BIMの活用を推進するスーパーゼネコンが3次元CADで意匠・構造・設備設計の整合性を高め設計施工一貫を強化

株式会社竹中工務店

株式会社竹中工務店

業種
総合建設業
事業内容
建築工事および土木工事に関する請負、設計および監理
従業員数
7,398名(2013年1月現在)
サイト
http://www.takenaka.co.jp/

導入事例の概要

日本を代表するスーパーゼネコンとして、東京タワーや東京ドーム、間もなくグランドオープンするあべのハルカスなどのランドマークをいくつも建設してきた株式会社竹中工務店。その設計は「竹中デザイン」として広く知られ、同社の建設業界におけるブランド力を確かなものとしている。同社は品質向上のための取り組みとしてBIMを積極的に活用している。3次元化によって設計の意図が施工現場に伝わりやすくなり、手戻りが大幅に削減された。今後はBIMとFMとの連携を視野に入れる。その一環として、2013年7月に建築設備CAD「Rebro2013」を導入した。

導入の狙い

  • BIMによる設計施工の生産性向上
  • BIMとFMの連携を視野に入れた基盤づくり

導入システム

  • 建築設備CAD Rebro2013

導入効果

  • 3次元モデルをもとに打ち合わせすることで、設計、施工、建築主の合意形成が容易に
  • 設計と施工の情報共有が強化され、施工時の手戻りが減少
  • 最新鋭設備CADの導入によって、設備設計担当者の作業効率が改善

東京タワーなど日本を代表する多くのランドマークを手がける

株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)は日本を代表するスーパーゼネコンの1社である。創業は1610(慶長15)年。織田信長の元家臣であった初代竹中藤兵衛正高が名古屋で神社仏閣の造営を手がけたことから始まった。明治維新後は次第に洋風建築に取り組み、1899年に14代竹中藤右衛門が神戸に進出。この年が同社にとっての創立第1年となった。創立から110年以上、創業からは実に400年以上もの歴史を誇る老舗中の老舗である。現在は大阪に本社を置き東京本店、大阪本店をはじめ全国に拠点を構える。

その長い歴史の中で竹中工務店は日本を代表する数多くのランドマークの建設に携わってきた。1958年に竣工し、当時世界一の高さを誇った「東京タワー」や日本初の空気膜構造による多目的スタジアムとして1988年に完成した「東京ドーム」など、日本人ならだれもが知っている建物を数多く手がけている。

ビル建築にも定評があり、これまでに東京都心の新しい大型施設である「サンケイビル」や「飯野ビルディング」などを手がけた。現在は大阪で高さ300メートルの「あべのハルカス」を建設しており、完成すれば横浜ランドマークタワーを抜いて日本一の高さを誇る超高層ビルとなる。

竹中工務店の強みは設計施工にある。「お客様の想いをかたちにするため設計部門と生産部門が『創造的な協業』を行って最良の作品を創り上げることを常に目指しています。」と語るのは、本社 設計本部 設計企画部部長 ICT担当の能勢浩三氏。

竹中デザインとして広く知られる同社の設計は、建設業界における竹中工務店のブランド力を確かなものにしてきた。その優れた設計力は国内外で数多くのコンペティションを勝ち抜いてきた竹中工務店の躍進の原動力であると言えそうだ。

設計本部 設計企画部 部長 ICT担当 能勢浩三氏

設計本部 設計企画部 部長 ICT担当 能勢浩三氏

「設備設計者にとって、モデルの作成しやすさが大きなポイントです。その点でRebroは望ましい選択でした。」

品質向上のためBIMへの取り組みを推進

竹中工務店は現在、建物づくりの品質向上の一環として、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用を推進している。東京ドームを3次元で設計するなど、既に1980年代から設計の3次元化には取り組んできたが、ITの飛躍的な進歩に伴い、3次元モデルや図面、仕様などのさまざまなデータを一体化できるBIMも大きく進化を遂げてきた。

