現場からの要請で3次元CADを導入。複雑化する装置の干渉チェックに効果。2次元図面の精度向上にも結び付く

ローツェ株式会社

広島県福山市に本社を置くローツェ株式会社は、半導体やその材料であるシリコンウェハの搬送システムを中心に開発・製造する成長企業。国内は もとより、韓国や台湾、ベトナムでもシステムを製造し、世界中の半導体メーカーに供給している。ウェハの大型化や半導体製造工程の複雑化ととも に、搬送システムに求められる動作や機能も年々高度化しており、もはや2次元図面による設計だけでは対応し切れない状況になっている。その変化 にいち早く気付いた現場のエンジニアの働き掛けによって8年前に3次元CADを導入。さらに、大塚商会を通じて4年前に本格普及を図った。

本ページは大塚商会が発行している 「成功事例集2009(製造業編)」 から転載したものです。

半導体やシリコンウェハの搬送システムを中心に国内だけでなく韓国や台湾、ベトナムでも開発・製造を行っている

導入事例の概要

導入の狙い

  • 複雑化するロボットの動作や機能に対応して、干渉チェックの精度を上げる

導入システム

  • 3次元CAD『Autodesk Inventor』
  • 構造解析ツール『COSMOSDesignSTAR』

導入効果

  • 狭い動作空間においても干渉のない設計が実現、ロボットアームの軽量化など品質向上にも結び付く

世界最高のモノづくりを手助けする名脇役

ローツェ株式会社(以下、ローツェ)は、広島県福山市に本社を置く精密機器メーカーである。主に半導体やその材料であるシリコンウェハの搬送シス テムの開発・製造を主力としている。

設立は1985年と比較的新しい。当初はプレハブ小屋の社屋で、社員6人の小さな会社だったが、2008年2月期の連結売上高は135億6,900万円と、わずか20年余りで急成長を遂げた。

その原動力となったのは、自身もエンジニアである創業者、崎谷文雄代表取締役社長の強いこだわりだ。

「他社が販売している同等品は製品にしない。従来よりも優れた製品、すなわち世界的にニュースとなる製品のみを商品化しよう」という合言葉のもと、超小型ステッピングモータードライバをはじめとする画期的な製品群を設立当初から次々と世に送り出してきた。

ローツェの名が製造業界に広く知れ渡るようになったのは1987年。半導体部品の搬送過程において、わずかなゴミも出さない世界初の「クリーンロボット」を開発したことが契機となった。

半導体の材料であるウェハはわずかなほこりや汚れが付着しただけでも不良品となる。それは加工段階はもちろん材料を機械に入れる搬送段階でも致命的だった。

ローツェは、そうした半導体業界における長年の課題を一挙に解決する革新技術を考案。搬送中に付着するゴミがほとんどゼロに近いクリーンロボットは、またたく間に日本の半導体業界に普及した。

ローツェによるイノベーションは休むことなく続き、その後も真空用クリーンロボット、デュアルアームクリーンロボット、液晶用クリーンロボットなど、さまざまな用途と、より高度な機能を備えた装置を世に送り出してきた。

また、韓国や台湾など東アジアの半導体メーカーが世界市場において存在感を高めてきた流れとともに、1996年に台湾、翌年には韓国に開発・製造拠点を設立。このほか、1996年にはベトナム北部の港湾都市ハイフォンにも製造拠点を設立している。同拠点で製造された搬送システムは、海を渡って日本や韓国、台湾などの半導体メーカーに輸出される。高品質な機器を、より低コストで提供できる環境を整えたのである。

ちなみに同社のベトナム製造拠点は、ベトナム政府から「ハイテク企業第1号」に認定されている。現在でこそ低賃金で勤勉な労働力を求めてベ トナムに製造拠点を設ける日本企業は増えているが、いち早く進出したローツェには、先見の明があったといえよう。

ところで、まるで外資系企業のようなローツェという社名にも、創業者である崎谷社長のこだわりがある。ローツェは世界最高峰エベレストの南に連なる山の名前だ。エベレストに寄り添うその姿を「世界最高のモノを作る企業を手助けする」という同社の思いと重ね合わせて社名にしたのだという。いわば日本と世界のモノづくりを側面から支える名脇役、それがローツェなのである。

干渉チェックの決め手として3次元CADを導入

ローツェが開発する半導体搬送システムは、搬送作業を行うロボットと、それを支える周辺装置によって構成されている。ウェハの大型化や半導 体スペックの複雑化とともに、ロボットの動作に対する要求も高まっており、従来の2次元設計では対応し切れない状況になってきた。

「限られた空間の中でロボットアームが思い通りに可動するように設計しなければなりませんが、複雑な装置を2次元で設計すると、アームの動作を部品が遮る“干渉”を見逃すことがあります。3次元CADでモデリングを行い、アームがきちんと可動することを確認しながら設計することが求められるようになったのです」と語るのは、同社FA事業本部開発部メカ開発課でロボットの開発を担当する前田彰氏。

そこで前田氏は、自らが旗振り役となって3次元CAD導入を会社に働き掛けた。2001年夏のことだ。

この年、オートデスク社のエンジニアが、ローツェ社内でデモを行ったのが、前田氏と3次元CADの出会いだった。「使いやすさに感心し、率直に “ほしい”と思った」という前田氏は、そのままデモソフトを借り、抱えていたロボットの開発案件に使用。3次元CADを使うのは初めての体験だった が、独学で使いこなし、貸出期限までの1カ月間に案件を仕上げてしまった。さらに同氏はその成果報告とともに、『Autodesk Inventor』導入の稟議書を上層部に上げた。

