東京流研株式会社
航空機や高層ビルなどを造る際には、風の抵抗を抑制する研究のために、人工的に空気の流れを発生させ、実際の流れを再現・観測する"風洞試験 "が必要不可欠である。東京流研株式会社は、その風洞試験用精密モデルの設計・製作と開発支援を手掛けるベンチャー企業だ。同社の光造形を利用した特殊モデルは、アメリカのNASAにも高く評価されており、文字通り世界を股にかけたビジネスを展開している。このビジネスを可能にしているのが、海外出張先でも国内と同様の仕事を可能にするハイエンド3次元CAD『 CATIA V5』の活用だった。
風洞試験手法と、光造形に金属を組み合わせる技術で多方面の産業から引き合いが続いている
導入事例の概要
導入の狙い
- 会社設立に伴う3次元CADの導入。
- 風洞試験用精密モデルの設計・製作。
導入効果
- 3次元CADによる精密な光造形モデルの設計・製作を実現。
- 国内外どこでも業務が可能になり、グローバルなビジネス展開が可能に。
航空宇宙、建築、風力発電などあらゆる分野へ活躍の場を拡大
本田技術研究所で20年以上にわたる航空機開発の経験を生かし、代表取締役の重谷秀夫氏が2009年2月に起業した東京流研株式会社(以下、東京流研)。国内では非常に珍しい航空宇宙開発のベンチャー企業で、同社の強みは独自のノウハウを持つ空力の研究・開発支援である。重谷氏は「風洞のエキスパート」として、多くの国際特許という裏づけのある独自の風洞試験手法によって、空気抵抗を減らす研究開発に貢献している。取引先も、JAXA(宇宙航空研究開発機構)やNASA(アメリカ航空宇宙局)、大手ゼネコンなど最先端技術を有する研究施設や業界トップ企業が居並ぶ。
例えば航空宇宙の分野では、さまざまなサイズの飛行機の模型を用いて、翼や胴体の空気抵抗や、旅客機の降着装置箇所から発生する騒音を低減するための風洞試験を実施している。建築分野では、高層ビルの模型を作り、空気抵抗を解析することで「ビル風」を軽減する壁面デザインなどの設計提案を行っている。
宇宙開発(上)から風力発電(下)まで
昨年からは、原発に代わる自然エネルギーとして期待されている風力発電の開発にも携わるようになった。さらに、スキーのジャンプやリュージュといったスポーツ分野でも、滑降時に可能な限り空気抵抗の少ない姿勢を想定した試験を行うなど、あらゆる分野で同社のノウハウは発揮されている。「日本でも、風洞試験用の模型を作るメーカーは複数ありますが、模型の在り方を提案するところまでやるのはまれです。当社では、図面を預かる前に仕様と試験の目的を確認させていただき、例えば、騒音低減に関する風洞試験であれば、騒音の発生源を特定可能な模型のレイアウトを提案するという、いわばコンサルティング的な役割を担っており、それと風洞試験実施などを含めた形で対価を頂戴しています。それが当社のビジネスモデルであり、付加価値の高いノウハウとスキルを提供できることが大きな強みです」と重谷氏は語る。
一例を挙げれば、光造形樹脂に金属を加えた模型の製作だ。光造形を作るだけならば他社でも可能だが、そこにアルミなどの金属を加えて補強することで、実際の飛行機や建物の強度などを再現し、より正確に測定結果が得られるのだ。この技術は、NASAに委託されている風洞試験用の模型製作会社でも不可能な東京流研独自のノウハウである。「航空宇宙系では、建築系の100倍の空気荷重がかかることがあるので、光造形樹脂だけでは強度が持たない場合があります。しかし本来、光造形に用いる樹脂と金属は全く性質が異なるので、組み合わせることが難しいのです。本田技術研究所の時代に光造形を作っては壊すという、試行錯誤を繰り返すことで得た経験やノウハウの賜物です」と重谷氏は語る。
代表取締役 重谷 秀夫氏
「大塚商会さんはサポート体制がしっかりしているので安心感があります。また、営業担当の方が業界・景気動向の情報提供者としての役割も担ってくれて、ありがたく思っています。」
業務に専念できる大塚商会のサポート力を評価
現在、同社ではハイエンドの3次元CAD『CATIA V5』を使用して光造形のモデルを製作している。その主たる理由は、重谷氏が本田技術研究所に在籍していた時代からCATIAに使い慣れていたからだった。「1980年代後半から『CATIA V3』を利用していました。当時はまだ3次元CADは世の中に浸透していなかったので、『ゲームみたいなもので遊んでないで、ちゃんと図面を書け』とよく誤解されました」と重谷氏は笑顔で当時を振り返る。いわば『CATIA』の進化と歩調を合わせる形で3次元設計の技術を蓄積してきた。そのため、独立したときも、他製品を検討することなく迷わず『CATIA』を選定したのだ。
専門性の高い用途にCADを使用している同社では、『たよれーる』コールセンターでスキルレベルに合わせたサポートを提供してほしいという要望もある。
実際に2009年3月に『CATIA V5』を導入する際には、複数のベンダーに見積りを依頼し、最終的に大塚商会からの導入を決めた。その決め手は、他社よりもサポート体制が充実しているので、安心して業務に専念できると考えたからだった。「本田技術研究所に在籍していた時は、システム周りを専門にサポートする部署があったので、我々はユーザの立場であれこれ要求するだけでよかったわけです。しかし今は、自分自身で運用管理もしなければならない立場なので、そういった点を大塚商会さんに少しでも分担してもらいたいと思ったのです」と重谷氏。
それまで重谷氏が『CATIA』を使っていたのはV4までで、しかも当時は管理職としてのマネージメント業務が主であり、実際の図面作成は部下に任せていた。そのため、『CATIA V5』を導入した当初は、大塚商会の緻密で心配りのあるサポートが役立ったという。
