株式会社新高製作所
- 業種
- 建築装飾金物製造
- 事業内容
- ステンレス、アルミ、ブロンズ、スチール、鋳造品などを使ったサッシ、スクリーン、内装パネル、ひさし、手すり、レリーフなど高級建築装飾金物全般の設計・製造・販売
- 従業員数
- 60名(正社員、2012年12月現在)
- サイト
- http://www.niitaka-ss.jp/
導入事例の概要
株式会社新高製作所は、大型建築物に使用される建築装飾金物全般をオーダーメイドで設計・製作している老舗企業だ。25年前からCADを使い続けているパイオニアでもあり、今回「Autodesk Inventor」のモデリングデータをベースにした音響解析システムを構築し、光や風よけに使用するルーバーの風切音の解析を設計段階で実現するなど、業界に先駆けた取り組みを実践。同時に免震対応製品の強度解析なども本格的に推進し、試作品による実験を行う手間を省き、設計から納品に至るリードタイムやコストを大幅に削減することに成功している。
導入システム
- 3次元CAD Autodesk Inventor
- 音響解析システム
- 遠隔地リモートアクセスサービス
導入効果
- 3次元モデルによるプレゼンテーションで営業力を強化。
- 空気の流れや風切音、強度の解析を実現。
- 試作品製作のコストと時間を大幅に削減。
建築装飾金物を受注生産。近年は免震対応製品に注力
株式会社新高製作所は1931年の創業以来、建築装飾金物の設計から製作・施工まで一貫して対応している老舗企業で、関西の同業者の中では最も古い歴史を持つ。その卓越した技術力は、主要な取引先である大手ゼネコン各社から高く評価されている。手がけている建築装飾金物はサッシ、フェンス、ひさし、手すり、ら旋階段など多岐にわたり、その素材もステンレス、アルミ、ブロンズ、スチール、鋳造品など多種多様だ。同社は高層マンションなどの大型建築物に使用される建築装飾金物全般をオーダーメイドで設計・製作し、各建物に最適化された一品ものを中心に手がけている。
拠点は大阪本社、東大阪工場、岡山工場、東京営業所があるほか海外に中国工場を有し、自社生産体制を確立する一方で、当初の事業エリアは製品の取り付け作業までワンストップでできる関西中心だったが、体制を整え5年ほど前から首都圏に本格的に進出。その後、活躍の場を中国・四国・九州などにも広げている。「建築業界は全体的に縮小傾向にあり、関連製品の単価も大きく下がっています。そうした中ほかの企業では技術的に対応できない付加価値の高い製品を開発し、同時に商圏を徐々に拡大することで業績を着実に伸ばしています。」と代表取締役 社長の吉谷 忠久氏は語る。
高付加価値の建築装飾金物製品としてここ数年、特に力を注いでいるのが「ルーバー」と「免震エキスパンションジョイント」だ。ルーバーは、光や風をさえぎりプライバシーを保護する製品で、主に建物の外壁や天井などに設置される。一般的には、アルミ建材メーカーのカタログの中から既成品を選んで取り付けることが多いが、同社では建物の構造に合ったものをオーダーメイドで生産できるのが大きな強みだ。
一方、免震エキスパンションジョイントは、安全性と機能性を重視した防災製品。建物の床や壁、手すりなどの内側に可動する金属カバーを取り付けることで地震による揺れを吸収する効果がある。同社はその製品開発に2003年からいち早く取り組み、特許を取得するなど多くのノウハウを蓄積してきた。岡山工場と中国工場に実験用の免震装置も設置しており、大手ゼネコンの要請を受けて設計協力も行っている。
「特に東日本大震災後は需要が拡大し、公共の建物はほとんど免震構造になっています。今年から震災復興も本格的に始まっているのでそのニーズはますます広がっています。そのため新たな事業の柱にするべく、現在最も力を入れて取り組んでいるのです。」と吉谷氏は語る。
代表取締役 社長 吉谷 忠久氏
「当社の強みは、建物に合った建築装飾金物をオーダーメイドで設計・製作できる技術力があること。試作品を作らずに構造解析などが行えるようになり、納期やコストを大幅に圧縮できたことは大きな成果です。」
プレゼンテーションから各種解析へ。3次元モデルの活用範囲を拡大
同社は、25年前のMS-DOSの時代に「AutoCAD」を大塚商会から導入し、国内企業の中でいち早くCADを使った2次元設計に移行。以来、過去のデータ資産を活かせることからAutoCADシリーズをバージョンアップしながら使い続けている。7年ほど前からはAutoCADを用いた3次元設計も一部行うようになった。その後、BIM対応の建設業向け3次元CAD「Autodesk Revit」を1ライセンス導入。さらに製造業向けの3次元CAD Autodesk Inventorを6ライセンス導入し、本格的な3次元設計環境を整えた。
同社が3次元設計で主に利用しているのはAutodesk Inventorで、その導入時には大塚商会の講習会に本社の設計者4名が参加し、日常業務をこなしながら3次元のモデリングや構造解析などのやり方を習得していったという。現在も大手ゼネコン各社とは2次元データでやり取りすることが多いため、形状が比較的シンプルな建築装飾金物は2次元設計で行っている。しかし、免震エキスパンションジョイントやルーバーは形状が複雑なので、Autodesk Inventorを使って3次元モデルを作成し、得意先へプレゼンテーションを行っている。3次元モデルは内部構造が一目で分かるため、効果は絶大だという。