「完成させた案件は、3次元CADでなければ干渉チェックができないような複雑な設計でした。実績を添えて稟議を諮れば、上層部にも納得してもら えるだろうと思ったのです」と前田氏。時代の要請に応えて、現場の作業環境を改善したいという強い意志が会社に受け入れられ、ローツェは2001年 末に『Autodesk Inventor』2本を導入した。

他社の3次元CADも検討したが、最終的に選んだ理由は「モデリングの操作が簡単で、導入コストも低いこと」が決め手だったという。

手始めに1本ではなく、2本導入することにしたのも前田氏の提案によるものだった。

「1本だけだと、1人のエンジニアが占有してしまいます。複数のエンジニアがいつでも利用できる状態にすれば普及が早まると思ったのです。そ れに2本を使用すれば、何か問題が発生したときに、人為的な問題なのか、ソフトの問題なのかを検証することができますからね」と説明する。

さらに2004年には、大塚商会を通じて4本の『Autodesk Inventor』を追加導入した。前田氏の積極的な働き掛けによって、3次元CADを本格的に普及させようという機運が社内で高まったのである。

経営陣からのトップダウンではなく、現場からのボトムアップによって作業環境を大きく改善させたのである。

FA事業本部 開発部 メカ開発課 課長 小川 尚登氏

「従前は量産製品を中心に特定の設計者が『Autodesk Inventor』による3次元設計の恩恵を受けていましたが、今では全 設計者に浸透しつつあり良い展開になっています」

FA事業本部 開発部 メカ開発課 前田 彰氏

「大塚商会さんとのお付き合いは、福山市で開催されたセミナーに参加したのが最初でした。それまで付き合っていたベンダに比べて知識が豊富で、顧客視点の対応をしていただけるのがありがたいですね」

FA事業本部 開発部 メカ開発課 横山 浩司氏

「『Autodesk Inventor』は、干渉チェックのためのモデリングが非常に簡単である点が満足しています。いかに効率よく3次元CADを使用していくかが今後の課題。大 塚商会さんのアドバイスに期待しています」

図面の精度向上によって最終製品の品質も向上

ローツェは『Autodesk Inventor』4本を追加導入したのと同時に、同ソフトでモデリングしたデータの構造解析が簡単にできる最新鋭ツール『COSMOSDesignSTAR』も導入した。3次元CADと構造解析ツールという二つの武器を手に入れたことで、ロボットの第1次完成度は飛躍的に向上したという。

前田氏と一緒にロボットなどの開発設計に携わるFA事業本部開発部メカ開発課の横山浩司氏は、「最終的な設計は2次元で行っていますが、細かい干渉をチェックするうえでは3次元CADが適しています。『Autodesk Inventor』を使えば簡単にモデリングできるので、作業効率が格段に向上しました」と語る。

ロボットアームを3次元画像で見た様子。その複雑な動きは3次元CADの導入によって実現した

前田氏は「出図は2次元で行っていますが、他の人が2次元で設計したものも、3次元モデル化すると、設計時に気付かなかった不都合や寸法抜けが分かるので、最終的な図面の精度も3次元を導入したことで完ぺきになりました」と語る。

設計図の精度向上は、最終製品の品質向上にも結び付く。さらには、干渉チェックの精度を上げることで2次元では不可能だった極限までの軽量 化、省スペース化も実現する。

事実、『Autodesk Inventor』と『COSMOSDesignSTAR』の導入によって、ローツェのロボットアームは従来製品よりも1割近く軽量化することに成功している。

「今後はより省スペースで、コストパフォーマンスも高い装置の開発に役立てていきたいですね」と前田氏は抱負を語る。

このほか、社内プレゼンテーションや社外営業においても、3次元CADで作成したモデルは有効に活用されているようだ。

今後は、取扱説明書づくりにも、『Autodesk Inventor』で作図したデータを利用したいと考えている。

「従来は実物が完成した後に取扱説明書を作成していたのですが、3次元CADのデータがあれば、実物の完成前に説明書を作ることができます。 実物を分解して写真撮影したりする手間もいりません」と前田氏。

3次元CADの可能性に対する社内の期待は高まっており、今後ますます活用度が広がりそうだ。

300mm対応ID読み取りウェハソータ「RSCシリーズ」(上)を3次元CADで見た様子(下)

顧客視点の懇切丁寧な大塚商会のサポート体制に満足

前田氏は大塚商会について「懇切丁寧なサポート体制に満足しています」と語る。『Autodesk Inventor』の導入当初は独学で操作方法などを研究していたが、大塚商会を通じて追加導入してからは、大塚商会のテクニカルサポート「たよれーる」を活用。「すぐに答えが返ってきますし、顧客視点で対応してくれるので非常に助かっています」と満足そうだ。

また、『COSMOSDesignSTAR』を導入した際には、4人のユーザ候補を大塚商会が開催する3日間のトレーニングに参加させた。このトレーニ ングのおかげで、「初めて導入した構造解析ツールながら、比較的スムーズに運用を開始することができました。本製品の開発中止には正直困惑 していますが、今後はオートデスクから新しくリリースされる構造解析ツールに期待しています」と前田氏は語る。

ローツェは今後も、3次元CADの可能性をさまざまな分野で応用していきたい考えであり、大塚商会のソリューションに対する期待は大きいようだ。

いまでは多くの社員が『Autodesk Inventor』を操作できるようになっている

ローツェ株式会社

業種精密機器製造
事業内容電子機器、半導体・液晶ガラス基板製造用搬送装置の開発設計・製造販売
従業員257名(2008年3月31日現在)
サイトhttp://www.rorze.com/