株式会社ココロ
東京都羽村市の株式会社ココロにSOLIDWORKSを導入した経緯とその効果について詳しく聞きました。
株式会社ココロ
株式会社ココロ(以下、ココロ)は、アミューズメント施設、イベント、展示会などで活用される人型、動物型、恐竜型のロボットを特注開発、製造しています。社名の由来は「ロボットに『心』を吹き込みたい」という願いから。創業1984年、社員数50名、「生き物らしさ」を追求し、700体を超える製作実績を持つ世界トップレベルの特注ロボットメーカーです。
最近の作品では、2015年7月に長崎県のレジャー施設・ハウステンボスの敷地内に開業し話題となった宿泊施設「変なホテル」があります。ロボットが接客するというこの不思議なホテルの接客ロボットは、ココロがハウステンボスと共同で開発しています。
設計の各工程でSOLIDWORKSを活用
ココロではSOLIDWORKSをどう活用していますか。
ココロでは、自社で開発している特注ロボットの3次元設計に、SOLIDWORKSを活用しています。具体的な用途は次のとおりです。
用途1.外観の設計(仕上げ)
特注ロボットの外観の設計では、まず造形師が下絵を描いて、粘土模型を作り、それをスキャンした3次元データをSOLIDWORKSに取り込んで、仕上げを行っています。
用途2.内部の骨組みの設計
ロボットを支える骨組み、骨格の設計にSOLIDWORKSを使っています。自重を支えるための構造計算、野外で使うロボットに雪が積もった場合の耐久性シミュレーション、横風に対する安定性のシミュレーションなどを行います。
用途3.内部の駆動装置の設計
ロボットを動かすための駆動装置の設計にも、SOLIDWORKSを使っています。この工程では部品間のアセンブリ整合性、部品動作チェック、干渉チェックなどが重要になります。
以下はSOLIDWORKSを使って設計したロボットの例です。
変なホテルのフロントで接客する人型ロボットと恐竜ロボット
JR 福井駅西口恐竜広場に設置している恐竜ロボット
3次元CADを導入した理由
ココロが、設計に3次元CADを導入するようになった経緯を教えてください。
弊社が作るロボットは基本的に量産品ではなく一品一様の特注品であり、試作品がそのまま納品物につながっていくことも珍しくありません。このような開発では、「設計者や造型師が、自身の経験と勘を頼りに、一つ一つの製品を手作業で仕上げていく」という方法が主流になります。
しかし最近、歯科教育用患者ロボット(右写真)※のように、「同一形状・同一品質の製品を複数個、制作・納品する」「納品後も継続的に改良を加える」という製品が登場しました。これら複数生産品を手作りだけで作ると納品物に個体差が生じるので良くありません。
歯科教育用患者ロボット「シムロイド」。治療実習の中で痛みを感じるような行為をした場合、ロボットが「あっ!」「痛い」といった臨場感のある反応を示す
また歯科実習ロボットの場合、「ロボットを患者に見立てて治療実習を続けるうちに、ロボットの顔の表皮部分が破損する」という事態が起こる可能性があります。この場合、その製品を直ちに修繕すると同時に、その後、納品する製作物については、破損しにくくなるよう表面や内部機構に改善を加えることになります。このとき3次元CADで設計した「土台となる設計データ」があれば、微修正や改善が効率的に行えます。
これまで手作りを重視してきた社内では、設計のシステム化に対しさまざまな意見がありましたが、「3次元CADの積極活用は時代の趨勢に対応するための会社としての方針」と説明し、理解を仰ぎました。
2012年には「今後、社内で標準使用する3次元CAD」を定めるべく、数社の製品を比較検討しました。
- * 歯科教育用患者ロボットシミュレーションシステム SIMROID(R)(シムロイド)。日本歯科大学、株式会社モリタ、株式会社モリタ製作所、株式会社ココロの共同開発。ココロはリアルな患者ロボットの製作を担当した。
使いやすさと費用対効果に着目して選定
3次元CADを比較検討したときに求めた要件を教えてください。
標準使用する3次元CADに求めた要件は、「使いやすいこと」「コストバランスが良いこと」の2点でした。
まず使いやすさについては、そもそも社内に3次元CADの利用経験者が少なかったこともあり、3次元CADに不慣れな設計者でも手軽に使える、操作が容易で使い勝手の良い製品を採用したいと考えました。
次にコストバランスについては、将来的に利用者数が増えても、導入・運用コストが大きな負担とならないような製品を選びたいと考えました。
RT事業部 開発センター 開発課 冨田朝美氏
こうした基準を念頭に、各製品の試用版などを実際に使ってみたところ、チュートリアルが分かりやすく使い勝手も良かったのがSOLIDWORKSでした。費用も手頃で導入実績も豊富にあり、最も信頼性が高いと判断できたので、SOLIDWORKSの導入を決めました。
