では、実際に製品が生まれる過程についてお聞きしていきたいと思います。自社ブランドMETAPHYSのヒット商品である「uzu」(コードレスサイクロン掃除機)は、どのようにして生まれ、製品化されたのでしょうか。
「uzu」は、METAPHYSのブランドの立ち上げ時期、第一期の製品です。まず、「掃除機がやりたい」というこちら側の希望があり、賛同してくれるメーカーを探したところ、たまたま「やりましょう」と言ってくださるメーカーがいて、ご縁が重なる形でプロジェクトがスタートしました。
株式会社ハーズ実験デザイン研究所
電子キャンドル「hono」、マイクロソフト社の「Xbox」などのデザインで世界的に知られるプロダクトデザイナー・村田智明氏。村田氏が主宰するハーズ実験デザイン研究所は、デザインツールの中核として数年前からSolidWorksを活用しているという。「デザイン」という領域において、SolidWorksはどのように役立つのか。詳しく聞いた。
ハーズ実験デザイン研究所の業態について
ハーズ実験デザイン研究所(以下ハーズ)はプロダクトデザイナー村田智明率いるデザイン会社です。メーカーから依頼を受け、製品デザインを行います。皆様になじみのある製品の例ですと、米マイクロソフト社のXbox、オムロン社の血圧計などがあります。また、自社ブランド「METAPHYS(メタフィス)」にも力を入れており、プランター、照明、文具、インテリア小物などが好評を得ています。広報担当1名をのぞき8名のスタッフ全員がデザイナーです。
ハーズではSolidWorksをどのように活用していますか。
ハーズではSolidWorksをデザインツールの一つとして活用しています。ハーズのデザイナーが使用するツールは4種類あります。
この四つのツールをデザイン箇所やフェーズに合わせて使い分けをしています。例えば、お客様へのデザイン提案資料を作成するときには、SolidWorksで作成したデータをPhotoWorksで簡易にレンダリングし、PhotoWorksで画を完成させるというふうに行います。ただし、基本となるデータはSolidWorksによる3次元図面で、最終納品物となるメーカーの設計担当の方に引き渡すデータはSolidWorksデータです。
ハーズでは現在SolidWorksは一人一台で、これがなくては仕事にならないという状況です。
「プロダクトデザイン」は、どのようなプロセスで行われるのでしょうか。
まず、クライアントから「こういう製品をデザインして欲しい」と依頼を受けるところから始まります。それについて製品デザインを考え、「絵(スケッチ)」を描きます。この「絵」は、かつてはIllustratorやPhotoshopで描いていましたが、最近ではそれに加えてSolidWorksも使うようになりました。
提出したデザイン案に対し、クライアントが「この案とこの案を進めましょう」という決定をします。次にそれらについて今度は実物(モデル)を製作してお見せします。モデルは、SolidWorksのデータをモデル業者に渡して作ってもらいます。クライアントの最終決定を行った後は、先方の設計の方と打ち合わせを重ねて調整や修正をし、最終的なデザインを完成させます。
ハーズがSolidWorksでデザインを行うようになったのはいつ頃、どんなきっかけからでしょうか。
特に大きなきっかけと言えるようなものはなく、クライアントや外注業者さんの環境が3Dになっていくにつれていつのまにか浸透していった、という感じです。
私が入社した5年前(2003年)には既にSolidWorksが1台入っていましたが、業務ではあまり使われませんでした。そのうち、クライアントとのやりとりで「この部分の3Dデータはありますか?」と聞かれることがあり、「ありません。」とはなかなか言いづらい状況になってきました。
いったん3次元を使い始めると、今度は2次元図面では不便を感じるようになります。そうこうするうちに社内で使う人がだんだん増えてきました。
2次元図面はどのあたりが不便なのでしょうか。
2次元図面では以下のような不便さがあります。
1.データ変換
クライアントが3次元データを使うため、2次元データを3次元にデータ変換という面倒な手間が生じます。
2.デザインの整合性
私たちはデザイナーなので「絵」を描くわけですが、「絵」というのはいい意味でも悪い意味でも「ごまかし」がききます。この世にあり得ない形でも絵の中では作ることが出来ます。しかし、ごまかしの絵は整合性がとれませんから、メーカーの設計担当の方から「これはどうなってますか」と言われてしまいます。
3.モデルの正確性
モデル業者さんに対しても同じで、2次元図面を渡すと、出来上がってきたものがこちらがイメージしていたものと違うという「イメージの食い違い」が起きます。
ハーズのデザイナーの方は、SolidWorksの使い方をどのように覚えたのでしょうか。
私の場合、まずチュートリアルから入って、基本的な使い方をマスターし、仕事に必要なモデリングの部分については、分厚いマニュアルと格闘しながら必要なところだけを覚えていきました。
全ての機能を覚えようとしたら大変ですが、私たちはあくまでデザインの部分だけで、設計独特の機能、手法などは必要としていませんので。未だに使えない部分がたくさんありますが、それでも問題なく使用しています。
ただ、日々の仕事が忙しいと、なかなか習得するための時間を捻出するのが難しくなりますので、覚えるぞという覚悟を持ってある程度の期間集中してやることが必要かもしれません。
(大塚商会:担当営業)大塚商会のたよれーるサポートに入っておられるので、操作で分からない所があれば、ご質問いただいて構わないのですよ。
そうなんですね。トラブルがあった時だけ対応してもらえるものだと今まで思っていました。操作の問い合わせをしてもいいということであれば、新しいバージョンになればぜひ活用させてもらいます。
では、実際に製品が生まれる過程についてお聞きしていきたいと思います。自社ブランドMETAPHYSのヒット商品である「uzu」(コードレスサイクロン掃除機)は、どのようにして生まれ、製品化されたのでしょうか。
