初めて触れたMoldflowは、その直感的な操作性により、すぐに「これならできる!」と確信させてくれた

昭和電器株式会社

業種
製造業
事業内容
計量機関連、医療食品関連、文具住宅関連などの成形・組み立ておよび切削加工
従業員数
211名(2022年1月現在)
サイト
https://www.showa-precision.co.jp/

導入事例の概要

東京都板橋区に本社/東京工場を置く昭和電器株式会社は、創業90年を超える歴史と実績を持つ樹脂&金属部品の加工メーカーである。創業以来のガス/水道メーターなど計量器部品の製造を主柱に、樹脂の成形加工や各種金属の機械加工、アセンブリまで、一貫した自社内生産体制を構築して幅広い分野の技術を集積。

例えばPPSなど、エンジニアリング・プラスチックを用いた金属部品の樹脂化などの先進的フィールドでも、企画、設計、提案から量産立ち上げまで、顧客の要望に応えてトータルなサポートを展開しており、近年はさらに独自の視点でニッチな市場の開拓を目指す自社製品開発も推進中だ。そんな同社の広範な技術領域の中核を占める一つが、Autodesk Moldflow(以下、Moldflow)を駆使した流動解析である。

導入システム

流動解析、突然の導入と初挑戦

「Moldflowの導入は2012年のことですが、それまで当社は解析ツールは使わず、導入計画もなかったのです。それが急きょ導入となって……」と苦笑するのは東京工場の工場長 添田喜章氏である。当時から樹脂成形や金型製作は同社の主力事業だったが、良質な成形品のカギとなる金型製作は、熟練した金型職人の勘と経験に頼る部分が多かった。だからという訳ではないが、その頃の金型作りには常に「怖さ」があったと添田氏は言う。

「当時のやり方では、職人の勘頼りで作った形状が正解かどうかは、実際に金型を作ってみないと分かりませんでした。もし失敗したら作り直しになりかねず、そうなれば相当の費用もかかる。時間もないため、どうしても慎重になってしまうのです」(添田氏)。

東京工場 工場長 添田喜章氏

「Moldflowを使うようになったことで、何が一番変わったかと言いますと、私の場合は、金型を作るうえでの『怖さ』が消えたという点が大きいと思います。熟練した職人の勘に頼った旧来のやり方で金型を作っていますと、勘が外れて失敗した時のことを恐れて、極端に慎重になってしまいがちです。しかし、Moldflowを使って解析を行い、それを可視化し「目で見て」確認できるようになりますと、その怖さは消えて安心感が湧いてきます。もし『金型を作るうえで何らかの安心感が欲しい』と感じているなら、Moldflowがそれを解決してくれます。解析というと難しく感じるかもしれませんが、直感的に操作できるMoldflowなら、誰でも使いこなせると思いますよ。」

そんな状態の現場に登場したのがMoldflowだった。同社の技術者にとって未知のツールだったが、導入した以上使わなければもったいない。添田氏は当時進めていた樹脂成形品の開発にこれを投入してみようと考えたのである。

「実はMoldflow導入の1年ほど前に、ある大手メーカーの精密機械用の樹脂成形部品を作ったのですが、その時、成形不良を何度も繰り返したことがありました。入れたばかりのMoldflowを使ってみようと考えたのは、その後継機種の樹脂部品作りの時です。先方から『反りをなくしたい』という要望をいただいていました」。実はそのお客様からは「いつもやってみないと分からないんだね」と言われ、悔しい思いをしてきたと言う。だからこそ昭和電器は流動解析への初挑戦を決めたのかもしれない。

「流動解析ソフトを実務で使うのは初めてでしたが、実際にMoldflowに触れてみると誰でも直感的に使える敷居の低さを感じ『これならできる!』とすぐ思いました」。事実、時間をかけずに基本操作を習得。すぐに流動解析を実施し「このまま進めればこうなりそう」という解析結果をまとめ、資料を担当者に提出したのである。「急にどうしたの!?」と担当者は驚き、ビジュアル化された資料を見て大いに喜び感謝したと言う。

Moldflowによる作業

新規案件が入ればまずは流動解析を

こうした経緯を経て導入されたMoldflowは、東京工場の開発部門で着実に浸透していった。当然といえば当然だろう。高品質な樹脂成形品を作り出すためには、その金型を用いた場合のさまざまな不具合─反りやウェルド、ショートショット、ヒケなどを予測し、それらをクリアするための適切なゲート位置や数、成形条件などを決め込む必要がある。Moldflowは射出成形の成形プロセスを高速で解析し、充填(じゅうてん)のパターンや反り変形の結果をビジュアル化することで、これらの課題をクリアしたのである。同社東京工場開発課の課長 角田智弘氏は語る。

