有限会社アイエス産業は1963年に生山鉄工所として設立された。鉄工所で培った技術力をベースに独創的なアイデアを駆使し、有名アーティストのコンサートツアーなどの舞台装置を数多く手がけている。
同社はツアーの演出に適した舞台装置を長年にわたって設計・製作し、ツアーの成功に寄与してきた。例えば、舞台下から演者が勢いよく飛び出す「ポップアップリフト」、屋外イベント時に雨による誤作動を防ぐ「手動式ターンテーブル」を日本で初めて実用化したのも同社である。最近では、トップアイドルのステージで使用された曲線階段なども手がけている。また、スケートアイスショーの客席を設計・製作し、それをビーチバレーの客席に流用するといった工夫も行っている。
こうした卓越した技術力が認められ、各種文化施設からも声がかかり子供たちが遊びながら科学の知識が得られる体験学習設備などの設計・製作も行うようになる。コンサートやイベントの舞台装置は夏休みや年末に仕事の依頼が集中し、逆にそれ以外の季節は仕事量が減少する。体験学習設備は季節に影響されず、通年での受注が見込める新たな事業の柱の一つだ。
また同社はもともと鉄工所なので、建設現場での足場や角パイプ階段などの工場設備の設計・製作でも定評がある。舞台装置、体験学習設備、工場設備の3本柱による安定したビジネス基盤を確立している。ただし舞台装置に関してはテレビ局の撮影セットなどを手がける大手の舞台美術会社が本格参入したこともあり、現在の受注案件は形状が複雑で高度な技術を要するものが中心となっている。
「知らぬ間に当社の装置の機構をまねされてしまったケースもありましたが、大がかりな舞台設計はリスクが伴います。会社の規模を考えると全国のコンサートツアーに同行することも難しいので、仕方なくこちらから手を引いた形です。今では大手の舞台美術会社も得意先の一つとなり、業界内でうまくすみ分けをしています。」と代表取締役の生山陽一氏は語る。
このように着実な歩みを続ける同社だが、リーマン・ショックの直後は、ほかの企業と同様に受注量が減少した時期もあった。その際に地元の信用金庫から経営コンサルタントを紹介され、同社が所有している生産設備などの強みを活かした経営革新に着手。経営理念や実績、設備などを記載したホームページを開設し、情報を積極的に発信。さらなる受注拡大に向け広報活動に力を入れている。