株式会社植松電機
北海道赤平市に拠点を置く株式会社植松電機(以下、植松電機)はパワーショベル向けマグネット製品の開発製造をはじめ、近年は宇宙分野にも進出しています。今回は同社専務取締役の植松努氏はじめ、開発チームの皆様にSOLIDWORKS導入の経緯や導入した効果について話をお伺いしました。
植松電機
植松電機は炭鉱で使われる特殊電動機などの販売修理を行う会社として創業。モーターのコイルの技術を磨き、1995年にパワーショベルの車載バッテリー電源で運用できるリサイクル業者向けマグネットを発表、市場の90%を占有しています。また、2005年に新規事業として北海道大学と連携しロケット開発に挑戦し、打ち上げに成功させました。その技術はJAXAで研究中のスペースプレーン用ブースターを供給するまでに至っています。
植松電機の躍進のきっかけは何があったのですか。
建設リサイクル法が2000年に施行され、コンクリート・アスファルト・木材などの資材を使用した建築物などの解体工事は建物の解体後、分別して再利用しなくてはならないことになりました。そこでリサイクル業者は粉砕機にかけて再資源化しやすいようにするのですが、廃材の中には1%ほど鉄が含まれ、それが故障の原因になるのです。私どもでは廃材を粉砕機に入れる前に、マグネットで集めて分別をよりスムーズにするとともに、粉砕機の故障の原因を取り除く装置を開発し、それがヒットしました。
マグネットの特徴は?
従来はマグネットの電源に200ボルトの発電機を利用していました。そのため、重量がかさみ重機のバランスを乱し、作業の安全性や効率を著しく低下させていました。小型軽量の電源で強力なマグネットを利用できないかというお客様の声にこたえ、パワーショベルのアタッチメントとしてのマグネットの重さは従来の半分、そのうえ電源は24ボルトの車載バッテリーで対応させたことが最大の特徴です。
パワーショベルに小型軽量マグネットを取り付け、鉄屑を集める。車載バッテリー運用できる画期的な製品で市場の90%を占有する
使いやすさ、解析の多様性、試作回数の低減、コスト低減など
SOLIDWORKS導入の経緯をお聞かせください。
SOLIDWORKSを導入する前は、Macintoshのドローイングソフトで設計を行っていました。パワーショベルのアタッチメントに取り付けるマグネットの設計では小型軽量化が求められてきます。当然ながら小型軽量を突きつめていくと強度の問題が生じてきます。その検証では、いわゆる手計算で行っていましたので実験結果との差異が生じて苦労をしていました。
そこで強度解析の検証が容易な3次元CADの導入を決め、比較検討した結果、使いやすく汎用性に優れたSOLIDWORKSをチョイスしました。2004年のことです。
どれくらい軽量化できたのですか?
