株式会社風景デザイン研究所
- 業種
- 建設コンサルタント
- 事業内容
- 3次元VR・CG動画や360度パノラマ画像の作成および活用技術コンサルティング、景観検討、調査業務、プロモーションツール作成など
- 従業員
- 7名(2011年9月現在、役員含む)
- サイト
- http://www.sldi.co.jp/
導入事例の概要
道路建設などの公的なプロジェクトでは、施工後のリアルなイメージの提示で住民の理解を促進することが期間とコストの縮減に効く。またリアリティの高い動画は、住民の防災意識を高めるための教材としても有用だ。そのような考えに基づき、グラフィックス作成と技術活用コンサルティングを事業の二本柱に据えているのが、株式会社風景デザイン研究所だ。3次元コンピュータグラフィックス(CG)とバーチャルリアリティ(VR)を駆使したビジュアルの効果は極めて高く、10年以上頓挫していた住民説明会を一気に合意へと導いたケースもあるという。
導入の狙い
- コミュニケーションツールとしての3次元ビジュアルの作成
- 自由な視点からの時間軸に沿った表示
- 製作コスト圧縮によるVR・CGの普及。
導入システム
- 土木設計用ビルディングインフォメーションモデリング『AutoCAD Civil 3D』
- 3次元モデリング・アニメーション・レンダリング・合成ツール『Autodesk 3ds Max』
- 3次元リアルタイムバーチャルリアリティ『UC-win/Road』
- ノンリニアビデオ編集『Final Cut Pro』
導入効果
- 道路建設事業における市民との円滑な合意形成
- 大規模プロジェクトの期間とコストの圧縮
- 専門知識のない一般市民にも理解しやすい防災資料の作成
道路建設や土木事業向けのグラフィックス作成とコンサルティング
道路建設や防災などの公共土木事業では、構造物の設計のためだけでなく、完成時のイメージを地域住民に分かりやすく示すためのコミュニケーションツールとしてITが活用され始めている。住民の同意が着工の必須条件になるケースが多いので、より理解しやすいビジュアルを提示できれば、それだけ事業の期間とコストを抑えることができるからだ。
東京都中央区に本社を構える株式会社風景デザイン研究所(以下、風景デザイン研究所)は、そうしたグラフィックス作成とコンサルティングに特化したユニークな会社である。設立は、2004年1月。代表取締役社長の上田 有利氏は、大手建設コンサルタント会社で計画策定・調査・施工管理に長年携わってきた建設コンサルタント。取締役 制作分野担当長で上田社長の実弟の上田 考充氏は、広告代理店で映像ディレクターを務めていた人物だ。役員を除くスタッフは、5名。スタッフ全員が複数のITツールを使いこなす少数精鋭のプロ集団だ。
主な顧客は、大手ゼネコン、建設コンサルタント会社、省庁、自治体、独立行政法人、公益法人、各道路会社(旧道路公団)など。「創業当初は、道路建設や再開発に伴う景観や環境の変化を示したり、施工の進め方をビジュアル化したりする案件がほとんどでした」と上田社長は振り返る。現在の風景デザイン研究所は、土木や建設とは全く違った業種・業務向けビデオ映像の制作も守備範囲としている。「企業プロモーションや製品PR、観光客の誘致、防災教育、人材募集などのビデオ映像制作もたくさん手がけています」と上田取締役は説明する。工学的な裏付けに基づくリアリティの高い動画に広告的な要素を折り込んだコンテンツを低コストで提供できることが、同社ならではの強みだとアピールする。
代表取締役社長 上田 有利氏
「大塚商会さんとは、創業以来のお付き合いです。あらゆるジャンルの製品を取り扱っていて、提案をお願いするとメーカーを問わず、松竹梅のいろいろなプランを出していただけるので、とても助かっています。今後はユーザの意見を集約してソフトウェアメーカーに提案する役割も期待したいですね」
取締役 制作分野担当長 上田 考充氏
「動画やビデオ映像の制作に使っているMacも、大塚商会さんから導入しています。高性能グラフィックスボードをキッティングした状態で納品していただけたので、到着後すぐに使えて手間がかかりませんでした」
