若い設計者たちが原動力となり産業用ロボットの3次元設計に挑戦データ活用が全社規模に拡大

トライエンジニアリング株式会社

トライエンジニアリング株式会社は1974年に設立された、ロボットヘミングシステム(RHS)のパイオニア企業だ。自動車のドアなどを折り込むときに使われるローラー式ヘミングシステムでは、国内で95%という圧倒的シェアを誇り、海外の自動車メーカーにも数多く納入されている。同社では、3次元CAD『CATIA V5』や産業用ロボットシミュレーションシステム『DELMIA IGRIP』をいち早く導入し、3次元設計にも業界の先頭を切って本格的に取り組んでいる。若い社員のチャレンジ精神が原動力となり、3次元データの活用が製造部門などにも広がりつつある。

ロボットヘミングシステムのパイオニアとして愛知県から世界に飛躍する

ロボットヘミングシステムのパイオニアとして愛知県から世界に飛躍する

導入事例の概要

導入の狙い

  • 業界に先駆けた本格的な3次元設計への移行

導入システム

  • 3次元CAD『CATIA V5』
  • 産業用ロボットシミュレーションシステム『DELMIA IGRIP』

導入効果

  • 3次元CADによる部品の標準化で全社的な業務改善を実現。
  • オフラインティーチングで、ものづくりの効率化や品質向上を推進。
  • 3次元化の先進的な取り組みで企業競争力をアップ。

オンリーワンの革新的な製品で自動車産業のものづくりに貢献

トライエンジニアリング株式会社は、愛知県名古屋市に本社を構えるロボットヘミングシステム(RHS)のパイオニア企業である。1985年にローラー式ヘミング装置の基本特許を取得し、1991年に世界初のロボットヘミング装置を開発。翌年、トヨタ自動車株式会社のアルミ製デタッチャブルルーフのヘミング加工装置に採用される。以来、18年間で累計146台のRHSを世界9カ国に納入してきた。その間、2002年に自動車生産設備全般の製造を手掛ける享栄エンジニアリング株式会社と業務提携し、現在は享栄グループの一翼を担っている。

同社が開発したRHSとは、自動車のドアやボンネットといった開閉部の縁を内側に折り込むための装置である。この折り込み作業は従来、巨大なプレス機を使って行われてきたが、RHSはロボットアームの先端につけた小さなローラーが鋼板を折り曲げていくことでそれを実現。20トンほどもあった装置の大幅なコンパクト化を実現した。さらに比較的低価格で導入できるなど、自動車メーカーにとって大きなメリットを持つ装置だが、本格的な導入が進んだのはここ10年ほどのことという。

「従来の大型プレス機は、月産1万台規模の大量生産に向く装置と言えます。しかし近年の自動車生産は月産数千台規模の多品種少量生産が一般化しつつあります。プログラミング可能なロボットアームを持つRHSの普及は、このような生産体制の変化と、普及が進むことでコストメリットが出てきたことで一気に進んだと言えるでしょう」と社長補佐 第二営業部 兼 設計部 部長の岡 丈晴氏は説明する。

RHSを活用することにより自動車の構造そのものを変えることも可能になることから、近年は、従来の生産技術部門だけではなく、自動車メーカーの開発部門からの問い合わせも増えているという。また少量生産に向くことから、近年では、自動車メーカーの試作部門や、販売を終了した車種のパーツ供給を担う部門での導入も進んでいる。こうしたオンリーワンの革新的製品を持つことが大きな強みとなり、リーマンショック後の世界不況や円高などで設備業界全体が伸び悩んでいる中、同社は安定した売上を維持している。

生産設備業界の先頭に立ち3次元設計に本格的に着手

2次元CADを使って設計を行っていた同社に対し、3次元データで設備の図面を納めてほしいという取引先自動車メーカーからの要望が増えはじめてきたのは、今から7年ほど前のことだ。

