SolidWorksと3次元プリンターの組み合わせで、最強の開発環境が実現しました

株式会社エンジニア

株式会社エンジニア

設立
昭和47年
本社所在地
大阪市
従業員数
30名
サイト
http://www.engineer.jp/

マーケティング、パテント、デザイン、プロモーションという四つの要素を融合させ、世界で最も権威のある工業デザイン賞「iF product design award」受賞のほか、多数の受賞歴を誇る『ネジザウルスGT』の大ヒットで注目を浴びる株式会社エンジニア。

同社が掲げるモノづくりのコンセプトであるMPDPの中で、SolidWorks製品や3次元データはどのように活用されているのか。代表取締役社長・高崎充弘氏と開発技術部 主査・川合真之介氏に詳しくうかがった。

ネジザウルスGTについて

株式会社エンジニアは主に弱電、半導体などの工場での作業に用いられる工具メーカーだ。ピンセット、ニッパ、ペンチ、ドライバー、半田コテ、半田付け周辺工具やアルミトランクなど1,000点以上のアイテムを国内外の商社を通じて販売している。企画開発力に強みを持つファブレスメーカーで、「かゆいところに手が届く、e道具たち」というスローガンのもと、ユーザのニーズとウォンツを他社に先駆けて商品化。

近年ではDIYなど一般流通チャネルでも販売される商品ラインナップを増やしており、2009年に発売した『ネジザウルスGT』の大ヒットにより脚光を浴びる。

頭がつぶれたり錆びたりしたネジを簡単に外せるプライヤー『ネジザウルス』シリーズの全てとしてエンジニア社が開発した工具。刃先に掘った縦溝と、逆ハの字に角度がついた先端が大きな特徴で、頭の低いトラスネジにも喰いつく。2009年6月の発売以来、3年間で31万本を超える販売数を記録した。国内外で特許、意匠、商標を計12件取得。

受賞履歴

  • グッドデザイン賞(2009年)
  • DIY 協会 会長賞(2009年)
  • 近畿地方発明表彰 「大阪府知事賞」(2010年)
  • 大阪ものづくり発明大賞(2010年)
  • iF product design award 2011(2011年ドイツ)
  • 第36回発明大賞 「発明功労賞」(2011年)
  • 中小企業優秀新技術・新製品賞(2011年)
  • ホビー産業大賞「日本ホビー協会賞」(2011年)
  • 全国発明表彰「日本商工会議所会頭発明賞」(2011年)など受賞歴多数

ネジザウルスGT

MPDP~『ネジザウルスGT』大ヒットの要因

『ネジザウルスGT』大ヒットの要因をどのように分析されていますか。

『ネジザウルスGT』のヒットは、1.マーケティング、2.パテント、3.デザイン、4.プロモーションという四つの要因が全て融合した結果だと分析しています。弊社では、この四つの要因の頭文字を取ってMPDPと呼んでいます。

ネジザウルス

刃先に縦溝を掘り、逆ハの字の角度をつけることで頭の低いトラスネジを掴むことが可能に。
(特別にSolidWorksのロゴを名入れしたもの)

『ネジザウルス』シリーズは、初代を発売した2002年に7万本売れました。それ以降、バリエーションを広げながらユーザ層を拡大し、『ネジザウルス GT』発売までに50万本近くを出荷する人気シリーズへと育ちましたが、2008年後半にリーマンショックの影響で売り上げが停滞した時期がありました。
市場的にはまだまだニーズ開拓の余地ありと考え、巻き返しを図るために開発したのが『ネジザウルスGT』です。これまでに『ネジザウルス』シリーズは96万本を出荷しましたが、そのうち31万本を全ての『ネジザウルスGT』が占めています。

いったん、勢いを失いかけた後で、このような大ヒットとなった要因を分析した結果、従来の商品開発プロセスにはない大きな特徴があることに気が付きました。それがMPDPの融合です。

まんが広告制作会社とエンジニアの社員全員で開発したキャラクター『ネジ・ザ・ウルス』

1. M:マーケティング

『ネジザウルスGT』の開発にあたって、それまでのネジザウルスユーザから回収した約1000枚の愛用者ハガキを分析し、顕在化していないニーズとウォンツの探索を行いました。数十項目の要望の中から、どの意見を採用するかを社内で議論し、五つの「進化」ポイントを製品に盛り込みました。

2. P:パテント

『ネジザウルス』では国内外あわせて特許登録が5件、意匠登録が2件、商標登録が5件の合計12件あります。出願中のものも特許7件、意匠1件あります。弊社では30名の社員のうち5名の社員が国家資格「知的財産管理技能士」を取得し、知的財産制度を積極的に活用しています。