そこで同社はBIMを積極的に活用することによって、今まで以上に設計の品質を向上させ施工時の生産性向上を目指している。また同社はこれまで建築主をはじめとするプロジェクト関係者との打ち合わせでは主に2次元の図面を使用してきた。しかし、建築の専門家ではない建築主に図面だけで建物の形態のイメージを伝えるのは困難であり、パースや模型などのツールを補助的に使って説明するのが一般的だった。

その点、BIMなら図面と一体化した3次元モデルをパソコンやタブレット端末の画面上に表示できるので、建物の形態や色、内部の様子や設備などが実物と同じようにイメージしてもらえる。顧客満足を高めるためにもBIMの活用は不可欠だと考えているのだ。そうした取り組みの一環として同社は2013年7月、大塚商会を通じて最新鋭の建築設備CAD Rebro2013を導入した。これは建物内部の配管やダクト、設備の配置などを3次元モデルとして設計できるソフトである。

実は竹中工務店では意匠や構造の設計では3次元CADの活用が進んでいたが、設備については相対的に対応が遅れており、しかも本支店ごとに異なるソフトを使用していた。そこで全店で協議のうえ全社統一のソフトに入れ替えるのが望ましいという結論に至り、BIMへの対応から3次元設計が可能な建築設備CADの検討を進め、Rebro2013を基本設計時に使用するCADと決定するに至った。

「選考段階で1年間Rebro2011をレンタルして全社で試してみたのですが、利用者に行ったアンケートで非常に使いやすいという感想が多かったのです。結局、この現場の声が導入の決め手になりました。」と語るのは、東京本店 設計部 設備部門 設備8グループ長の中垣圭司氏。

それまで2次元CADを使用してきた同社の設備設計者にとって、3次元CADはあまり馴染みがない。使い方が分かりやすく、すぐに活用できるソフトであることは導入の必須条件だった。「設備のエンジニアにとっては、設備の納まり検討も重要な仕事ですが、その前段階に当たるシステム設計のほうがより重要です。3次元CADの操作に手間取って納まり検討に時間を取られると、システム設計の時間が削られてしまいますから、使いやすさを最優先に考えてRebro2013を選びました。」と中垣氏は振り返る。

また前出の能勢氏は「社内の従来の設備CADは、サブコン向けのものがほとんどで設備設計者向けではないという評価でしたがRebro2013は現状では最も設計向きと評価されました。」と語る。BIMを推進するためには設備設計者による設備モデル作成は大きなポイントであり、それを実現するためにも使いやすいRebro2013がふさわしいと判断したようだ。

設計部 設備部門 設備8グループ長 中垣 圭司氏

設計部 設備部門 設備8グループ長 中垣圭司氏

「導入前に1年間レンタルして全社で試してみたのですが、利用者に行ったアンケートでRebroは使いやすいという感想が非常に多く、採用の大きな決め手になりました。」

設計業務における3次元CADの活用

では、竹中工務店はRebro2013を具体的にどのように活用しているのか。大阪本店の取り組みを見てみよう。同社の大阪本店では2008年ごろより設計から施工に送る図面やデータの精度を高め、施工段階での生産性向上を目指す取り組みを行っている。その役割を担っている部署の一つが設計部 プロダクト部門だ。同部門のグループ長を務める有尾清二郎氏は実際の取り組みを次のように説明する。

「通常、施工部門は設計部門から送られてきた設計図を元に施工図を起こしますが、設計図そのものの整合性が十分でない場合、施工図作成段階で手戻りが発生します。これはプロジェクトのスケジュールやコスト、ひいては品質にも影響を与えます。これを解消するためにプロダクト部門が組織され、設計図からより施工図に近づけた施工図基図と呼ぶ納まり精度の高い整合性の取れた図面を作成し、施工図作成に生かしてもらう取り組みを始めました。」

設計部 プロダクト部門プロダクトグループ長 有尾清二郎氏 「今後は設計だけでなく、施工部門においてもRebroの活用を促したいと考えています。これを使いこなせれば設計施工一貫体制の強みが発揮できるはずです。」