「その当時の自動車設備開発では、まだ3次元設計に移行しないと受注できないという状況ではありませんでした。そのため業界全体の動向を見据えながら、後追い型で3次元設計を導入すべきか、逆に業界に先駆けて3次元設計にいち早く取り組むべきか、社内的な議論を進めることになりました。その結果、いずれは3次元設計に取り組まざるを得ないのであれば、業界の先頭に立って積極的に推進しようということで社内の意見が一致したのです」と岡氏は語る。

「当社のような規模の会社は、なにかしらの特徴を持たなければ業界内での地位を築くことはできないのです」と語る岡氏だが、その決断の背景には、同社が平均年齢32歳という若い会社であったこともあったに違いない。

こうして同社は、今日多くの自動車メーカーにおいて普及が進む『CATIA V5』を2004年に導入。その際、大塚商会をITパートナーに選定した。

「大塚商会さんとは、2次元CADの時代からお付き合いがあり、運用サポートなどを通じて信頼関係ができていたので、ほかのベンダーから導入することは全く考えていませんでした。また3次元CADをスムーズに運用するには、ハードウェアのパフォーマンスも重要になります。そのため、必要最小限の投資で効果が得られるように大塚商会さんにはいろいろと無理を言って、コストパフォーマンスの高いハードウェア構成も提案していただきました」と岡氏は語る。

自動車生産設備業界では、取引先からの製品仕様データの受け取りや、シミュレーションだけを目的に3次元CAD導入が検討されるケースもあるが、同社では、全設計業務で『CATIAV5』を活用していく目標を掲げた。そして設計者全員が使いこなせるようになるために、一致団結して3次元設計の取り組みをスタートさせた。

「若いこともあり、設計者に3次元設計という新しい技術を取り入れることに対する抵抗感のようなものはありませんでした。ただし、膨大なデータが必要になる3次元設計では、これまでのように部品設計を一から始めていては、とても導入効果を実感することはできませんでした」と語るのは、設計部 主任の戸田 烈将氏だ。

社長補佐 第二営業部 兼 設計部 部長 岡 丈晴氏

社長補佐 第二営業部 兼 設計部 部長 岡 丈晴氏

「3次元CADを導入した当初から、3次元データをオフラインティーチングや部品加工に利用することで効果が得られるようになることはある程度予想できていました。大塚商会さんには、この先さらに3次元データを有効活用していくための助言や提案に期待しています」

設計部 主任 戸田 烈将氏

設計部 主任 戸田 烈将氏

「大塚商会さんには、3次元CADの導入教育やその後の運用面のバックアップもしっかり行っていただいているので、とても助かっています。ただ、『CATIA V5』は比較的高額なので、業界全体に広げるためには、もう少し導入しやすい価格になるといいですね」

運用ルールなどを決めながらまず部品の標準化作業を推進

3次元設計の効果を生むため、同社がまず取り組まなければならなかったのは、設計の標準化だった。

「従来の2次元CADでは、基本的にすべて一から設計を行っていました。しかし、3次元CADで以前と同じようなことを繰り返していたら、莫大な工数がかかってしまいます。それではとても実務に使うことはできません。しかし逆に、標準部品のデータを蓄積し、それをうまく組み合わせた編集設計を行えば、業務効率も向上しメリットが出てきます」と戸田氏は語る。

しかし当時、業界内で3次元設計に本格的に取り組んでいるところは少なく、社内に3次元設計の導入をサポートする専門部署もない。何を基準にして部品の標準化を図ればいいのかわからず、当初は、全く手探りの状態だったという。

「どういうやり方をすれば最も効率的に3次元設計が行えるのか、何もわからない状態でスタートしました。最初の頃は、ただ3次元モデルを設計するだけで、データの管理方法まで考えていませんでした。そのため、3次元データが増えるにつれて、その管理が課題として浮かび上がってきたのです。その際、大塚商会さんに『CATIA V5』を使った3次元データの効率的な作成方法や管理の仕方など、いろいろアドバイスしてもらえたことはとても助かりました」と戸田氏は言う。

