東北大学工学部が取り組む「創造工学研修」についてお聞かせください。
高校教育、受験教育が、「一つの問題に一つの答え」を教える教育であるのに対し、創造工学研修は「一つの問題に複数の答え」を出すことができる「創造性の育成教育」として、1996年から始まりました。受験を終えた学生に入学後なるべく早く工学や研究の楽しさを体験してもらうため、1年生の後期プログラムの選択課目に取り入れています。
東北大学工学部
東北大学工学部では、デジタルエンジニアリングを活用した独自の創造工学教育プログラムを実施、3次元CAD「SolidWorks」を活用してきた。また、2008年度後期には、SolidWorksを利用した新授業をカリキュラムに組み入れることを決定、新たに1,000ライセンスを購入した。東北大学大学院 工学研究科 機械システムデザイン工学専攻 山中将准教授にSolidWorksの活用法について詳しく伺った。
東北大学工学部では、SolidWorksをどのように活用していますか。
東北大学工学部では1996年から創造工学研修を実施しており、テーマの一つとしてデジタルエンジニアリングを活用した創造工学教育プログラム「3D-CAD/CAEによるデジタルデザイン」を行っています。その教育ツールとしてSolidWorksを活用しています。導入は以下のように行ってきました。
東北大学工学部が取り組む「創造工学研修」についてお聞かせください。
高校教育、受験教育が、「一つの問題に一つの答え」を教える教育であるのに対し、創造工学研修は「一つの問題に複数の答え」を出すことができる「創造性の育成教育」として、1996年から始まりました。受験を終えた学生に入学後なるべく早く工学や研究の楽しさを体験してもらうため、1年生の後期プログラムの選択課目に取り入れています。
2001年には、創造工学研修の実践の場である学内付属施設「創造工学センター」(別称「発明工房」、述べ1029m2)がオープンしました。センター内の「デジタル造形室」には、3次元CAD SolidWorksを快適に使用できる環境を整えた15台のPC、3次元CADのデータを樹脂で造形できるRP(ラピッド・プロトタイピング)装置、3次元レーザースキャナを設置しています。これらのデジタルエンジニアリングツールを使い、学生たちには発想から設計、試作、製作、検査・検証まで、実際のものづくりの現場で行う「発想を形にする」一連のプロセスの実践教育を行っています。
「創造工学研修」プログラムの内容を教えてください。
では「3D-CAD/CAEによるデジタルデザイン」で行われる課題の一つである、「フックの最適設計」についてご説明しましょう。これは、SolidWorksおよびRP装置を使って、なるべく軽く、なるべく丈夫なフックを作るという課題です。以下の手順で行います。
SolidWorksで3次元設計を行うだけでなく、それをRP装置で実物のフックを作って検証を行うことで、学生はPCの中だけの学習にとどまらず、ものづくりのプロセスが体験できます。本テーマの定員は15名であり、私と2名のアシスタントがついて指導を行います。
このプログラムではSolidWorksの使い方の指導も行うのですか。
いえ、ほとんど行いません。使い方の指導については最初に2時間チュートリアルを行うのみで、後は実践で学ばせます。SolidWorksは直感的な操作ができるので、学生たちは触っているうちにできてしまうようです。ここではCADの操作法を教えるのが目的ではないのでそれで十分だと思っています。
授業での学生の反応はいかがでしょうか。
今の学生は画像の鮮明な3Dのテレビゲームに慣れているため、SolidWorksでの設計に関しては抵抗もない代わりに感動もないようです。しかし、RP装置で実際に自分の設計したものがそのまま形になって出てくる場面では、みな感動しています。
「創造工学研修」のような実践教育プログラムにSolidWorksを使うことの効果は何ですか。
SolidWorksを教育プログラムに利用することで、これまで不可能だったことが可能になり、加えて指導側の管理コストの削減にもなっています。
「時計プロジェクト」などはまさに、3次元CADでなければできない課題であり、不可能が可能になっているいい例でしょう。これは、4年生および大学院生向けの設計教育プログラムで、「モーターを動力源とし、長針、短針を使わず、部品点数が最小限となる時計を作る」というものです。
これをSolidWorksを使わず、2次元CADで行った場合、以下の手順になります。
このように行うと膨大な時間がかかるだけでなく、指導スタッフも相当数が必要になります。学生にとってもかなりのスキルを要求されるため、時間をかけたとしても最終的に完成できない者が出る可能性が十分あります。
一方、この課題をSolidWorksを使えば以下のように簡素化されます。使用する部品は、SolidWorksのデータが用意されているカタログ部品とRP装置で製作するものに限定します。
部品図を作ったり業者に部品発注を行ったりする手間がないので、2次元CADに比べはるかに短時間で完成しますし、スキルのない学生でも容易に取り組むことができます。指導側も、一人で多数の学生を見られるので管理コストの削減になります。さらに、部品調達などの雑用も全て学生に任せられるため、指導者は本来の業務である設計アドバイスに集中することができます。