一般市民への説明には視覚と聴覚に訴える資料が有効
上田社長が3次元コンピュータグラフィックス(CG)を利用したバーチャルリアリティ(VR)に興味を持つようになったのは、かつての海外勤務で知った"ビジュアルの力"だった。
「1995年から1996年にかけてアメリカの建設コンサルタント会社に出向していたのですが、多民族国家であるアメリカでは、一つの価値観をベースに話を進めていくことができません。そのコンサルタント会社も、エンジニアリング一辺倒ではなく、分かりやすく説明しながら顧客や住民に理解してもらうところまでをビジネスの範囲に含めていました」と、上田社長。3次元イメージなどを駆使して建設プロジェクトを進めているアメリカと比べ、日本は今でも10年から15年は遅れていると見ている。
例えば、多くの自治体が防災計画の一環として作成しているハザードマップ(災害危険予測図)も、地域住民に災害の脅威を実感してもらうには不十分だと上田社長は言う。まず、縮尺が大きすぎるためリアリティに欠けること。例えば、洪水などの被害も平面地図の水位で色分けしたエリアに自宅が入っているかどうかを探してもらうより、堤防が決壊した時に見慣れた町がどうなるのかを具体的に見せたほうが防災意識を高めるのに役立つというのが上田社長の考えだ。また、いわば"静止画"であるハザードマップでは、時間軸に沿って状況を表示することもできない。実際、ハザードマップに示された経路で避難所に向かった家族が、途中で増水した川に流されたという事故もあった。「もし、その経路は防災無線が鳴ってから何分後には危険区域になるということが住民に知らされていれば、そのような痛ましい事故は起きなかったでしょう」と上田社長はコメントする。
そのような課題をクリアするには、視覚と聴覚の働きをフルに活用するべきと風景デザイン研究所は考えている。「人間は、生きていくうえで必要な情報を、五感を通じて手に入れています。そのうち、視覚からのものが85%を占め、その次が聴覚からの10%、残りが嗅覚・味覚・触覚と言われています。この視覚と聴覚をしっかりと押さえ、しかも数値的な裏付けがきちんとしていれば、人は受け入れやすくなります」と上田社長はその根拠を説明する。動画(視覚)と音声(聴覚)に時間軸が加わったVRやビデオ映像なら、専門家ではない一般の人にも理解しやすいツールになるということだ。
同社のサイトでは、時間を追うごとに住宅街の浸水する様子が一目で分かる「内水氾濫シミュレーション」を見ることができる
自治体や町内会でも使えるよう低コストのCG・VR作成を目指す
そうした視覚と聴覚に訴えるVRやビデオ映像をいかに安価に作るかという課題も大きいという。VRも3次元CGのビデオ映像もかなり以前から実用化されている技術であり、テレビ番組などでもしばしば利用されている。ただ、テレビ放送で使われるような高いクオリティのものは高性能ワークステーションやスーパーコンピュータで作成するため、コストや時間を抑えるのは難しい。
上田社長は、「建設コンサルタントとしては、自治体や町内会単位でも手が届く安価なものを提供できなければなりません。多少クオリティは落ちても、より多くの方々に3次元CGやVRシミュレーションの分かりやすさを経験する機会を持ってほしいのです」と話す。
ディスプレイモニタを使ったドライビング・シミュレーション。道路の構造に起因する事故原因の究明や、ヒヤリハット体験による運転者への啓発に役立つ。
風景デザイン研究所が選んだのは、PCでも使用できる高品質の3次元VR・CG動画作成ツールだった。「創業の際に、『AutoCAD』と『UC-win/Road』を大塚商会経由で導入しました」と、上田社長。その後、『AutoCADCivil 3D』、『Autodesk 3ds Max』、『Final Cut Pro』といったソフトウェアを追加していった。いずれも土木・建設業界ではシェアの高い製品なので、顧客とのデータ互換も容易になるという意図もあった。
