Moldflow Insightを導入して流動解析の受託サービスを開始。他の設計会社との差別化を図る
株式会社シンクリP・A
- 業種
- 製造業
- 事業内容
- プラスチック製品の設計・試作・製造、樹脂流動解析
- 従業員数
- 3名(2023年2月時点)
- サイト
- http://www.shincri-pa.com/
導入事例の概要
プラスチック製品の設計・試作・製造を専門とする株式会社シンクリP・Aは、3D CADに加えたサービスの付加価値創出のため、大塚商会を通じてAutodeskの樹脂流動解析ソフトウェア「Moldflow Insight」を導入。この流動解析サービスが売上高の約7割を占めるほどの急成長を遂げた。
導入の狙い
- 3D CADを使ったサービスに付加価値を加える。
- 同業他社にはまねのできないサービスを提供。
導入したメリット
- 高精度のデータをスピーディーに納品。
- 既存事業を上回る事業の柱として成長。
導入システム
受注から1、2営業日で納入。スピードと精度に圧倒的な自信
神奈川県川崎市の株式会社シンクリP・A(以下、シンクリP・A)は、プラスチック製品の設計・製造・試作のほか、樹脂の流動解析の受託サービスなどを提供する企業だ。
親会社である有限会社シンクリエイティブは1999年に創業。大手や自動車部品メーカー向けにプラスチック製部品の設計・製造・企画・販売を行うほか、不動産業も営んでいた。このうち、プラスチック部門を2006年に分社。現在のシンクリP・Aが誕生した。
2010年にフィリピン、2015年にはタイに現地法人を設立。それぞれ3名ずつエンジニアを置き、川崎の本社で得意先から受注した設計・製造依頼をオフショアで行っている。本社には3名の社員がいるが、そのうち1名はフィリピン現地法人からの出向者だ。
「日本のお客様が求める設計図や試作品の作り方をしっかり学んでもらい、本国に帰って技術やノウハウを広めてもらう目的もあり、日本に来て業務をしてもらっています」と語るのはマネージャーの石井隼人氏である。
同社の強みは、設計技術力の高さはもちろんのこと、得意先から注文を受けたら、1、2営業日後には設計図、試作品などの成果物を納入できるという対応スピードの速さだ。
マネージャー
石井隼人氏
「どのお客さまも時間を争いながら製品開発を進めています。精度の高い成果物を速く納入できるという点では、どこにも負けない自信を持っています」
プラスアルファのサービスで、差別化を図りたい
シンクリP・Aは顧客の要請を受けて、かなり早い段階から設計に3D CADシステムを活用してきた。中でも得意としているのは、自動車用ライトの部品設計である。顧客企業がデザインしたライトの設計図を基に、法律の要件を満たし、強度や明るさが十分に出るような設計図や試作品を作り上げる。同社のエンジニアたちが3D CADで仕上げた設計図は、そのまま顧客である部品メーカーが製造現場に回せるほど精度の高いものだ。
このように、3D CADを使った設計や試作品作りを武器に、顧客の信頼を得て多くの設計業務を行ってきたシンクリP・Aだが、時代の流れとともに業界の変化も感じるにつれ「サービスにプラスアルファの価値を加えることが必要ではないか?」と石井氏は考えるようになったという。
「同業の会社も3D CADを使って設計や試作品作りを行うようになり、差別化が図りにくくなってきたのです。何か他社とは違うサービスを提供しなければ、生き残っていけないのではないかと考えるようになりました」(石井氏)
出向先で経験したMoldflow Insightの流動解析
そんなあるとき、石井氏は出向先の自動車部品メーカーで、新しいサービスのヒントとなる体験をした。そのメーカーで金型の樹脂流動解析業務を行っていた社員が数カ月の長期休暇を取ることになり「代わりに解析をやってもらえないか?」と依頼を受けたのだ。
全くやったことのない仕事だったので、石井氏は一瞬ためらったそうだが「新しい技術を学ぶ機会になる」と思い直して引き受けることにしたという。具体的な仕事は、Autodeskの樹脂流動解析ソフトウェアMoldflow Insightを使って、そのメーカーが製作した金型で樹脂を射出成形した際の流動をシミュレーションするというものだった。
