気流シミュレーションソフトで空調設計の妥当性をチェック。環境指向のトータルエンジニアリング企業として評価も向上

日神工業株式会社

業種
建築設備工事業
事業内容
空調、給排水、上下水道等の設備に関する設計・施工・機器販売・保守管理
従業員
149名(2010年9月現在)
サイト
http://www.nisshin-kogyo.co.jp/

導入事例の概要

空調・給排水・上下水道の建設設備工事業を幅広く手掛けてきた日神工業株式会社は、低成長経済のもとでもビジネスを成長させるためのキー要素として「地球環境の保護」に着目。温度・気流シミュレーションの技術を社内に蓄積することによって自らの価値を高めていく企業戦略を選択した。この戦略を具現化するためのツールとして同社が選んだのは、客先でのプレゼンテーションにも使えるシミュレーションソフトとノートPCのセット。空調設計の妥当性を施工前にチェックできるようになったことで、トータルエンジニアリング企業としての評価も高まり始めている。

導入の狙い

  • 空調効率向上に向けたノウハウの蓄積

導入システム

  • 気体/温熱/環境シミュレーションソフト「FlowDesigner Professional Edition」

導入効果

  • 空調設計の妥当性が施工前に検証可能になる。
  • 温熱・気流に関する専門的ノウハウを持つトータルエンジニアリング企業として認知される。

他社との差別化を実現した地球環境保護への先進的取り組み

1948年11月に株式会社日立製作所の特約店としてスタートした同社は、1966年10月、日神工業株式会社(以下、日神工業)と社名を変更。空調・給排水・上下水道などの設備に関する設計・施工・機器販売・保守管理を行うトータルエンジニアリング企業へと脱皮を遂げ、その後、環境・省エネルギー施設の設計・施工にも積極的に携わってきた。「現在は、各種冷熱機器メーカーである日立アプライアンス株式会社のビジネスパートナーとして、お客様を訪問してご提案する段階から一緒に営業活動を行っています」と語るのは、営業部 設計・積算グループ 主任の服部勇一氏。営業エリアは栃木県を中心に北関東全体をカバーし、「設計、施工、機器の販売、保守管理という一連の流れをトータルにカバーしている設備工事会社は、県全体を見渡してもそれほど多くありません」と胸を張る。空調システムなどを扱う企業として、日神工業は地球環境の保護にも真摯に取り組んできた。2010年2月には「省エネ推進」「無駄の削減」「法律と条例の遵守」「社会貢献活動への参画」「環境負荷軽減の努力」の"五つの約束"を設定し、「日神工業は次の世代にきれいな水と空気を継承してゆくための高い技術を提供して社会に貢献します」との環境方針を策定・公表。環境報告書の作成や社内プロセスの整備等を通し、2010年10月27日に環境マネジメントシステム「ISO14001:2004」の第三者認証を取得した。環境保護への取り組みは、企業の社会的責任(CSR)を果たすためだけでなく、設備工事というビジネスを加速していくためにも重要―というのが、日神工業の考え。そのわけを、服部氏は「人口が減少傾向に転じ、経済が低成長に入ったことを受けて、新築物件の需要も減り始めました。そうした状況下においても設備工事のビジネスを成長させていくには、環境や省エネを軸にした提案を行えることが鍵となります」と説明する。

営業部 設計・積算グループ 主任 服部 勇一氏

営業部 設計・積算グループ 主任 服部 勇一氏

「施工する前に空調設計の妥当性をチェックできるようになり、リスクの軽減に役立ちました。検証能力を持つ設備工事会社として知られるようになった結果、ビジネスの幅も広がろうとしています」

