同社が気流解析と設備管理の事業化に向けた検討を進めていたのは2009年のこと。
3次元気流解析ソフトウェア『FlowDesigner』の導入は、ある偶然がそのきっかけとなった。「たまたま複合機の商談で大塚商会の営業の方が当社を訪問したことがありました。大塚商会がCAD製品を手広く扱うことは承知していたため相談したところ、そういうねらいであれば『FlowDesigner』が最適では、と薦めてくれたのです」と小出氏は導入の経緯を語る。
食品工場に求められる環境衛生管理を気流シミュレーションソフトで、解析・可視化現場でのプレゼンテーションで営業力を高める
トラストエンジニアリング株式会社
- 業種
- 技術サービス業
- 事業内容
- 設備配管、清掃、サニテーション、気流解析、CADオペレート
- 従業員
- 17名(2011年11月現在)
- サイト
- http://www.trust-tf.jp/
導入事例の概要
名古屋市に本社を置くトラストエンジニアリング株式会社は、環境衛生にかかわる設備工事や清掃などを主な事業領域とする技術サービス企業である。掲げるビジネス戦略は、「常に新しいことへの挑戦をし続けていくこと」。注力する新事業として3次元気流解析、3次元CADによる設備管理、LED蛍光灯販売を選び、最新のITを活用して迅速な立ち上げを図っている。2009年には、シミュレーションによって工場建屋内の気流を解析する目的で3次元気流解析ソフト『FlowDesigner』を導入。顧客へのプレゼンテーション効果を飛躍的に高めることに成功した。
導入の狙い
- 空気がよどんでいる場所の発見
- 結果を分かりやすく表示
- 設備管理業務にも活用
導入システム
- 3次元気流解析ソフト『FlowDesigner9』
- 建築設備CAD『CADEWA Real 2011』
- 建築3次元CAD『ArchiCAD15 Solo』
- 設計モデル統合ツール『Autodesk Navisworks』
- 『Remote View』
導入効果
- シミュレーションによる気流の可視化
- 結果を静止画と動画でプレゼン
- 設備工事商談の足掛かりを確保
食品工場向けの環境衛生に強み 常に新しいことに挑戦し続ける
トラストエンジニアリング株式会社(以下、トラストエンジニアリング)は2007年に創業、2008年に株式会社となった名古屋市に本社を構える技術サービス企業である。
主な事業は、設備配管、清掃、サニテーション、気流解析、CADオペレートなど。具体的には、エアコン分解洗浄、貯水槽清掃、排水管高圧洗浄、除塵除菌清掃などの環境衛生に関する作業が多い。
メインの営業地域は、中部地方と近畿圏。17名の社員は、名古屋の本社に12名、大阪営業所に5名と配置されている。サービス提供の頻度は、顧客との契約内容によって、毎日、定期的、スポットとさまざまだ。
工場の清掃や工事は大型連休の際に行われることが多く、お盆休みや年末年始が同社にとっての繁忙期になる。同社のビジネス戦略の根幹をなしているのは、「常に新しいことへの挑戦をし続けていくこと」。その"新しいこと"として現在取り組んでいるのが、3次元気流解析、3次元CADによる設備管理、「LED蛍光灯」販売などの事業だ。
単純な技術サービスのままでは価格競争に巻き込まれてしまうので、技術で強みを発揮できる新しい領域へと打って出る。いわゆる、ブルーオーシャン戦略をトラストエンジニアリングは推し進めているのである。
「当社が特に強みを持つ領域としては、食品関係の工場向けの環境衛生ビジネスが第一に挙げられます」と語るのは、工事部 部長の小出 克実氏。食品工場では高水準の衛生管理が求められるため、業界内でも同様のビジネスをしているところは少ないと話す。
工事部 部長 小出 克実氏
「『FlowDesigner』を使ってシミュレーション結果をご説明すると説得力が違います。日ごろお付き合いのある顧客の方々に3次元気流解析を紹介した際の関心の高さは想像以上です」
気流解析とコンサルティングを新事業の柱の一つに位置付けた
同社が現在取り組んでいる新事業のうち、3次元気流解析は建物内の気流の分析とコンサルティングを提供するサービスである。
「食の安全・安心」が最重要の経営課題となる食品産業では、工場内を清潔に保つことが至上命題となる。細菌や有害物質はもちろんのこと、カビやホコリが混入した食品を市場に流通させてしまうと企業の存続を左右する致命傷になるからだ。
「カビやホコリが発生しているということは、多くの場合、工場内の空気の流れに問題があるということを意味しています」と、小出氏。
シミュレーション結果に基づいて工場内の気流を可視化し、空気がよどんでいるような原因となる場所を突き止め、対策を提案するサービスのニーズや将来性は高いと判断したと言う。
このような新しいサービスを提供する際のポイントは、専門家ではない人にも容易に理解してもらえるものを見せることにあるというのが同社の考えだ。「シミュレーションの精度をあまりにも突き詰めてしまうと、学術レベルの研究になってしまいます。我々のねらいは、あくまでも、その後の清掃や設備工事の仕事を獲得すること。長い時間と大きなコストをかけて求めた究極的な解を提示することにこだわらず、改善案とその成果を大まかな形でお客様に提案できればよいと考えました」と、小出氏は説明する。
気流解析を実施するには、建物や部屋の形状やサイズと、そこにどれだけの大きさの装置がどこに何台配置されているかを知るための施設内の配置情報が欠かせない。
目的に応じた解析精度で処理を行うとしても、顧客を説得できるだけの精度を持った結果をシミュレーションから得るには、施設内の配置情報は可能な限り最新のものであることが求められる。「設備管理の業務でも、装置を新たに設置したり既存の設備を移動したりといった作業を効率良く進めるには最新の配置図面が必要になります」と語るのは、工事部 主任の伊藤 洋氏。