RHSの3次元CADイメージ

RHSの3次元CADイメージ
ロボットヘミングシステム(RHS):ベースとなる産業用ロボットアームにローラー式ヘミング装置を装着し、オフラインティーチングにより作成されたプログラムと共に納品される。なお他社のローラーヘミング機構の場合、ティーチング等は自社で行わないケースも多いという

その後、3次元設計した部品データを共有化しやすくするために、カテゴリ別に体系化して管理するなど、設計者たちで試行錯誤を繰り返しながら、自分たちで運用ルールを決めていったという。しかし、その過程においては、少なからず苦労もあった。

「通常業務を行いながら、3次元による部品の標準化作業を進めていたので、3次元データを充実させる時間は、自分たちでなんとかやりくりして作りました。その分、苦労はありましたが、3次元設計の導入に立ち会えたことは幸運でした。3次元データの運用ルールなどを自分たちで自由に決めていく作業自体、楽しいものでしたし、結果的に自分たちが運用しやすい環境を整えることができました」と戸田氏はその手応えを語る。

設計部門以外へのデータ展開が3次元設計の効果を得るカギになる

設計部門以外へのデータ展開が3次元設計の効果を得るカギになる

オフラインティーチングで3次元データを製造工程に活用

3次元データによる部品の標準化がほぼ実現された同社では、次のステップとして、産業用ロボットシミュレーションシステム『DELMIA IGRIP』を活用したオフラインティーチングにも積極的に取り組んでいる。オフラインティーチングとは、3次元データをもとに、産業用ロボットの複雑な動きをコンピュータ上でシミュレーションするとともに、そのプログラムを実機にフィードバックして活用することである。

「コンピュータ上のバーチャルファクトリーで、産業用ロボットの3Dモデルを動かしながら、設置位置を決めたり、干渉チェックを行ったりしています。さらにそのプログラムを実機に取り込むことで、タイムリーに実機の製造に移れるという体制の構築を目指しています」と岡氏は語る。

設計標準化が進んだことも3次元CAD導入による大きな効果の一つだ

設計標準化が進んだことも3次元CAD導入による大きな効果の一つだ

まさに3次元データを活用した最先端の取り組みである。しかしバーチャル空間では、描ききれていない要素などもある。また製造に多少の誤差はつきものである。そのためその実用化には、製造段階における精度向上とティーチングデータの補正という両面において乗り越えなければならない課題がある。しかし同社では、既に実用段階に到達しつつあるという。

『CATIA V5』の導入にともない、同社は設計標準化をはじめとする業務改善を実現することになった。また、業界の先陣を切って3次元設計に本格的に取り組んだことは、技術力の高さをあらためてアピールすることにもつながった。その営業的な効果は大きいと語る岡氏だが、3次元CADの真の導入効果を得るには、オフラインティーチングのように、3次元データを川下の製造工程にも活かしていくことが重要だと指摘する。

「単に3次元設計に移行することだけでは、3次元CADの費用対効果は出しにくい面があります。3次元設計のデータを実際のものづくりの現場で有効活用することによって、初めて目に見える形で導入効果を実感できるようになるはずです。そのため、当社では、3次元データの2次的、3次的な活用に今後も積極的に取り組んでいきたいと考えています」と岡氏は語る。

具体的には、金型加工業者などと連携を深め、3次元データをものづくりに活用し、効率化や品質の向上に努めていくことが計画されている。それによって同社は、業界全体の活性化を図り、新たなビジネスチャンスを見いだそうとしている。

トライエンジニアリング株式会社

業種機械製造業
事業内容ロボットヘミングシステム(特許)、ロボットポリッシングシステム(特許)、自動車生産設備・治具、各種専用機の製造・販売
従業員30名(2010年12月現在)
サイトhttps://www.trieg.co.jp/