3次元設計をフル活用して、超精密加工の機銃部品を作る

有限会社ファインモールド

有限会社ファインモールド

愛知県豊橋市のこだわりの模型会社ファインモールドの、代表鈴木邦宏氏と、技術班後藤恵吾氏に、三次元設計の価値、SolidWorksへの評価、良いプラモデルづくりのコツ、ツボ、注意点(落とし穴)についてくわしく聞いた。

ファインモールドの概要 ~コアな模型ファンのためのコアな模型会社

ファインモールドについて教えてください。

(鈴木社長):ファインモールドは、大手メーカーがなかなか手がけない、コアな商品づくりに強みを持つ、プラモデル会社です。例えば、旧日本軍の九十七式中戦車[チハ]や九七式軽装甲車[テケ]などは、そうした「コアな製品」です。

(後藤氏):一般の皆様にはむしろ、映画に出てくる架空の戦闘機、例えば「スターウオーズ」のXウイング・ファイター、「スカイ・クロラ」の散花、宮崎駿監督の「紅の豚」の「サボイア」飛行艇などをプラモデル化した会社という方が分かりやすいかもしれません。

版権に厳しい宮崎監督が、プラモデル化の許可を出したとは驚きです。

(鈴木社長):宮崎監督には私が直談判しにいきました。ビジネスの話はまったくせずに、戦車や飛行機の話で盛り上がりました。宮崎監督の戦車や飛行機についての博識ぶりには恐るべきものがあります。そうして話し込んでいるうちに、最後は「アンタのとこなら自由にやっていいよ」と模型化の許可が出ました。

  • 九七式中戦車[チハ]外箱

  • 「紅の豚」SAVOIA S.21 外箱
    (C)NIBARIKI 企画+スタジオジブリ/ファインモールド

  • 「STARWARS」Xウィング・ファイター外箱
    (C)2008 Lucasfilm Ltd. & TM. All rights reserved. Used under authorization.

3次元設計をフル活用して、超精密加工の機銃部品を作る

最近、発表した「こだわりの製品」があれば教えてください。

(後藤氏): 先頃、4mm × 3mm の極小の模型を発売しました。700分の1スケールの艦船模型にとりつける、九十六式連装銃の模型です。機銃の先端は40ミクロンと極細ですが、すみずみまで本物どおりの形状を再現しています。

(鈴木社長):この機銃模型の精密さは、肉眼では見分けられません。そうして「見えない細部」にこだわることで、はじめて艦船模型の「全体の見え方」に現実感が出ると考えています。

(後藤氏):この極小模型は、SolidWorks 3次元CADと自動工作機械を使って設計・製造しました。具体的には、次のような工程です。

サイズ4mm × 3mmの九六式連装機銃の模型

サイズ4mm × 3mmの九六式連装機銃の模型

1.樹研工業から微細加工金型の設計について助言を受ける

樹研工業は、世界最小となる100万分の1g、直径0.149mmの歯車を製作し、ギネスブックに載ったことで有名な会社。

株式会社 樹研工業

2.SolidWorksで3次元設計

SolidWorksは、複合形状のデザイン性と、レーザー立体彫刻へのNCデータ変換が容易だった。この時は、いきなり3次元図を書き起こした。

ソリッドワークスによる三次元設計データ

ソリッドワークスによる三次元設計データ

3.ファインモールド所有の3次元レーザー彫刻機の、より高度な使用方法を確立

SolidWorksから3次元データをSTL形式で出力し、ムク材(ブロック材)との差分をレーザー加工することにより精密部品金型の製作を実現。

三次元レーザー彫刻機(ファインモールド所有)

三次元レーザー彫刻機(ファインモールド所有)

4.樹研工業所有の小型成型機により生産

樹研工業の持つ微細部品射出成型技術を活かし、精密部品を製作。

小型射出成型機(樹研工業所有)

小型射出成型機(樹研工業所有)

5.微細・小サイズの艦船部品の商品化

サイズ4mm×3mm。過去に例のない微細・小サイズの艦船部品が商品化された。

日本海軍九六式25mm単装/連装機銃 外箱

日本海軍九六式25mm単装/連装機銃 外箱

ファインモールドにとっての2次元設計の価値

ファインモールドでは、現在、2次元CADを使用していますか。

(後藤氏):はい、使っています。模型づくりにおいて、前後左右上下の六面図を事前に制作することは重要です(注1)。特に飛行機や戦車などは、いきなり3次元CADで描画したのでは、造形がいいかげんになります。

