「Autodesk Inventor Professional(以下Inventor Pro)の導入は約2年前。Inventor Fusionに特別の不満はなく2D図面作成にやや手間がかかる程度でしたが、実際にInventor Proを使い始めると、今まで気づかなかった多くの問題にさかのぼって気づかされたんです。良いツールを使ってみて初めて、実はもっと便利に効率化できるのだ、と分かった時はとても驚きましたね。」
Autodesk Inventorを駆使して創造する新たなものづくりの形「ひとりメーカー」
ビーサイズ株式会社
導入事例の概要
実用性と美しさを兼ね備えたLEDデスクライト「STROKE」。世界的に有名なドイツのデザインアワードやグッドデザイン賞を受賞し大きな注目を集めた。企画から量産設計までたった一人で作りあげた背景にある、ひとりメーカー・八木啓太氏が選んだCADソフトとは?
導入システム
- Autodesk Inventor
デザインとエンジニアリングの融合
2012年、一つのデスクライト製品が大きな話題を呼んだことをご記憶だろうか。2011年末に発売されたSTROKEである。親指の太さにも満たない細いパイプを折り曲げたシンプルな形状と環境負荷を抑えた構造、自然光を忠実に再現したLEDデスクライトとして世界最高水準の光。まさに実用性と美しさを兼ね備えたこのSTROKEは、発売から数カ月で初期ロットを完売。さらに世界的に有名なドイツのデザインアワードや日本のグッドデザイン賞を受賞し、注目を集めたのである。そしてその開発背景を知らされた時、私たちはさらに驚くこととなった。STROKEは、開発元であるビーサイズ株式会社(以下、ビーサイズ)代表の八木啓太氏が、企画から回路/筐体設計、試作、各種試験に量産設計まで、たった一人で作りあげた製品だったのである。以来、八木氏はひとりメーカーと呼ばれるようになった。
「学生の頃、デザインをきっかけにものづくりを志しましたが、エンジニアリングを理解していなければ良いデザインはできない、という思いがあったのでどちらも勉強しました。そのうち両者を融合させて作業できるようになり、今では頭の中でデザインとエンジニアリングを同時に進めるのが、私の自然なスタイルとなっています。」
デザインエンジニアと呼ばれる八木氏のようなタイプの開発者は、日本ではまだまだ少数派だろう。だが、まさにこの開発手法こそがひとりメーカーと呼ばれる八木氏が創り出した新しいものづくりスタイルの基盤の一つとなった。そして、そのデザインエンジニアとしての開発作業になくてはならないメインツールが、オートデスクの3次元CAD製品だったのである。
「通常はデザイナーがデザインソフトで描画し、そこから設計者がCADで具体的な部品に落していきますよね。つまり、別々の人間が別々のツールで、別々に作業しているわけです。ところが私はデザインと設計を同時に行うので、ソフトも同じものを使いたいと考えました。そこでビーサイズ設立時に私の希望を叶えてくれる3次元ソフトはないかと探し、出会ったのがオートデスク製品でした。」
八木氏が一人でビーサイズを設立した当初は、経費を抑えるためトライアル版の3次元モデリングツールAutodesk Inventor Fusionを使用していた。独立前に別の企業に勤務していた時は他社CADを使っていた八木氏にとって、それが初めてのオートデスク製品だったが、導入自体は極めてスムーズだったという。
「ほかのオートデスク製品もそうですが、操作が直感的で違和感なく覚えられるのです。以降ずっとこれで作業していましたが、デザインと設計を行き来しながら進めていく私の開発スタイルに合っていて、とてもやりやすかったですね。この感想は今使っているAutodesk Inventor Professionalにも共通しています。」
代表取締役 デザインエンジニア 八木啓太氏