「もともと担当していた社員の方が行っていた解析方法や過去の実績に関するテンプレートがあったので、ひたすら読み込んで覚えました。そうして1~2カ月過ぎたころにはMoldflow Insightを使いこなせるようになり、解析のためのノウハウも身についてきました」と石井氏は振り返る。
流動解析サービスを始めるため、自社にMoldflow Insightを導入
この体験を機に、石井氏は「樹脂流動解析を自社のサービスの一つとして強化してみてはどうか?」と考えるようになったという。
通常、流動解析の受託サービスは金型メーカーなどが提供するもので、シンクリP・Aのように部品設計や試作品作りを専業とする会社が提供する例はほとんどない。また、Moldflow Insightは高額なソフトウェアなので、競合他社が多額の投資をして導入に踏み切る可能性も少ないと思われた。
「他社の参入は考えにくいことと、独自性を打ち出せるサービスになるはずだと確信をしたことに加え、出向先への派遣期間が終了し会社に戻ることになった際、『戻った後も委託契約で流動解析を続けてほしい』と依頼も受けたので、自社でも流動解析の受託サービスを立ち上げれば、すぐに仕事が始められるという保証もありました。そこで、社長を説得してMoldflow Insightを導入することにしたのです」と石井氏は明かす。
大塚商会に導入支援を依頼する
Moldflow Insightは、射出する樹脂のグレードや射出時間、射出量、温度などの条件を細かく設定することで、条件ごとにどのような流動が起こるのかをシミュレーションできる解析ソフトウェアだ。製造を行う前にコンピューター上で最適な工程を検討するCAEソフトウェアの一種である。
石井氏がMoldflow Insightを選定したのは、出向先で使わせてもらった経験があり、その出向先から最初の受託契約を獲得したことが大きな理由だが、それに加え、世界中で利用されている解析ソフトウェアであることも選定の大きな決め手となった。
シンクリP・Aは、Moldflow Insightの導入支援を大塚商会に依頼した。同社は3D CADシステムを大塚商会を通じて導入しており、導入前から運用開始後まで一貫してきめ細かなサポートが受けられる点を評価した。
「Moldflow Insightは高度な解析機能を持ちながらも分かりやすいUIなので、1~2カ月あれば自由に使用できるようになりました。他社の製品と比較すると、精度の幅をつけられ、併せて解析スピードも調整できるので、顧客のニーズに合わせて対応できるのが非常に助かっています」
売上高の7割が流動解析。圧倒的な事業の柱に成長
シンクリP・Aは現在、主要な得意先である自動車部品メーカー2社に樹脂流動解析サービスを提供している。そのうち1社へは、自動車用ライトを構成するレンズ、ハウジング、リフレクターなどの部品を金型で射出成形した際の流動解析を行っているという。
「この取引先企業はさまざまな自動車メーカーのライトを製造している会社で、取り扱っている全てのメーカー、車種を合わせると、解析する金型は相当な数に上ります。おかげで流動解析サービスの受注業務はかなりの規模になり、金額面でも当社の稼ぎ頭となっています」と石井氏。
コロナ禍の影響でやや減ってはいるものの、最盛期には1カ月あたり30~40件もの依頼を受けるようになった。売上高の7割は流動解析サービスによるもので、設計や試作品作りを上回る圧倒的な事業の柱に成長している。高い精度の解析を行うと結果が分かるまでにより多くの時間がかかるというジレンマはあるが、現在フル稼働でMoldflow Insightを使用している状況で、この新サービスを開始した効果は石井氏の予想をはるかに超えるものだった。
3D CADとの連携活用も視野に入れる
石井氏は、今後もMoldflow Insightを積極的に活用して、事業を大きく成長させていきたいと考えている。
今のところ、同社の流動解析サービスを利用しているのは大手の自動車部品メーカーのみだが、今後は中堅・中小規模のメーカーにも営業を掛けていく方針だ。
「Moldflow Insightと3D CADシステムを連携させて、流動解析の結果を反映させた設計や試作品作りにも取り組んでいきたい」と石井氏。シンクリP・Aの挑戦は、まだ始まったばかりだ。