そもそも飛行機や戦車の「実物」は、2次元図面(六面図)を元に、試作・製造されています。ならば、それら実物の形状を模型で再現する際にも、まず2次元CADで六面図を書き起こすのが合理的なやり方です(注2)。

手動工作機械と手作業による金型づくり

手動工作機械と手作業による金型づくり

「紅の豚」や「スターウオーズ」の戦闘機など、「実物」が存在しない架空の機体であっても、やはり六面図を書くのですか。

(後藤氏):はい、書きます。「架空の戦闘機」ではなく、あたかも実在する戦闘機を再現するがごとくに設計しています。「架空のもの」を「架空」と思って作ると、オモチャのような造形になります。

  • (注1)「戦車のキャタピラや機銃などは、いきなり3次元で設計することもあります」
  • (注2)2次元CADで作成した六面図は、DXFデータの形で3次元CADに取り込み、それを元に造形の3次元化、作りこみを行います。

ファインモールドにとっての3次元設計の価値

先ほどの説明で、ファインモールドにとっての2次元設計の価値が分かりました。ではファインモールドにとっての3次元設計の価値は何になりますか。

(鈴木社長):ファインモールドにとっての3次元設計の最大の価値は「3次元設計でないと、作れないモノがある」ことです。先ほども述べたとおり、ナノテク加工の微細機銃などは、2次元CADと手動工作機械の組み合わせでは作れません。必ず3次元CADと自動工作機械が必要です

2次元では作れないが、3次元なら作れる。技術の会社にとって大きな価値です。

ファインモールドでは、「2次元図面と手動工作機械」による製作を「20世紀型の設計」、「3次元CADと自動工作機械」による製作を「21世紀型の設計」と位置づけています。20世紀型のやり方にも良さがあります。今後も捨てません。しかし、これからの模型づくりにおいては、21世紀型の3次元設計の重要性は、いや増してくることでしょう。

このこと以外にも、3次元設計には多くの価値があります。以下に列挙して述べます。

  1. 手間と感性に頼っていた部分を数値化できる。
  2. 複雑な曲面が立体描写できる。
  3. パーツの合わせを曲線で構成できる。
  4. 設計データを、資料写真と同じ角度、見え方で表示・検証できる。
  5. 他の関係者へのプレゼンテーションが容易になる。
  6. 死ぬまでに作りたいモノが全部つくれる。

3次元設計の価値1. 「手間と感性に頼っていた部分を数値化できる」

では順々にお聞きします。三次元設計の価値1. 「手間と感性に頼っていた部分を数値化できる」とは具体的には。

(後藤氏): 3次元CADを使って線を引き、面を作れば、それらの線や面の構成は「数値化・データ化」されます。すなわち「自動工作機械にデータを送り込んでの自動製造」が可能になります。同じモノを正確にたくさん自動的に作れます。

また、ある一つの部品を念入りに設計し、そのデータを土台にして、「バリエーション(少し違うモノ)」を派生させることも、簡単にできます。

ただし数値化も一長一短です。短所としては「飛行機のカウリング(先端のエンジンカバー)など、微妙な曲線の実現が難しい」ということがあります。これが20世紀型の2次元設計であれば「何となく違う。金型にヤスリをかけてみよう」といったやり方で、微妙なカーブも再現できます。人間の手の偉大さです。一方、3次元CADでマウスを操作してカーブを再現するのは、どうにも難しい。2次元設計だとヤスリで10分でできることが、3次元設計では半日かかることもしばしばです。

しかし、この問題は、私たちが3次元CADに「慣れて」くれば、やがて解決することなのでしょう。

3次元設計の価値2.「パーツの合わせを曲線で構成できる」

3次元設計の価値2.「パーツの合わせを曲線で構成できる」とは。

(後藤氏):従来のプラモデルでは、パーツどうしの「合わせ」の部分は、基本的に直線か平面しか使えませんでした。しかし3次元CADの活用により、パーツどうしの接合面を、複雑な曲線で構成することが可能になりました。部品設計の自由度が上がりました。

3次元設計の価値3.「複雑な曲面が立体描写できる」

3次元設計の価値3.「複雑な曲面が立体描写できる」とは。

(後藤氏):自動車の車輪カバーなど、複雑なアール(曲率半径)が組み合わさった3次元曲面は、2次元図面による再現は原理的に不可能です。無理にやろうとすれば線図を書くか、断面図を多く作るかするしかありません。しかし、その断面図を合成しても正しい形状が再現される保証はありません。

一方、3次元CADなら、複雑な曲面であっても、試作品を作ることなく80~90%の部分までCAD上で作りこめます。3次元曲線は、3次元CADで設計する方が合理的です。