設計部 プロダクト部門プロダクトグループ長 有尾清二郎氏

プロダクトグループは、言わば設計と施工の橋渡し的な役割である。しかし実際に施工図基図を作成する場合においても、設計図そのものの整合性が十分取れていないと調整に時間を要し、結局業務効率を向上することにはつながらないことが分かった。「問題を抜本的に解決するには、詳細設計完了段階の施工図基図作成にパワーをかけるのではなく基本設計段階に重点を置き、意匠・構造・設備の整合性の取れた納まり検討を行うことが重要と考えグループの活動をシフトしました。この検討を行うためには3次元CADが不可欠だったのです。」と有尾氏は語る。

設備設計者のニーズを知り尽くした機能が充実

現在、大阪本店では意匠・構造・設備の職種間での3次元モデルデータの共有・重ね合わせ体制が整っている。

設備設計者でありRebroのヘビーユーザである大阪本店 設計部プロダクト部門 プロダクトグループの松下文氏は「2次元図面では読み切れない他職種の図面を3次元で見ると理解が早いと感じています。意匠・構造の3次元モデルに配管やダクトの3次元モデルを重ね合わせて干渉チェックをし、干渉が生じた場合は他職種と打ち合わせを行うのですが、2次元図面での打ち合わせより、3次元図面での打ち合わせのほうが問題の見える化ができていることから、設備設計側から他職種への要望がスムーズに通ります。社内での合意形成にも3次元CADが力を発揮していると感じる瞬間です。」と語る。

設計部 プロダクト部門 プロダクトグループ 松下文氏 「Rebroは、設備設計者が求める機能を充実させようとする動きがあるのも嬉しいですね。またサポート体制もピカイチだと思います。」

設計部 プロダクト部門 プロダクトグループ 松下文氏

社内のみでなく社外のプロジェクト関係者と打ち合わせができるようになったことも業務効率の向上につながっている。

3次元CADを活用した設備の納まり検討の中心的役割を担う大阪本店設計部 プロダクト部門 プロダクトグループ 主任の端野篤隆氏は「従来の2次元図面では、完成後のイメージを読み解くには多大な労力と時間を費やしていました。Rebroは標準で登録されている部材が多く形状も作り込まれているので、部材を新たに作成する手間が省けリアルな3次元モデルの作り込みが可能となります。お客様にバーチャルな完成形をお見せすることで、竣工後のイメージや使い勝手が早い段階から検証可能となり、お客様に信頼と安心感を提供することができます。」と語る。この効果は建築設備CADとしてRebroを採用したからこそ最大限に発揮できているのではないかと端野氏は指摘する。

また松下氏は「Rebroはほかの建築設備CADに比べて操作が簡単であるだけでなく、描画がとてもスムーズでスピーディーです。勾配のある配管を優先した納まり検証も可能ですし、今後は設備設計者が求める機能を充実させようとする動きがあるのも嬉しいですね。現在、社内のRebroの技能者を増やすために年7回程度の講習を行っています。Rebroの持つ機能を最大限に引き出すために、ソフトメーカーのサポートも依頼していますが、サポート体制はCAD業界でもピカイチだと思います。」と語る。

設計部 プロダクト部門 プロダクトグループ 主任 端野篤隆氏 「Rebroの活用により干渉チェックやプレゼンテーションでの活用など幅広い生産性向上の展開が可能となってきます。」

設計部 プロダクト部門 プロダクトグループ 主任 端野篤隆氏

一方、有尾氏は「現在は設計だけでなく、設計で作成したデータを施工部門でも施工図作成や施工計画に活用していく一連の流れを実現する取り組みを行っており、そのためには施工部門においてもRebroの活用を促したいと考えています。このシームレスなデータ連携が可能になれば施工管理効率の向上や、積算機能を利用すれば発注部材の調達の無駄も省けコストダウンにつなげることが可能であり、設計施工一貫体制の強みの発揮も期待できます。」と語る。

竹中工務店は今後、BIMのデータをFM(ファシリティ・マネジメント)にも活用し、建物をライフサイクルでサポートしていく取り組みを目指している。

BIMを推進する同社では、新入社員を含めた設備系社員にRebroの操作研修を実施している

BIMを推進する同社では、新入社員を含めた設備系社員にRebroの操作研修を実施している