自動車部品の製造会社が帳票を電子化。帳票管理の手間を削減して、工場間のスムーズな情報共有も実現
伊藤精工株式会社
- 業種
- 精密加工業
- 事業内容
- エンジン駆動系部品、ワイパー部品、カーエアコン部品、ラジエーター部品、各種センサー部品など自動車部品の製造・販売
- 従業員数
- 390名(2022年12月現在)
- サイト
- https://www.itohseiko.jp/
導入事例の概要
愛知県の自動車部品金属加工メーカーである伊藤精工株式会社は、膨大な量の紙の帳票管理に伴う課題を解消するため、工場内に「ConMas i-Reporter」を導入。帳票の情報を集計・管理する手間を省き、タブレットの活用で申請承認作業の迅速化を実現するなど、顕著な導入効果が表れている。
導入の狙い
- 工場で利用する帳票を電子化したい。
- 帳票のデータを集計・管理する時間を削減したい。
- チェックシートの申請承認作業を簡素化したい。
- 全工場間で情報を共有したい。
導入したメリット
- 帳票を集計・管理する手間を月37.5時間も削減。
- 申請承認作業のスピードアップ。場所にとらわれない申請・管理が可能に。
導入システム
冷間鍛造と切削加工の技術力で、自動車部品を一貫して製造
伊藤精工株式会社は、1934年に自転車部品を製造する東洋ベル製作所として創業し、その後、トヨタ自動車の協力工場として自動車部品の製造を開始。1970年にはデンソーの関係会社となり、自動車部品金属加工メーカーとして発展を遂げてきた。
同社の特長は、常温の金属を変形させながら加工を行う「冷間鍛造」と、プログラミングされた順序に従って自動的に加工を行うNC旋盤を使った「切削加工」という二つの高度な技術を兼ね備えていることだ。技術を組み合わせることで、エンジンやワイパー、カーエアコン、ラジエーター、各種センサーなどの部品を自社工場で一括供給でき、生産可能な製品は約2,000種類に上る。現在、愛知県に本社・共和工場、北崎工場、刈谷工場の三拠点を持ち、九州とタイにもグループ会社を有して業容を拡大している。
「通常、冷間鍛造と切削加工は別の会社でそれぞれ対応していることが多く、一社でサービスを提供できる会社は多くありません。お客様のご要望にワンストップで対応できる体制が整っていることが一番の強みです」と語るのは製造企画部 北崎製造企画 IoT・AI推進室 課長の森聡善氏だ。
コロナ禍を経て、社員の意識の変化も感じると森氏は言う。
製造企画部 北崎製造企画 IoT・AI推進室 課長 森聡善氏
「不測の事態に備えて業務効率を向上させたいという社員の意識が高まったように思います。電子帳票導入も、その一環で検討を開始しました」(森氏)
時間のかかる帳票の集計や申請承認の改善に注目
工場では日々の業務の中で、膨大な量の帳票が使われている。1,500~2,000品番を数える製品は、製品ごとに仕様も異なるため、品質管理用のチェックシートは数百種類近くもある。さらに、生産実績の記録や、設備点検の際などにも帳票が使われているという。
同社はそれら全ての帳票をあらかじめ紙に出力し、専用のラックに準備して使ってきた。製品製造を担うオペレーターはラックから必要な帳票を取り出して記入し、ファイリングして保管・管理する流れだ。しかし、事業規模の拡大に伴い、業務効率を妨げる課題も感じていたと森氏は言う。
「工場では製造過程で油を使うので、どうしても油や水が手に付いてしまいます。紙に手書きをする際、その油や水が帳票にも付いてしまい、文字がにじんで見えにくくなることが多々ありした。また、チェックシートの情報はExcelに入力して集計するので、二重入力の手間がなくならず、さらにそもそも帳票の数が多いのでファイリングにも相当時間がかかっていましたので、それ自体が仕事の一部のようになっていました」
承認プロセスにおいても、課題を感じていたという。機械の整備修理を依頼する帳票「整備修理依頼書」は、社内申請した後の承認プロセスが非常に長く、本来の生産業務とは関係のないところで時間のロスとなっていた。例えば、工場の設備に不具合が生じると、まず製造現場にいる生産課のオペレーターが紙の「整備修理依頼書」に必要情報を記入。それを持って所属チームの班長に提出し、押印されたものを今度は所属する生産課の課長へ提出し、印をもらう。その後、設備の修理を担う保全課へ持参し、ようやく依頼が完了となる。修理完了後は、修理に関する情報が記載された「整備修理依頼書」が申請と反対のフローで保全課から生産課へと手渡しリレーで伝えられる。
「機械のランプがつかないといった小さな故障も含めると、北崎工場だけで毎月150枚ほどの『整備修理依頼書』が飛び交っていました。工場はとても広いので、押印をもらうために生産課のオペレーターが工場内を走り回って上長を探す姿が日常的でした」(森氏)