創造工学研修のような3次元CADを活用したカリキュラムを成功させるにはどういう条件が必要でしょうか。
まず1番は、「指導者が何をしたいかが明確であること」。2番目は「よいツールを使うこと」。最後は「ツールのサポートが充実したものであること」。この三つが3次元CADを利用したカリキュラムの成功に必要な条件であると思います。
「創造工学センター」では夏休みを利用した小中学生向けの体験授業も開催していると伺いました。その内容について教えてください。
「子どもキャンパス」と呼んでいるこの体験授業は、仙台市の教育委員会とタイアップして市内小中学123校に案内、地域サービスの一環として行っています。1日90人、2日間180人の定員のところ、1,000人ほどの参加希望者が集まるため抽選を行うほどの人気になっています。
ここでは「コンピュータでかっこいいコマを作ろう」というテーマで、自動車や花など、自分の好きな形をSolidWorksで設計し、RP装置で成型します。そこで「重心」についての学習をし、コマの軸の位置を決め、竹ひごを通し、形状にかかわらず回せるコマを完成させます。このプログラムのため、オリジナルで小学生向けのSolidWorksチュートリアルも作成しました。
「いくら直感的な操作ができるとはいえ、果たしてSolidWorksのような専門的なソフトを小学生が使えるのだろうか」ということに関しては、米SolidWorks社ですら最初は懐疑的だったようです。しかし同社の教育マーケティング担当者が来日した際にここを訪れ、「子どもキャンパス」を見学し、想定外であったと驚いていました。SolidWorksは誰でも使えると言われていましたが、この「誰でも」には小学生も含まれるということがこれで証明されました。
今回、東北大学工学部ではSolidWorksを新たに1,000ライセンス購入されました。この経緯と目的についてお聞かせください。
これまで少人数で行ってきた創造工学研修は学部1年生を対象とした導入教育です。今回1,000ライセンスを購入したのは、東北大学工学部の五つある学科の一つである「機械知能・航空工学科」の3年生以上の専門教育に広くSolidWorksを活用するためです。今回はマス教育です。2008年8月からの3年生の後期授業に取り入れ、カリキュラムの充実を図る予定です。
また、今回の1,000ライセンス導入では、教室運用における新しい試みである「CAD教室レス」に挑戦します。
「CAD教室レス」というのは何でしょうか。
1,000ライセンスをCAD教室のPCに入れるのではなく、機械知能・航空工学科の62ある研究室のPCや、学生個人のPCにインストールして使用します。ライセンスは学内のサーバーで管理します。
実は当初、80人定員の製図実習室にSolidWorksを入れた70台のPCを導入、機械知能・航空工学科の一学年250人を4クラスに分けて授業を行う計画を立てました。しかしそれは物理的に難しいことが分かり、発想の転換を行い、ライセンスのみをサーバーで管理し、学科全体で広く使用できる仕組みの構築を考えました。1,000という数字は、一学年250人に3年生から大学院生までの4学年を掛けて算出したものです。
このような経緯で誕生した「CAD教室レス」ですが、以下のようなメリットが期待できると考えています。
ただし、これは新しい試みですので、運用が安定するまでにある程度の時間を見ています。これから上記のようなメリットを学科全体が最大限に享受できるよう、慎重に、かつ積極的に進めていきたいと思っています。
工学研究科 機械システムデザイン工学専攻
山中将准教授
「新たな挑戦である『CAD教室レス』は、大きなメリットが期待できます」
山中准教授は1999年からSolidWorksを使った授業をしてこられました。教育ツールとしてのSolidWorksの優れた点は何だと思われますか。
教育ツールとしてのSolidWorksの優れた点は三つあると思います。
SolidWorksへのご不満もあればお聞かせください。
バージョンが上がるたびに重くなっていくことですね。これはSolidWorksに限らずソフトは皆そうですが、ソフトが重くなるとPCのスペックも上げていかなければなりらないこともあります。しかしSolidWorksは、例えば2年前に10セット買ったバージョンを買い足したいという時に、新しいものではなく古いバージョンを購入することができますのでその点良心的だと思います。
SolidWorksの代理店である大塚商会への評価をお聞かせいただけますか。
東北大学工学部と大塚商会とはこれまでの長いおつあいの中、厚い信頼関係を築いてきました。何かあったときに大塚商会のような大きな代理店の支店が仙台にあると安心です。大塚商会を評価する点を具体的にあげるならば以下の3点でしょう。
SolidWorks社および大塚商会へ、今後の期待があれば教えてください。
東北大学工学部では、これまでの少人数教育からマス教育への挑戦を行い、そしてまた、前例のない「CAD教室レス」にも挑戦をしていきます。これらの新たな取り組みを成功に導くべく、SolidWorks社および大塚商会には、これからもますますの手厚いサポートを望みます。今後ともどうぞよろしくお願いします。