BIM/CIM動向

BIM/CIM、i-Construction、建設DXの動向

土木分野の3次元データやデジタル技術の利活用において、「BIM/CIM(ビム シム)」「i-Construction(アイ コンストラクション)」「建設DX(ケンセツ ディーエックス)」というワードがあります。どのワードもICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を駆使し、建設・土木業界の生産性向上、建設生産システムの効率化を目指すものであり、厳密に区別をする必要はありませんが、ここではその経緯や動向をご紹介します。

芳賀 百合

BIM/CIM

CIM(Construction Information Modeling, Management)は、2012年に国土交通省によって提言された建設業務の効率化を目的とした取り組みです。2016~2017年に「CIM導入推進委員会」が開催され、産官学が一体となり、ガイドラインを始めとする基準類の作成などの役割を果たしてきました。

一方で、海外では建築・土木分野ともにBIM(Building Information Modeling)として定義されており、日本でも「BIM/CIM」と名称が統一され、「CIM導入推進委員会」も「BIM/CIM推進委員会」と改称、体制を再構築し、具体的な施策の検討にあたってはWG(ワーキンググループ)を設置しています。

国土交通省は2012年度(平成24年度)に11件のCIM試行業務を実施、3次元データの作成とその利活用が始まりました。その後、2020年度(令和2年度)より段階的に実施されたBIM/CIMの原則適用は、2023年度(令和5年度)より小規模を除く全ての詳細設計・工事に適用、発注者が3次元データの活用目的を設定し、受注者はその内容を実施することになります。

国土交通省ウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000102.html)第9回 BIM/CIM推進委員会「資料1 令和5年度BIM/CIM原則適用について」より

発注者が設定する3次元データの活用目的は、義務項目・推奨項目から選択されます。

  • 義務項目は全ての詳細設計・施工に適用され、出来上がりの全体イメージや特定部の確認など、これまでBIM/CIMに触れた経験のない小規模事業者でも実施可能な内容が設定されています。
  • 推奨項目は一定規模・難易度以上の事業において、義務項目に加えて取り組みを目指すものです。3次元モデルによる解析などの高度な内容を含み、視覚化による効果は概略・予備設計も対象としています。また、該当しない業務・工事であっても積極的な活用が推奨されています。

このBIM/CIM原則適用により、3次元データの利活用の裾野が拡大されるでしょう。今後は「人の作業」から「コンピューターによる処理」へ、より高度なデータ活用に向けた検討が実施され、建設生産・管理システムの効率化が期待されます。

出典:国土交通省ウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000102.html)第9回 BIM/CIM推進委員会「参考資料2 義務・推奨項目(例)一覧」より

i-Construction

ICTの導入を促進し、生産性の向上と魅力的な建設現場を目指すため、2015年に国土交通省が提唱したのがi-Constructionです。「ICTの全面的な活用」「規格の標準化」「施工時期の平準化」の大きく三つの取り組みに分けられており、2017年には「i-Construction推進コンソーシアム」が設立され、産官学の連携のため、広く会員を募集しています。

また、建設業界はもちろん、業界を超えて社会全体から応援される取り組みへと「深化」するシンボルとして、2018年にi-Constructionのロゴマークが決定・公表されました。

出典:国土交通省ウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/index.html)「i-Construction委員会 報告書 概要資料」より

国土交通省のi-Constructionのウェブサイトには、ICT建設機械での施工やUAV・レーザースキャナーでの測量業務など、さまざまなICT土木事例集がまとめられています。

国土交通省 i-Construction

2017年度(平成29年度)には「i-Construction大賞」が創設され、地方公共団体やゼネコン・建設コンサルタント・ベンダー・メーカーなどの区別なく、優れた取り組みについて表彰する取り組みが毎年行われるようになり、2021年度(令和3年度)は計22団体(国土交通大臣賞5団体、優秀賞17団体)の受賞者が選ばれています。UAVの目視外飛行を行うための電波中継用UAVを使用した例など、その内容についての資料や動画も公開されていますので、ぜひ参考にしてみてください。

出典:近畿地方整備局 紀伊山系砂防事務所ホームページ(https://www.kkr.mlit.go.jp/kiisankei/news/)「UAV利活用検討業務が「i-Construction大賞」国土交通大臣賞を受賞!」より

  • *「i-Construction大賞」はこの取り組みをさらに拡大するため、2022年(令和4年)に「インフラDX大賞」と改称されています。

建設DX

DXは「Digital Transformation(デジタル トランスフォーメーション)」の略で、AI(人工知能)やIoT(あらゆるモノをインターネットに接続する技術)、クラウド(インターネットを使ったサービス)などのデジタル技術で人々の生活をより良いものへと変革することを指しており、建設業界にDXを取り入れることで、労務難や技術継承の停滞などのさまざまな課題の解決が期待されています。

国土交通省では「インフラ分野のDX」を掲げ、推進・加速するための組織として「DX推進本部」を設置、これまでのi-Construction の取り組みを中核とし、「インフラの利用・サービスの向上」と、業界内外が新たなインフラ関連産業として発展させる「関連する業界の拡大や関わり方の変化」の二つの軸により、デジタル社会の形成を目指しています。

出典:国土交通省ウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000073.html)「【分割版】(本文)インフラ分野のDXアクションプラン」より

2022年3月には「インフラ分野のDXアクションプラン」が策定されました。「行政手続きのデジタル化」「情報の高度化とその活用」「現場作業の遠隔化・自動化・自律化」を大きな柱とし、人の判断を支援するAIの開発を促進するなど、さまざまな個別施策がまとめられています。

出典:国土交通省ウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000073.html)「【分割版】(別冊)アクションプランに位置付ける個別施策集」より

最後に

ここでは、「BIM/CIM」「i-Construction」「建設DX」についての経緯や動向を紹介しました。2023年現在、「インフラ分野のDX」として国土交通省内で推進体制が組まれていることが分かりましたが、本質は表層的なDX化ではなく、DXを軸にした建設業界の展開・継続にあるでしょう。

社会全体が抱える大きな課題の一つとして、「2025年問題」としても危惧されている「人材不足」があり、省人化の推進やAIの活用による熟練技術の継承など、DXを活用した課題解決が進められています。

そして、そのDXを支えるには、最新技術を使いこなすための人材や環境が不可欠となり、研修による育成や、高性能のPC・さまざまなアプリケーションの準備などを考える必要があるでしょう。

芳賀 百合

初心者には分かりやすく指導し、上級者には1ランク上の使いこなし方を教えるインストラクターとして活動中。元は土木設計事務所のCADオペレーターでAutoCAD暦は20年。著書に「これからCIMをはじめる人のためのCivil 3D 入門」「だれでもできるAutoCAD 土木編」などがある。