さらに、3次元モデルの利用範囲はプレゼンテーションにとどまらない。活用が進むにつれ徐々にルーバーの風切音の解析や免震エキスパンションジョイントの強度解析など、各種解析にも活用されるようになった。
「昔は、受注元のゼネコンさんや設計事務所が構造計算を行っていたのですが、ここ数年はメーカー側に構造計算も依頼されるケースが増えてきました。しかし、これは決してマイナス要素ではありません。むしろ建築基準法などに準拠した構造解析をきちんと行っている高品質の製品であることをアピールできる絶好のチャンスだと前向きに捉え、3次元モデルを使った構造解析を本格的に始めたのです。」と設計部 部長の松岡利次氏は説明する。
設計部 部長 松岡 利次氏
「ネット社会ではIT機器が相互に連動しているので、大塚商会さんには、CAD以外にも通信インフラや複合機など総合的にサポートしてもらっています。今後も当社の業務改善に役立つ最先端の情報をいち早く提供していただきたいですね。」
音響解析システムを構築しルーバーの風切音解析に着手
近年、特に大手ゼネコンからは、高層マンションなどに設置するルーバーの風切音を極力減らしたいという要望が数多く寄せられるようになっている。というのも、高層階は地上に比べて風が強いので、実際にルーバーを設置したあとから風切音がうるさいと住民から苦情が出る場合が多いからだ。以前から消音設計のルーバーの開発を行っていたが、同社の製品は個別受注生産なので建物ごとにルーバーの形状が異なる。そのため毎回、試作品を使った風切音の試験を行わなければならず大きな負担になっていた。
「専用の試験場に現物を持ち込んでテストを行うのですが、これにはかなりの日数と費用がかかります。そのうえ設計変更が生じた場合は、試作品を作り直してまたテストをしなければなりません。そこで大塚商会さんに相談し、設計段階で風切音の検証が行える音響解析システムを新たに導入することにしたのです。」と松岡氏は語る。
形状が複雑なルーバーも、3次元モデルで見せることで、一目で分かるようになる。
自動車メーカーなどは高価な解析ソフトを導入しているが、それほどコストをかけられない。そこで同社では複数のソフトを組み合わせ、Autodesk Inventorで設計した3次元モデル上で風切音の解析が行える仕組みを構築した。「3次元モデルを使った風切音の解析は、大手の建材メーカーでもまだやっていないと思います。その意味ではまさに未知の領域ですが、他社に先んじることで当社の技術力の優位性を示すことができます。」と松岡氏は熱く語る。
同社が導入した音響解析システムは、風切音を測定するだけではなく空気の流れも解析できるのでその応用範囲は広い。例えばルーバー以外にも、建物の外部に敷設するパネルなどにかかる風圧を解析することもできる。Autodesk Inventorで3次元モデルが出来上がれば、あとの操作はそれほど難しいものではないので、その効果は極めて大きいという。
「本格的な活用はこれからですが、従来のように試作品を作って風切音のテストを行う必要がないため、工数やコストを大幅に軽減できます。特に当社は正式に受注が決まってから製品開発を始めるので、設計から納品に至るリードタイムを短縮できることは大きなメリットです。設計段階で解析を行うことで品質向上にもつながります。」と松岡氏は期待を寄せる。
免震対応製品の解析も実施。今後はBIM対応も積極的に推進
さらに免震エキスパンションジョイントの製作過程では、Autodesk Inventorで作成した3次元モデルで強度解析などを行っている。例えば、車路用の免震エキスパンションジョイントを敷設する際に、大型トラックに相当する荷重をかけて耐えられるかどうかをチェックし、仮に問題が生じる場合は補強材などを入れて対処する。そうしたシミュレーションを設計段階で行えるようになったのだ。
「日本免震構造協会の評価基準に対応したシミュレーションを行うことも可能なので、ルーバーと同様、試作品製作にかける時間とコストを大幅に短縮できます。そのうえリアルな3次元モデルを使ったプレゼンテーションも行えるので、大変重宝しています。近い将来、実際の動きをアニメーションで見せられるようにしたいと考えています。」と松岡氏は語る。
音響解析システムを構築し、試作品を使ってテストするコストや工数を大幅に軽減した。
このように、プレゼンテーション資料の質を上げる一方で、運用の利便性向上にも取り組んでいる。同社では、大塚商会の遠隔地リモートアクセスサービスを利用し、外出先でもiPadから社内のサーバにアクセスして、プレゼンテーション用の資料や製品写真などを見せられるようにする取り組みも行っているという。さらに3Dプリンタを用いた試作品作りの検討も始めている。「3Dプリンタを使えば、試作品を製作するコストも圧縮できますし、お客様から試作品を見せてほしいと言われたときに、一晩で出来上がるので時間短縮に大いに役立ちます。時間だけはどんなにお金を出しても買えないですからね。」と松岡氏は笑う。
同社は製造業ではあるが、建設業で使われる建築装飾金物を取り扱っているため、BIM(Building InformationModeling)への対応も視野に入れている。今年から大手ゼネコンなどが本格的にBIMに取り組むことが予想されるため、それに先んじて3次元モデルにさまざまな属性データを取り込んだBIMモデルを提供することで製品の付加価値を高める狙いだ。同社は3次元CADと同様に、BIMにおいても業界の先駆者として市場をリードしていく考えだ。