株式会社ジャパンリーコム
光ケーブルの接続用部品である「クロージャ」を製造するジャパンリーコム(東京都渋谷区)は、製品設計に3次元CAD SolidWorksを活用しているが、導入後1年間、設計者は誰も触らなかったという。そんな状態からSolidWorksを社内で活用し効果を上げるに至った経緯、そして導入効果につき、同社開発部 磯部秀一氏に詳しく聞いた。
ジャパンリーコム~光ケーブル接続用部品の製造販売業
ジャパンリーコムの業態について教えてください。
ジャパンリーコムは、「クロージャ」と呼ばれる光ケーブル接続用の部品の製造販売を行う会社です。電信柱付近に黒やグレーのボックスがぶら下がっているのをご覧になったことがあると思います。それが「クロージャ」と呼ばれる、光ケーブルの心線の接続部分を保護するものです。
ジャパンリーコムは、1995年通信光化時代に対応できるケーブル接続用部品全般を扱う総合メーカとして設立されました。以来光ネットワーク用品の開発に取り組んでいます。ここ代々木の本社の開発部で製品設計を、生産は埼玉県東松山市の工場で行っています。
「架空クロージャ」の中には、光ケーブル心線の束が格納されている。
SolidWorksを製品設計に活用
ジャパンリーコムではSolidWorksをいつからどのように活用していますか。
ジャパンリーコムでは、SolidWorksを主にクロージャの設計に活用しています。最初の導入は2005年、本社と工場に入れました。1年後の2006年に本社に増設、同時に設計データ管理システムPDMWorksの導入も行いました。
設計にはSolidWorksだけではなく、これまで使っていた2次元CAD(ViSiON)も使っています。
導入後、活用されないまま1年が経過
ジャパンリーコムがSolidWorksを導入した理由は何ですか。
導入した2005年当時は、設計は2次元CADで事足りていましたので、特に差し迫った使用目的があったわけではありませんでした。しかし他の製造業と同様、今後は通信用部品の業界でも3次元化の波が押し寄せてくることは予測していました。今すぐに活用できなくても、早い段階で今後に備えようという会社の方針により、いわば試験的な意味合いで導入を行いました。
導入にあたり、他製品と比較検討はされましたか。
もちろん選定を行いました。当時大塚商会からは、3次元CAD3製品を紹介されました。検討を行ったところ、以下の理由から、ジャパンリーコムに最も適している3次元CADはSolidWorksであると判断しました。
- SolidWorksは直感的に操作ができるので、3次元CADの未経験者ばかりのジャパンリーコムでは導入しやすいと考えた。
- SolidWorksは3製品の中では最もデザイン機能がシンプルであった。しかし、クロージャのような意匠性があまりない製品では、デザインに特化した機能はむしろオーバースペックであり、SolidWorksの機能で必要十分であった。
- 価格が手頃であった。
しかし、SolidWorksを導入したものの、設計者が操作法を一から覚えて設計ツールとして使えるまでになるにはある程度時間が必要です。誰でも活用できる環境にはありましたが、みな日常業務に忙しく、1年近くも埃をかぶった状態になっていました。
SolidWorksを社内で広めるために行ったこと
しかし今はほぼひとりに一台と活用されています。どうやってここまで社内に広まったのでしょうか。
導入された頃、私は工場から本社に転属になったばかりで、まだ担当している製品がなく、部内では手伝い的な役割をしていました。時間があったので、SolidWorksをいろいろ触ってみるうち、これはクロージャの設計に思った以上に活用できると確信しました。この良さを社内で広めたいと思うようになり、率先して動くようにしていました。
「率先して動く」とは具体的にはどんなことを行ったのですか。
以下三つのことを行いました。
1.「まずは自分が成功する」
音頭を取っているのであれば、まずは自分がSolidWorksを使った設計で実績を作ること。そうすればみな黙っていても真似をしてくれると思い、努めてSolidWorksでの設計を行うようにしました。
2.「常にみなに声をかける」
最初は新しいものに興味を持っても、みな日常業務に忙しいので、黙っていればつい興味をなくしてしまいがちです。常に積極的に声をかけ、折に触れては「SolidWorksを使おう」と薦めました。
3.「部内講習会を行う」
2006年夏頃、設計者全員に集まってもらい、1時間ほどの簡単なものでしたが、SolidWorksでの設計手法に関する講習会を行いました。
開発部 磯部秀一氏
「SolidWorksを皆で活用するにはまずは自分が実績をつくることだと思いました」
設計にSolidWorksを使ったクロージャ第一号が誕生したのはいつですか。
2006年10月です。関連会社との共同で開発した製品の一部品の設計を私がSolidWorksを使って行いました。その時に、2次元CADで設計されたその他の部品もSolidWorksのデータに変換し、3次元デザインで社内外にプレゼンテーションを行いました。これが大好評を得て、SolidWorksは設計ツールとしてだけでなく、プレゼンテーションツールとしても有効であることが証明されました。
これをきっかけとし、社内でも徐々にSolidWorksが広まっていき、冒頭で述べた通り、現在では開発部全体で製品設計に活用しています。
ジャパンリーコムの代表的製品である架空クロージャ(左)、地下クロージャ(右)
