門型洗車機のトップ企業が3D設計への移行で生産性を大幅向上。余剰時間をより創造的な取り組みに充てる
エムケー精工株式会社
- 業種
- 製造業
- 事業内容
- モビリティ関連機器、生活機器の製造販売および輸出入
- 従業員数
- 834名(2020年4月現在)
- サイト
- https://www.mkseiko.co.jp/
導入事例の概要
エムケー精工株式会社は、ガソリンスタンドで目にする門型洗車機でトップシェアを誇るものづくり企業だ。約20年前から取り組みを開始した設計業務の3D化は、設計段階での干渉チェックや効率のよいチーム設計の実現に加え、試作品製造の効率アップや強度シミュレーションが可能になったことなど、生産性や品質の向上に大きな役割を果たしている。今後同社は「アミューズメントとしての門型洗車機」をはじめとする新たなチャレンジの基盤としても3Dモデルを積極的に活用していく考えだ。
導入の狙い
- チーム設計の生産性向上を図りたい。
- シミュレーションによる設計の最適化を図りたい。
- 取扱説明書や提案資料へ3Dモデルを活用したい。
解決策
- 3D設計ソフトウェア「SOLIDWORKS」とデータ管理システム「SOLIDWORKS PDM Professional」および関連ツールの導入
導入製品
- 3D設計ソフトウェア「SOLIDWORKS」
- 3次元設計データ管理ソフトウェア「SOLIDWORKS PDM Professional」
- 構造解析ツール「SOLIDWORKS Simulation」
- 熱流体解析ソフトウェア「SOLIDWORKS Flow Simulation」
- ドキュメント作成支援ツール「SOLIDWORKS Composer」
- ビジュアリゼーションツール「SOLIDWORKS Visualize」
導入したメリット
- 確実なデータ共有でチーム設計の効率アップ
- シミュレーションにより開発期間を大幅短縮
電子制御技術で門型洗車機のトップシェアを獲得
エムケー精工株式会社は、門型洗車機でトップシェアを誇るものづくり企業だ。アメリカで開発され、日本にも広く普及した門型洗車機は、同社が市場参入した1980年代当時、機械的な制御による画一的な動きしかできなかった。以前から家電製品を手掛けており、マイコンボードを内製化していたことから、その技術を応用して門型洗車機の電子制御を実現。内蔵したセンサーからの情報に基づき繊細な動作を行う洗車機構は、後発メーカーながら同社が国内トップシェアを獲得するうえで大きな役割を果たした。
洗車機やガソリンスタンドなどで使用される機器を製造しているオート機器事業に一貫して携わってきたモビリティ&サービス事業本部 M&S開発部 設計一グループマネージャーの酒井陽三氏は、今でもアメリカ製洗車機から学ぶべき部分は少なくないという。
「当社が先鞭(せんべん)をつけた洗車機の電子制御化は、本家であるアメリカ製のものを越えるきめ細かな動きを実現しました。しかし両者を比較すると、国産洗車機はあくまでも洗車のための機械の域を脱していませんが、アメリカ製洗車機は、基本性能に加え、常にアミューズメントという視点を忘れていません。お客様が楽しめる仕掛けづくりは、今後の大きな課題の一つであると考えています」
幅広い業務に対応するSOLIDWORKSを3Dツールに選定
設計効率向上を目的に、2D設計から3D設計への移行を開始したのは2001年。複数のミッドレンジ3DCAD製品を1年間試用したうえで選定したツールがSOLIDWORKSだ。当時展開していたオート機器、生活機器、情報機器の3部門の設計業務に対応可能であることがその大きな理由だった。
「会社の方針として、部門ごとに3D CADツールが異なる状況は好ましくないという判断がありました。板金、溶接、成形加工や電気設計、自由曲面の設計まで、幅広く対応できるツールという観点で検討を進めSOLIDWORKSを選定しました」(酒井氏)
干渉問題の解決に3D設計が大きな貢献を果たす
現在、大塚商会のセミナーやSOLIDWORKSのユーザー会(SWJUG)講師役を積極的に務める酒井氏だが、導入当初3Dへの移行にはあまり積極的ではなかったという。
「当初は、2Dで回ってきた仕事をあえて3D化する必要はないと考えていましたが、試してみるとその考えが変わりました。門型洗車機の設計は流用部品も多いため、設計変更があった場合などは干渉の問題が起こりがちだったのですが、それを自分のPCで解決できるようになったことが非常に大きなメリットでした」(酒井氏)
電子化で浮上した問題にPDMで対応
門型洗車機の設計を2007年に完全3D化した同社だが、ここで新たな課題が生じた。3万点を超える部品および、そのうち千数百点に及ぶユニーク部品のデータ管理に関する問題である。
「当時はファイルサーバーでデータ共有していたのですが、ルールが確立されない中運用が進んだこともあり、どれが正規データなのか分からなくなってしまい、誤った設計データを流用してしまうというトラブルにつながりました」(酒井氏)