「uzu」は、METAPHYSのブランドの立ち上げ時期、第一期の製品です。まず、「掃除機がやりたい」というこちら側の希望があり、賛同してくれるメーカーを探したところ、たまたま「やりましょう」と言ってくださるメーカーがいて、ご縁が重なる形でプロジェクトがスタートしました。
この製品のコンセプトは以下です。
上記のようなコンセプトを元に、「uzu」の場合はまずは2次元で絵を描いて、メーカーとのやりとりを行いました。
uzuの場合、まず外観デザインがある程度決まっていましたので、その中に「機構を入れる」という点に苦労をしました。絵ではうまくいっても、実際に機構を入れてみると、うまく入らないこともよくあります。
幸い、「uzu」のメーカーの設計の方がSolidWorksをよく使いこなしている方だった為、SolidWorksデータをもとにかなり多くのやりとり、打ち合わせを行いました。
うまくいかない時には逆に先方から「こういう時にはこうしたほうがいい」というようなアドバイスをいただき、スムーズに製作が進んでいきました。
この製品の特徴は、「コンパクトにたためる」という点ですので、こういった動きの部分なども一緒に考えていただき、ホースの素材を伸縮するものにするなどさまざまな工夫を行い、無事に製品が完成しました。
製品リリース後は、実用的ですっきりしたデザインが好評で、メディアにも多数取り上げられ、おかげさまで売れ行きも好調です。現在は、第1弾の製造が終了し、第2弾を企画中です。
プロダクトデザインにSolidWorksを使うことの効果についてお聞かせください。
頭と手を使う「デザイン」という行為そのものは、2次元でも3次元でも変わりはないと思います。ただ、SolidWorksというパフォーマンスが優れた3次元ツールを使うことで、デザインまわりの業務部分において大きな効果を得ています。具体的には以下の通りです。
これまでは、スケッチを2次元CADによる2次元図面に描き起こしをしていました。しかし、スケッチの段階からSolidWorksによる3次元図面を使うことにより、改めて図面を書き起こす手間がなくなり、また、同じ図面をずっと使えるため製作工数がぐんと減りました。最初(スケッチ)から最後(納品)まで同じデータが使えるということは非常に便利です。
ハーズのデザインは全て、代表の村田が最終判断を行います。その際、一度見せたデザインを、例えば「アール10を15に」というような小さな変更があった場合でも、以前は一からデザインの描き直しをしなければなりませんでした。村田は多忙なため、外出が控えている時などはその確認が間に合わず、「帰社してから」ということになりがちでした。しかし今は、SolidWorksの画面で数字を変えるだけで瞬時にデザインが変わるので、村田の確認やフィードバックが早くなり、デザイン決定が早く進むようになりました。
私たちの仕事は、「デザインするまで」と「デザインした後」の二つのフェーズがあります。意外に思われるかもしれませんが、実はメインとなるのは「デザインした後」の方です。製品として成り立たせるためには、クライアントの設計の方と頻繁にキャッチボールを行って、修正、変更を重ねて最終決定をしなければならないからです。このやりとりの部分が、共通データとしてSolidWorksを使うことでスムーズに行うことができます。
最初にクライアントにデザイン案を出す時には、ハーズでは極めて最終形に近いかたちに近づけてヴィジュアル化します。クライアントが最初に抱くイメージと、実際に出来上がった製品に乖離があるというのは絶対に避けたいところです。その点では、フォトリアリスティックな絵が描けるPhotoWorksを活用することで、まるで実際に製品撮影した写真のようにリアルな表現ができるようになり、メーカーに対し効果的なプレゼンができるようになりました。
SolidWorksへ何かご要望はありますか。
SolidWorksの機能に関しては今のところ非常に満足しています。今後期待することとしては、曲面のデザインの自由度を増やしてほしいと思います。これからプロダクトデザインではより自由なデザインが要求されると予想しているからです。
それと、PhotoWorks(レンダリング機能)についてはまだ十分に使いこなせていないかもしれません。今はプレゼン用のデザイン画を作るときにPhotoWorksの仕上がりをそのまま使うのではなく、大まかなところだけにして、それをベースにPhotoshopなどで上から絵を描くという形を取っています。その割合がPhotoWorks 3に対してPhotoshopが7ぐらいなので、これが逆転できるようになればいいなと思っています。
SolidWorksの2009年バージョンでは、レンダリングの機能が充実したと聞きました。このあたりの使い方について、大塚商会のサポートを受けながら使いこなしていくようにしたいと思っています。
大塚商会への評価をお聞かせください。
よく、「サポートは土日が休み」というベンダーがありますが、私たちの仕事はそれではムリです。というのは、月曜が締め切りのため土日に作業予定を入れる、ということがよくあるからです。そういう状況で、もし金曜の夜に何かしらのトラブルが起きたりしたら終わりです。クライアントに「マシンの不具合でできませんでした」などという言葉はプロとして言うわけにはいきません。
その点、大塚商会は土曜日も対応しており、電話すればすぐ対応してくれるので助かります。ハーズではSolidWorks以外にコピー機などのハードウェア機器のサポートも大塚商会にお願いしていますが、プレゼンの前にあってはならないコピー機などのトラブルにもすぐに対応してくれるので、常に頼りにしています。
SolidWorks、および大塚商会へ、今後の期待があればお願いします。
ハーズでは、今後も「モノ」の存在価値と視覚的環境を高め、同時にその送り手である企業の存在価値を高めるプロダクトデザインを提案し続けていきたいと思っています。SolidWorksおよび大塚商会には、これからもよりよいデザインツールの提供とサポートを期待しています。今後ともどうぞよろしくお願いします。