複雑な曲面で構成されている車輪カバー部品

複雑な曲面で構成されている車輪カバー部品

3次元設計の価値4.
「設計データを、資料写真と同じ見え方で表示・検証できる」

3次元設計の価値4.「設計データを、資料写真と同じ角度、見え方で表示・検証できる」とは。

(後藤氏):プラモデル設計においては、一枚の資料写真(2次元情報)から、全てのカタチ情報を読み取って、3次元の造形を作ることがしばしばあります。

3次元CADの利点は、その「一枚の資料写真から作り上げた造形」を、「写真と同じ角度、見え方、構図」でディスプレイ上に表示させられることです。その表示と資料写真とを、皆で見比べることにより、造形の良し悪しを感覚的に判定できます。これは2次元CADでは実現できない、3次元CADならではの利点です。

3次元設計の価値5.「他の関係者へのプレゼンテーションが容易になる」

3次元設計の価値5.「他の関係者へのプレゼンテーションが容易になる」とは。

(後藤氏):「紅の豚」や「スカイクロラ」の戦闘機など、架空の機体を模型化する仕事においては、メカニック・デザイナーなど「技術者でない人」と打ち合わせを行う機会が生じます。この場合は、2次元の六面図よりは、3次元図面を見せた方が、相手にとって分かりやすくなり、互いのコミュニケーションが円滑に進みます。

3次元CADデータの方が、完成品のイメージを伝えやすい。

(c)2008 森博嗣/「スカイ+クロラ」製作委員会

(c)2008 森博嗣/「スカイ+クロラ」製作委員会

  • * 上図は、ソリッドワークスのデータに陰影をつけてイラスト化したものです。

3次元設計の価値6.「死ぬまでに作りたいモノが全部つくれる」

3次元設計の価値6.「死ぬまでに作りたいモノが全部つくれる」とは。

(鈴木社長):3次元設計を使えば、精密な部品を、品質を落とさずに、大量に早く作れます。工期は2次元設計の時の半分に短縮されます。設計工期が短縮されれば、商品化スピードが上がり、より多くのプラモデルを世に出すことができます。

今、私は50歳。普通に考えてあと20年~30年の人生です。だが私には、世に出したい製品、作りたいモノが、まだ沢山あります。それは、20世紀型の2 次元設計のスピードでは、死ぬまでかかっても間に合わないでしょう。でも21世紀型の3次元高速設計をフルに使えば、間に合うかもしれません。「作りたい モノが、ぜんぶ作れる」。私にとっての3次元設計の本当の価値です。

なぜSolidWorksを選んだのか

ファインモールドが、3次元設計のツールとしてSolidWorksを選び、購入するに至った経緯をお聞かせください。

(鈴木社長):かつては3次元CADは「使えない」と思っていました。2002年頃に、社員がある3次元CAD製品を勢いで買ったことがありましたが、その製品は、ブロックを組み合わせる程度の幼稚な造形能力しかなく、複雑な自由曲線は引けませんでした。自由曲線が引けないのなら、プラモデル設計には使えません。ダメだと判断し、使用を中止しました。

それからはサーフェス型のCADシステムを使っていました。ソリッド型はダメだと思いこんでいました。

その後2004年のある日、外注先のあるデザイナーがソリッド型の3次元CADを使っているのを見ました。画面を見ると、自由曲線がちゃんと引けている。デザイナーに聞くと、「値段もそこそこで使いやすい」という。これがソリッドワークスとの出会いでした。ただちに購入を決めました※。

  • * 「ファインモールドでは、万事がこのように3秒で決まります」

SolidWorksの良い点

その後、3年間SolidWorksをお使いいただいています。評価をお聞かせください。

(後藤氏):3年間ソリッドワークスを使い続けて分かった良い点は、「操作の直感性が高い」こと、「使いこなしがいがある。のびしろが大きい」こと、「アドオンが豊富である」こと、「サポートが良い」こと、「STLデータとの相性が良い」ことの五点です。

「ソリッドワークスには、伸びしろを感じます」

「ソリッドワークスには、伸びしろを感じます」

良い点 1.「操作の直感性が高い」ことについて。ソリッドワークスにおいては、形をちょっと押し出したい、少し凹ませたいと考えたときに、だいたいこうやればできるだろうと思ってマウスを動かすと、本当に思ったとおりのカタチに変わります。直感性が高く、良いと思います。

「直感性の高さ」においては、ソリッド型の方が、サーフェス型より優れていると感じます。私のイメージでは、サーフェス型が「(表面だけの)紙細工」を作るのに対し、ソリッド型では「(中身が詰まった)粘土細工」を作ります。個人的には、カタマリを扱うソリッドモデラーの方が、実際の「モノ」に近いので、好きです。