目標は空調効率を高めることそのためのソフトを探していた

このような意識で環境保護に取り組む日神工業にとって、地球環境の保護に役立つ技術をいち早く確立することは重要な経営テーマとなっていた。「2005年ころから、インターネットなどで同業他社の動向を注意深くウォッチしていました」と、服部氏。その結果、研究所を設けて環境保護の技術開発を進めているサブコンの存在に気づいたと言う。「ゼネコンはもちろんですが、東京の先進的なサブコンの中にも、ビジネス化を前提とした環境保護技術の研究開発を進めているところがありました。具体的には、空調システムの新しい方式を考案して特許を取得し、それで稼ぐというビジネスモデルです」このまま何もしなかったら、日神工業は時流に乗り遅れてしまう―と危ぶんだ服部氏は、同社のコア技術である空調の精度を高めることが環境保護技術獲得への一番の近道になるのではないかと考え始めた。

見えない気流の「見える化」は空調の最適化を図る上で大きな強みになる

見えない気流の「見える化」は空調の最適化を図る上で大きな強みになる

現在使われている業務用空調機は、空冷ヒートポンプ方式が主流だ。室外に設置したヒートポンプやチラーで温度を上げ下げした冷媒(熱を伝える液体)を配管で室内の空調機に導き、適温にした空気を電動ファンで室内に送り込む間接的な方式である。吹き出し口からの距離が長くなれば空気の温度は変わってしまうし、部屋の構造によって空調の効きが悪くなる場所が生まれることも珍しくない。そうした不均一な状態のままで最低/最高温度を守ろうとすると、多少暖めすぎ/冷えすぎになってしまうことを承知のうえで空調を強めにするしか方策はなかった。最近は、このような過剰設定による無駄な電力消費を避ける目的で、空調システムの設計段階で温度・気流シミュレーションを実施する例が増えている。そのねらいは、室内の全域を目標の温度とするにはどの程度の能力を持つ空調機をどこに何台設置すればよいかを、事前に知ること。部屋と空調機の配置を入力した3次元モデルを作成し、気流と温度変化をシミュレートすることがその基本的な仕組みである。市販されるシミュレーションソフトの多くは、結果を3次元画像で表示するため、施主などの非専門家に説明するのも容易だ。「そうした温度・気流シミュレーションソフトウェアが存在していることは以前から知っていましたが、価格が高く、会社に購入申請するのはためらいました」と、服部氏。それでも、展示会やセミナーに参加するたびに最新の情報を集めるようにしていたと言う。転機が訪れたのは、2008年のことだった。東京で開かれた空調関係のコンベンションでクリーンルームの設計・構築セミナーに参加した服部氏は、そのプレゼンテーションで使われていた温度・気流シミュレーションソフトウェアにすっかり魅せられてしまったのである。セミナーの講師から聞き出せたのは、「温度・気流シミュレーションソフトウェアを大塚商会から買った」ということだけ。大塚商会なら以前から取り引きがあるため、営業担当者に気軽に相談できそうだと服部氏は考えた。

実案件を使ったデモで空調設計の不具合を発見

翌年、大塚商会が開催する「ソリューションフェア2009」を訪れた服部氏は、旧知の営業担当者に、同社が扱う温度・気流シミュレーションソフトウェアを質問。その結果、探していたのは株式会社アドバンスドナレッジ研究所が開発した気体/温熱/環境シミュレーションソフト『FlowDesigner』であると分かった。

服部氏は、早速、それをテストしてみたいと大塚商会に交渉。自ら機能と操作性を試してみるだけでなく、設計・積算グループのメンバーにも評価を求めることにした。「操作を詳しく教えてもらって使い込んでいくうちに、ますます『これは良い』という思いが強くなりました。グループのメンバーにも好評でしたので、これなら実際の案件で活用できると確信しました」と、服部氏。

客先でのプレゼンテーションを想定して、FlowDesignerはノートPCに組み込んだ。

客先でのプレゼンテーションを想定して、「FlowDesigner」はノートPCに組み込んだ。

シミュレーションソフトが利用可能な高スペックノートPCとのセットで大塚商会に見積りを依頼し、購入のための社内手続きを進めていった。ノートPCをセットで購入した理由は、客先でのプレゼンテーションに活用したいと考えてのことである。日神工業に『FlowDesigner』が届いたのは、2009年10月のこと。実際には、2度目の申請で役員の決裁を得られたと服部氏は明かす。