活用にあたってはノウハウを蓄積するために、社内にSOLIDWORKS担当者を定め、テンプレートなど環境設定の取りまとめを任せると同時に、大塚商会とのサポートのやり取りもその担当者に一元化し、ノウハウの体系的な蓄積を図りました。
設計全てをいきなり3次元化するような無理はせず、必要に応じて適材適所で使いこなしながらノウハウを蓄積し、徐々に設計工程での活用範囲を広げていきました。
RT事業部 開発センター 開発課 課長代理 佐藤公俊氏
SOLIDWORKSの導入効果
その後、3年間使い続けて分かったSOLIDWORKSの良さを教えてください。
SOLIDWORKSの導入により以下のような効果が上がっています。
効果1.設計段階で干渉確認が可能に
以前の開発では、まず樹脂で外観を成形し内部装置を組み込んで、それから部品同士の干渉を目視でチェックしていました。干渉が見つかった場合、基本的には外部構造や内部装置を削って調整して対処しますが、最悪の場合は内部装置の設計を最初からやり直すこともありました。しかしSOLIDWORKSを活用するようになってからは、試作物を組み上げる前に、CAD画面上で事前に部品間の干渉をチェックすることが可能になり、設計の工数低減と期間短縮につながっています。
効果2.狭い空間内での部品の最適配置が可能に
人型ロボットの場合、細やかな顔の表情や手の動きを実現するために、その部分には数百個もの部品を組み込む必要があります。しかし顔部分、手部分どちらも内部空間がそれほど広くないため、全ての部品を組み込むには配置上のやりくりが必要になります。この最適配置のための試行錯誤は、SOLIDWORKSの導入により以前に比べてとても容易に行えるようになりました。
効果3.骨格の緻密な設計が可能に
SOLIDWORKSの導入により、自重負荷への耐久性をはじめ、造形物を支える骨格部分の各種シミュレーションが高速で実行できるようになりました。これにより複雑な骨格形状の設計、それによる最終造形物の表現力とリアリティの向上が可能になりました。ただしこの点については、骨組みの加工・組み立て担当部門からは「形状が複雑になり製造が難しい」と言われています。この課題を解決するためにも3次元設計にさらに習熟し、耐久性、表現力、作りやすさの全てを兼ね備えた理想的な骨格を設計できるようになりたいと考えています。
効果4.製造手順書や顧客プレゼンのビジュアル化
SOLIDWORKSで作成した3次元画像を多く含めることでより分かりやすくなったのが、設計部門が製造部門に渡す組立手順書と作業指導書です。お客様にも完成後のイメージや内部構造を早期に分かりやすく伝えることが可能になりました。
ココロの3Dプリンター活用の取り組み
ココロでは3次元CADと3Dプリンターを組み合わせることにより、多くの成果を上げています。例えば、アクトロイドの頭骨は従来はガラス繊維強化プラスチック(FRP)で成形していましたが、それをABS樹脂を用いた3Dプリンター成形に変更したところ、製作期間を数週間から24時間へと大幅短縮し、コスト削減につなげることができました。
また従来は後付け加工していた、シムロイド製作の際の位置決めピンを打ち込むためのステー部も、現在は最初から設計データに組み込んで3Dプリンターで出力するよう切り替え、高精度成形を実現しました。
大塚商会のサポートへの評価
大塚商会のサポートへの評価をお聞かせください。
SOLIDWORKSの能力を最大限に引き出そうとするとき、大塚商会のサポートに頼るところは少なくありません。
大塚商会には、SOLIDWORKSだけでなくCAD全般に精通している専門のサポート部隊があります。SOLIDWORKSで不明点があった場合は、すぐに大塚商会に電話して聞いていますが、常に的確な対応があります。
SOLIDWORKSの使い方だけでなく、SOLIDWORKSの能力を引き出すためのパソコンの仕様選択・設定、周辺機器手配、トラブル時の緊急サポートなども大塚商会に聞いてます。CADで分からないことがあればとにかく大塚商会に連絡すればよいので、私たちは本来の業務であるよりよいロボット作りに集中することができ、とても助かっています。
RT事業部 開発センター 開発課 主任 金井久典氏
今後の期待
大塚商会への今後の期待をお聞かせください。
ココロでは、引き続きSOLIDWORKSの活用範囲を広げていく予定です。特にSOLIDWORKS Simulationによる複合材料の非線形シミュレーションに関心があります。
ココロは、長年培ってきた職人的な技術と感性に、SOLIDWORKSなどのツール群による合理化を掛け合わせることで、これからも「ココロにしか作れないもの」を作り続けたいと思っています。大塚商会にはココロのものづくりを、SOLIDWORKSをはじめとする優れた製品とサポートとを通じて後方支援していただきたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。
RT事業部 RT営業部 次長 櫻井英彰氏