3次元CADソフトを導入し、外注費用を削減。試作期間も短縮して競争力を強化

日本ベローズ工業株式会社

国内自動車メーカー各社に納めている同社の金属ベローズは独自の「ハイドロフォーミング工法」によって高い品質レベルを誇る

業種
金属加工業
事業内容
ベローズ(金属性蛇腹)、ベローズシールバルブの製造・販売
従業員数
83名(2014年3月現在)
サイト
http://www.nihonbellows.co.jp/

導入事例の概要

自社独自の技術力をどの市場で発揮し、いかにして強化していくか。厳しくなる生き残りを賭けて、あらゆる企業が懸命な努力を続けている。このような中、日本が競争優位を保っている自動車業界において、独自のベローズ管を国内メーカーに納品しているのが日本ベローズ工業株式会社である。同社は3次元CADソフトを導入することで外注費を削減しながら3次元データを自社内で扱い、部品を短期間で試作できるようになった。見積りの提出がスピードアップするなど、同社は競争力を大幅に強化している。

導入の狙い

  • 短期化する自動車開発競争への対応
  • エコカー台頭による材質変化への対応

導入システム

  • 3次元CAD「CATIAV5」
  • 3次元CAD「Autodesk Inventor」

導入効果

  • 手戻りをなくし試作期間の短縮に成功した
  • 内部設計によるコスト削減と品質向上を実現した
  • 量産見積りの早期提出を可能に

ベローズ管の独自技術で成長。国内自動車メーカーに納品

ベローズにはいくつかの材質があり、その中の一つに「金属ベローズ」という種類がある。「蛇腹」とも呼ばれ、洗濯機の排水ホースを想像すると分かりやすいだろう。このベローズを金属で製造したものが自動車やプラントでは多く使われている。蛇腹の形をしているため伸縮性に優れ、自動車の排気管では熱と振動を吸収する。また、振動を低減するため、車体内の部品を保護することもできる。

このベローズ一筋に30年以上の歴史を持つのが日本ベローズ工業株式会社(以下、日本ベローズ工業)である。同社は1975(昭和50)年に神奈川県川崎市で創業。1979年から金属ベローズ開発に着手し、翌年には量産に成功。自動車産業の多い愛知県安城市に工場を建設した。やがて同社製品の品質が認められ、自動車業界でのリピートが増えていく。さらには、石油、ガス、原子力といった高い安全性が求められるプラントでも使用されるようになった。

2008年には安城地区に3工場を拡大させていたが、これらを集約して幸田工場(愛知県額田郡)に統合。「川崎工場では主にプラント関係のバルブ、幸田工場では自動車の部品関係を生産しています。」と製造部 部長の橋倉秀吉氏は説明する。幸田工場で生産される金属ベローズは国内の自動車メーカーに納品されており、これからも同社製品の品質レベルを知ることができる。現在では、中国の天津市に協力会社の天津貝魯斯管業有限公司を設立し、中国での生産拠点としている。

自動車の設計はメーカーが車体の基本設計を行い、それに従って一次下請けの部品メーカーが対応部品を開発する。日本ベローズ工業へ発注が来るのはこの一次下請けからである。新開発の車種の場合はほとんどが競合案件となり、たゆまぬ品質向上と価格競争は避けて通れない。

まずは自動車メーカーが設計した3次元CADによる製品データが支給されてくる。これを元に試作を行い、納期と見積りを提出。形状や品質・耐久性の検討を繰り返し、最終選定後にようやく量産に入ることができる。「量産に入るまでの開発期間は2年ほどかかります。以前は試作から見積り提出に大変時間がかかっていました。形状や材質はもちろん、大量生産できる加工法も考慮する必要があり、ここに独自技術が発揮されます。」と橋倉氏は語る。かつて自動車の材質はステンレスと決まっていたが、エコカーの台頭により現在ではさまざまな部材が使用されるようになった。その部材によって加工方法、重量、耐久性が左右される。バルブも含め部品の製造にはさまざまなノウハウが求められるようになったのである。

課題は3次元CADデータの展開と「ハイドロフォーミング工法」の伝承

同社で課題となっていたのは試作準備期間の長さであった。支給された3次元CADデータを閲覧できるソフトを持っておらず、その閲覧のために外部の業者に発注しなければならなかった。3次元CADデータを2次元の図面へ展開し、製造現場で量産可能かどうかを検証。変更が必要な場合は外注先に3次元による再設計を依頼していたので、対応に2週間を要した。閲覧のための外注、さらには設計のための外注、これらのタイムロスが早くから課題として指摘されていた。

設計と同時に製造現場では加工方法の検証が開始されるのだが、ここにも課題があった。同社の最大の強みが「ハイドロフォーミング工法」と呼ばれる液圧加工技術である。「1994年からハイドロフォーミング工法に着手し、他社との技術的な差別化に成功しています。」(橋倉氏)。ハイドロフォーミングとは、パイプの素材を金型にセットし、高圧の液体を充填しながら形成する手法のことである。この微妙な金型づくりに企業間の技術の差が現れ、同社差別化の重要なポイントとなっている。

「二つの課題解決、すなわち試作準備期間の短縮と独自技術の伝承のため、検討を開始したのが3次元CADソフトの導入でした。」と製造部 技術課主任の山内悠氏は振り返る。導入検討にはさほど時間を必要としなかった。自動車メーカーの間では3次元CAD「CATIA」が標準となっていたからである。「川崎の本社工場でAutoCADを使用しており、大塚商会さんから購入していました。それで大塚商会さんに相談し、すぐにCATIAに決定しました。」(山内氏)。

