最先端の技術力を誇る金型メーカー。流動解析で成形後の修正回数が減少、解析データの活用で受注率もアップ

株式会社狭山金型製作所

業種
製造業
事業内容
精密成形用金型の設計・製作、精密成形品製造、微細部品加工および金型・成形技術のコンサルティングなどの事業
従業員数
20名(2023年2月時点)
サイト
http://www.sayama-kanagata.co.jp/

導入事例の概要

精密成形用金型の設計・製作などを行う株式会社狭山金型製作所は、金型の品質向上を目指して樹脂流動解析ソフトウェア「Moldflow Insight(モールドフロー インサイト)」を導入。流動解析の結果を踏まえた設計を行うことで、納入前の金型の修正回数を大幅に減少させ、短納期とコスト削減を同時に実現させた。

導入の狙い

  • 納入前の金型の修正回数を減らしたい。
  • 納期短縮とコスト削減を実現させたい。

導入したメリット

  • 金型の不具合を素早く解析できるようになり、4時間の作業が30分に短縮。
  • 設計の精度向上により修正回数が減少。

導入システム

高難度製品を主として手がける金型製作のプロフェッショナル

埼玉県入間市の株式会社狭山金型製作所(以下、狭山金型製作所)は、精密金型の設計・製作や、微細部品加工および金型・成形技術のコンサルティングなどを行う金型のプロフェッショナル集団だ。1964年の創業以来、同社は常に最先端の技術と設備を取り入れてきた。医療器具やスマートデバイスなど、進化し続けている分野で多くの精密金型を手がけており、直近の30年で製作した金型は2,200個以上に上る。

同社の特長の一つは、顧客から注文を受けて金型を製作するだけでなく、製作した金型を用いて自社で成形品を製造するところまで一貫して対応できる工場を備えている点にある。

「実際に製作した金型を使ってみることで、原料の樹脂がどのように流れるかという知識を蓄積できます。それを金型製作部門にフィードバックすることで、より不具合が少ない金型の設計・製作に生かすことができます」と語るのは、成形部 成形グループ 主任の山岸龍一朗氏だ。

2021年には、患者への負担などに配慮した従来の一般的な金属製針に代わる樹脂製注射針を開発。射出成形によって樹脂製の注射針まで作るというその技術は、驚くほど精密だ。同社の技術力は世界的にも評価されており、顧客は日本国内にとどまらないという。

今後も医療や航空宇宙などの分野における最先端の領域で、受注を拡大していく方針だという。

成形部 成形グループ 主任
山岸龍一朗氏

「製造難度の低い金型や成形品は、中国をはじめとしたアジア諸国に発注した方が安く作れるので、当社はあえて『難度の高い製品しか作らない』という戦略を掲げ、差別化を図っています。海外の展示会にも積極的に出展しており、シンガポールと米シリコンバレーの拠点を通じて、グローバルに営業をかけています」

電子顕微鏡を用いた樹脂製注射針の検品風景。注射針の開口部は非常に小さく、肉眼では確認できないほどの大きさだ

成形後の修正回数を減らし、納期の短縮を目指す

品質に対する要求の高まりとともに、年々厳しさを増しているのが短納期の要求だ。同社が短納期を実現するにあたって最も課題となっていたのは、納品までに行う金型の修正作業だった。

納入先の企業が金型を使って射出成形を試し、不具合があればいったん金型を回収して修正を加えなければならない。樹脂の流れに不具合があり金型に充填しきれないショートショットや、成形品に反りやヒケ(へこみ)が発生してしまう場合など成形不良のパターンはさまざまだが、同社はその原因の特定や修正を長年の製作経験や職人の勘に頼って対応してきた。しかし、修正の回数が増えれば納期が延びてしまううえに、開発コストの負担が増え続けてしまう。

「市場ニーズが目まぐるしく変化し、新しい製品が次々と生み出される中で、『新しい金型を急いで作ってほしい』という注文が非常に増えています。とはいえ、難度の高い金型を短期間で作るというのは、容易なことではありません。時間との戦いの中で、いかに高品質でお客様に納得していただける金型を設計・製作できるかという挑戦が続いています」と山岸氏は語る。

金型の一部。0.1ミクロン単位まで制御できるNC研削盤をはじめとする最高峰、最先端の設備によって生み出される金型は高い技術力を必要とする顧客の高い要求に応えてきた

そこで同社は、納期を短縮していくため、これまで多くの時間を要していた修正作業の改善に着手。職人の勘や経験による修正作業から、流動解析用のソフトウェアを用いて設計段階で不具合を予測し、金型の品質は維持・向上させつつ修正回数を減らす取り組みを始めた。

