自動切断機のトップメーカーがSOLIDWORKSを導入して、自社製品の廃棄ロスを10分の1に削減
株式会社荻野精機製作所
- 業種
- 自動切断機メーカー
- 事業内容
- 自動切断機の製造販売、部品加工、前各号の付帯する一切の業務
- 従業員数
- 30名(2021年11月現在)
- サイト
- https://www.ogino-ss.co.jp/
導入事例の概要
自動切断機メーカーの株式会社荻野精機製作所は、設計者ごとにばらつきが生じていた設計を標準化するため、SOLIDWORKSを導入。製品ごとの標準3Dモデルを整備し、設計を統一した。3D化のメリットは、調達の合理化や組み立て効率の改善など、設計以外の部門にも波及している。
導入の狙い
- 設計者ごとの設計のばらつきをなくす。
- 組み立て作業の効率を向上させる。
- 部品の調達漏れや無駄をなくす。
導入したメリット
- 2D図面が3Dに置き換わり設計品質・業務が標準化。
- 調達・組み立て工程での業務効率が向上。
導入システム
切断を通じて、感動を届ける
株式会社荻野精機製作所(以下、荻野精機製作所)は、工業用原料や食品など、さまざまな素材を切断する自動切断機メーカーだ。1960年の創業以来、60年近くにわたって独自の切断技術を磨いてきた。これまでに納入した切断機は約6,000台、納入先は約4,000社に上り、同社の製品がいかに多くの企業から信頼されているかが分かる。
同社が最も得意とするのは、ゴムの切断だ。タイヤ製造の上流工程で行われるゴムシートの切断や、消しゴムを四角にカットする工程切断などに同社の切断機が用いられている。
「弾性のあるゴムは刃を入れても通りにくく、直線的に切るのも容易ではありません。そのため、刃の剛性(ごうせい)や切り込み角などに工夫を凝らす必要があるのですが、当社はそのノウハウを60年近くにわたって磨き続けてきました」と語るのは、代表取締役社長の荻野真也氏である。
同社の自動切断機は、ほぼ全てが受注生産品であり、製造からカスタマイズまで全て自社で行っている。「他社がやらない製品を、お客様の要求に応えて開発できるのが何よりの強みです」と荻野氏は説明する。
同社は「切断を通じて、感動を届ける」を2021年度の目標に掲げ、他社にまねできない寸法精度や生産速度にこだわるだけでなく、シンプルで使いやすく長持ちする切断機の提供を目指している。
代表取締役社長 荻野真也氏
「刃の剛性(ごうせい)や切り込み角などに工夫を凝らす必要があるのですが、当社はそのノウハウを60年近くにわたって磨き続けてきました」
製品の標準化を進めるためSOLIDWORKSを導入
荻野精機製作所の自動切断機は、切断する素材や用途に応じて、さまざまなラインアップをそろえているのも特長だ。受注生産が基本だが、その多くはベースとなる「標準機」をカスタマイズして顧客に納入している。
しかし以前は標準機の設計が統一されていなかったため、同じはずのものが、担当する設計者によって寸法や使用部品が異なってしまうことが大きな課題であった。
「標準機といっても1製品に対して2D図面が5枚程度のものもあったため、仕様に関する解釈の余地が広く、注文を受けるたびに設計者が自前のアレンジを加えて寸法や部品を決めていました。その結果、納める製品ごとに仕上がりのばらつきがでていたのです」と荻野氏は振り返る。
標準化された仕様で品質や性能が安定した製品を供給すべきと考えた荻野氏は、製品の標準化を実現するためのツールとして、2015年に3D CADソフトウェアのSOLIDWORKSを導入した。
デファクトスタンダードであることが選定の決め手に
SOLIDWORKSは3D設計のためのツールだが、一度作った製品の基本設計データをライブラリー化すれば、繰り返し流用できることも大きな特長である。
その機能を生かして、3Dによる標準機の基本設計データをあらかじめ用意し流用させることで設計の標準化を図ろうと考えたのである。
数ある3D CADソフトウェアの中からSOLIDWORKSを選定したのは、「3D CADのデファクトスタンダードであることに加え機能の更新頻度が高く、どんどん新しい取り組みができそうなことに魅力を感じました」と荻野氏は語る。
また、同社は大塚商会を通じてSOLIDWORKSを導入しているが、大塚商会を選んだことについては、「困り事や要望があると、すぐに対応してくれるレスポンスの良さを評価しました」(荻野氏)と説明する。さらに、大塚商会が独自に開発・提供しているSOLIDWORKS Collection KITが日本人ユーザーの視点に立った扱いやすいツールであることも選定の大きなポイントだった。