良い点 2.「使いこなしがいがあり、のびしろが大きい」ことについて。これまでは、マニュアルも読まずに、我流でSolidWorksを使ってきました。最近、ふと、「我流だけで、ここまで色々できるのなら、本格的に勉強して使いこなせば、もっと良い設計ができるはずだ」と思いました。SolidWorksには可能性、のびしろを感じます。

良い点 3.「アドオンが豊富である」ことについて。大塚商会からは「SolidWorksには、サードパーティのアドオンが多くある。ファインモールドから『特殊な要求』が来たとしても、それらアドオンを組み合わせれば、何とか対応できる可能性が高い」との説明がありました。これもまた「のびしろ」を感じさせる仕様です。

良い点 4. 「サポートが良い」ことについて。ある時、座標系の変更のやり方が不明だったので、大塚商会の「たよれーる」コールセンターに電話したところ、ただちに的確な回答をもらえました。「すぐ電話がつながり、その場で回答が得られ、回答内容も適切である」という状態が実現できており、良いサポート体制だと思います。

良い点 5.「STLデータとの相性が良い」ことについて。自動工作機械にデータを渡すにはCADデータをSTLデータに変換しなければいけません。SolidWorksは、それまで使っていたサーフェスCADソフトに比べ、STLデータの精度において優れていました。

今後の期待

SolidWorksへの今後の期待をお聞かせください。

(鈴木社長):ファインモールドは、今後も「最高の模型」を作り続けます。SolidWorksには、最高の模型を作るための「頼れる道具」としての進化を、大いに期待します。

(後藤氏):今後は、SolidWorksの潜在力を100%活用できるよう、さらに操作方法に習熟していきたいと考えます。大塚商会には、今後も、すぐれた製品の継続提供と同時に、「たよれーる」などの基本サポート強化と、「一歩進んだ使いこなし」を実現するための技術支援とをいただければと希望いたします。これからよろしくお願いいたします。

今回のインタビューでは、「3次元設計と直接関係ないが、しかし興味深い話」が多く出てきました。それらの話を参考情報として記します。

「『頼れる道具』としての進化に期待します」

「『頼れる道具』としての進化に期待します」

参考情報:「良いプラモデルを設計するためのコツ、ツボ、注意点」

そもそも良いプラモデルとはどんなプラモデルなのか。

そもそも良いプラモデルとはどんなプラモデルですか?

その問いに解答するために、まず原理原則から考えてみます。

原則1:「プラモデル(模型)とは、『型』を『模する(まねる)』ものである」

原則2:「模型とは、カタチを通して、ユーザーの感性に満足を与えるための商品である」

原則3:「模型とは、最初から完成品を手に入れるのではなく、部品を自分で組んで楽しむものである」

この三つの原則を満たした状態を、ユーザーの言葉で表現すると、「良いね、似ている、カッコイイ。組んでて楽しいな」となります。

良い模型とは、ユーザーに「良いね、似ている、カッコイイ。それに、組んでて楽しい」と思ってもらえる模型のことです。

どう設計すれば「本物らしく」なるか

実物を35分の1、72分の1に「縮小」したプラモデルを、スケールモデルと呼びます。今、「縮小」と簡単に言いましたが、実際には容易ではありません。「縮小」するには、まず「原寸」を知る必要がありますが、現実には昔の戦車や飛行機のサイズを細部に至るまで計測することはできません。特に現役の軍用機の場合は軍事機密なので計測は不可能ですし図面も世に出てきません。このように「原寸情報」が正確に得られない以上、機械的な縮小は不可能です。

余談ですが、最近の飛行機の外板は厚さわずか0.5ミリ。一方、プラモデルの部品は厚さが原則1ミリです。この場合、「縮小」はできません。

また機体の外板と外板の継ぎ目のラインも、プラモデルの筋彫り幅は、実機の継ぎ目幅を忠実に縮小したものではありません。

自動車模型の場合は、実物を忠実に縮小しても「リアル」と思ってもらえないことがあります。人が実物の自動車を見るとき、かすかに見下ろす視点、自分から向こうへ広がっていく視界の中で見ます。一方、プラモデルの自動車に対しては、掌の上の模型を、完全に見下ろす視点、自分から模型へとせばまっていく視界の中で模型を見ます。この場合、模型には、少しだけデフォルメ(変形)を加えておいた方が、「本物らしく」見えます。

