設計・製作と製造部門をつなぐ「データ流通ハブ」として3D Tascal Xを導入

岩機ダイカスト工業株式会社

岩機ダイカスト工業株式会社では、金型設計・製作プロセスでのマルチCAD/CAM環境を効率よく運用し、同時に設計・製作部門と製造部門とのコミュニケーションを円滑にする「データ流通のハブ」として3D Tascal Xを導入した。3D Tascal Xは「オール3D化」を大きく前進させ、金型をより高品質、短納期、低コストで製造するための推進力の一つとして全社に定着しつつある。

高品質なダイカストの製造を支える「社内一貫生産」と「多能工型金型設計・製作」

溶かしたアルミニウムや亜鉛を金型に流し込む金属鋳造法「ダイカスト」。高精度な鋳物を短時間で大量生産できることから、自動車部品などの製造で多用されている。このダイカストの総合メーカーとして社内一貫生産体制を確立しているのが、宮城県亘理郡山元町に本社を置く岩機ダイカスト工業株式会社である。「ダイカストは金型が命。よりよいダイカスト製造を目指してたどりついた製造の流れが社内一貫生産であり『多能工型の金型設計・製作』です。」と技術革新推進室課長の鈴木敦氏は語る。

同社では設計者や製作者は全て「多能工」だ。設計者は客先との打ち合わせに出向いて最適な方案の検討・提案をしたうえで、金型設計、試作までを一貫して担当する。金型製作プロセスではNCデータ作りから切削などの加工作業、ミガキ、型組みまで、金型作りの全てを同じ製作者が一貫して担当する。「多能工は責任が重いだけにモチベーションが高く1人あたりの生産性も高い。特に金型は高品質のものを短期間で作るうえで、多能工金型設計・製作が適しているのです。」と鈴木氏は説明する。

技術革新推進室 課長 鈴木敦氏

技術革新推進室 課長
鈴木敦氏

「データ流通のハブ」の役目を果たせるビューアがQCD向上には不可欠

自動車業界はもちろん、産業機械、事務機器などのあらゆる製造分野でQCDの要求は厳しくなっている。「国内でものづくりする強みを前面に押し出して競争していくには、QCD向上をさらに推し進めなければなりません。」と鈴木氏は語る。こうした思いで全社プロジェクト「岩革(ガンカク岩機革新プロジェクト)」がスタートしたのは2007年度のことだ。QCD向上を達成するために、金型設計・製作の技術部門でも次の四つの目標を立てた。

  1. 多能工型金型設計・製作の高度化
  2. マルチCAD/CAM環境の実現
  3. データのハブになるビューアの導入
  4. 製造部への3次元展開の実現

多能工は幅広い業務領域を一人でこなさなければならないため、CAD/CAM/CAEツールは業務ごとに最も効率よいものを利用したい。従って、効率よいマルチCAD/CAM環境を整備することが大切だ。しかし取引先からはIGES、STEP、CATIAV5、ACIS、Parasolidなどさまざまなデータ形式で提供される。これを設計者、製作者が使っているマルチCAD/CAM環境で使えるように、3D Tascal Xは高い精度で変換でき取引先との間でデータ流通の「ハブ」として機能してくれる。

また設計・製作では3次元データ利用が定着しているが、製造部門には紙図面を渡してきた。今後は設計と製造の間の情報流通も3次元化し、製造プロセスでも3次元データを一貫利用することでさらなるQCD向上を目指していく。そこでも必要になるのがデータ流通の「ハブ」となる3次元ビューアである。マルチCAD/CAM環境を効率よく運用し、設計・製作と製造部門との相互コミュニケーションを円滑にするためにも3次元ビューア導入が不可欠だった。

CADデータを見るだけでなく、「3D図面を描ける」のが最大の魅力

「最初に3D Tascal Xを見て『これなら使える』と判断し他製品はもう調べませんでした。それほどに3D Tascal Xは要求した機能をしっかりと満たしていました。」と鈴木氏。最大の評価ポイントは「3D図面を描ける」ことだ。通常のビューア製品はCADで作った形状を見るだけのツールであり公差や製造指示を記入できない。しかし、全ての情報をあらかじめ3次元CAD上に入力しておくやり方は大変に手間がかかってしまう。3D Tascal Xであれば3次元モデルに対して、CADでは入力していない寸法表記や注記を記入できるうえに、これを見た製造部門でコメントを付記して設計者へフィードバックすることもできる。

「紙図面の全面廃止には反対意見もありました。製造部門、ドキュメントを作成する部門、協力会社などは、3次元形状を『見るだけ』では仕事ができないからです。ところが3D Tascal Xなら情報をきちんと書き込んで双方向でやりとりできますから、紙図面廃止への抵抗感を払拭することができました。」と鈴木氏は言う。

