金型設計の専門性と豊富なCAD経験を生かし、デザイン・ビジュアライゼーション分野に進出。より付加価値の高い事業フェーズへ

ダイエンジニアリング株式会社

創業以来30有余年にわたり、愛知県安城市で金型設計を手がけてきたダイエンジニアリング株式会社。1989年には2次元CAD設計を、2000年には3次元CAD設計を開始するなど、積極的にCADの活用に取り組んで、品質向上と業務効率化に役立てている。2002年には『CATIA V5』を導入、3次元設計のノウハウを深耕し、今日ではモデリングからNCデータ作成、デザインビジュアライゼーションまで事業領域を拡大。本業である金型設計の需要減少をカバーし、事業発展のフェーズに転換しつつある。

他社に先駆けて3次元化に取り組んだ結果、CGから工程計画、モデリングまで幅広く3次元で対応する体制が整った

他社に先駆けて3次元化に取り組んだ結果、CGから工程計画、モデリングまで幅広く3次元で対応する体制が整った

導入事例の概要

導入の狙い

  • 長年培った3次元CAD操作技術の有効活用
  • 事業分野の拡大

導入システム

  • ハイエンド3D CADシステム『CATIA V5』(HD2/機械設計向け製品)(IDG/工業デザイン向けパッケージ)(DSE、QSR/リバースエンジニアリング製品)
  • 3Dアニメーション、エフェクト『Autodesk Maya』

導入効果

  • 事業領域を拡大し本業の受注減をカバー
  • 従来からの顧客への付加価値提供

自動車部品の金型設計を担い、いち早く3次元CADに取り組む

1978年に、代表取締役の後藤 金也氏が一人でプレス金型の設計を始めたのが、ダイエンジニアリング株式会社(以下、ダイエンジニアリング)のルーツ。以来1980年に有限会社化、1985年には株式会社としてスタートし順調に成長を遂げてきた。近年は金型設計を専門に請け負い、アイシン精機株式会社やアイシン・エィ・ダブリュー株式会社、フタバ産業株式会社といった自動車部品メーカーを主要顧客として、厚い信頼を勝ち取っている。

しかし、2008年に生じた金融危機による世界的不況からくる"需要蒸発"で金型の需要も急減、さらに円高が追い打ちをかけ、大手メーカーの海外展開が加速。国内における金型設計の絶対量が大幅に減少した。同社の得意先も例外ではなく、その影響は甚大だった。

「一時期は受注量がピーク時の半分以下まで落ち込み、その影響は2010年の夏まで続きました。同年末時点で85%程度まで回復しましたが、先々の見通しは明るいとはいえません。景気変動による一時的な落ち込みだけではなく、製造業の海外進出の流れは止めようのない構造的な問題だと認識しているからです」と後藤社長は明かす。この未曾有の危機的状況をバネに、同社では新規事業分野への展開を視野に入れ始めた。

それまで同社は金型設計の部分だけに専門特化してきた。しかし、顧客に対しても金型設計の提供だけでは付加価値を訴求できない。「世界においても、日本の金型設計・製作の技術は特に優れています。海外でも金型製作まで行う時代になっていますが、複雑な形状や精度の高い型は、やはり 国内で生産する傾向は変わらないでしょう。しかし、絶対量として減っていくことは間違いありません。金型設計・製造は日本人の気質にあった産業ですが、それでもやはり品質向上や、他社・外国との差別化を図っていかなければ生き残れない状況なのです」と後藤社長は分析する。

同社は10年以上前からいち早く金型の3次元設計を手掛け、3次元データの扱いを得意としている。これが同社の大きなアドバンテージとなっている。

3次元データは、設計段階でシミュレーションやラピッドプロトタイプ、プレゼンテーションへ利用できるほか、設計より下流の製造工程でも、NC工 作機械へ受け渡す加工データの作成やプレス工程計画、組立指示書・カタログでの画像利用など多くの工程に活用でき、全体的な業務効率化が実現できる。製造業全体において3次元データのニーズは確実に増えており、3次元データ作成の市場は成長が期待できる。

「そこで、長年培った3次元データ加工の技能を武器に、事業領域の拡大を目指して挑戦を始めたのです」と後藤社長は話す。

代表取締役 後藤 金也氏

代表取締役 後藤 金也氏

「当社が苦手とする営業力を強化するためにも、異業種とのマッチングの機会などを、いろいろな企業と取り引きしている大塚商会さんに設けてもらえるとありがたいですね」

後藤 亮氏

後藤 亮氏

「以前アニメーションを作っていた時に、レンダリングが遅いので、CG作成の作業もしながら、ネットで部品を取り寄せて新しいPCを組み立てたこともありました。大塚商会さんには、CGの活用事例のセミナーや他社見学会などを開催して欲しいですね」

試行錯誤を繰り返し最適なCADソフトを探り当てる

同社では数種類のCADソフトを使い分け、組み合わせて使用している。1989年の『MICRO CADAM』導入を皮切りに、2000年からは3次元による金型設計を始め、『Autodesk Inventor』や『Thinkdesign』などいくつかのソフトを使いながら、特性を見極めていった。

そして、2006年には既に導入していた『CATIA V5』を3次元曲面作成の主力として増強し、さらに2008年にも追加導入している。

『CATIA V5』は、他の3次元CADソフトに比べると、工業製品を設計しやすいコマンドがそろっているという

『CATIA V5』は、他の3次元CADソフトに比べると、工業製品を設計しやすいコマンドがそろっているという

加えて、工業デザイン向け推奨パッケージの『CATIA IDG』を2009年に導入し、『CATIA V5』作成データのデザイン面の強化を図った。同じく2009年には、リバースエンジニアリングの業務展開を視野に『CATIA DSE』と『CATIA QSR』を導入。

