株式会社由紀精密
導入事例の概要
精密切削のパイオニア企業が独創的なアナログプレーヤーを製造。3D設計・解析で徹底したノイズ低減に挑戦
株式会社由紀精密は、磨き抜いた設計ノウハウと精密切削技術を駆使して独創的なアナログプレーヤーを自社開発。一つ一つの部品を丹念に3D設計・解析し、限りなくノイズの少ない理想的なプレーヤーに仕上げた。導入後長きにわたり活用するSOLIDWORKSのノウハウを生かし、今後も自社ブランド製品の開発に注力していく。
導入の狙い
- 精密部品の設計・開発スピードを上げる。
- 図面の承認管理や正式図面管理を合理化する。
導入したメリット
- 設計・解析ソフトで独自ブランド商品を開発。
- PDMで図面管理の効率が大幅に向上。
磨き抜かれた精密切削技術で、多様な顧客ニーズに応える
株式会社由紀精密(以下、由紀精密)は、精密切削加工を得意とする部品メーカーである。1950年に創業し、90年代前半には公衆電話の金属部品製造などで業績を伸ばした。しかし部品の樹脂化、機構部品の点数減少などによって経営状況は停滞。そこで、高品質な精密部品作りで培った技術力を生かし、航空宇宙や医療機器の部品製造に参入した。
2006年には開発部を設置。渡された図面どおりに部品を作るのではなく、設計の支援から加工までを請け負うことで、高品質と共に納期の短縮やコストダウンなどの価値を提供できるようになった。
2017年10月には持ち株会社の由紀ホールディングスが設立。由紀精密は金属加工などの要素技術を持つグループ会社11社と連携しながら、より多様な顧客ニーズに対応できる体制を整えた。また、2019年4月には事業部制に組織変更を行い、研究・開発や設計を担当する技術加工事業部と、加工を担当する精密開発事業部の二つに分割。「独立採算制の下、それぞれの事業の強みを再認識してもらい、さらに磨きを掛けるのが狙いでした」と、取締役社長の永松純氏は説明する。
そのうえで、2021年4月には事業部制を廃止。強みを増した研究・開発部門と加工部門が再び一体化したことで、顧客対応における部門間連携やスピード感がさらに高まった。
取締役社長 永松純氏
「独立採算制の下、それぞれの事業の強みを再認識してもらい、さらに磨きをかけるのが狙いでした」
SOLIDWORKS導入後、ベンダーを大塚商会に移行
旋盤による精密切削加工を得意とする由紀精密。長年培われたノウハウは、JAXAなどの宇宙関連から消費者向けアナログプレーヤーまで、広く応用されている
同社は2009年ごろから3D CADソフトウェアSOLIDWORKS Professional、CAMソフトウェアMastercamなどを相次いで導入。その理由は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)からロケットエンジンに搭載するクラスタノズルや観測用超小型衛星の部品の設計・製造を依頼されるなど、宇宙関連の仕事が増えたからだ。
高い精度が要求される宇宙関連の部品を設計から加工までを一貫して行うには、3D CADとCAMの活用が不可欠。SOLIDWORKSとMastercamはいずれも世界で最も利用されているソフトウェアの一つであり、顧客との作図データのやりとりが容易であると判断し導入を決定したという。
当初は1ライセンスからスタートしたが、現在では、SOLIDWORKS Professionalを計7ライセンスまでに増やし、さらに構造解析ツールSOLIDWORKS Simulation Professionalも導入した。
大塚商会の手厚いサポート体制を評価
同社はほかのベンダーからSOLIDWORKSを導入していたが、2014年にライセンス管理等を大塚商会に移行している。永松氏は「大塚商会さんは国内での導入支援実績が多く、操作方法やトラブル対処などのサポートもしっかりしています。SOLIDWORKSに関するセミナーを頻繁に行っていて、情報の引き出しが多いことにも頼もしさを感じ、移行を決めました」と、その理由を語る。
また永松氏は、SOLIDWORKS Professionalについて「使いたいと思っていた機能がほとんどそろっていることに加え、さまざまなタイプやサイズの標準部品が自由に追加できるツールボックスが付いているのも便利だと思いました」と評価する。精密部品は、用いる材料の質によって性能や耐久性が大きく異なることが多く、豊富な材料データがデフォルトで用意されていることも同社のニーズにかなっていた。