3. D:デザイン

『ネジザウルスGT』では「頭の低いトラストネジにも対応してほしい」というニッチな潜在ニーズを製品に盛り込みました。その上で、手元に置いておきたくなる工具を目指し、グリップの手触りやカラーリングなどの情緒的価値にもこだわっています。「グッドデザイン賞」を初挑戦で受賞することができたのは、その結果だと分析しています。

4. P:プロモーション

『ネジザウルスGT』の発売に合わせ、キャラクターを使ったWebまんがを中心に、テーマソングやダンスなどをミックスしたプロモーションに力を入れました。Webまんがはフランス語、英語、ドイツ語などの多言語展開もしています。

このように『ネジザウルスGT』では、マーケティング、パテント、デザイン、プロモーションという四つの要素にしっかり取り組んでいました。そしてその四つがうまく融合したことがヒットに繋がりました。

それ以降、弊社ではMPDPをモノづくりのコンセプトとしています。このMPDPの融合を意識して開発・販売した最初の製品である『鉄腕ハサミGT』は、2011年10月に発売し、2か月で初期ロット1万本を全数出荷しました。現在は月産2万本のペースで生産しており、計画通りに行けば『ネジザウルスGT』以上のヒットとなります。

エンジニア社におけるSolidWorks製品の活用状況

御社におけるSolidWorks製品の導入状況と活用方法を教えてください。

弊社ではSolidWorks Premiumを3ライセンス導入し、新製品のデザイン・設計に活用しています。所ジョージさんに紹介されてヒットした『ネジザウルス』シリーズの3代目『ネジザウルスM2』が、SolidWorks Premiumでデザインした第1号製品です。
グッドデザイン賞を受賞した『ネジザウルスGT』もSolidWorks Premiumでデザインしました。2010年夏以降は、3次元プリンタ「V-Flash」を導入し、試作品の製作も社内で行っています。 SolidWorks Premiumでデザインからモデリング、さらにSolidWorks PremiumにパッケージされているSolidWorks Simulationによる応力解析を行い3次元データを作成します。

そしてV-Flashで出力し、形状確認や、パーツ同士を組み合わせて篏合部分の確認、塗装してカラーリングの雰囲気を確かめる、などのデザインの検証を行い、変更点や不具合があればその場ですぐに修正します。そのような作業を何度も繰り返してデザインを決定していきます。
SolidWorks PremiumとV-Flashを組み合わせることで新製品の設計・開発工程を大幅に効率化することが可能となりました。それよって、妥協することなくじっくりと製品開発に取り組める、最強の設計・開発環境が実現しました。

  • 鉄腕ハサミGT

    SolidWorks Premiumでモデリングした新製品
    『鉄腕ハサミGT』

  • 鉄腕ハサミGT

    「予想以上のヒットで大増産中!」
    (高崎社長)という『鉄腕ハサミGT』

代表取締役社長 高崎充弘氏

代表取締役社長 高崎充弘氏

「現在は製品デザインに関して一切の妥協をしていません。」

3次元化する以前の設計・試作環境

SolidWorks Premium導入以前、新製品の開発における設計と試作品製作はどのような方法で行っていましたか。

SolidWorks Premiumを導入する以前は、基本的には2次元CADで設計図面を描き、試作品製作を外部の協力会社に委託していました。また、CADによる図面作成を行わず、模型製作などで使用するパテを固め、削り出しによる試作品を作っていたケースもありました。

2次元図面から協力会社に試作を委託する場合、頭の中でイメージした通りのデザインになっているかどうか、試作品ができあがってくるまで確認ができません。試作品があがってくるまでの期間は、1週間から2週間。そして試作費用は数万円というコストがかかります。新製品のデザインは、設計、試作、検証、修正を繰り返して決定するので、外部に試作品製作を委託すると時間とコストが嵩んでしまいます。そのためイメージ通りのデザインを追求するにも限度があり、ある程度の完成度で妥協せざるを得ない開発環境でした。

設計開発力を強化するためにSolidWorks Premiumを導入

SolidWorks Premiumを導入した経緯を教えてください。

初代『ネジザウルス』を発売した当時、弊社はファブレスメーカーとしての強みを持つために、設計開発力の強化を図っていました。2次元CADでは、スピードとコスト上の制限から、妥協せざるを得ませんが、3次元 CAD・SolidWorks Premiumは、デスクトップ上でデザイン、パーツ同士の干渉、強度の検証などができます。
外部に試作品製作を委託する場合でも、3次元モデルならより確度が高い状態で依頼することができます。そのため、製品開発の工程がスピードアップし、設計開発力が強化できると考え、SolidWorks Premiumを導入しました。