温度・気流解析に取り組むことで、設計者の視野もビジネスの幅も広がろうとしている。

温度・気流解析に取り組むことで、設計者の視野もビジネスの幅も広がろうとしている。

「最初の購入申請では、費用対効果を明確にするようにとの意見が付きました。そこで、大塚商会の方にお願いして、ちょうど進行中だった実案件のデータを使ったデモンストレーションを実施。『FlowDesignerProfessional Edition』の導入によって日常の設計・施工業務にどのような効果があるかを目に見える形で役員に示し、ようやくOKが出ました」デモンストレーションに使われたのは、ある遊技場向けに空調機を販売・施工するという案件だった。施設の設計は、別の設計事務所が担当していた。「その遊技場のフロアはかなり広く、空調機の吹き出し口は全体で100個以上ありました。出入り口には風除室が設けられており、その風除室にも小型の空調機が設置されているという標準的な設計です。

ところが、シミュレーションを実施すると、ある条件下では、フロアの一部に冷たい外気が侵入することが判明しました」原因は、風除室の面積が足りなかったこと。外から風が吹き込む状況下で出入り口のドアを開けると、風除室で温めきれなかった外気がフロアに入り込んでしまうのである。「既に施工が進んでいたので設計のやり直しは無理でしたが、すぐに施主に事情をご説明し、遊技場のオープン前に対策をとっていただくことができました」と、服部氏。「実運用を開始する前に問題点を発見できたことが、『FlowDesigner』を採用する決め手になりました」と言う。

3年計画でインフラを整備し既存物件にも活用したい

導入からほぼ1年―。日神工業は「FlowDesigner」を空調設計の妥当性を施工前にチェックするためのツールとして活用している。当面の対象としているのは、同社が新規施工に携わる案件である。「施工する前に空調設計の妥当性をチェックすることによって、リスクを軽減できるようになりました。設計事務所の先生にシミュレーションの結果を見ていただき、再検討をお願いしたケースもあります」と服部氏は話す。また、温度・気流シミュレーションソフトウェアで空調設計を検証していることが業界内で知れわたるにつれて、ビジネスの幅が広がる可能性も見え始めた。施工と機器販売だけでなく、設計も日神工業にまかせようというゼネコンが現れそうな気配なのである。

各種展示会においてシミュレーション技術のプレゼンテーションも開始

日神工業株式会社は、各種展示会においてシミュレーション技術のプレゼンテーションも開始した。

「展示会やセミナーなどの場で、ゼネコンの方に声をかけられることが多くなりました」と、服部氏。客先や施工現場を訪れる機会が増えた結果、設計・積算グループのメンバーの視野も広がったようだと付け加える。このような成果を励みに、日神工業は『FlowDesigner』をフル活用するためのインフラを整備し、より多くの案件でシミュレーションを実施できるようにすることを目指している。インフラ整備のポイントの一つは、ライセンスの追加。2010年現在の1ライセンスを、3年間で3台へと増やす計画だ。これと並行して、社内にワーキンググループを設けて技術の習得と社内蓄積を加速。受託解析をビジネスメニューの一つとするべく、今後はホームページを通じた広報にも力を入れていく。ビジネスの観点からは、既存物件にもシミュレーションを適用していくことが日神工業にとってのもう一つの重要テーマとなる。「新築物件が減少傾向にある中でビジネスを拡大していくには、改築やリノベーションを考えておられるお客様に省エネの改善提案をすることが欠かせません」と語る、服部氏。シミュレーション結果を可視化する「FlowDesigner」は、同社の新たなビジネスを切り拓こうとしている。