「光造形+金属」による独自技術で3次元モデルの設計と圧力計測を実施
現状、国内の建築系の取引先は、自動車業界などに比べて3次元CADを活用しているところが少ない。そのため2次元図面のデータを取引先から支給してもらい、寸法などを読み取り『CATIA V5』で風洞試験に使用する3次元モデルを設計し、それをもとに光造形を製作するケースが多くなり、リードタイムも長くなっているという。
浅草寺の改修プロジェクトでは、清水建設が作成した『AutoCAD』の2次元図面データをもとに、『CATIA V5』で3次元データを設計。それを光造形機に受け渡し、風洞試験で使うリアルな光造形モデルを製作している。しかし、それで模型製作の全ての作業が終了したわけではない。同社は、屋根にかかる風荷重の分布を正確に測定するため、光造形模型の表面に420ヵ所の計測孔を設け、そこから底面に設定した出力ポートまで模型内部の導圧管を同時造形している。
浅草寺風洞試験模型(清水建設株式会社 技術研究所様)
420点表面圧力計測(350X350X200)
また、JAXA超音速旅客機のプロジェクトでは、計画図と仕様書をもとに、『CATIA V5』で航空機の多点圧力計測用模型を3D設計し、光造形機とマシニングセンタで部品を製作、その光造形部品と切削加工部品を組み合わせ、36カ所の圧力計測が行える低速風洞試験模型を製作している。「将来、クライアント様にも『CATIAV5』が導入されるようになれば、3次元データを直接支給してもらうことが可能になるので、風洞試験用のモデル製作の時間とコストがさらに短縮できると思います。また、設計段階で完成イメージを見ていただきながら、『こういう内部構造にすれば、より効率的に圧力を計測できるようになります』といった提案がしやすくなるので、『CATIA V5』の導入をお奨めしています」と重谷氏は語る。
実際、2010年ころからJAXAにも3次元CADが導入され始めたという。その意味では、3次元設計の普及活動にも同社が一役買っている。
CATIAによる風洞模型の設計
『CATIA V5』が国内外の業務ボーダレス化を可能に
重谷氏は海外出張する機会が多いため、出張先でも不便のない仕事環境を整えたいという要望があった。そうした中、2009年秋から2010年春にかけて、NASAのプロジェクトのためにアメリカのシリコンバレーに小さな事務所を開設。その事務所でも日本国内の仕事を引き受けていた。その一つが、先に紹介したJAXAのプロジェクトだった。
「日本から仕様書などを送ってもらい、『CATIA V5』で3次元データを作成し、それを日本の光造形業者や金属加工業者に送って部品を製作してもらいました。その後、正月に一時帰国したときに、その部品を組み立てて、検査を行いJAXAに納品した後、再渡米しました」と重谷氏。その際、JAXAとの3次元データをインターネットのメールでやり取りしたが、送信ファイルのデータサイズの大きさの問題を解消し、同時に機密性の高いデータが外部に漏れないようにするため、3次元データを分割して送信するという運用面の工夫も行っていた。
「当初はマシンスペックが低いと『CATIA V5』が動作しないのではないかと危惧しましたが、ノート型ワークステーションさえあれば、ほとんど不自由なく仕事ができます。今回、それをアメリカで実証できたことは非常に大きな成果でした。逆に言えば、日本に居ながらNASAの仕事を請け負うこともできるのです。日本の航空宇宙系市場は1兆円ほどですが、アメリカでは15兆円くらいあります。ヨーロッパも加えれば、日本よりはるかに大きな市場規模になります。しかし、海外に打って出るためには、自分がいる場所や環境を問わず、自由に事業を進められることが重要になります。それを実現してくれる『CATIA V5』はまさに大きな武器であり、海外展開するうえで必要不可欠なツールです」と重谷氏は語る。
同社では、構造・流体解析ツール『CATIA Analysis』の導入も検討している。ただし事業領域が、シミュレーションの計算元になる根拠が妥当かどうかが厳密に問われるハイレベルな分野なので、コンピュータによるシミュレーションと共に、実験による間違いのない実測値が必要になる。そのため、解析ツールは副次的な利用にとどめたいという。つまり、コンピュータのシミュレーションだけに頼らずに、実験結果を踏まえた値を提示できることが同社の大きな強みなのだ。重谷氏には、今まで培った経験とノウハウを生かし、超音速機の衝撃波を低減する技術の確立に貢献したいという夢がある。
重谷氏は、「飛行機が超音速で飛べば、東京―ロサンゼルス間の飛行時間を約2分の1に短縮できます。超音速飛行には、ショックウェーブという大きな衝撃波が生じる問題がありますが、解決できれば世界は一変します」と力強く述べた。そんな重谷氏の夢を支える『CATIA』は、欠かすことのできないツールとなっている。
東京流研株式会社
業種 | 研究・開発コンサルティング業 |
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事業内容 | 風洞試験用精密モデル(特に光造形を利用した特殊モデル)の設計・製作、および風洞試験実施支援、コンサルティング |
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従業員 | 3名(2011年5月現在) |
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