ノートPCで3DCADを見ながら検討、データ交換の効率化、設計ミスの低減、納品までのリードタイムの短縮化が実現

加藤電機株式会社

加藤電機株式会社は、ヒンジの設計・開発などを行う会社で、横浜に本社を持ち、大阪に営業所を、さらに台湾や香港、上海などに関連会社を保有するなど、グローバルな事業展開を行っている。近年同社では、海外の協力メーカーとの共同開発や設計検討の機会が増えてきており、アジアの重要拠点と日本国内のシステムとの統一化が必要になってきていた。そこで、同社ではヒンジの設計・開発の中枢であるCADシステムの3次元化を行い、海外との連携業務の効率を向上することに成功している。さらに、データを有効活用するとともに、業務ミスの低減化を実現した。

本ページは大塚商会が発行している 「αソリューション」 から転載したものです。

加藤電機株式会社では、複写機用ヒンジや携帯電話用ヒンジなどの設計・開発を3次元CADを使用し行っている

導入事例の概要

導入の狙い

  • 3DCADの導入で、海外との業務連携を進め、設計作業の効率化を図る

導入システム

  • Autodesk Inventor Series
  • 板金部品見積りシステム「COSMOSDesignSTAR」

導入効果

  • ノートPCで3DCADを見ながら検討、データ交換の効率化、設計ミスの低減、納品までのリードタイムの短縮化が実現

時代の要請とともに歩んだヒンジの歴史

加藤電機株式会社では、ノートPCや携帯電話などに用いられるヒンジ(特殊蝶番)を取り扱っている。中でも、レコードプレーヤーの蓋の部分に取り付けられているヒンジについては、世界の9割ものシェアを獲得していた、ヒンジのトップメーカーである。しかし、時代の流れはアナログからデジタルへと急速に移行し、レコードプレーヤーはCDプレーヤーに取って代わられ、同時にヒンジが使われる製品も大きく変わってきた。

そのような状況下、同社は既存技術の複写機への展開を試み、会社の成長とともに、その他にもさまざまな製品への展開を実現してきた。そして、アイテム数は増加し、今では複写機のみならず、液晶ビデオカメラやノートパソコン、携帯電話などのさまざまなツールに、同社の製品が組み込まれている。

さらに同社では、1986年より台湾での現地生産をスタートし、1993年からは中国の深での生産に取り組んできている。その後、日本の大手事務機メーカーが相次いで中国などで事業展開をするなどの動きに伴い、台湾、中国などに進出したメーカーの生産拠点に対し、同社が現地で生産した部品を、そのまま供給できるというビジネスモデルを確立していった。同社にとって、こうした海外の現地企業との太いパイプは大きな強みでもある。そして、ヒンジに特化した専門メーカーとして、海外との連携はますます強まっている。

携帯電話などに使用されるヒンジ

海外拠点の強い要望でCADの3次元化を図る

海外メーカーや国内メーカーの海外拠点との取引が増加するとともに、同社に対する3次元CAD対応への要望が増加してきたという。それというのも、台湾や中国などでは、既に3次元CADが普及していたからに他ならない。「海外では、既に3次元CADが主流となっていました。5年ほど前から、アジアの拠点から、日本ではなぜ3次元CADを使っていないのか、と言われる状況でした。そして、部品の設計開発において、海外の拠点と国内との間でデータ交換などの際に、システムが統一されていないために、作業に支障をきたすこともありました」と開発設計部部長代理の橋本 隆之氏は語る。

そこで同社では、海外拠点とのシステム連携を図るため、2003年1月頃から3次元CADの導入に向け、具体的なシステム導入の検討を始めた。「当社ではもともと『AutoCAD』を使っていました。そこで、そのデータをうまく使い、3次元化に応用できれば導入コストを抑えることができる方法はないか、大塚商会さんにご相談し、今回のシステムをご提案いただきました」と開発設計部第二課技師補の田島 秀哉氏は当時の模様を語る。大塚商会からの提案で同社が選定したシステムは、『Autodesk Inventor Series』だった。

『Autodesk Inventor Series』は3Dメカニカル設計のためのソフトウェアで、同シリーズには『AutoCAD』をベースとした、2Dメカニカル図面作成機能搭載の『AutoCAD Mechanical』や、設計データの管理機能に有効な『Autodesk Vault』などが含まれる。同社ではこれらのツールを使い、2次元CADから3次元CADへの移行を進めた。そして、海外とのシステムの連携を強化するとともに、CADデータを営業管理部門や生産技術部などの他部門へも活用することが、新システム導入の大きな目的であった。

「しかし、社員は2次元CADに慣れていましたから、相当反発がありました」と田島氏は語る。そこで、同社では大塚商会による企業スクールを開催し、研修を行うことで、社員のスキルアップを図った。「オリジナルで部品の設計を行う場合、どうしても設計面で応用が必要となる部分が出てきます。そうした操作などが、どうしても分からないような場合でも、大塚商会さんのヘルプデスクを利用するなど、随分と助けていただきました」と田島氏は続ける。

