個別指導で3次元CADのオペレーションを修得。製造現場と顧客への正確な設計情報伝達で生産性とCSが向上

有限会社アイエス産業

華やかなコンサートやイベントを舞台裏で支えている

業種
舞台装置製作業
事業内容
コンサート・イベント装置の設計・製作、各種文化施設の体験学習設備の製作、スクリューコンベアの製造・販売、工場などの省力機械の設計・製作・板金・製缶
従業員数
13名(2012年10月現在)
サイト
http://www.aiesu.jp/

導入事例の概要

大阪市を拠点とする有限会社アイエス産業は、著名な歌手のライブや、イベントで使用する舞台装置を長年設計・製作してきたユニークなものづくり企業だ。同社は業界に先駆けて3次元CADを導入したものの自社製品の設計業務に適用できない状況が続いていた。そんな状況を打破すべく大塚商会にマンツーマンの指導を依頼。結果「Autodesk Inventor」に標準装備されているフレーム設計機能「フレームジェネレータ」を使いこなし、国内有数の使い手となった。そのスキルは生産性や顧客満足度の向上に着実に成果を上げている。

導入の狙い

  • フレーム設計に最適な3次元CADの活用。

導入システム

  • Autodesk Inventor
  • MetaCAM

導入効果

  • 製造部門や取引先とのコミュニケーションが円滑化。
  • 生産性が2倍にアップ。
  • 顧客満足度の向上で継続的な受注に結びつく。
  • CAD/CAM連携で製造工程の作業効率がアップ。

日本初の舞台装置を数多く製作。文化施設の体験学習設備も手がける

有限会社アイエス産業は1963年に生山鉄工所として設立された。鉄工所で培った技術力をベースに独創的なアイデアを駆使し、有名アーティストのコンサートツアーなどの舞台装置を数多く手がけている。

同社はツアーの演出に適した舞台装置を長年にわたって設計・製作し、ツアーの成功に寄与してきた。例えば、舞台下から演者が勢いよく飛び出す「ポップアップリフト」、屋外イベント時に雨による誤作動を防ぐ「手動式ターンテーブル」を日本で初めて実用化したのも同社である。最近では、トップアイドルのステージで使用された曲線階段なども手がけている。また、スケートアイスショーの客席を設計・製作し、それをビーチバレーの客席に流用するといった工夫も行っている。

こうした卓越した技術力が認められ、各種文化施設からも声がかかり子供たちが遊びながら科学の知識が得られる体験学習設備などの設計・製作も行うようになる。コンサートやイベントの舞台装置は夏休みや年末に仕事の依頼が集中し、逆にそれ以外の季節は仕事量が減少する。体験学習設備は季節に影響されず、通年での受注が見込める新たな事業の柱の一つだ。

また同社はもともと鉄工所なので、建設現場での足場や角パイプ階段などの工場設備の設計・製作でも定評がある。舞台装置、体験学習設備、工場設備の3本柱による安定したビジネス基盤を確立している。ただし舞台装置に関してはテレビ局の撮影セットなどを手がける大手の舞台美術会社が本格参入したこともあり、現在の受注案件は形状が複雑で高度な技術を要するものが中心となっている。

「知らぬ間に当社の装置の機構をまねされてしまったケースもありましたが、大がかりな舞台設計はリスクが伴います。会社の規模を考えると全国のコンサートツアーに同行することも難しいので、仕方なくこちらから手を引いた形です。今では大手の舞台美術会社も得意先の一つとなり、業界内でうまくすみ分けをしています。」と代表取締役の生山陽一氏は語る。

このように着実な歩みを続ける同社だが、リーマン・ショックの直後は、ほかの企業と同様に受注量が減少した時期もあった。その際に地元の信用金庫から経営コンサルタントを紹介され、同社が所有している生産設備などの強みを活かした経営革新に着手。経営理念や実績、設備などを記載したホームページを開設し、情報を積極的に発信。さらなる受注拡大に向け広報活動に力を入れている。

代表取締役 生山陽一氏

代表取締役 生山陽一氏

「業界内で3次元CADを活用しているところはほとんどないので、他社よりも5年くらい先を進んでいるとよく言われます。当社だけではなく、仕事を発注してくださるお客様も3次元設計を行うようになれば、仕事がさらにやりやすくなるでしょうね。」

マンツーマンの指導を受けフレーム設計の実践方法を修得

同社は業界内におけるCAD活用の先駆者でもある。パソコンのOSがMS-DOSの時代から2次元CADを有効活用しており、大手得意先が驚いて見学に来たほどだ。3次元CAD/CAMも17年ほど前に導入している。当時、1000万円ほどする高額な製品だったが、これからは3次元による立体的な設計が必要になると直感したのだ。

ところが当時の3次元CAD/CAMは使い方が難しく、メーカーに電話で質問しても的確な回答が得られず、結局ほとんど使えない状態が長年続いた。その後、板金用に特化した3次元CAD/CAM「Meta CAM」が登場し、同社の業務内容に適していることから導入を決意。さらに3次元メカニカル設計CAD Autodesk Inventor(バージョン6)も新たに導入し、あらためて3次元設計にチャレンジする。しかし、すぐに3次元設計が軌道に乗ったわけではなかった。

「3次元CADに関しては、まったくの初心者だったので、マニュアルを見ながら基本的な操作は行えるようになったのですが、当社の実案件の設計にうまく応用できず、しばらく使えない状態が続いたのです。」とCADによる設計を担当する生山明子氏は語る。

そうこうしているうちに、同社のものづくりの基本となるフレーム設計に最適なフレームジェネレータという新機能がAutodesk Inventorに標準実装される。これを使えば間違いなく自社の設計業務が楽になると考え、Autodesk Inventor 2010に移行した。