続けて2010年にはコンピュータグラフィックス(CG)作成をさらに強化するため『Autodesk Maya』を採用している。

「現在、当社で最も力を入れている3次元CG作成については、モデリングを『CATIA V5』で行った後、主に『Autodesk Maya』でレンダリング処理をするといった使い方をしています」と後藤社長の長男である技術者の後藤 亮氏は説明する。

数多くのツールを使いこなすため社内や社外で役割分担

金型設計においては、案件によっては今でも2次元設計で対応するケースがある。また、製品形状がシンプルなものや、過去の金型改修などまだまだ2次元CADの必要性も高い。

「技術者がいろいろなツールをマスターしなければならない点では、苦労していますね」と後藤社長は打ち明ける。同社では、全社員10人のうち『CATIA』を扱う技術者は4人おり、その他の社員も『Autodesk Inventor』等の3次元CADや、『Autodesk Maya』を担当し、それぞれ分担して、効率化を図っている。

「3次元の設計やCGの作成を全て1人でこなすのは無理が生じます。当社の場合、少なくとも5人ぐらいで複数のツールを使いこなしていかないと難しいです。それでも今後、あらゆる機能が『CATIA』に付加されていけば、いずれ集約していけるのではと期待しています」と後藤社長。

もっとも、こうしたツールは決して安価ではないので、1社でそろえには限界がある。高精度の3次元測定器などは数千万円もするので、同社のよう な規模の企業が導入するのは現実的ではない。従って、そういったツールを保有する企業と協力関係を構築し、役割分担するという戦略も必要と後藤社長は述べる。提供する側も、ツールを導入しても稼働率が上がらなければROI※も高まらないので、相互の利益につながる提携になるのだ。

  • * ROI(return on investment):投下資本利益率。投下した資本に対して、それが生む利益の比率。事業やプロジェクトにおける投資の運用効率を示す。

CGへの展開は金型設計と異なるプロセス管理・運営が必要に

同社がモデリングやCG作成などに事業転換する中では、別の苦労もあった。金型設計の場合は、顧客側も同社側も製造する完成品の仕様を図面の形で共有しており、感覚的な要素が入り込む余地のない分野なので、納品した設計データが正確であれば何の問題もなかった。ところが、モデリングやCG作成においては、感覚的な判断を加えながら作りあげていかなければならない。しかも、3次元なので、360度の方向から作り込まなければならない。

「でき上がったものを顧客にプレゼンして、イメージと違うと言われてしまえば一から作り直しで、ロスが生じます。従って、初期の段階から顧客とイメージを密にすり合わせるためのコミュニケーション力も必要です。これもいろんな顧客の案件をこなしていくうちに経験値となっていくでしょう」と後藤社長は言う。

現状、一つのCG作成作業に2週間程度の時間を要している。時間がかかるのは、画像の完成サイズがA1レベルの大きさのケースが多く、データ 量が非常に重くなるためである。レンダリングに半日から一日、掛かってしまうことも稀ではない。端末がフリーズしたりダウンしたりしてしまうというトラブルも起こりがちだ。

「例えば背景の遠い部分はシンプルに作成したり、見えない部分はデータを消したり、少しでもデータ量を軽くする工夫も必要です」と後藤 亮氏は言う。

3次元CADの運用には、2次元の時とは違ったハードウェアやソフトウェアの管理という付帯業務も生じるので、そうした体制の整備も忘れてはならない。同社の場合は、後藤 亮氏と二男の後藤 峻氏がそれぞれハード担当、ソフト担当となってシステム管理を受け持っているという。

問い合わせに迅速に対応する大塚商会に一本化

同社が大塚商会と取引を始めたのは、2006年に『Autodesk Inventor』を導入した時からで、『CATIA V5』に関しては2008年の増強の時から。

「とにかく、こちらからの問い合わせに対して実に素早く反応してくれるので、それ以来CAD周りの製品は全て大塚商会さんにお願いしています」と後藤社長は言う。「当社が必要としているのは、最新ツールの情報よりも、自社の今後の方向性をどのように定め、その上でどのようなツールをどういう順番や組み合わせで導入していくかというコンサルテーションです。そういった提案や、相談に応じてもらうことを大塚商会さんには期待しています」

現在、同社が提供する3次元データ活用の分野は次のとおり。

  1. 試作品や既存製品などの形状を測定し、3次元データ化するリバースエンジニアリング
  2. 製品スケッチや2次元設計データからの3次元CADデータ作成、さらに解析用やCAM用のモデル作成
  3. 3次元データでトランスファーや順送のレイアウトを作成し、プレス工程計画を策定(加工の可否の検討や仮工程シミュレーション用)
  4. 3次元での金型設計
  5. 加工用NCデータ作成
  6. 3次元CGやアニメによるデザインビジュアライゼーション

上記以外にも、顧客の新たな製造技術・工法の研究開発などに3次元技術のノウハウを提供している。「試作品がない段階でも、3次元のモデルを作成してプレゼンテーションやPRに活用することができます。こういったニーズは、今後ますます増えていくものと見ています」と後藤社長は力を込める。

後藤社長が今の課題として一番に掲げたのは、営業力強化だ。新分野の売上増加を目指し、Webサイトの活用や協力企業とのパートナーシップ構築 などに力を入れている。

逆境の時代にも攻めの経営を続けるダイエンジニアリング。そのバイタリティは、確実に同社の今後の発展を呼び込むであろう。

ダイエンジニアリング株式会社

業種金型設計、3次元エンジニアリング
事業内容各種金型の2次元設計、3次元設計・エンジニアリング全般
従業員10名(2010年12月現在)
サイトhttp://www.die.co.jp/