製造技術部 主査 川合真之介氏

製造技術部 主査 川合真之介氏

「協力会社とのデータ共有のしやすさと直観的な操作性が導入の決め手となりました。」

製品の選定はどのような経緯で進んだのでしょうか。

実際に使う設計者にとっての使いやすさを最優先するため、選定は設計部門の社員に一任しました。
まずベンダーは、3次元CADの取扱い実績を考慮し、迷わず大塚商会を選定しました。製品の選定にあたっては、外部協力会社との設計データの共有のしやすさを最重視しました。弊社が製造を委託する協力会社の多くがSolidWorks製品を採用しています。そこで、SolidWorks製品を最有力候補に挙げ、操作性を確認した上で導入を決定しました。
SolidWorks製品は、他の3次元CADと比較して、最も直観的な操作で形状を描くことができます。そのため、3次元CADに不慣れな設計者でも習得しやすいと判断しました。また、SolidWorks製品の中でも、シミュレーション機能が搭載されている SolidWorks Premiumを選びました。

現在、新製品のデザイン設計の中心を担っている川合様は、SolidWorks Premiumを導入する以前、3次元 CADを操作した経験はありましたか。

いいえ。弊社がSolidWorks Premiumを導入するまで、2次元CADを多少使ったことがある程度です。そのため、SolidWorks Premiumを導入してもすぐには使えませんでした。導入時に大塚商会のインストラクターから数日間講習を受け、その後は、実際の設計の中で習得していきましたが、協力会社にSolidWorks製品を導入している会社が多い環境が習得上大変役立ちました。どうしても自分でモデリングできない部分は、協力会社に設計データを仕上げてもらい、できあがったデータの履歴を見ながら習得していきました。このようなことはSolidWorksの生データ同士だからこそ可能でした。

さらにワンランク上の開発環境を目指し3次元プリンタ「V-Flash」を導入

3次元プリンタ「V-Flash」を導入した理由を教えてください。

V-Flashを導入したのは、ワンランク上の製品開発を行うためです。『ネジザウルスGT』の次に出す新製品は、MPDPのコンセプトを取り入れて開発する第一号製品です。『ネジザウルスGT』の大ヒット、数々の受賞、プロモーションの話題性などで注目度が高まっている中、次に出す新製品は失敗が許されない状況でした。いくつかのアイデアの中からアイテムを絞りこみ、検討を進めていましたが、試作の段階でデザインの検証が思ったように進まないもどかしさがありました。外注では時間がかかり、返ってきたころにはアイデアに対する熱が冷めてしまいます。手作業の削り出しでは細部まで表現することができません。

そのようなジレンマを抱えている時に、大塚商会からV-Flashの紹介を受け、検討を始めました。
ワンランク上の製品開発を行うためには投資が必要だと考えました。

ウルスの模型

ウルスの模型。左は川合氏が削り出しで造形。右はV-Flashで出力したものにカラーリングを施したもの

他の3次元プリンタ製品ではなく、V-Flashを導入した決め手は何ですか。

第一にコストパフォーマンス、第二に造形スピードです。V-Flashの価格は定価で159万円、ランニングコストの目安はゴルフクラブ1本分が約 6000円で出力できます。造形時間は、右写真の小さい方の模型で6時間ぐらいです。この2点を考慮した上で、大塚商会からの推奨もありV-Flashに決めました。

V-Flashは、外部に製作を依頼するよりもはるかに低コストで、手作業による削り出しよりもスピーディかつ正確に試作品を製作できます。V-Flash導入により、妥協せず納得いくまで試作とデザインの修正を繰り返して行うことができるようになり、『鉄腕ハサミGT』のデザインは、とんとん拍子で進みました。

MPDP第一号製品『鉄腕ハサミGT』のこだわり

MPDPのコンセプトを意識して開発した第一号製品である『鉄腕ハサミGT』は、どのような要素にこだわったのでしょうか。

『鉄腕ハサミGT』のデザインでは、グリップと刃にかぶせる保護キャップにもこだわりました。グリップには、コンパクトさと切れ味を両立させる工夫をしています。『鉄腕ハサミGT』は、紙から金属まで多種多様な素材をカットすることができる『鉄腕ハサミ』シリーズの三代目製品です。
開発にあたっては、『ネジザウルスGT』同様、愛用者ハガキを分析してニーズを探りました。初代は通常のハサミと同サイズ、二代目はより切れ味を増すために少し大型となっています。それに対し、ユーザからは「よりコンパクト」で「切れ味の良い」製品を望む声が寄せられていました。

SolidWorksでの製品設計画面

川合氏
「SolidWorksだからこの製品が設計できました。」

しかし、コンパクトさと切れ味の良さを両立させるのは困難です。小型化するとてこが効きにくくなり、より大きな力が必要となります。そこで、固い物を切る時にはグリップの穴の外側から手のひらで挟むようにして使えるよう、また閉じた時に指や手のひらの肉を挟まないようになど、SolidWorks Premiumの中で試行錯誤しながら設計をしていきました。