それまで2Dで行っていた設計を3Dに変更することについて、現場の抵抗は少なく、比較的スムーズに受け入れられたという。「SOLIDWORKSには、操作方法に迷ったらその都度教えてくれるチュートリアル機能が用意されています。新人のエンジニアにはまずチュートリアル機能で使い方を学んでもらっていますし、ベテランでも復習のために利用するケースが多いです」(永松氏)
培ったノウハウと技術を生かして、自社ブランド製品をリリース
由紀精密は、顧客から依頼された部品の設計・加工を行っているが、それによって培った設計ノウハウや加工技術を生かして自社ブランド製品を世に送り出したいと長年考えていた。その第一弾として2020年6月に受注を開始したのが、ピュアオーディオ向けアナログレコードプレーヤー「AP-0」だ。この記念すべき自社製品の設計・製造にもSOLIDWORKSとMastercamが活用されている。
初の自社製品にアナログプレーヤーを選んだことについて、永松氏は「当社が得意とする切削技術が生かせる製品だったから」と説明する。同社は、旋盤による切削加工で時計部品などの回転体を作る技術を得意としている。その持ち味を生かして、何か面白いものはできないかと考えたという。永松氏自身がレコード愛好家だったこともきっかけだった。
短期間で完成度の高いアナログプレーヤーを開発
「AP-0」のユニークな点は、ターンテーブルを回転させる軸を磁石で浮かせて非接触にしたことだ。軸にベアリングが接触して発生する振動を抑えられるので、レコード再生時の余分なノイズが低減される。極めて独創的なアイデアであり、録音されている音だけを純粋に楽しみたい多くのピュアオーディオファンから絶賛された。
部品由来のノイズを極力なくすため、一つ一つの部品をSOLIDWORKS Professionalで設計しては、形状や素材がもたらす振動をSOLIDWORKS Simulation Professionalで解析するという作業を何度も繰り返した。
永松氏は「宇宙関連や医療機器の部品も同様ですが、試作品を作らなくても、設計した部品がどんな影響を及ぼすのかを画面上で検証できるのがSOLIDWORKSの大きなメリットです。問題が見つかればすぐに設計し直せるので、開発の期間が大幅に短縮され、無駄なコストも抑えられます」と語る。
こうして、比較的短期間で初の自社製品を開発できただけでなく、ノイズ低減を極限まで追求した完成度の高いアナログプレーヤーが誕生した。
顧客と設計データを共有し、要望をスピーディーに反映
同社のSOLIDWORKS活用は、設計・製造を依頼される得意先からも高い評価を得ている。
「得意先にもSOLIDWORKSのユーザーが多いので、こちらで設計したデータを共有し、『ここを直してほしい』という要望をすぐに反映させることができます。一緒に同じ画面を見て、描き上げた3Dモデルを回転させながら干渉をチェックしたり、その場で修正を加えたりできるのも便利です」(永松氏)
今では「SOLIDWORKSがなくては、仕事にならない」と言うほど、品質の高い製品を短納期、低コストで提供するために欠かせないツールとなっている。
SOLIDWORKS PDMで図面管理も合理化
また、由紀精密は製品データ管理ソリューションのSOLIDWORKS PDMも導入しており、これによって図面の承認管理や正式図面管理が合理化したことも非常に大きな成果だという。
「検印承認されていない図面は加工工程に回らない仕組みになっているので、事故を確実に防げるようになりました。正式図面以外のバージョンもしっかり整理・保存されるので、非常に助かっています」(永松氏)
社内のサーバーに構築したSOLIDWORKS PDMで3Dデータや図面を管理しており、大塚商会のVPNどこでもコネクトを使って社外からでもアクセスできるようにしている。おかげでコロナ禍による在宅勤務でも、大きな支障はなかったという。
由紀精密は、今後も「AP-0」に続く自社ブランド製品を開発し、新たな事業の柱として育て上げたい考えだ。永松氏は「BtoCだけでなく、BtoBの領域にも積極的にチャレンジするつもりです。ただし、あくまでも当社が得意とする切削加工の領域にこだわっていきたい」と語る。そのためにも、SOLIDWORKSをこれまで以上に活用したいと考えており、それを支援する大塚商会への期待も大きいようだ。