その解決のため、3次元設計データ管理ソフトウェアSOLIDWORKS PDM Professionalを導入。その際、新規サーバーの立ち上げを含む環境整備のITパートナーとして大塚商会を選定し、今日に至っている。
モビリティ&サービス事業本部 M&S開発部 設計一グループ マネージャー 酒井陽三氏
「PDM Professional導入では、ネットワーク環境構築などのノウハウを持つITパートナーが不可欠と考え、大塚商会さんにお声がけしました。我々があまり得意ではないITインフラ面を中心に力強いサポートをいただいています」
効率のよいチーム設計で開発スピードが大幅に向上
門型洗車機のような大型装置は一般的にはチーム設計で行われるが、ベテラン設計者が全体を決定した後に個別設計が行われていたため、どうしても時間がかかっていた。PDM Professionalの導入による設計データ共有により、全体レイアウトと個別設計の同時進行が可能になり、大幅に効率がアップした。
「門型洗車機は土地や建物に合わせて設計する必要があるため、基本的に受注設計になるのですが、全体レイアウトと細部を並行して設計できるようになり、開発スピードは大幅に向上しています。従来と比べると7、8割速くなっているように感じています」(酒井氏)
また設計データ共有化により、デザインレビューを必要に応じて随時行えるようになった点も大きい。「設計変更をした場合でも同じサーバーに保存されるので、図面を送るなどの手間がなくなり工数もかなり減りました。万が一設計ミスがあった場合でも第三者の目でいち早く発見でき、生産性向上に寄与しています」と、モビリティ&サービス事業本部 M&S開発部 設計一グループ 春原崇氏は語る。
モビリティ&サービス事業本部 M&S開発部 設計一グループ 春原崇氏
「曲面図面の取り扱い自体初めての経験でしたが、スムーズに強度解析を行い、金型業者への発注データを準備することができました。今後、新たな挑戦に構造解析ツールを積極的に活用していきたいですね」
熱流体解析ソフトウェアで製品開発期間を大幅に短縮
2012年には、熱流体解析ソフトウェアSOLIDWORKS Flow Simulation、構造解析ソフトウェアSOLIDWORKS Simulationを導入。Flow Simulationは、送風ノズルの設計効率向上に貢献している。
「以前は経験則に基づいた試作品を複数用意し、実際に製品に組み込んでテストを行っていました。試作品製造には1カ月程度かかるうえ、テストしてみると熱暴走を起こすこともあっただけに、設計段階で何度もシミュレーションを繰り返せるようになったことは大きな意味があります。しかもPDM Professionalでデータ共有することにより、それまで1カ月かかっていた試作品製作を、社内の生産技術部門が中一日で製作できるようになったことは、本当に大きな変化です」(酒井氏)
強度シミュレーションを新たな取り組みの基盤として活用
Simulationはデザインが複雑な曲面部品の強度最適化に大きな役割を果たしている。例えば、真空成型による曲面部品の金型発注はこれまで社内デザインチームが制作したデータを利用して行ってきたが、現在はデザイナーから受け取ったデータを設計部門がSimulationで強度をシミュレーションしたうえで発注するよう変更されている。
「洗車機の技術要素は実に多様で、歴代の設計者たちが長年かけて熟考を重ねてきた歴史があります。それは当社の強みでありますが、相反した課題として大きく形を変えることが難しいということにもつながっていました。それだけに3Dモデルによる構造解析は今後大きな意味を持つと考えています」(酒井氏)
3Dモデルを取扱説明書や提案資料に活用
2016年には、ドキュメント作成支援ツールSOLIDWORKS Composer、ビジュアリゼーションツールSOLIDWORKS Visualizeを導入。3Dモデルから目的に応じた画像を作成する前者は取扱説明書の制作に活用。その効果についてモビリティ&サービス事業本部 M&S開発部 設計一グループ 古瀬大貴氏は語る。
「隠れ線処理の手間もあり、3D移行後も取扱説明書の説明図にはテクニカルイラストを利用してきましたが、Composerは操作感の軽さもあって非常に使いやすく、画像の360度回転やコックの位置変更などが簡単に行えるようになり、現在は3Dモデルをベースにした説明図に完全移行しています」
レンダリングによりリアルな画像を作成するVisualizeは、パートナー企業との共同開発におけるコミュニケーションに活用している。
「従来の2D図面の説明では、こちらの意図が伝わりにくいという課題がありました。製品に加えて人や自動車の画像を配置するなど、表現が工夫できるVisualizeは意図の伝達に確実に貢献しています。今後は、試作品に先行したカタログやチラシ制作などにも活用していきたいですね」(酒井氏)
モビリティ&サービス事業本部 M&S開発部 設計一グループ 古瀬大貴氏
「洗車機設計では、限られたスペース内に電装機器をどう収めていくかも課題の一つ。3Dモデルはその効果的な配置に確実に貢献しています」