土木設計・施工のための3次元CADソフトウェアとして知られる『AutoCAD Civil 3D』は、高い精度を要求されるビジュアル用の3次元モデルを定義するために利用されている『UC-win/Road』は、主にVR空間内をリアルタイム操作で自由に移動してみせるシミュレーションに利用している。また、3次元的にかなり複雑な構造を作った場合、施工や設計の検証をするためのエンジニアリングシミュレーションとしての利用や、ハンドル・ギア・アクセルペダル型のコントローラと大画面モニタを組み合わせるドライビング・シミュレーションとしての活用もある。『UC-win/Road』には『AutoCAD Civil 3D』とのインターフェースがあるので、データ連携も容易だ。『Autodesk 3ds Max』はプレゼンテーション資料などにおける最終仕上げの段階で、光効果や質感など画像や映像の表現を高めるためのツールとして、『Final Cut Pro』は3次元VR・CG動画を直接に加工するためのツールとして、それぞれ活用されている。風景デザイン研究所に導入されているソフトウェアは、このほかにも30本から40本はある。
同社が心がけているのが、コストを意識した適材適所のツールの使い分け。「弊社は最初から3次元CGありきで仕事を受けているわけではありません。お仕事の相談を受けて我々がまず考えるのは、どのような解決方法が適切かをよく検討すること。2次元や静止画で十分の場合は低コストで短期に納入できる図面やパース、フォトモンタージュにしますし、3次元CGよりも実写やインタビューのほうが伝達効果が高いと判断したら、現地でカメラを回したものを編集してビデオ映像に仕上げることもあります」と上田社長は話す。
長年滞っていたバイパス建設の住民説明会で目覚ましい効果
創業から7年。風景デザイン研究所が作成したビジュアルは、日本各地の道路建設プロジェクトや防災教育で効果を上げている。
その中でも特に印象深い案件として上田社長が挙げるのが、中国地方のある県で実施されたバイパス道路建設のプロジェクトだ。「建設計画を何度変更してもある一部地区の住民を説得することができず、10年以上も計画が頓挫しているといった状況で、弊社がそのプロジェクトに参加しました。そこで、我々は視点を自由に変えられるPCのVRシステムを説明会会場に持ち込み、完成後の景観を住民の方々の目で確かめていただくことにしました。その中に『道路ができると、家の縁側から丘の向こうにあるおじいちゃんのお墓が見えなくなってしまう』と建設を反対されていたおばあちゃんがいたのですが、その場で試してみると、盛り土の上に街路樹を植えても今までどおりに丘が見えることが判明しました。安心して賛成に回っていただくことができました」と上田社長は明るく話す。
普通の建設会社でも設計データから道路の3次元モデルを作ることはある。しかし、風景デザイン研究所では道路だけでなく、その周辺の要素、例えば住宅やスーパー・ビル、山や田畑などを全てのモデルを作り込むので、地域住民が完成後を非常にイメージしやすい。さらに完成した道路を運転してみたら、どんな風景が見えるのかを疑似体験することもでき、交通安全対策の策定にも効果がある。
このような成果を励みに、風景デザイン研究所はビジネス領域の拡大を計画している。特に防災、ランドスケープ(景観)、エンジニアリングと広告の融合、安全対策用の簡易型ドライブシミュレーションの分野に今後力を入れていくという。
さらに、言語を超えるビジュアライズの力を活かして、発展途上国を含む海外の製作チームと協力関係を築き、グローバル態勢によって、大型案件を並行してこなせるような規模への成長も目指している。そうした成長を下支えするIT基盤についても、風景デザイン研究所は積極的な投資を続けている。「最近では、事業継続性を高めるためサーバとバックアップシステムを導入しました。PC端末は2年程度で買い替えています。しかし、作成したVRがお客様の環境でもある程度のスピードで動作するよう、あえてハードウェアもソフトウェアも最新・最高性能の機器は選んでいません」と独特のこだわりを語る上田社長。
3次元CG・VR製作ツールを駆使してビジュアル化の神髄を究めていく風景デザイン研究所。道路建設や防災に限らず、ITの力でコミュニケーションが深められる分野であれば、積極的に取り組んでいこうと考えている。