さまざまな樹脂の解析ができるMoldflow Insightを選定

同社はまず、国内の流動解析ソフトウェアを実験的に導入し試してみたが、期待するほどの効果は得られなかったという。そこで同社は、基幹システムやサーバーなどの導入で長年付き合いがあった大塚商会に相談。より効果が期待できる流動解析ソフトウェアとして紹介された三つの製品の中から同社が選定したのは、Autodesk社の樹脂流動解析ソフトウェア「Moldflow Insight」だった。

山岸氏はMoldflow Insightを選んだ理由について、「世界的に評価が高い解析ソフトウェアであることに加え、解析できる樹脂の種類が他の製品と比べて圧倒的に多かったことが決め手になりました」と説明する。

Moldflow Insightは射出成形による充填、保圧、反り、金型冷却、繊維配向といった基本的な解析機能に加えて、圧縮成形といった特殊成形にも対応したソフトウェアだ。樹脂材料のデータベースは現在世界最大の12,000種以上のグレードが提供されており、Moldflow Insightは熱可塑性樹脂に加え熱硬化性樹脂の評価にも幅広く対応している。

同社は、強度や耐熱性が高く、金属よりも軽いスーパーエンジニアリングプラスチックを用いた成形や、金属の粉末を射出成型するMIM(金属射出成形)といった特殊な加工を依頼されることがあるが、これに対応できる企業はあまり多くはない。特殊な樹脂を射出する金型も得意とする狭山金型製作所にとって、解析できる樹脂の種類が充実していることは必須条件だった。Moldflow Insightは、唯一その条件を満たしていたのだ。

「これまで当社で扱ってきた樹脂は100種類以上、メインで使用する樹脂は20~30種類ほどですが、導入時に比較した他の製品は、当社が扱う特殊な素材をはじめとする解析できる樹脂のバリエーションが多くありませんでした。Moldflow Insightは多くの樹脂に対応していたので、非常に助かりました」(山岸氏)

狭山金型製作所が製作した樹脂製注射針は外径0.24mm、内径0.07mm、厚みは最薄部で0.085mm。ここまで緻密な製品を作れるのは、高い技術力を誇る同社ならではの強みだ

大塚商会の研修で基本的な操作方法を習得

こうして同社はMoldflow Insightの活用を開始。現在は、主に山岸氏が活用しており、金型部からの依頼を受けMoldflow Insightを使って設計された金型の流動解析を行っている。

山岸氏は2020年4月に入社した若手社員であるが、入社前に大塚商会が開催した4日間の研修に参加。Moldflow Insightの基本的な操作方法などを学んだ。その知識と、成形の現場での経験を重ね合わせながら、流動解析のノウハウを磨き上げた。山岸氏は大塚商会について、「研修で基礎を学べただけでなく、実際のシミュレーションでうまくいかないことがあっても、常に適切なアドバイスやサポートを行ってもらえる点が非常に助かっています」と評価する。

不具合の原因究明に要する時間が、4時間から30分に短縮

Moldflow Insightの活用によって、想定される不具合の原因を設計段階で予測できるようになり、修正が生じた場合でも、不具合の原因究明や改善のスピードが格段に速まっている。

「経験や勘だけに頼らない方法で、より正確な品質の確認が行えるようになりました。以前は、不具合の原因を探し出すだけでも4時間程かかっていましたが、Moldflow Insightによる解析なら30分程度で済みます。しかも、現物の金型を作り直すことなく、設計を変えるだけで流動の変化がわかるので、無駄な材料費もなくなります。人件費と材料費を合わせると、かなりのコスト削減が実現しました」(山岸氏)。場合によっては、納入した金型を一から作り直す必要もあるが、それでも多額の追加コストが不要になる効果は大きいという。

営業面でも導入効果を実感

Moldflow Insightの導入は、営業面でも大きなメリットをもたらしている。

「見積書を提出する段階でMoldflow Insightを使った流動解析のデータを提出すると、他社より高い見積金額にもかかわらず発注していただけるケースが増えていると実感しています。Moldflow Insightは流動の先端がぶつかるウェルドラインや、充填完了時の圧力・温度分布などを視覚的に分かりやすく確認でき、充填過程のシミュレーションもできるので、お客様からの信頼を高めることにもつながっています。今後は海外との取引をさらに増やしていきたいと考えているので、その武器として今後もMoldflow Insightを活用していきたいです」(山岸氏)

狭山金型製作所の世界に向けた躍進は、IT活用とともにこれからも続いていく。

狭山金型製作所は都市部から離れた静かな自然の中にある。サブミクロン単位の精度を要求される金型作りでは通行する車の振動ですら加工工程に影響を与えるための選択だ