三つの工場で自社設備の修理情報を共有したい
もう一つの課題は、各工場で保管されている「整備修理依頼書」の情報をほかの工場に共有できないことだった。例えば、以前北崎工場で発生し、解決した機械のトラブルがほかの工場で発生しても、北崎工場の情報は共有されていないため、一から原因を調べて対処していたのだ。全工場で情報共有ができれば、その時間を著しく短縮できる。
こうした課題を解消するため、森氏は帳票の電子化に着手。タブレットを使った入力作業や申請承認作業を効率よく行える環境を整備することになった。
Excelベースで作成できる電子帳票システムを選定
同社はかつて、一部の業務で電子帳票システムを導入していたが、専門的なプログラミングの知識が必要だったため、工場の生産現場で展開することは困難だった。そこで、専門的な知識がなくても手軽に帳票を電子化できるものを探すことにして、複数のシステムを比較・検討。最終的に、大塚商会から提案を受けたConMas i-Reporterに決めたという。
「大塚商会さんとは生産技術部で取引実績があったことがきっかけで、電子帳票システムについても相談しました。提案いただいたConMas i-Reporterは、これまでの帳票のレイアウトを変えずに電子化でき、それまで使い慣れていたExcelベースで電子帳票を作成できるところが、まさに求めていたシステムでした」(森氏)
また、iPadで操作できる点も魅力的だった。「工場内で使用するためには、持ち運べることが条件になります。これまでは不具合があった箇所を詳細に記入しなければなりませんでしたが、iPadなら写真を撮ってそのまま報告書に添付することもできるため、正確な情報を瞬時に共有できます」(森氏)
こうして同社は、2019年6月からConMas i-Reporterで「整備修理依頼書」を電子化することから着手し、同年10月から各現場で運用を開始した。記入方法についてはマニュアルで一度研修をした後、OJTで展開していった。「社員の拒否反応も少なく、問題なく運用を開始できました。操作が苦手な年配の社員は若い社員に教わったりしながら、積極的に活用してくれています」(森氏)
森氏は同時並行で生産課の班長に帳票の作成方法を指導。その後は、現場判断でその他の帳票も次々と電子化していってもらったという。
「開発時は、大塚商会さんに全面的にサポートしていただきました。質問にもスピーディーに対応いただけて、非常に助かりました。一人では絶対にできなかったと思います」(森氏)
帳票を集計・管理する手間を削減。毎月の整頓作業がゼロに
ConMas i-Reporterを活用した電子帳票を展開するに当たり、同社は全工場にConMas i-ReporterのアカウントとiPadを配布。iPadは班ごとに1台ずつ用意し、電子帳票を利用できる環境を整備した。帳票の電子化は着実に進み、北崎工場では既に約7割の帳票を電子化できているという。
また、今回のシステム導入を機に、検品作業で使用するコードリーダーも導入。あらかじめ製品ごとに用意したQRコードを読み込むことで品番や大きさなどの情報を帳票に転記することができるので、入力の手間を最小限に抑えて、業務の効率改善を図っている。
「一番顕著な導入効果は、紙のチェックシートの数値をExcelに入力して集計する時間と、それをファイリングする時間がゼロになったことです。例えば『整備修理依頼書』は記入する情報が多いため、以前は1枚当たり15分程かかっていました。毎月約150件発生していたとすると、毎月およそ37.5時間の短縮を実現できています」(森氏)
ConMas i-Reporterで申請承認も効率よく行えるため、以前のように生産課の担当者が紙のチェックシートを持って、上長を探し回るようなこともなくなり、必然的に残業時間が減り、本来の生産業務に集中できるようになった。
工場間の情報共有で生産設備の故障に迅速に対応
ConMas i-Reporterで記録される「設備修理依頼書」は社内のデータベースに保管される仕組みにしたため、工場間の情報共有も可能となった。今では、ほかの工場の類似案件の解決策を参照することで、迅速に対処できる。
「紙のチェックシートを集計したり、保管したりする業務負担が減った分、生産設備のIoTやAI化など、工場の生産性を高める取り組みを検討する余裕ができたことも大きな導入成果の一つです」(森氏)
今後は、電子帳簿保存法に対応するため、総務系の注文書や出荷伝票などの電子化にも着手する。将来的には紙の帳票を全て電子化させ、今回の導入で共有できるようになった設備の修理内容にとどまらず、あらゆるデータを社内で共有し、活用できる環境を整えることが目標だ。