また、『鉄腕ハサミGT』には、保護キャップをつけています。この保護キャップのデザインは、居合道初段である高崎社長の想いから、日本刀のさやをイメージしています。さやのようにしっくりと収まるように、何度もV-Flashを使って試作、設計変更を繰り返しました。『鉄腕ハサミGT』の刃は多機能です。針金を切断できるワイヤーカッターやダンボールオープナーをつけています。この刃の部分の製造は、日本刀の産地として有名な岐阜県関市の企業に委託しています。そのような製造背景を持った高性能かつ多機能な刃と人体を保護するためのキャップには、日本刀を思わせるデザインを採用しました。

V-Flashで出力される保護キャップの試作品

3次元データのフル活用がMPDPの融合を実現

御社は、SolidWorks Premiumで作成した3次元データをより有効に活用されていますが、3次元 CAD導入を検討しはじめた当時、このような成果を期待していましたか

ここまで活用できることは期待していませんでした。ここでいう活用とは、設計・開発工程を効率化するだけのことではありません。MPDPの中に組み込んで初めて活用できていると言えます。MPDPの中に組み込むということは、徹底的にデザインを追求し妥協をしないということです。そのためには3次元設計だけでは完結させずに3次元プリンタも組み合わせる必要がありました。

弊社における実際の製品開発は、MPDPが一直線につながっているのではなく、各工程をスパイラル上に繰り返しながら上がっていくようなイメージで行っています。その中でデザインの工程に関しては、従来は時間とコストがかかり、徹底的に追及することが困難でした。3次元の開発環境により工程短縮とコスト圧縮が実現したことで、デザイン工程においても一切妥協する必要がなくなり、徹底的にデザインを追及することが可能となりました。

それによってMPDPがより有効に機能し始めました。デザイン工程全体にかかる時間は、以前と大きな差はありません。ただ、製品の付加価値は確実に大きなものになっています。

高崎社長

マスコミの取材などでもユーモアを交えて絶妙なプロモーションを行う高崎社長

クールでイノベーティブ、
そして遊び心のあるメイド・イン・ジャパンの工具を世界へ

今後のビジョンをお話しいただけますか。まず、川合様からお願いします。

設計部門の担当者としては、SolidWorks Premiumで作成する3次元データをさらに有効活用できる方法を掘り下げて行こうと考えています。例えば製品の3次元データを応用してブリスターパックのデザインも可能です。『ネジザウルスGT』では、製品特徴が一目で分かるオリジナルパッケージを作成しました。

今後は、SolidWorks Premiumのレンダリング機能を使ったカタログ用の製品画像作成を行う予定です。レンダリング機能を使えば、実物を撮影した写真のような画像が3次元データから作成することができます。背景なども自由に設定可能ですので、撮影の手間が不要となります。レンダリング機能をうまく使いこなすために、現在、ライティングの勉強などもしています。

この他にもSolidWorks Premiumの機能を全て使いこなせば、3次元データをさらに有効に活用することができるでしょう。大塚商会のサポートサービスを活用し、使いこなす術を習得していきたいと考えています。

ネジザウルスGTとVamPLIERS

機能が一目で分かるようパッケージにも工夫をこらした『ネジザウルスGT』。右はアメリカで発売中の『VamPLIERS』

高崎社長、今後の事業展開についてお話しいただけますか。

弊社のミッションは、クールでイノベーティブな機能とデザインを備え、遊び心というスパイスを加えたメイド・イン・ジャパンの工具を、日本だけでなく世界で愛用していただくことです。MPDPはこのミッションを実現するための手段です。そして、SolidWorks Premiumは、その中において非常に有用なツールとなっています。

既に2011年12月、『ネジザウルスGT』はアメリカでの販売を開始しました。アメリカでの発売にあたってはネーミングとパッケージを変えています。アメリカで人気のある吸血鬼「バンパイヤー」と英米で挟み工具全般の総称である「プライヤーズ」を組み合わせ『バンプライヤーズ』というネーミングを採用。グリップとパッケージのベースカラーには血と夕日を表す赤を採用しました。アメリカでの展開が成功したらアラブ版、中国版を展開します。

さらに『鉄腕ハサミGT』は、現在、ドイツの「レッドドット」やアメリカのデザイン賞にエントリーしています。『ネジザウルスGT』はドイツの「iF product design award」を受賞しました。メイド・イン・ジャパンのエンジニアブランドのデザインが世界でも通用することを示すと同時に、エンジニアブランドを世界中に広めて行きたいと考えています。