東京工場 開発課 課長 角田智弘氏

「Moldflowを使うようになってからは、新しい案件が入ってきたら一度は必ず解析をかけるのが一種の習慣になりました。とにかく解析をかけてからでないと、ちょっと怖くて作れない……そんな思いが浸透しています。これは企画設計から金型作りそして製造まで、一貫生産してきた昭和電器だからこそのスタンスかもしれない。一貫生産体制は当社の一番の強みですが、一方、金型段階で失敗したら後工程で何をやっても駄目な場合が多く、だからこそ失敗は許されません。ならば初めからMoldflowを使っていこう、と考えるのは当然ですよね」

これまで昭和電器は、部品メーカーとして受託産業の色が強く、モノ作りにおいても、顧客から与えられた図面などをそのまま展開するスタイルが中心となっていた。ところがMoldflowの活用により解析を核に技術フィールドが大きく広がり、さらにデータをビジュアルに見せる手法も普及して、同社の現場ではこれまでとは異なる新しいモノ作りへのアプローチも始まった。自ら開発した自社製品による、全く新しい市場開拓への展開である。

「きっかけは、当社全体の組織再構築戦略により、東京工場が行っていたプラスチック射出成形や圧縮成形、金型の設計・製作や金属部品の樹脂化の事業を、福島県の事業所へ移管、集約することになった点でした」(添田氏)。

その結果、東京工場はステンレスなどの特殊切削加工業務が主体となり、角田氏ら開発担当は従来の業務に加え、新しいミッションにも取り組むことになったのである。昭和電器オリジナルの自社製品の開発&製造がそれだ。そして、2022年から最初に取り組んだ自社製品が「プロテインディスペンサー」だった。

プロテインはジムなどで身体作りに励む人が摂取する栄養補助食品であり、粉末状のそれを毎日正確に計量し摂取するのは手間のかかる作業だ。ときにはこぼして周囲を汚すこともある。「そこで考えたのがプロテイン用のディスペンサーです。発案者はジムに通う当社社員で、クラウドファンディングも使って始めました」(添田氏)。

当然、角田氏は流動解析を担当。シンプルな機構でプロテイン粉末を正確に安定して計量できる構造を求めて、基本設計時からMoldflowを駆使していった。

プロテイン・ディスペンサーの反り解析

プロテイン・ディスペンサーの部品はほぼ全て社内で製作

「特に製品の粉体を入れる本体部分の反りは厳禁だったので、流動解析も延べ100回以上かけて修正していきました。時間がなかったのでモデルも自分で直し『こうすれば直るよ』と設計者に戻す形で1カ月くらいやりとりしましたね」。設計担当者もMoldflowが使えるので、やりとりは非常にスムーズだったと角田氏は言う。

こうして発売されたプロテインディスペンサーは約300台を販売し、現在は米国市場を目指してアメリカの特許について研究中だ。そして、これに続く二つ目の自社製品も既に開発済みである。発案者は角田氏だ。

「一見名刺入れみたいなただの箱に見えますが、実はおもちゃ業界で人気のトレーディングカードの専用ボックスなんです」。そう語る角田氏は自身このゲームを趣味とし、プレイ現場で自分が欲しいと思ったものを商品化したのである。

「設計も担当しましたが、流動解析をかけたのは約15回。単純な形状なので肉厚を調整したくらいです」。当初は大きな反響はなかったが、あるユーザーがX(旧Twitter)に取り上げたのをきっかけに話題となり、現在まで約800セットを販売している。

  • サイドオープン型ストレイジボックス(販売品名)とその中箱(PS材)

  • ストレイジボックス(販売品名)の中箱(PS材)の反り比較検討

「前述のとおり、Moldflowについては開発課のスタッフはみんな、基本の操作はできるようになっていますので、今後はさらに設計者自身が設計し、解析して修正して……というスタイルへ発展させていきたいと考えています」。そう語る添田氏によれば、その背景には「自社製品開発をさらに活発化させたい」という狙いがあると言う。「社員のアイデアを募集するのはもちろん、発案した人にも参加してもらいながら開発を進めていきたいのです。とにかくモノ作りに関しては我々も熟知していますし、一貫生産という強みもあります。後はそれをどうやって販売につなげるかですね」

昭和電器の熱い開発はまだまだ続く。