ジャパンリーコムにおけるSolidWorks 五つの導入効果
ジャパンリーコムがSolidWorksを実際に活用し始めて約1年半がたちました。これまでのところでのSolidWorksの導入効果を教えてください。
SolidWorksの導入効果は、クロージャ製造のそれぞれの工程においてありました。順を追って申し上げると以下の通りです。
- 構想段階においてイメージを形にしやすくなった。
- 設計のスピードが倍早くなった。
- お客様へのプレゼンがやりやすくなった。
- 試作の納期が半分以下に短縮された。
- 金型作成時の加工ミスが大幅に削減された。
導入効果その1:「構想段階においてイメージを形にしやすくなった」
では順番に伺っていきます。SolidWorks導入効果の1番目、「構想段階でイメージを形にしやすい」とは。
2次元と違って、頭の中で平面図を立体に組み立ててイメージするのではなく、3次元だと見たままをイメージできるので、製品の形の構想が格段にしやすくなりました。
導入効果その2:「設計のスピードが倍早くなった」
SolidWorks導入効果2番目、「設計のスピードが倍早くなった」とは。
これまでの設計は、まず2次元の設計図を作りそれを3次元に起こしていましたが、SolidWorksを使うことにより最初から3次元で設計できるため工程短縮ができました。
導入効果その3:「お客様へのプレゼンがやりやすくなった」
SolidWorks導入効果3番目、「お客様へのプレゼンがやりやすくなった」とは。
お客様は設計知識がある方ばかりではありません。2次元の設計図を持って行っても、「平面図は見ても分からないからいらない」と言われることもありました。ですから、プレゼン時には紙で作ったモックアップを持参することもありました。しかし、SolidWorksの立体図面はお客様もイメージがしやすく、より具体的なものを見たいというお客様の要望に応えることができるようになりました。また、お客様だけでなくプレゼンテーションを行うこちら側も伝えやすいので助かります。
導入効果その4:「試作の納期が半分以下に短縮された」
SolidWorks導入効果4番目、「試作の納期が半分以下に短縮された」とは。
ジャパンリーコムでは試作は外注しています。これまで試作屋さんには2次元データを渡し、それを先方が3次元データに変換し試作品を作っていました。しかしSolidWorks導入後は、最初から3次元データで渡せるので、工数が一つ減るだけでなく誤差も生じず、これまで1週間かかっていた納期が3日で上がってくるようになりました。
導入効果その5:「金型作成時の加工ミスが大幅に削減した」
SolidWorks導入効果5番目、「金型作成時の加工ミスが大幅に削減した」とは。
試作においては時間短縮が効果ですが、金型作成に関しては、加工ミスによる手戻りが少なくなったことが大きな導入効果です。2次元データによる金型作成は、外注先の技術力にもよりますが複雑な形の反映が難しく、修正を重ねていかなければなりませんでした。クロージャは、ボックス部分は単純なものですが、内部は細かく複雑です。これまでは、1個の製品に金型が10個あったとすると、加工ミスのないものは2個ぐらいしかありませんでした。しかしSolidWorksだと10個中10個とも大きな修正はなく、微調整だけですむようになり、金型完成までに戻しを繰り返す手間が大幅に削減されました。
SolidWorksへの要望
SolidWorksへのご要望などはありますか。
バージョンが上がるごとに改善されているとは聞きますが、2次元データへの変換機能の精度をさらに高めてほしいと思います。ジャパンリーコムでは社内の保管用には、3次元データではなく、2次元データに統一しているので、SolidWorksの2次元データと他の2次元データをそろえるのに少々時間がかかっています。しかし、今後社内外で3次元CADによる設計がさらに普及していき、2次元データで保管する必要性がなくなれば、この問題は解決するでしょう。早くそうなってほしいと思っています。
大塚商会への評価
ところで、ジャパンリーコムは大塚商会のサポートサービス「たよれーる」を活用されています。大塚商会のサポートへの評価をお聞かせください。
電話サポート、技術サポートともに大塚商会のサポートには非常に満足しています。
まず電話サポート。操作が分からないときなどに電話をすると、複雑なものでも1日かかることはまずなく、通常は1~2時間と、迅速に答えてくれます。
次に技術サポート。特に2006年に増設した時にはPDMWorksも入れ、少々複雑でしたが、ソフトだけでなく全体のシステムや環境設定についてもフォローをしてくれて助かりました。導入後3カ月ぐらいは月2回は来てくれていました。
また、技術的なサポート以外にも、大塚商会の営業担当の方の対応もとてもいいです。何か相談ごとがあるたびに電話をしているのですが、最初に電話がつながらなくてもすぐにコールバックして対応してくれます。
今後の期待
今後の期待をお聞かせください。
ジャパンリーコムでは近々、RP装置を導入し、自社で試作を行いたいと考えています。これにより試作にかかる経費を3分の1に抑えることを見込むと同時に、お客様へのプレゼンを、立体図よりもさらに強力な「現物」で行うことで競争力強化を狙います。大塚商会には、それらの新しいシステム導入、そしてSolidWorksのさらなる活用のために、これからも力を貸してもらいたいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。