3D CADの経験者を採用し、社内教育と啓蒙(けいもう)を図る
「設計を標準化したい」という目標に沿ってSOLIDWORKSを導入した荻野氏であったが、3D CADで標準機の基本設計データをライブラリー化するとなると、それを流用して実際の製品を設計する担当者も、2D設計から3D設計にやり方を変えなければならない。これに対して設計現場から反発が起こることは十分に予想された。
そこで荻野氏は、3D CADを扱える設計者を外部から採用し、標準機の設計データの標準化を任せると共に、社内の設計者に3D CADのメリットや使い方を教え、浸透させる役割を担ってもらうことにした。
この役割を任されたのが、SOLIDWORKSの導入とほぼ同時期に入社した技術部 標準整備課 兼 DX課の猪狩彰太氏である。
猪狩氏は「大塚商会さんからSOLIDWORKSのマニュアルを購入し、それを基に使い方の社内講習などを行いました。私自身は前職で3D CADを利用していたので、その経験を基に2Dに比べて便利な点などを丁寧に説明し、抵抗感をなくしてもらえるようにしました」と振り返る。
3D CADに関する社内教育や啓蒙活動と並行して、猪狩氏は当初の目的であった標準機の基本設計データ作りとライブラリー化も行った。
「2Dで作成されていた標準機の基本図面を3Dに置き換えていく作業です。基となる基本図面の数が少なかったのでかなり苦労しましたが、まとめられる部品は集約して組み立てが容易な構造にするなど、後工程がスムーズに進めやすい形に標準化していきました」と猪狩氏は説明する。
この作業の過程で、社内の設計者に3D CADによる設計方法を見てもらったことも啓蒙に役立ったという。
約10機種に及ぶ標準機の基本設計データ作りは、1年ほどで完了した。「SOLIDWORKSは非常に直感的で使いやすいツールなので、作業はかなり効率よく進みました」と猪狩氏は評価する。
技術部 標準整備課 兼 DX課 猪狩彰太氏
「2Dで作成されていた標準機の基本図面を3Dに置き換えていく、標準機の基本設計データ作りだけでなく、ライブラリー化も行いました」
調達や組み立て工程にもメリットがもたらされる
SOLIDWORKSによって、目標とする標準機の仕様統一が実現したことは何よりも大きな導入効果であった。それだけでなく、荻野精機製作所の「ものづくり」にさまざまなメリットをもたらしている。
荻野氏は、SOLIDWORKSの導入によって、調達や組み立ての担当者が試作段階から関与できるようになったことを高く評価している。「調達や組み立てを行う前に各担当者が集まり、できあがった3Dモデルを基に設計レビューを行うようになりました。これによって後工程がスムーズに進みやすくなったのは、大きな効果です」と語る。
また、SOLIDWORKSには、3D設計で使用した部品のデータを基に、自動でBOM(部品構成表)を作成する機能もある。
同社で部品調達を担当する製造部 開発調達課の川上 誠氏は「2D設計のときは設計図から部品を拾い出さなければならず調達の漏れや無駄の原因となっていたのですが、BOMで整理されるようになったので、そういったミスは解消されました」と語る。
製造部 開発調達課 川上誠氏
「設計レビューによって、後工程がスムーズに進みやすくなったのは、大きな効果です」
1製品当たりの廃棄ロスが約10分の1に
一方、組み立て工程においては、担当者に一人1台のPCを支給し、SOLIDWORKSで作成した3Dモデルをビューアーで映し出すことで、どこに何の部品を組むのかが分かりやすくなった。
組み立てを担当する製造部 課長の千葉亮氏は「部品リスト上の型番を指定すると、該当する部品の位置が3Dモデル上で示されます。そのため作業がとてもラクになったほか、ノウハウの少ない新人スタッフでも、以前より簡単に組み立てられるようになりました」と明かす。
荻野氏は「設計ミスや調達ミスがなくなったことで、1製品当たりの廃棄ロスが以前の20~30万円から、約10分の1の2万~3万円まで減ったことも大きな効果です」と語る。
製造部 課長 千葉亮氏
「どこに何の部品を組むのかビューアーで映し出すことで、ノウハウの少ない新人スタッフでも、以前より簡単に組み立てられるようになりました」
同社は、今後もSOLIDWORKSを積極的に活用していく。例えば、営業の際に3Dモデルを使ってVR、ARによるプレゼンテーションを行うことなども検討中だ。
荻野氏は「大塚商会さんには、より効果的な使い方を積極的に提案してほしいですね」と期待を込めて語った。