早速、複数のCADスクールに通いフレームジェネレータの修得を試みる。しかし、どこも判を押したように同じ公式認定マニュアルをベースにした研修内容だったため自社の業務に適用できず、実案件で設計するまでにはいたらなかった。どうにもならない状態の中で、生山社長は大塚商会に相談した。営業から受けた提案がAutodesk Inventorに精通したエンジニアによるマンツーマンの指導だった。

「約1年間にわたって指導を8回受けました。こちらが何を描きたいのか伝えたうえで、実案件をベースにフレームジェネレータの初期設定や使い方を事細かに教えていただきました。また、たよれーるのリモートサポートも利用していたので、何か分からないことがあると、ネット越しに同じ画面を共有しながら具体的な操作手順を教えてもらえたことも大きな力になりました。何と言っても『知りたいこと』をその場で教えてもらえることが修得の一番のポイントです。」と生山氏は語る。ついに念願の3次元CADを自分のものにしたのだ。

CAD担当 生山明子氏

CAD担当 生山明子氏

「大塚商会さんの個別指導とリモートサポートのおかげで、Autodesk Inventorのフレームジェネレータを使いこなせるようになったのです。オリジナルのマニュアルには、そのノウハウがびっしり詰まっています。」

設計意図を正確に伝える3次元図面で生産性が従来の2倍にアップ

同社のステージや階段を設計する際、角パイプやチャンネル(溝形鋼)などさまざまな形状のフレーム(骨組み)を用いる。フレームの形や大きさを自在に調整できるAutodesk Inventorのフレームジェネレータは、同社にうってつけの機能だった。

その使い方は非常にシンプルだ。まず、あらかじめ用意されているチャンネルやH鋼など、フレームの形状を選択。次にそれらの長さや、接合部分を指定し図面を作成していく。「フレームジェネレータを使えば、チャンネルやH鋼などのフレーム部材を一から設計する必要がありません。曲線階段のような複雑な形状の図面でも、部材の長さや角度などの仕様が決まれば、ものの2時間くらいで3次元の設計図面が完成します。」と生山氏はフレームジェネレータの活用メリットを実感している。

フレームジェネレータで顧客にも製造現場にも伝わりやすい図面を作成している。

フレームジェネレータで顧客にも製造現場にも伝わりやすい図面を作成している。

さらに同社では作成した3次元データをMeta CAMで取り込み製造用のNCデータを作成している。これにより、フレーム部材のレーザー切断や曲げ加工などが素早く行えるようになり、設計から製造にいたる一連の作業効率が大幅にアップしている。また、3次元の形状を把握するためのイラスト図(アイソメ図)を容易に作成できるようになったことで製造部門のスタッフに完成イメージが正確に伝わるようになり、生産性が飛躍的に向上している。

「平面図では、角パイプ同士がどのように接合されているのかなど分かりづらい部分が多いため、以前は手書きのイラストで接合部分の細かな指示を出していました。しかし今は、自由な角度から接合部分の詳細を見ることができます。手書きする手間が省け、製造部門のスタッフがすぐに仕事を始められるようになり、製造ミスや手戻りが大幅に減少しました。その結果、納期も短縮できるようになったので、生産性は以前に比べて2倍くらいアップしていると思いますね。」と生山社長は語る。

また生山氏は、Autodesk Inventorを導入したことで製造部門の負担を軽減する設計が行えるようになったと話す。「全体の寸法を決め、その後個々のフレーム形状を作っていくという、実際の製造現場と同じような手順で設計していきます。そのため製造部門の苦労が理解できるようになったのです。設計段階で手間のかかることは、製造工程ではそれ以上に手間がかかるので、なるべくシンプルな設計を心がけています。」

だれが見ても一目で形状が把握できるアイソメ図は、取引先とのコミュニケーションを円滑化し経営面でもプラスに作用している。「お客様からはどういう仕上がりになるのか確認したいのでイラストでもいいから提示してほしいと以前から言われていました。ところが、手書きのイメージ図では伝わりにくいことが多々あります。しかし、アイソメ図をお見せすれば細かな部分も確認できるのでお客様から好評です。正直、3次元設計が軌道に乗るまでは長い道のりでしたが、今では当社の強みの一つとなり継続的な受注に結びついています。」と生山社長は語る。

全社員がAutodesk Inventorを活用できるようマニュアルを作成

同社では全社員がAutodesk Inventorを活用できるようにするために、その使い方を分かりやすく記した独自のマニュアルを作成している。一般的なマニュアルとは異なり、操作手順を細かく示したイラストや親しみやすい漫画を加え、日常会話のような文体で飽きさせない工夫が随所に施されている。「今回作成したマニュアルは、大塚商会の個別指導でメモしたことをまとめたものです。社長の強い要望により、だれでもすぐに使えるように自分で漫画も描いて作り上げました。」と生山氏は話す。

現在、その貴重なマニュアルは生山氏のブログに公開されており、Autodesk Inventorのユーザの間で好評を博しアクセスが絶えない。今後はオリジナルの操作マニュアルを使ってAutodesk Inventorを使いこなせる社員を増やしながら、同時に3次元データの管理にも本腰を入れる。具体的には、3次元図面を社内の共有資産として有効活用できる環境として「Autodesk Vault」の活用を計画中である。同社の3次元CADの活用は、加速度を増していく。

Autodesk Inventor(オートディスク インベンター)なんて本当につかえるのかぁ?

公開されているオリジナルのマニュアル。徹底して初心者の目線で書かれており分かりやすい。

公開されているオリジナルのマニュアル。徹底して初心者の目線で書かれており分かりやすい。