12月現在)
サイト
http://www.spiraldesign.jp/

導入事例の概要

スパイラルデザイン株式会社は、商業施設の企画・設計に軸足を置く建築設計・デザイン事務所だ。2008年の創業当初から業界に先駆けてBIMに取り組んできた同社は、3Dモデルをウォークスルーすることによる効果的なプレゼンテーションに活用し、国内外の設計コンペティションで大きな成果を上げてきた。

建築設計業界が人材難に直面する今、同社のBIMへの取り組みは異業種からの転職者を即戦力として受け入れることやそれに伴う効果的な教育ツールとしても大きな役割を果たしている。

導入の狙い

  • 発注元のトップを魅了する説得力のあるプレゼンテーションを実現したい。
  • 2Dベースで感じるワークフローのストレスを改善したい。

解決策

  • BIMツール「ARCHICAD」導入によるワークフローの改善と「BIMx」によるインタラクティブなプレゼンテーションの活用。

導入製品

  • BIMソリューションツール「ARCHICAD」
  • BIMプレゼンテーションアプリケーション「BIMx」
  • たよれーる どこでもコネクトサービス

導入したメリット

  • 効果的かつ訴求力の高いプレゼンテーションが実現。
  • 異業種からの人材登用と教育への貢献。
  • 3D設計の効率向上。
  • チームワーク機能を利用したBIMワークフローの実現。

収益の最大化という観点で、商業施設を企画・設計

スパイラルデザイン株式会社は、商業施設の企画・設計を中心にした建築設計・デザイン事務所。商業施設における総合コンサルティングサービスの提供など、業界内で独自の地位を確立するうえで大きな役割を果たしたのが、2008年の創業から続くBIMへの挑戦だった。中国国営企業が手掛けた上海市内の大型商業施設案件がその一例だ。「ARCHICAD」とインタラクティブな3Dプレゼンテーションを可能にするBIMコミュニケーションツール「BIMx」を組み合わせた提案は発注元トップに高く評価され、6社競合の国際コンペティションを勝ち抜くことにもつながった。

「大型商業施設の設計は、賃貸しやすい区画割りを考えながら行うという難しさがあります。BIMxによる3Dモデルのウォークスルーは、導線確保の工夫など私たちが知恵を絞ったアイデアを視覚的に表現するうえで大きな意味がありました。建築や不動産の専門家以外の方でもプランのポイントを理解し、決裁できるようになったことこそが、BIMのメリットと言えるのではないでしょうか」と代表取締役 クリエーティブディレクターの高橋武志氏は振り返る。

創業以来、同社が培ってきた商業施設に関するノウハウは、総合コンサルティングサービスの提供にもつながった。都市部の更地が市場に出ると、デベロッパーは設計事務所にボリュームスタディを依頼したうえで、物件の商業的価値を試算することが一般的だが、同社は「いかに利益を生むか」という観点からテナント業種まで想定したプランを短期間でまとめ、多くのデベロッパーから高い評価を得ている。

代表取締役 クリエーティブディレクター 高橋武志氏

「複雑な業務を極限まで単純化し、クリエーティブな時間を生み出す新しいワークスタイルを確立することが重要と考えてます」

3D提案をより効率良く行うためBIMに全面移行

創業当時から3Dの活用に注目してきた同社だが、当時の3Dプレゼンテーションは、CGソフトを使用して2次元CADのデータを3D化するのが一般的だった。だがこのやり方では、3D化した後に修正を行う際、元の2次元のCADデータから全てに修正が必要となり、膨大な手間がかかってしまう。

「当初はCGソフトウェアでレンダリングするなどして、プレゼンテーションデータに仕上げていましたが、最も大きな不満が、2D、3Dのデータが連携していないという非効率でした。既に設計業務の効率向上が大きな課題であっただけに、これを解決しなければ先には進めないと感じていました」(高橋氏)そこで、以前から取引があった大塚商会に相談し提案されたのがBIMツールARCHICADだった。

「理想としたのは3Dをベースに顧客との対話を重ね、完成させた3Dデータを2D設計図書に一気に展開できる仕組みでした。誰でも簡単に操作できるという点でARCHICADは我々が求めるものに最も近いツールであると感じました」(高橋氏)

ARCHICADを導入したのは、同社設立とほぼ同時期のこと。3、4年間の2次元CADとの併用期間を経て、同社はBIMに完全移行している。

  • 企画からデザイン、建築設計まで全てを手掛けた「塩小路」のBIMモデル。こちらもARCHICADで作成されている

徹底した作業の標準化で生産性を大幅に向上

同社のBIM運用でまず注目したいのは、作業の標準化に向けたルール作りの徹底だ。CADのデータは作成者の癖や得意分野が反映されがちなものだが、データを共有し、共同作業を進めるうえでそれが障害になることも少なくない。