多様なデータ変換に、ほぼ「オプションなし」で対応できるのも重要なポイントだった。しかも操作は簡単で使いやすい。「幅広い部署の人間が使う『データ流通のハブ』だからこそ、サポートのよい国産ソフトであることも重視しました。要望を伝えれば次バージョンで修正・機能追加をしてもらえます。活用すればするほど使いやすくなり長いお付き合いができます。」と鈴木氏は付け加えた。

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3DX:3D Tascal Xのネーティブデータ

「データ渡しは3DX形式が標準」をルール化してデータ流通がスムーズに

岩機ダイカスト工業株式会社では、2010年1月から3D Tascal Xを使い始めた。最初に3D Tascal Xデータ作りに取り組んだのは、金型設計課の大友さなえ氏だ。製造部門での3次元データ活用がやりやすくなるように、既存の型のピン図を3D Tascal Xへ入力してデータベースの準備をしたのである。

「3D Tascal Xは、すぐに理解できて操作練習が要りませんでした。アイコンのビジュアル表示も分かりやすく直観的に操作できます。変更箇所が自動的に色分け表示される設計変更モード機能なども、類似形状をした型とどの部分が異なるのかを正確に把握するうえで大変便利でした。」と大友氏。600種類以上ある既存の型の6,000枚にのぼるピン図をわずか10カ月で入力完了して3D Tascal X利用の早期立ち上げに貢献した。

金型設計課 大友さなえ氏

金型設計課
大友さなえ氏

3D Tascal Xは現在では「データ流通のハブ」として、3フローティングライセンスを約10人が利用している。設計者は、客先との打ち合わせに3D Tascal Xを持って行くこともある。見積りをするために体積測定などに利用することもある。さらに、金型設計者から金型製作者への情報伝達には紙図面ではなく、3D Tascal Xで公差や製造指示を書き込んだ「3D図面」を使うようになりつつある。モデルデータも3D Tascal X形式で渡すのが標準ルールであり、金型製作者は自分が必要なデータ形式へと変換して使う。

「以前は紙図面をマシニングセンターに貼りつけておいて、疑問が生じると何枚もの紙図面を調べて頭の中で細部を想像していました。現在はマシンのすぐ横で3D Tascal Xを見ていろいろな角度からの形状を素早く見比べたりできますし、組み付け方向も瞬時で正しく把握できます。悩む必要がなくなりました。」と金型製作課の小野寺洋輔氏は語る。

金型製作課 小野寺洋輔氏

金型製作課
小野寺洋輔氏

「オール3D化」の全社共通インフラとして、ますます広がる3D Tascal Xの役割

3D Tascal Xでデータ流通の共通インフラを構築できたことにより、金型設計・製作の「オール3D化」は大きく前進した。設計者は紙図面の作成作業が不要になりリードタイムを何十時間も短縮できる。しかも情報伝達は正確になり現場から設計者への情報フィードバックも効率よく行える。また「データ渡しは3D Tascal Xのデータ形式である『3DXが標準』」という社内ルールを作ったことによりデータ流通がスムーズになった。

「3DXにしたときに壊れないデータを作るのが、データを出す側の責任であるというルールを徹底した結果『正しいプロセスでデータを流通させ、正しいプロセスで検証する』ことも定着しました。多能工が自分の責任範囲を明確に完結できるようになったという意味で『多能工型金型設計・製作の高度化』という目標も前進したのです。」と鈴木氏は指摘する。

2012年度は3D Tascal X利用を製造プロセス全体にまで一気に展開していこうと考えている。「無償ビューア『3DX Reader』も活用しながら、3次元データを作る人、それを変換して利用する人、見るだけの人の住み分けもしっかり行いたい。今後の3D Tascal X利用者数の増加がそのままプロジェクトの前進とQCD向上を反映していく数字になるでしょう。」と鈴木氏は力強く語った。

3D Tascal Xの最大の魅力は「3D図面を描ける」ことでした。3次元モデルに対してCADでは入力していない寸法表記や公差を自在に記入できるからこそ、紙図面全面廃止への社内の抵抗感を払拭できたのです。

岩機ダイカスト工業株式会社

事業概要ダイカストとMIM(金属粉末射出成形法)の二つの技術の高さを誇る部品メーカー。自動車のエンジン回り金属部品のほか、産業機械、農機具、事務機などの部品を幅広く製造。宮城県を中心に国内4工場と米国工場を展開。
サイトhttp://www.iwakidc.co.jp/