そうした配置モデルを作成するには、3次元モデリングが可能なCADソフトウェアを利用するのが一番であることは明らかだった。
工事部 主任 伊藤 洋氏
「食品工場には熱を発する設備も多数あり、それが気流に影響を与えてしまいます。そこで、許された処理時間内でできるだけ正確なシミュレーション結果を得られるように、モデルの調整や初期条件の設定には細心の注意を払うようにしています」
客先や現場で使えることを条件にシミュレーションソフト導入を検討
数回のデモンストレーションで機能と操作性を確認したトラストエンジニアリングは、早速、高性能デスクトップPCとセットで『FlowDesigner』を導入。伊藤氏を中心に、新規事業に適用するための取り組みをスタートさせた。最も、実際に業務に使えるようになるまでには1年以上の期間が必要だった。カビ発生のメカニズムやその改善を目的とした解析事例はベンダー側も把握していなかった。そのため、同社は一から手探りでその方法論を確立していかなければならなかったのである。
「操作性を売りにしているだけあって、使い勝手はとてもよいという感じを受けました。ただ、いざ業務に適用しようとなると、どのように使えばよいのか、なかなか発想がわいてきません。そこで、まずは気流について、実測と解析の比較ベンチマークを社内で始め、それからカビ発生を考慮した湿度解析へとステップを進めていくことにしました」と伊藤氏は語る。
そこで得たノウハウの蓄積が今日の同社にとって、大きなアドバンテージとなっていることは言うまでもない。さらに、気流解析用のモデルを作成するためのソフトウェアとして建築設備CAD『CADEWA Real』と建築3次元CAD『ArchiCAD15 Solo』を導入した。顧客から建物や部屋の3次元CADデータを得ることができる場合は、これらのソフトウェアを使って気流解析用の3次元モデルに変換したうえで、『FlowDesigner』にデータを流してシミュレーションを行わせることにしたのだ。
「直方体や円柱といった簡単なオブジェクトは『FlowDesigner』で直接作成し、複雑な形状の物体は本格的な3次元CADソフトウェアで作ったものをインポートするというように使い分けています」と伊藤氏は語る。さらに顧客工場の設備管理の容易化に向け、3次元CADデータをはじめとするさまざまなデータを統合的に管理できる『Autodesk Navisworks』も導入されている。並行して、工場などの現場で気流解析と結果表示をリアルタイムに行えるようにするための検討も進められていった。「あらかじめ作っておいたシミュレーション結果だけでなく、打ち合わせの席でお客様に言われたことをすぐにその場で計算した結果もご覧に入れたかったのです」と、小出氏は言う。
伊藤氏は「設備管理業務の場合も、工場内を歩きながら目に付いた装置の品番などの情報を調べるために、モバイルで使えるソリューションが必要でした」と語る。
同社が求めるモバイル対応を実現するために採用されたのが、外出先から社内PCの参照・操作ができるリモートアクセスツール『Remote View』だった。
インターネットのサービスとして提供されるため、社内に大掛かりな装置やソフトウェアを必要とせず、外出先では広範囲のモバイル端末が使えるという利点があった。
なお、当初はノート型パソコンをモバイル端末として使用していた同社だが、その後、より持ち運びがしやすいiPadが採用されている。
気流解析による見える化が提案に説得力を付加した
導入から、ほぼ2年。『FlowDesigner』を使った気流解析とコンサルティングの案件も増えつつある。「可能であればお客様から3次元CADデータを拝借してモデルを作成し、シミュレーションしやすいように加工や調整をしたうえで、気流解析を実行しています」と、小出氏。
伊藤氏は「高精度の結果を短時間で得るには適切な初期条件が決め手になりますので、解析対象の室内に温度・風速センサをいくつか置いて数時間測定し、その結果を初期条件として設定しています」と説明する。
規模にもよるが、依頼を受けてから結果が出るまでの期間はおよそ1週間。ベクトル表示や半透明表示などの静止画像はカラープリンタで印刷して報告書に添付し、3次元アニメーションや動画はノート型パソコンやiPadに組み込んで客先でのプレゼンテーションに使用している。
「汚染度が低いところを青、汚染度が高く空気がよどんでいるところを赤で表示すれば、状況が一目で分かります。アニメーションや動画も非常にインパクトがあり、お客様がそれを見て歓声を上げられることもあります」と小出氏は効果を語る。
それは同社の提案が説得力を増すことに直結している。気流という目に見えないものを見える化し、改善案を提示することが営業力の強化へとつながっているのだ。
「同業他社がまだ手を付けていない領域ですので、当社のビジネスのコアとするべく今後も力を注いでいきたいと思います」と小出氏は語る。
企業の競争力を高める推進力としての期待も高い。さらに、3次元気流解析への取り組みによって獲得されていく技術とノウハウは、他の新事業を加速するための原動力ともなる。ビルディングインフォメーションモデリング(BIM)により3次元モデルが可視化されることで、設備管理にそれを応用できるうえ、空気の流れと温度を解析する技術は、温度ムラやよどみ位置の特定ができることから、空調システムの最適化などの「エコ提案」にも役立つからだ。
省エネを実現するためのソリューションとして、トラストエンジニアリングにはLED蛍光灯やLED照明がある。最新のITを活用することによって、確かな競争優位性を手にできるブルーオーシャンへとこぎ出していく。
トラストエンジニアリングの経営戦略は、既に効果を出しつつある。