「企画、基本計画から始まり基本設計、実施設計へとARCHICADで展開していくうえで最も大きなハードルになったのは、詳細図の作成でした。ディテールを熟知するベテランにはBIM3Dモデルの理解が求められ、一方でBIMになじんだ若手は2Dの設計図書について学ぶ必要があることが理由です。人材にも資本にも余裕のない中堅・中小企業がこの課題を乗り越えるには、案件を通してスタッフ全員が成長していくほかありませんが、大きな弊害になったのが作業の属人化でした」(高橋氏)

会話しながら複数人で同じ物件を編集し合えるように、オフィスレイアウトにも気を使っている

解決のため同社が取ったのは、物件担当者を固定せず誰でも対応可能なデータを作成することだった。仕事をシェアし、言葉を交わして作業を進めることでデータ作成手順も自然と標準化されると考えた。小規模事務所だからこそ可能なやり方とも言えるが、共有を前提にした3Dモデルの運用は同社の強みにもつながっている。その一例がスケジューリングの大幅な効率向上だ。

「当社の規模を取引先にお伝えすると驚かれることが多いのですが、実は少人数でもしっかりと作り込まれた提案を短期間にまとめ上げられる理由の一つに、一つのモデルデータを複数人で同時に確認、編集できるチームワーク機能の活用があります。並行して進行する数十案件の進捗状況を見ながら柔軟にマンパワーを配置できるようになるからです」とチーフデザイナーの大濱直子氏は語る。

チーフデザイナー 大濱直子氏

「組織の枠を超え、BIMデータを共有、活用していくことが今後の課題であることは間違いありません。これからはそのための枠組みを業界として検討していく必要があると考えています」

異業種からの採用にもBIMが大きな役割を果たす

柔軟なリクルーティングもBIMの効果の一つだ。建築を専攻する学生が減少する中、特に小規模事務所では新卒者の採用は困難になりつつある。こうした中、同社はIT業界をはじめ異業種出身者を積極的に採用し成果を上げている。驚くことに転職者も入社初日から実案件の3Dモデル制作に関わるという。

「建築設計の仕事に携わってきた人の中には、2Dをベースにした発想から抜け出せないという人もいます。しかし、一般の人にとってはそんなことはありません。むしろ積み木のようにオブジェクトを積み上げてモデリングする3Dの方がなじみやすいように思います。転職者にはまずオリジナルの教育動画を見ながら3Dモデルの操作に慣れてもらうのですが、意外にスムーズに操作を習得していますね」(高橋氏)

また、BIMの運用はゼネコンや組織系設計事務所でもいまだに一部の案件にとどまっているのが実情であるという。だが、実際の現場でBIMの運用に触れたい建築系大学生は同社でアルバイトすることで実地でBIMに触れ学ぶことができる。同社にとっても彼らは貴重な戦力となっているという。

建築物の構造を視覚的に把握できるBIMを教育にも活用

従業員教育でもBIMは大きな役割を果たしている。「例えば、建築物が柱と梁(はり)、スラブで成り立っているというようなことがBIMであれば視覚的に理解できます。それは教える側にとっても楽なことです。また2Dの設計図書の課題でもある干渉におのずと気付かされる点も重要なポイントだと思います。実際『オブジェクト間のこのすき間が気になるのですが、どうすればいいでしょう?』と質問されることも少なくありません」(大濱氏)

求めたのは操作が容易なBIMソフト

建築設計の分野でも人手不足が叫ばれるようになって既に久しい。こうした中、少人数のチームで顧客に付加価値を提供しながら業務の多様化を実現した背景に、BIMツールとしてのARCHICADの存在があったことは間違いない。

「ARCHICADのメリットとして実感しているのは、シンプルな操作でのモデリングや高速なレンダリングが可能な点ですね。私たちの場合、大塚商会さんからたまたまARCHICADを紹介され使ってみたわけですが、その存在があったからこそ今につながっているという思いはあります」(高橋氏)

同社が次の課題として取り組むのが、従業員の多様な働き方の実現だ。現在はセキュアなリモートアクセスをリーズナブルに実現するどこでもコネクトを使ったテレワーク環境の構築に取り組んでいる。「社内外での情報共有に向けた仕組み作りは、創業当初からの目標の一つでした。私が産休に入ることもあり、まずは従業員のテレワーク環境について私自身が検証してみようと考えたことがどこでもコネクトの導入理由です」(大濱氏)

BIMxならARCHICADで作成したBIMモデルを表現力の優れた3Dモデルビューや図面として、アニメーション化し、タブレット上で効果的なプレゼンテーションが可能だ

そしてさらなる先に見据えるのが、パートナー企業も包括したBIMデータ共有の仕組み作り。その大前提となるBIMの普及に向け、同社は大塚商会の果たす役割に大きな期待を寄せている。