BIM推進のためのプロジェクトを発足。スキャニングから作図、見積りまでシームレスな活用を目指す

株式会社三晃空調

業種
空調・衛生設備工事業
事業内容
管工事、機械器具設置工事、消防施設工事、建築工事
従業員数
443名(2020年3月現在)
サイト
https://www.sanko-air.co.jp/

導入事例の概要

空調・衛生設備などの設計・施工管理を行う株式会社三晃空調は、2016年にBIM推進プロジェクトを発足。大塚商会を通じて建築設備専用CADや3Dレーザースキャナー、積算ソフトなどを導入し、作図をはじめとする業務の合理化や、スキャニングから作図、見積りに至るまでのシームレスな業務連携を目指している。

導入の狙い

  • 遅れていたデジタル化を加速させる。
  • データ連携により業務効率を改善。

解決策

  • 設備CADや3Dスキャナーなどを活用し、全社的にBIMを推進する。
  • ツールのデジタル化により、データ連携を可能にする。

導入製品

  • 建築設備専用CAD「Rebro」
  • 積算ソフト「みつもりくんPRO-SecondStage」
  • 3Dレーザースキャナー「BLK360」
  • 点群データ処理ソフト「InfiPoints」

導入したメリット

  • 設備の干渉チェックや施行情報共有が可能に。
  • 図面データを活用した部材数量拾いによる概算見積りが可能に。

SDGsに積極的に取り組み、特殊排水継手で特許を取得

株式会社三晃空調(以下、三晃空調)は、空調設備、衛生設備などの企画・設計・施工管理を行う空調・衛生設備の施工会社だ。1946年に大阪で創業し、その後全国に事業拠点を展開。現在では大阪・東京の2本社のほか、北海道から沖縄まで18の地方拠点を構えている。

一般に、空調設備と衛生設備の設計・施工管理は、それぞれを得意とする会社が別々に請け負う場合もあるが、同社は両方の設備を扱えるのが大きな強みだ。「そのため、特に空気と水の衛生的な環境確保が求められる病院からの依頼が多く、実績を重ねています」と語るのは、技術本部 技術企画部長の畠田博之氏である。

ほかにも、温度・湿度の厳格な管理が求められる美術館、博物館、食品工場などの案件が多く、それによって蓄積された豊富な知見やノウハウには、絶大な信頼が寄せられている。

また、三晃空調はSDGsにも積極的に取り組んでいる。大便器の節水においては、少ない水量でも効率良く汚物を搬送するために継手内に段差を設けた「ステップ継手」を独自に開発し製品化。2018年に特許を取得した。

この継手は、後述する建築設備専用CADRebroの部材ライブラリーにも登録されている。3次元で自在に編集できるため、勾配を持つ排水管や段差を持つ排水管も、配管の高さが容易に検討できる。

株式会社三晃空調

「特に空気と水の衛生的な環境確保が求められる病院からの依頼が多く、実績を重ねています」

3次元化やBIM対応を積極化すべく現場イノベーションプロジェクトを発足

三晃空調は、2016年4月に大塚商会を通じて、株式会社NYKシステムズが開発した建築設備専用CAD「Rebro(レブロ)」を20ライセンス導入した。導入に踏み切ったのは、BIMの活用を本格化させたいという狙いがあったからだ。

「2012年には試験的にRebroを2ライセンス導入していました。それまで使っていた2次元CADからの移行に苦慮していました。そこで、3次元化やBIM対応を会社の強みとして積極的に推進していくために、2016年4月に現場イノベーションを推進する『イノベーション@sanko』というプロジェクトを立ち上げ、設計図・施工図のBIM対応、積算の電子拾いに着手しました。その手始めにRebroの活用を促すことにしたのです」と畠田氏は説明する。

技術本部 技術企画部長 畠田博之氏

「現場イノベーションを推進するプロジェクトを立ち上げ、設計図・施工図のBIM対応、積算の電子拾いに着手。その手始めにRebroの活用を促すことにしたのです」

集中研修で一気に社内普及を図る

ところが、Rebroを20ライセンス導入したにもかかわらず、「操作方法は分かっても図面としてのまとめ方が分からない」「集中できるまとまった時間が確保できないので習得が進まない」などの理由で思うように活用が進まない状況が続いた。

そこで、プロジェクトチームは2018年3~7月に全国各拠点から、図面がまとめられる能力を持っている社員を中心に計14名を選抜。Rebroを活用できる「トップランナー」を育成するため、Rebro活用が進んでいた協力会社と連携し、6週間の沖縄での集中研修を実施した。「まずはトップランナーに技術を習得してもらい、それを各拠点に持ち帰り活用を一気に広げようという戦略でした」(畠田氏)

トップランナー候補の一人として集中研修に参加した東京本店 工事部 現場支援センター 施工図グループ長の吉澤新司氏は、「4週間で基本的な操作を学び、その後の2週間で実際に施工図を描く作業を行いました。計6週間の研修で、Rebroを使って実プロジェクトで、ある程度の施工図作成ができる技量は身に付いたと思います」と振り返る。

東京本店 工事部 現場支援センター 施工図グループ長 吉澤新司氏

「計6週間の研修で、Rebroを使って実プロジェクトで、ある程度の施工図作成ができる技量は身に付いたと思います」

この取り組みによって、社内におけるRebroの活用は一気に進み、現在では132ライセンスを導入。拠点によってはほぼ100%Rebroで設計図や施工図を作るようになった。

畠田氏は「最初は使ったことのない道具にしり込みしていた社員が多かったのですが、実際に使ってみると、思いのほか3次元による平断面連動が便利だったことが、活用を促したのだと思います」と語る。