一方、戦闘機などは、一般人が本物の戦闘機を見る機会はまずなく、「写真」を通じて本物を認識します。「写真の視点」は「一つの世界を見下ろす視点」であり、「完成模型を見下ろす視点」とほぼ同等です。つまり、この場合は、模型にデフォルメを加えてはいけないということになります。

ここでさまざまに述べたことは、実機を機械的に縮小することはできないし、またできたとしても、ユーザーには「リアルだ」と思ってもらえないということです。

模型の設計には「カタチに対するセンス」が強く求められます。だからこそ難しく、そして、やりがいがあります。

「一枚の写真を見て、瞬時にアールが読み取れなければならない」

部品設計の材料が、一枚の資料写真しかない…。模型づくりではそういうケースがしばしばあります。ここで設計者に求められるのが「写真を読む力」です。「写真を読む力」とは、文学的な意味ではなく、例えば「この部品のこの箇所のアール(曲率半径)はいくつだ」と問われて、写真を見ただけですぐに答えられる力のことです。

写真をパッと見て、形をバシッと把握し、正しい線がシュッと引ける。模型の設計には、そういう「形状把握能力」が必要です。

「錯視」を補正する

3次元CADとは、3次元の立体透視図を、2次元の画面に映し出すものです。2次元のディスプレイに映っている以上、現実の3次元の物体を肉眼で見るのとは、見え方が微妙に異なります。

例えば、3次元CADで直方体を表示すると、パースがかかって台形に見える「錯視」が発生します。飛行機のカウリングなど3次元曲面も、現実の物体とは微妙に異なって見えます。こうした錯視に無関心のまま設計を進めると、実物試作品ができた段階で、「似てない。何かがおかしい」という評価になることがあります。

3次元CADにおける「錯視」は自分の頭脳の中で補正する必要があります。しかし、それはなかなかに難しい作業です。現在のファインモールドの技術的課題の一つでもあります。

資料の重要性

良い模型を作るには、資料集めが重要です。資料は、商品企画が決まってから集めはじめたのでは遅い。そうではなく普段から、関係ない資料も広範囲に集めておき、企画が決まったときには資料は全部そろっているという状態にします。

資料の蒐集ルートは、「蛇の道は蛇」の世界です。あらゆる手段を使います。時には、戦車の「ホンモノの設計図」を入手できることもあります。そうしたお宝資料が入手できたときは、うれしいものです。資料集めは重要なので、私は一枚の図面のために100万円出しても惜しくありません。

ファインモールドの資料室

ファインモールドの資料室

良い設計をするには、金型知識が重要

模型の設計者には、金型の最新知識が必要です。最新の情報を常に入手しなければいけません。3次元CADでの設計は、自動工作機械と組み合わせてはじめて真価が出る設計です。金型や工作機械で、「今、どこまで作れるのか」を知っていてはじめて、「ならば設計でもここまで細かく作って大丈夫だろう」と判断できます。

部品の勘合精度に気を配って設計する

先にも述べたとおり、模型とは「組み立てて楽しむ」ものです。部品同士が、カチッと隙間なく合えば、組んでいて楽しくなります。逆に、部品の接合があいまいだったり、合わせ目に隙間が空いていたりすると、模型を作る楽しみは大きく減ります。模型を設計するときは、この「部品の勘合精度」に十分気を配ることが重要です。

戦車や飛行機の「動作原理」の知識が必要

良い模型を設計するには、実物の部品の意義、役割、機能について正確に認識する必要があります。

飛行機の模型を設計するなら、飛行機がなぜ飛ぶのかを知る必要があります。大砲の模型を作るのなら、大砲が動作する原理と手順、つまり、「綱を引っ張る → ゲキ鉄が落ちる → 火薬に点火 → 発射 → 砲身が後ろに下がって反動吸収」など一連の動作を認識している必要があります。動作原理を認識してはじめて「いかにも動き出しそうなリアルな模型」が設計できます。

動作原理の知識は、「紅の豚」のサボイア飛行艇など、架空の機体を模型化する場合に、特に重要です。重心、重量バランス、翼面加重など、なるべく実機どおりに再現します。フロートの部分は正確に水が切れる角度で作ります。

サボイアの模型を見た人、全員が「紅の豚に出てきたあの飛行艇だね」と思えるようでないといけない。一方、飛行機のプロが見ても、この形なら、飛んでもおかしくないと思われるようでありたい。その二つが実現できてこそ、真の「リアルな」模型です。

「ファインモールドはこれからも最高の模型を作り続けます!」  ※後ろにあるのは、本物の旧日本軍の大砲

「ファインモールドはこれからも最高の模型を作り続けます!」後ろにあるのは、本物の旧日本軍の大砲