「InventorのようなCADの最も素晴らしい点は、それが一種のプラットフォームになり得るということです。Inventorという共通のツールによって、皆が同じようにデータに触れて編集することができる。つまり、CADとデータさえあれば誰もが作り手としてものづくりに参加できるのです。このようなものづくり環境の要となるインターフェイスこそ3DCADであり、その活用によってものづくりの進化が劇的に加速します。」
設計者の思考の流れに寄り添うAutodesk Inventor Professional
つまり、Inventor Proの導入により、それまではっきりと意識していなかったCAD操作における多くの限界が魔法のように消え去った、というのが八木氏の実感だった。自然な形で作業速度が向上し、開発者として視界が大きく開けたのである。このことがInventor Pro全体のパフォーマンスの高さを示しているのはもちろんだが、中でもその設計支援機能により、設計作業そのものが大きく効率化された、と八木氏は言う。例えばマウスを動かす頻度と大きさは設計の速度に直接影響する。Inventor Proの設計支援機能により、この問題が一挙に削減されたのだ。
「形状を変更したい時、ポインターをコマンドに持っていって選択し、戻して再度クリック、と操作していたのが、マウスを動かさずにその場で処理できるようアシストしてくれる。こうしたケースが幾つもあって、多くのボトルネックが解消されたのです。結果、脳の意識の多くをCAD操作に割く必要がなくなり、設計やデザインへ集中的に意識を向けることができるようになったのです。」
Inventor Proが素晴らしいのは、こうした作業環境の進化を使い手に全く意識させずに実現していることだ、と八木氏は言う。使い手が今までどおり使うだけで、一切の変化を感じさせないまま作業効率や設計品質を向上させるのである。
「自分がCADを使っていると意識させないくらい自然に使える、しかも効率は上がる…。良いCADってこういうものなんだ、と思いました。」
充実しつつある「ひとりメーカー」の環境
ヒット商品のSTROKEに続き、ユニークな木製ワイヤレス充電器「REST」で話題を呼んだビーサイズは今年で創業4年目を迎えた。新たにスタッフも加わりひとりメーカーを脱した同社は、いまや新たな一歩を踏み出そうとしている。既に注目を集め始めている新製品STROKE 2も本年中の発売を目指し、開発は最終段階を迎えている。
「STROKE 2は、新しいLEDと、制御系を採用して光のクオリティを一段と向上させました。仕様においては、プラグ差込部や端部の処理、オン・オフマークの光なども美しく仕上げています。またカラーも要望の多かったブラックを追加しました。」そして実はこのSTROKE 2に続く第3の新製品も開発が始まっている。詳細はまだ明らかにできないが、新事業ともいうべき戦略商品なのだという。また、ビーサイズの商品は海外での評価が高く、STROKE 2で本格的に世界を目指そうとしている。
「今後は海外の販路や規格などへの対応も含めて、戦略的に取り組んでいく計画です。製品もこれまでよりもメカリッチなものになり、形状も複雑になるでしょう。Inventor Proの実力を一層発揮してもらえそうなので、大いに期待しています。」
ヨーロッパと北米の市場を目指すこの新プロジェクトは、2016年度中の製品完成を目指して着々と進行中だ。起業からわずか4年で、同社は驚異的な成長を遂げた。だが、自分のようなケースは、むしろこれからどんどん増えていくはずだと八木氏は考えている。
「ひとりメーカーは、私の独立当時よりはるかに実現しやすい環境になっています。例えばWeb上で公開されている設計情報やモジュールを使って設計し、3Dプリントや試作サービスで試作。製造インフラも、共有されている製造設備や製造ラインの提供サービスを活用すれば、PC1台で誰でも家電メーカーになれるのです。もちろんCADも最初は簡易モデリングツールなどを使ってスタートし、業務も軌道に乗りハイグレードな設計が必要になってきたら上位製品を入手すると良いでしょう。オートデスクはそれを高い投資効果で実現する多彩なツールを提供していますし、環境はこれ以上ないほど整っています。興味がある方は、積極的にトライして新しいものづくりを経験していってほしいですね!」