操作や作図の仕方で分からないことがあっても、NYKシステムズのサポートセンターに連絡すれば、適切なアドバイスを受けられることも安心に結び付いているようだ。

三晃空調のRebroライセンス利用数の推移(月最大値)。集中研修後、トップランナーたちが各拠点に持ち帰ったノウハウにより、活用が一気に促進

BIM推進の次のステージとして点群データ活用と見積り連動に着手

集中研修によるRebroの活用促進から始まった三晃空調のイノベーション@sankoプロジェクトは、BIM対応という主要テーマに向けてステージを上げていった。それに合わせて、次に大塚商会から導入したのは、点群データ処理ソフトのInfiPointsと3DレーザースキャナーのBLK360である。

三晃空調は、新築だけでなく、改修される建物の設備設計・施工管理も請け負っている。改修工事の場合、空調機やポンプといった設備機器や、配管等の現況を把握し、それに基づいて設計図や施工図を作成する必要がある。

従来は、現場での状況把握や測量に基づいて既存図面を起こしていたが、システム導入後は3Dレーザースキャナーでスキャニング。そのデータをInfiPoints経由でRebroに取り込み、トレースしたり修正したりして図面を作成する。現場でのデータ収集から、それに基づく作図までのシームレスなワークフローが実現したのだ。

最も、点群データは3Dビューアーで寸法確認もでき、施工現場の設備や配管等の空間状況をリアルに把握できる。施工担当者は、事前に機材搬入や足場設置の方法など施工ステップをイメージできるので、現場合わせによる無駄やロスが避けられるのだ。

CADと積算ソフトのデータも連携

一方、プロジェクトチームは、積算業務の効率アップにも着手。大塚商会から積算ソフト「みつもりくん」を導入した。狙いは、積算作業のデジタル化への対応と、Rebroで作成した設計・施工図データから、使用した部材の種類と数量を自動で拾い出し、見積りを行うためである。

「今までは設計図や施工図を見ながら、必要な部材を手で拾い出していたのですが、Rebroとみつもりくんを連携させることで、その手間を極力なくしたいと考えたのです」と畠田氏は説明する。

東京本店 営業部 設計部 設計グループ長の神里竜治氏は「みつもりくんと連携させると、Rebroで作成した図面上の部材のうち、拾い出された部分がマーキングされるので、データがしっかり取り込まれていることがよく分かります。後は記号や文字情報など、連携されない情報を入力するだけなので、作業効率が格段にアップすると考えています。現状、Rebroで作図した図面を活用する環境ができてきています。みつもりくんとのデータ連携により、手作業で行っていた部材の拾い出し作業がなくなる、確認作業が容易になるといった、数量の受け渡し作業の省力化が図れます」と語る。

東京本店 営業部 設計部 設計グループ長 神里竜治氏

「みつもりくんと連携させると、Rebroで作成した図面上の部材のうち、拾い出された部分がマーキングされるので、データがしっかり取り込まれていることがよく分かります」

3次元図面で工事前に問題点が解決。工程の後戻りや停滞がなくなる

Rebroの活用や、点群データ、積算ソフトとの連携は、三晃空調の業務効率向上に大きく寄与しているようだ。

施工図の作成でRebroを活用している東京本店 工事部 現場支援センター 施工図グループの濱田学美氏は「2次元CADと違い、アラウンドビュー機能は見たい物、見たい部分だけをどの角度からでも見ることができます。アラウンドビューから断面図や部分詳細図などが作成でき、狙った見え方の図面が作成できます。部分的に拡大・詳細図作成できるのがとても便利です」と語る。

東京本店 工事部 現場支援センター 施工図グループ 濱田学美氏

「2次元CADと違い、アラウンドビュー機能は見たい物、見たい部分だけをどの角度からでも見ることができます」

配管の納まり具合や、干渉チェックなどがしやすくなったことも大きなメリットだという。吉澤氏は「施工現場の定例会議で、ゼネコンや協力会社に3次元図面を見せれば、『ここが納まらない』ということを直感的に理解してもらえるようになりました。建築との取り合いを、ゼネコンの図面担当が一緒になって問題解決してくれるので、早く納まるように調整ができて、その後の実際の工事工程の中での後戻りや停滞を防ぐのにも役立っています」とその効果を語る。

  • 三晃空調がRebroで作成した3次元モデル。複雑な配管の収まり具合や干渉チェックなどが直感的に理解できる

ゼネコンから支給されたデータも活用

ゼネコンから支給された3次元CADの図面データをRebroに取り込み、そこから設備の設計図や施工図が作成できるようになったことも大きな変化である。「ゆくゆくは協力会社や設備メーカーとのデータ連携も図り、業務の合理化や工事品質の向上を目指していきたいです」(畠田氏)

BLK360とInfiPointsを使って作成した点群データをRebroに取り込み、そこから設計図や施工図を作成するというワークフローは実現しているが、より効率的な運用、解像度の高い現況調査を模索中だ。

Rebroとみつもりくんの連携は、ワークフローの構築を模索中である。将来的には、フロントローディングや加工も含めた積算、現場での追加・増減見積り作業への適用を目指している。

畠田氏は「そのためには、社員にデータ連携のメリットをもっと理解してもらい、活用を促していく必要があります。それと同時に、スムーズなデータ連携を妨げているソフトウェア間の障壁も取り除いていかなければなりません。この部分については、大塚商会さんからの改善提案に期待しています。今後も有益なサポートをお願いします」と要望した。