マグネット自体の重さは300~400キログラムあったものを現在では170キログラムまで軽量化し、マグネットも直径60センチメートルまで小型化しています。マグネットを小型軽量化することで、パワーショベルのアタッチメントの軽量化も可能になりました。
SOLIDWORKSはアタッチメントの取り付け位置や強度解析などを3次元CADで簡単にシミュレーションできますので、力のかかり具合を可視化できます。従来は鉄だった部分をアルミに変更して強度を維持しながら軽量化するなど、お客様のご要望に速やかにおこたえできるとともに、こちらから提案できるのも強みです。手計算時代と比較して、研究開発にかかる時間が大幅に短縮できました。
SOLIDWORKS を導入して良かった点をお聞かせください。
まず、使いやすさという点が一番です。いままでCADに触れたことがない人でも、講習を受け会社で使っているうちにすぐになじみ、短期間で開発に携われます。また、SOLIDWORKSは大学や専門学校で使われていているケースが多く、新入社員でも既に経験者であることから、すんなり仕事に入っていけるという利点もあります。
また、取引先や部品メーカーでもSOLIDWORKSを導入し活用している会社が多いので、データ共用や提供いただけます。入力作業の手間が省けるという点も大きいです。この点でも研究開発のスピードアップやご提案にあたってのプレゼンテーションも3次元CADを利用した「見せる」営業も可能になりました。
SOLIDWORKSの活用状況
マグネット関連ではどのようにSOLIDWORKSを利用されているのですか。
私どもでは、4ライセンスと1ライセンスのSOLIDWORKS Simulation Professionalを導入しています。設計開発の社員だけでなく、加工の現場でもほとんどの社員がSOLIDWORKSを使い込んでいます。現場で少しでも不明な点があれば3次元CADのデータに立ちかえって微調整をしています。
毎分1万数千回転して液体酸素をエンジンに送り込むインデューサという重要なパーツ。流体解析を駆使して開発時間の短縮を目指す
新規事業でもあるロケット開発にもSOLIDWORKSをお使いですか。
もちろん使っています。航空宇宙の世界では流体解析が重要です。SOLIDWORKSに形状データを取り込み、必要に応じて設計変更も行っています。流体解析を行うのに簡単に条件の変更ができ、確認ができるのが強みですね。
航空宇宙分野の解析項目は多岐にわたり、機体表面はもとよりロケットの心臓部であるエンジンのさまざまな情報(例えば発射した機体の速度や高度、湿度など)の環境データを用い、SOLIDWORKS Flow Simulationで高度に解析し、空気の流れや流体の圧力分布を確かめます。空気抵抗の少ない機体やエンジンの出力を生かすため、極限の軽量化の中に確実な安全性を求めなければなりません。限られた研究時間で相反する要件を高度にバランスさせるにはSOLIDWORKS Flow Simulationが不可欠です。
コスト面での評価はいかがですか。
SOLIDWORKSを開発に利用することで、研究開発の期間が短縮されるので大きなコストダウンにつながります。また、お客様や取引先の部品メーカーなどと同じCADを使うことで、開発における手間を省くことができ、結果としてコストダウンが図れます。
ロケット開発で利用するカプセル
現在開発中の大型カムイロケットエンジンの地上燃焼実験を重ねている。JAXAで研究中のスペースプレーン技術実証試験のブースターとして使用される予定
ベンダーとメーカーへの評価
SOLIDWORKS のベンダーとしての大塚商会についてどのように評価をされていますか。
開発チームの活動をささえるソフトがSOLIDWORKSなら、包括的に協力しているのが大塚商会です。いまやネット時代ですし、私どものようなものづくりには地方のハンデはないと思います。ましてロケットの打ち上げにいたってはこの広い北海道でなくてはできません。地方において開発設計のスピードを上げていくには、情報豊富なパートナーは不可欠です。大塚商会はその役目を十分に果たしており、ベンダーとして適切なアドバイスをしてくれます。これは実にありがたいです。
SOLIDWORKSの講習会を企画し、CADリテラシーを養成することで、いままでCADに触れた経験がないものでも、すぐに戦力として職場に配置できます。私どもだけでなく、取引先との調整にも尽力してくれて足並みをそろえ、こうして研究開発ができるのもパートナーのおかげだと思います。
対応はいかがですか。
大塚商会の札幌支店から100キロメートルほど離れているのですが、お願いすればすぐに来てくれる。これは都会でビジネスされている方にはお分かりにならないかもしれませんが、実にありがたいことなのです。地方でビジネスをしていく上で情報、オフィス管理など全般で頼りになっています。
今後の展望
今後の展望をお聞かせください。
マグネット技術も宇宙開発も手段ではあるけれど目標ではないと思っています。このような技術が北海道のため、国のためになり、人々の幸福の一助になることが目標です。サステナブルな社会にはリサイクル産業のますますの発展が必要でしょう。宇宙開発は巨大企業だけの仕事ではなく、小さな集団でもできる。私どもの企業活動が多くの皆様の役に立つように努力を重ねていきたいと思っています。