導入当初は、従来の『AutoCAD』と『AutoCAD Mechanical』を併用していたという。「平日には、なかなか研修を実施できないため、毎週土曜日に研修を行うなどして、新しいシステムの浸透を進めてきました」と橋本氏は語る。2003年9月時点の『Autodesk Inventor』の使用率はわずか2割ほどだったという。その後、大塚商会による問題点のヒアリングやフォローアップを受け、導入後1年ほどで運用が軌道に乗ってきたという。

その他、営業管理部門には、板金部品見積りシステムを導入している。この板金見積りシステムは、『AutoCAD Mechanical』をベースとしており、板金部品の展開図から見積りを作成できるように、カスタマイズされている。「このシステムの導入にあたっては、CADデータをベースにして、見積りに使用する元データを作成しようという、会長の判断がありました。ところがそれを実現するためには、まず3次元CADを使いこなす必要がありました。そこで、社員は3次元CADの利用に、積極的に取り組むようになり、結果的には、トップの判断が新システムの運用を後押しし、社内に良い影響を与えたということです」と橋本氏が、当時の社内の様子を語る。

このような努力が実を結び、今では部品の試作なども『Autodesk Inventor』で行うほど、設計の主力として使われるようになった。

『Autodesk Inventor Series』を導入し、CADの3次元化を実現している

開発設計部部長代理 橋本 隆之氏

「2次元CADから3次元CADにしてみますと、設計図面そのもの以上に、コミュニケーションのあり方まで変わりました。これは大きな効果だと思います。今後も、さまざまな無駄を省き、業務の効率化に取り組みたいと思います」

3次元データの活用によりさまざまな波及効果が目に見える

今回のシステムの導入効果としては、成型部品の肉抜きや、板金展開図を3次元で確認できるようになったことが挙げられる。「2次元では表現が難しかった板金などの部品は、実際に設計通りになっているかどうかの確認に、時間がかかっていました。しかし、『Autodesk Inventor』を使うことで、仕上がりに近いイメージをあらかじめ確認することができるようになりました。その上、ヒンジを組み込んだ後の機器の開閉動作や、滑り動作のシミュレーションもできますから、設計上のミスを早期に発見することができるようになりました」と田島氏はその便利さを語る。

さらに、海外の顧客などには、ノートパソコンにソフトをインストールして持って行き、現地で実際に目の前で設計を確認しながら打ち合わせをすることができるということも特長だ。「海外で修正箇所が出てきた場合、すぐにメールで設計者に修正を依頼し、日本に戻ってきたときには、修正された新しい図面ができているようになりました。このように、業務のスピードアップにも役立っています」と橋本氏が、海外との連携の強化について語る。

「取引先企業からのデータは大体3次元で来ますし、部品の試作も、業者に3次元データを渡して作ってもらいます。2次元データを使っていた頃に行っていた、モデリングという手間が、3次元データを渡すことにより、省略することができます。これにより、試作ができるまでの時間も短縮されますし、それにかかる人件費も節約できます」と橋本氏は語る。このような時間短縮により、最終的には、顧客への部品納入までにかかるリードタイムが短くなり、同社の競争力の向上にもつながるのである。

開発設計部第二課技師補 田島 秀哉氏

「『Autodesk Inventor』を導入したものの、導入の進捗が思うように捗らず、一時はどうなることかと思いました。しかし、大塚商会さんのサポートもあり、充分に活用できるようになり、助かりました」

品質のさらなる向上を目指し構造解析ツールを導入

「大塚商会さんには、『Autodesk Inventor』の導入にあたり、オペレーションにかかわる社員全員に対して、まとまって教育を受ける機会を作っていただくなど、教育や講習会などで、きめ細かく対応していただきました。講習を受けた後は、OJTで実際にシステムを使いながら、オペレーション技術を学んでいくという形で、運用を行っています」と田島氏は語る。「ITスキルの社内温度差を少なくし、社員全員が新しいシステムについて習熟できるようにしたいですね。そのためにも、大塚商会さんの手助けは今後とも必要です」と橋本氏は語る。

3次元ハイエンドCADを使って制作した新製品『スペースラインセプタス』

このように、大塚商会のサポートのもと、同社では次々とシステムを導入している。その一つとして、さらなる品質の向上を求め、2004年には構造解析ツール『COSMOSDesignSTAR』を導入している。これは『Autodesk Inventor』との連携機能を備えた、プロダクトモデルの構造解析をするためのツールだ。

「『COSMOSDesignSTAR』はまだ完全に使いこなせているわけではありません。まずは、使いこなせるようになることが当社の課題ですね」と田島氏はシステム活用に意欲を見せる。

現在、同社では設計部や生産技術部において、『Autodesk Inventor』はフル稼働している。「システムを導入したことにより、どれだけの効果が出たかということについては、今後その評価が目に見えて出てくるのではないでしょうか。その結果を踏まえた上で、さらに大塚商会さんには、今後のシステム導入のご相談をさせていただきたいと思っています」と橋本氏は語り、大塚商会の今後の提案にも期待を寄せている。

加藤電機株式会社

業種製造
事業内容摺動技術応用製品の設計・開発・製造・管理・調達および販売
従業員約70名
サイトhttp://www.katohem.co.jp/