こうして同社では2006年5月にCATIAを1ライセンス導入。ほかのベンダーとの比較検討はほとんど行われなかったという。導入したものの、CATIA担当は山内氏一人の上、3次元CADの経験は全くなかった。もちろん、ほかにも知っている人間はいない。大塚商会がインストールと設定を行い、山内氏は講習会を受けたものの、すぐには使えなかった。「とにかくひたすら触って慣れました。そして、分からないところがあれば大塚商会さんに電話して確認させてもらいました。どうにか使えるようになるまで3カ月ほどかかりました。」と導入当時の苦労を語る。

製造部 部長 橋倉秀吉氏

「まだまだ課題はたくさんあります。人材教育もそうですし、解析ソフトのコストパフォーマンスもそうです。現場ではまだ2次元の図面を使っており、これも3次元化したいと考えています。大塚商会さんから価値あるアドバイスを期待しています。」

製造部 技術課 主任 山内悠氏

「質問に対して大変丁寧に答えていただき感謝しています。ただ、CATIA担当の方が大変多忙のようで、つかまらないことがしばしばあります。もう少しタイムリーに返事を得ることができれば助かります。」

工数削減、コストダウン、見積りの早期提出で競争力を強化

導入当初は戸惑う点が多かったものの、慣れてくるとCATIAの良さが分かってきたという。「まずパフォーマンスが素晴らしい。サクサク操作でき、処理結果を待つことがほとんどありません。次にパーツなどデータのすみ分けができていて、理解しやすい。そして、操作もシンプルでした。少ない工数で目的の処理を行うことができます。」と山内氏は高く評価する。「製造現場も含め、CATIAの画面を関係者全員で見ながら検討できるところにも大きなメリットがあります。2次元の図面では立体的に把握できないことが多々ありました。」と橋倉氏もCATIA導入のメリットを認める。

製造現場のスタッフからは溶接箇所の変更や部品間の干渉など、従来であれば手戻りにつながっていた部分が事前に指摘され、工数と部品コストを大幅に削減することが可能となった。工数削減は当初の目的通りである。3次元CADデータの2次元図面展開や設計のための外部発注が不要となったからだ。

CATIA導入により、工数削減、コストダウン、見積りの早期提出で競争力を強化といった効果が出た

CATIA導入により、工数削減、コストダウン、見積りの早期提出で競争力を強化といった効果が出た

「2週間かかっていた準備期間が現在では1週間で済んでいます。準備期間だけを見れば2分の1の期間短縮効果です。」(山内氏)。工数の削減はコスト削減に直結する。CATIAは同社のパフォーマンス強化にもつながっているといえるだろう。見積り作成期間の短縮も橋倉氏は「今までは量産見積りの算出に時間がかかり、お客様に迷惑をおかけしたこともありました。しかし、CATIAを活用し始めてから試作段階の検討時間が削減された分、見積りも早期に出せるようになりました。」と強調する。試作のスピードアップ、コストダウン、見積りの早期提出など、CATIAは同社の競争力アップに確実に貢献している。

最も、いまだ大塚商会のサポートに頼る機会は多いという。自動車メーカー側のCATIAバージョンアップに合わせて同社でもバージョンアップしているが、その際に自ら変更した各自動車メーカー用の設定を忘れてしまうこともある。その度にサポートセンターに連絡して教えてもらっているという。「サポート担当者も営業窓口の方も丁寧に対応いただけるので助かっています。」(山内氏)。また、同社では3次元CAD Autodesk Inventorも大塚商会から1ライセンス購入している。これも3次元CADデータの閲覧を目的に導入したものである。

ノウハウの共有が今後の課題。付加価値の高い製品づくりへも挑戦

CATIAを導入することで、自動車メーカーから支給された3次元CADデータの閲覧や設計・変更が可能となり、工数の大幅な削減に成功した。

しかし、まだ課題は残っている。「ハイドロフォーミング工法技術の伝承です。ノウハウを誰にでも分かるかたちで社内に蓄積していかなければなりません。」と橋倉氏は訴える。3次元CADを使える社員はまだ山内氏一人のみで、操作にかかりきりになっている。現状ではまだ一人で処理できる量かもしれないが、このままではノウハウの水平展開が困難である。社員教育を進めていきたいという希望はあるが、1台しかない状況ではこれも難しい。山内氏も実機に触りながら、習得には3カ月かかったのである。ほかの手段としては、経験者の採用が考えられる。「ただ、社外から既存のノウハウを持った人間を雇うと意外な弊害があります。当社独自のやり方が既に確立しているため、経験者が身に付けているノウハウがかえって邪魔になるのです」と橋倉氏は顔を曇らせる。製造現場の工程や素材の知識が不可欠なため、経験者とはいえ即戦力にはなりにくい。山内氏の許容量を超える範囲は一時的に外部へ委託するか、ライセンスを追加購入して時間をかけて新人を育てていくことになる。また、解析ソフトの導入も視野に入っている。コンピューター上で解析することで、試作期間をさらに短縮できると同社では期待している。

大塚商会への要望事項について、山内氏は「大塚商会さんは技術があり安心して相談することができます。また、新しいリリースが発表される度にその情報をいただいて大変助かっています。ただ、新たに搭載された新機能の使い方までは分かりません。具体的に教えていただければと思っています。」と要望している。橋倉氏は今後の展望として「より付加価値のある製品作りに挑戦していきたい。」と語る。同社では12年前よりベローズ管単体だけではなく、ベローズ管とほかの部品を組み合わせ、お客様にとってさらに価値ある製品を開発している。「ここで不可欠となるのがやはり3次元CADです。このため技術者を増やしたいと考えていますし、これを武器に当社の競争力をより強化していきたい。これもあって大塚商会さんを頼りにしています。」と橋倉氏は話を締めくくった。